協力
『残念だよ、シルビオ。君は世界を破滅へと導いた挙句、私の邪魔までするつもりなのかい?』
「確かに俺は、人類には悪いことをした。だからこそ、今度は間違っていないやり方をする!正しい平和へと、導いてみせる!」
バシュッと音がし、ミサイルが放たれた。
魔力は感じない。通常弾頭だ。
しかし、数が多い。
俺は、避けられる物だけ避けつつ、風で切り裂いて破壊して対応した。
『君の言う正しい平和とは何かな?他人の意見を否定することならいくらでも出来る。それならば、君の意見を聞かせてくれよ』
「俺は......」
もはやこれは、リーネを助けるためだけの戦いではない。
魔王の願い。
そして、魔物達の願いでもある。
「人類と魔物の共存......それが、俺の思う平和だ!」
『愚問だったようだね。君はそんな、子供のような思想の落ち主だったのかい?だとすれば、私の読み間違いのようだ。君は小物だ』
「なに!?」
『消えてくれ』
ボシュッと、またもや小型ミサイル。
しかし、今度は高濃度の魔力を感じた。
《ラプス》ほどの威力はないが、爆風だけでも押されてしまうほどの高威力ミサイル。
撃ち落とすよりも、俺はかわすことにした。
「何だと!?」
翼を羽ばたかせ、距離をとる。
高速で飛行し、右往左往と動いてみせるが、完全についてこられている。
なるほど......高威力に、追尾性能も相当なものというわけか。
まさに、対シルビオ用兵器......と、それはさすがに自意識過剰か?
何て、さすがに考えている余裕は無かった。
「クソッ」
あっという間に、約5メートル程まで近づかれてしまった。
このままでは、破壊するのも困難。
殺られる!
「シルビオ!」
突然、大きな声がした。
それと同時に、俺の目の前からミサイルが飛んで来た。
咄嗟に避ける。
すると、正面から来たミサイルが、俺を追っていたミサイルとぶつかり、破壊した。
挟み撃ちにするほどの性能があるのかと一瞬疑ったが、どうやらそうも見えない。
「ッ!?」
目の前から巨大な影が近付いてきた。
よく見るとそれは、飛行機のような方をしているが、比べ物にならないほど大きいものだった。
「アランか!?」
「迎えに来たぞ」
フレンも一緒にいるようだ。
しかし、これは一体......?
「こいつが、もう一つの《フォートレスガーデン》。《フォートレスエアクラフト》だ」
「何?どういうことだ!?」
「造らせるまでも無かったってことだ。既に完成していたものを拝借した」
なるほど......どうやらアランは、その《フォートレスエアクラフト》という《フォートレスガーデン》二号機のようなものを盗んで来てくれたようだ。
先程のミサイルも、アランが放ったものだろう。
「とりあえずはこれに乗れ!魔物達も全て回収済みだ!」
「分かった!」
次のミサイルが来る前に、俺は《フォートレスエアクラフト》へと乗り込んだ。
しかし、軍や《フォートレスガーデン》からの攻撃は止まず、ミサイルや銃弾の嵐だった。
だが、《フォートレスエアクラフト》へのダメージはあまり無いようだ。
「頑丈だな」
「高濃度の魔力壁だそうだ。《フォートレスガーデン》と同等の防御力を持つ」
つまり、俺の魔法でも簡単には貫けないというわけか。
お陰で、攻撃を受けても振動すら伝わって来ない。
「シルビオ。指示を」
「このまま戦場を離脱する。奴がもう一度を撃ってこれば、このシールドもさすがにもたないだろう」
だが折角見つけたリーネを、また手放すことになってしまう。
目の前にいるというのに、助け出せなくなってしまう。
......それが、たまらなく辛かった。
「......クソッ!」
俺にもっと、力があれば......。
「すまないリーネ......またすぐに戻る」
《フォートレスエアクラフト》は向きを変え、とにかく《フォートレスガーデン》との距離をとった。
時には引くことも大事だ......ここで下手に出で全滅するよりは......マシだ。
俺はまた、アードルフに負けたのだった。
――――――
何とか猛攻撃から逃げることが出来、俺達は命からがら生き延びた。
敵の本拠地の隣に住むだなんて、いつ攻撃されるか分からなかったからな。
こうして、空中に基地を設けられるのは、とても嬉しいことだった。
「しかし、よくやってくれたな。アラン」
本当に助かった。
あのままでは、全滅していたかもしれない。
「いいや......ただ鎧を届けるだけだったのに、随分と手こずってしまった。魔物達も全員守れたかもしれなかったのに......」
「いや、お前が来てくれただけでも良いさ」
去ってしまった者達を悔やんでも仕方がない。
生き返るわけでは無いのだ。
俺達は、その悔しさを乗り越えて前へと進まなければならない。
「ところで......コイツらは?」
と、船に乗っていた人間と思わしき人を指さす。
というか、明らかに魔物では無い者が数人いる。
これは一体......どういうことだ?
「彼らは、捕虜だ」
......捕虜?
「この船を整備している所に出会ってね。俺とフレンじゃ、船を動かせない。だから、少し手伝って貰うことにしたんだ」
手伝って貰う。
そう言ったアランの目は、どこかそっぽを向いていた。
整備士として捕虜となった人達も、どこか俺達に怯えた様子を見せている。
「フッ、お前らしくないやり方だな」
「そうだな......俺も、君の影響を受けているようだ」
アランは微笑んでみせた。
しかしそれは、どこか悲しげで。そうなってしまった自分を悔やんでいるように見えた。
昔のアランなら、脅して捕虜とすることなど絶対にしなかっただろう。
俺が変えてしまった......のだろうか。
こんなやり方でしか世界は変えられないと思い、俺はその道を真っ直ぐ進んで来た。
もし、リーネを拾ったのが俺ではなく、アランだったら......そもそもこんな事にはなっていないだろう。
「シルビオ、その人達は君に任せる。くれぐれも手荒な扱いはしないでもらいたい」
「あぁ、分かっている」
十人程の人間。
それが、この船の一箇所に集まっていた。
アランは手荒な扱いをするなと言っていたが、こいつらが全員働かなくなれば......脅しとして一人二人居なくなって貰うことにはなるだろう。
その時は俺も、容赦なく殺ると思っていたのだが......
「チェック完了。全て正常に稼働中です」
「了解。このまま、しばらく飛行を続ける。手の相手いる者はミサイルの点検を」
「はっ!」
と、まるで進んで俺達の為に働いてくれているかのような、テキパキとした仕事だ。
どうやら俺への恐怖は、ちゃんと植え付けられているらしい。
「お前ら、ここは敵の船だぞ?なぜそこまで張り切る必要がある?」
「アンタらに手を貸してるつもりはねぇよ。ただ、俺達ァ死にたくねぇんだ。生きてさえいれば、必ずアードルフ王が助けてくださる」
ふん......なら、もっと態度を改めるべきだろうがな。
まぁいい。
こちらとしても、俺達に貢献してくれることは喜ばしい。
「マオウサマ!」
と、自動ドアが開き入って来た魔物。
そこまで急ぎのようにも見えないので、普通に対応した。
「上で、フレンが呼んでおります」
「あぁ、そうか。あの体では中に入って来れないのか」
フレンは、ルインズになってから人型になれなくなってしまっている。
その巨体のせいで、船の中に入って来れないのだ。
まぁ、入れないのなら仕方がない。
俺の方から会いに行くしかないな。
「フレン」
階段をあがって、船の上へ上がる。
本当は登るようなところでは無いが、俺なら落ちる心配は無い。
フレンは、一人で寂しそうに待っていた。
「シルビオ......見たか?ここからの景色」
「あぁ、とても美しい」
周りを見渡すと、綺麗な青空が広がっていた。
そこに浮かぶ真っ白な雲。
そして、下を見ると緑など一つ無い、乾いた色の大地が見えた。
「ここら辺は、森林が無いのか」
「......」
フレンは何も言わず、ただ地面を見つめていた。
綺麗だと言ったのは恐らく空の事だろうが、この何も無い大地というのも悪くは無い。
「......超高濃度、かつ大量の魔力が、植物の成長を邪魔しているんだ。まるで地面に蓋をされているような......そんな感じだ」
「......?」
へぇ、そうなのか。と、一瞬でも気づかなかった自分を悔やんだ。
フレンの態度で分かったはずなのに、一番俺が理解していたはずなのに。
現実を忘れたくて、どこか他人事のように受け取っていたのかもしれない。
今更、再び突きつけられる罪。
そうだ......こんな風な地面にしたのは、俺なんだ。
「......すまない」
「シルビオは悪くない。私がもっと強ければ......」
「お前は十分強い。全ては俺のせいだ」
そう、俺のせいでこうなってしまった。
きっと、最初から間違えていたんだろうな。
もう少し上手くやっていれば......もっと結果は違っていただろう。
「シルビオ......本当に私達は、人類と共存なんて出来るのだろうか」
「出来るさ。俺がやってみせる......フレン」
俺は、フレンに向き直る。
真っ直ぐフレンのことを見て、真剣に向き合う。
それに合わせて、フレンもこちらを向いた。
「もし俺に何かあったら......その時は、アランとお前でこの世界を守ってくれ。リーネはアランに任せる。お前には、魔物達を頼みたい......って、これ完全に死亡フラグだな」
「ふらぐ......?」
「あぁ、何でもない」
ははは、と俺は笑い飛ばす。
しかしフレンは、心配そうな表情をしたままだった。
「まぁ安心しろ。そんなことにはならないさ。リーネを救うまでは、絶対に死ねない」
「......そうだな」
まだ元気が無いみたいだな......なら、仕方ない。
俺は、フレンの大きな体へ飛び乗り、そのまま抱き着いた。
「なッ!?シルビオ......?」
「フレンは暖かいな......」
「あの......鎧が......」
「あぁ!す、すまない......」
そう言えば着たままだった......もうすっかり慣れてしまって、鎧を着ているのか着ていないのか分からないくらいだ。
例えるなら、眼鏡的な立ち位置だろう。掛けていることを忘れる......みたいな。
そう、慣れというものは怖いものなのだ。
いつの間にか、それが当たり前となってしまう。
だからこそ、失った時の反動は大きい。
「......フレン、悪いな。もう少しお前と話していたいが、最後の作戦だ。行かなくては」
俺はフレンから降り、船の中へ入ろうとした。
するとフレンが大きな声で俺を呼び止めてきた。
「シルビオ!......平和な世界を、私は......皆は待っているぞ!」
「おう!俺に任せろ!」
元気に返しておいた。
そして、俺は船内のメインルームへと戻った。
「おい」
後ろから肩を軽く叩くと、ビクッと背中を震わせた。
整備士の男。
「バレちまってたか......」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている?」
この、整備士の中でも上司だと思われる男。
先程のフレンとの会話を、コソコソと聞いていやがった。
まぁ、別に秘密の会話でもないので放っておいたが。
「なぁ、魔王さんよ。おめェら、本当に悪い奴らなのか?俺には、とてもそうは見えなくなっちまった」
「......」
「さっき、あっちで魔物と遊んでいる勇者を見た。ありゃ本当に仲が良いんだろう。俺立ち位置用の嘘だとはとても思えねぇ。勇者は、《大破滅》から変わっちまったと思っていたが......全然そんなことはない。優しくて強い勇者のままだ。お前も、人類との共存とか言ってたな?」
「......」
「少なくとも俺には、そうは見えねぇけどな」
......周りがよく見える奴だ。
他の整備士達は、何も言わずにせっせと働いているというのに。
変なことに気を回さなければ良いものの......。
「お前の見えているものなんざ、俺は知らない。そう思いたければ、勝手にそう思っておけ」
「......」
別に、何と思われていようと関係ない。
今の人類が仲間だろうと敵だろうと、結果は同じだ。
「超高濃度魔力兵器、通称。《フォートレスガーデン》の専用装備。ミサイル型の兵器で、一発で半径約100キロの球状に物体を消滅させる」
「......何が言いたい?」
「俺達なら、その爆発を止められるものを作れる」
「なんだと......!?」
どういうことだ?
あの爆発を、止められるだと?
「困っているのだろう?あの兵器に」
「それは......確かにそうだが」
「だから、協力してやると言っているんだ」
なに?
協力......だと?それは、ありがたいにはありがたいのたが......
「ついてきてくれ」
そう言って、男はメインルームを出ていった。
どこへ向かうのかと思い、ついて行くと、そこは整備用の格納庫のような場所だった。
ここで、ミサイルや武器などの整備をしているらしい。
「なぜだ......なぜ、急に協力的になったんだ?」
「さぁな、俺にも分からねぇ。ただの気まぐれかもな。だが、お前を......お前らを信じたくなった」
信じる......か。
俺は一体、何度その言葉を言われた事だろう。
どれだけ失敗しても、どれだけ間違っていても、必ず信じると言われてしまう。
なぜだ......俺を信じても、失敗をするだけなのに。
「なぜだ......なぜそんな簡単に、人を信じられるんだ......!」
「そうだな......俺は、俺の目を信じている。この目で見たものなら、信じることが出来る。例えその結果が間違っていたとしても、後悔はないさ」
......やはり、人間は馬鹿な生き物だな。
だが、そこがまた良いところでもある。
俺は、完全に魔物になってしまったと思っていたのだがな......まだ人間の心が残っているらしい。
「そういうことなら、遠慮なくこき使わせてもらうぞ?俺は魔王だ。貴様ら人類など、道具も同然」
「望むところだ。アスケル整備部隊の名にかけて、全力で魔王に仕えよう」
俺達は笑い合った。
こんなこと、アラン以来かもしれない。
「俺はスティーグだ。よろしくな」
「俺は......まぁ、知っている通り、シルビオだ」
固い握手を交わした。
そしてすぐに俺達は、作戦を立てる。
やはり、俺一人では人類に立ち向かえない。
そう思い知らされた瞬間でもあった。




