銀騎士(アラン)
拠点を出てから約数分。
シルビオから抱いた能力のおかげで、空を飛ぶことが出来るため、結構早く移動出来る。
しかし、風魔法なんかあまり人には見せられないな。
風魔法は、今じゃこの世界の呪われた魔法。
人前で使うことは、シルビオの仲間だと言うことを意味するようなものだ。
「やはり《M.A》だよな......」
俺は、もう既にアラン=カイバールではなく、銀騎士として動いている。
銀騎士に与えられた役目、それは、魔王シルビオの敵である事だ。
つまり、シルビオを倒す手助けをすること。
もっと具体的なことを言えば、一番の目的は魔物の解放だ。
『ルインズは、実は魔物で、敵ではなくてシルビオに操られているだけ』という事実を、人々に教えることが目的。
それならば、やはりシルビオのことを知っている《M.A》に行くのが良いだろう。
俺としては二度と来たくなかったが......な。
「なぁ、このを通してくれないか?」と、まともに正面から入れるわけが無い。
「鎧を脱げ」と言われておしまいだ。
だから、先に俺の有能性、そして味方ということを示す必要がある。
拠点を出る際に、シルビオが「良い感じのタイミングで、そちらにルインズを向かわせる。お前に合わせて大人しくなるように言ってあるから、お前が催眠を解いたように上手く見せてくれ」
と言われた。
全く、無茶な仕事だ。
しかし、それが一番信じてもらえる簡単な方法。
やらせてもらう。
「どうも」
《M.A》の本拠地......は、今飛んでるんだったか?
とりあえず前、シルビオが捕まっていた所の基地に、屋上から難なく侵入させてもらった。
シルビオが的だと分かっている割には、少し警備が甘くないか?
「ッ!!誰だ!?」
ビンゴ。
全員こちらへ銃を向けている。確かに《M.A》の連中だ。
どうやら、《M.A》も全員に乗っていないようだな。
それか、もしくは《フォートレスガーデン》が完成していないか。
まずはそれから聞き出すか。
「物騒な物を下げてくれ。俺は銀騎士。君達の味方だ」
「味方......?そんな鎧を着ている不審者、一体どこから入り込んだのかも分からないような奴を、信じろと?」
「確かにそうだな。だがこれならどうだ?あのシルビオの情報を提供する」
「......なんだと?」
「俺は君達の知らない情報を知っている。まずはそれだけでも聞いて貰えないだろうか」
「なら先にその情報とやらを聞かせて貰おう。俺達だって暇じゃ──────」
バゴォンと、轟音と共に揺れが起こった。
「な、何だ今のは!?」
俺に銃を向けることも忘れ、すぐに状況を調べる《M.A》。
俺は知っている。
これが、シルビオの送り込んでくれたルインズだと。
「外の様子を見てくる、おい!お前も来るんだ!」
「やれやれ。もう少し優しい言い方は出来ないものなのかね」
ま、俺は侵入者なわけだし。相応の態度という事か。
俺は《M.A》達と施設を出た。
「ルインズ......」
予定通り、暴れ回ってくれているようだ。
しかし、一般人を巻き込んでいない暴れ方......ルインズになっても、魔物として意識が残っている証拠だ。
「こちら司令部、至急《M.E.S.I.A.(メシア)》の発進を願います」
司令部......なるほど。どうりで小さな場所なわけだ。《M.E.S.I.A.(メシア)》達を送り出すには、倉庫としてもこの場所は小さ過ぎる。
「君達の知らないことを教えてやると言ったな。早速、今から教えてやろう」
「お前、まだいたのか」
「ルインズは、魔物だ」
「......は?」
意味が分からない。といった表情を見せた《M.A》職員達。
無理もない。なぜなら魔物は、《大破滅》が起こった直後から姿を消し去ったのだから。
それは姿形だけでは無く、人々の記憶からも。
存在そのものが消えてしまっていた。
「魔物だって?そんなもの、カタストロフィと同時に消え去って......」
「消え去っていたと思われていた。しかし、実際には存在していたのだ。別の形として」
「別の形......?」
「それが《破滅獣》。彼らは、《破滅獣》として生きることにしたのだ」
「なぜそんな......嘘に決まっている!大体、なんでアンタがそんなことを知っているんだ」
「そうだ、どこに証拠があるってんだ!」
「六年前。いや、もっと前だ。かつて、この世界にシルビオ=オルナレンという魔王が存在した。その男は、魔物を使って人類を支配しようとした」
この人達も、それくらいは知っているだろう。
黒い鎧の魔王のことくらい。
「しかしその魔物は、魔王シルビオによって操られていたのだ」
「はぁ?何言ってんだ、お前」
「そんなこと、ありえるわけないだろ」
「魔王シルビオは、催眠能力を持っていたらしい」
「その催眠で魔物全てを従えたってか?ありえねぇ」
「もちろんそれだけではない。シルビオの圧倒的な力の前には、魔物でさえも屈してしまうほどだった。そう、それが魔物達の真実だ」
「つまり、魔物は本当は悪い奴らじゃなかったと......そう言いたいんだな?」
「あぁ」
「......」
職員達はしばらく考え、仲間達で顔を見合せながら話し合った。
そして、再び俺の方へと向き直る。
「そんなこと、すぐには信じられねぇ。だが、仮にそうだとして、だから何だ?あのルインズは悪者じゃねぇってのかよ」
「その通りだ。《大破滅》から魔物達はシルビオの支配から逃れるために、その身を他の魔物達と合成させ、力をつけた。しかし、シルビオの催眠能力によって再びねじ伏せられてしまったのだ」
「イマイチ信じられない話だな。そういうお前は何者なんだ?なぜそんな妄言じみたことを俺達に吐く?」
「俺は銀騎士。シルビオの支配から逃れた人間だ」
「......ッ!」
ここに来てやっと、俺の言葉に耳を傾けてくれたようだった。
もちろんこれらは全て嘘。シルビオの考えた計画、作戦のひとつだ。
「顔は......見せられないほど悲惨なものなんだ。どうか勘弁して欲しい。しかし、今まで俺が言ったことは全て事実だ。それを、今から証明してみせる」
さぁ、ここからが本番だ。
俺は、風魔法で宙へ浮かび上がると、暴れているルインズの元へと向かった。
まるで巨大なカマキリのような、大きな鎌型の腕を持った姿。
その鎌で、ザクザクとビルを切って破壊している。
「手筈通りいくぞ」
ルインズは、俺に気付くと黙ってアイコンタクトをした。
彼には、本気で切りかかって来てくれと言ってある。
そうでもしなければ騙せない相手もいるわけだし、俺も避けることくらいは出来る。
ルインズは、俺に殺意を持って切りかかって来た。
しかし、そう簡単には上手くいかないものだ。
「なに!?」
遠くから凄い速度で接近して来る二つの影。
《M.E.S.I.A.(メシア)》だ。
思っていたよりも早かったな。
「ん?何者だ、お前」
「君達、《M.E.S.I.A.(メシア)》だろう?悪いが、邪魔はしないで貰いたい」
「無理だね。誰だか知らねぇが、フライトシステムも無しに空を飛んでいる奴なんか、信用出来ない」
地上の《M.A》達も、説得をしてくれる様子は無さそうだし......俺が自分で何とかするしかないのか。
「事情を説明している時間は無い。ここは僕に任せて......」
ヒュンッと、高速でルインズに向かって飛んで行ってしまった二人。
男女二人組......前回見た時の奴らじゃないな。
「くっ、殺らせるか!」
確かにその、フライトシステムとやらよりは遅いかもしれない。
しかし、機動性としてはこちらの方が上のはず。
無理矢理にでも食い止めなくては!
「やめろ!ルインズは敵じゃない!」
「何言ってるんだ!コイツらは、人間を殺しているんだ!」
容赦なくルインズに襲い掛かる男。
それを援護するように、女も固有魔法を使った攻撃を仕掛ける。
あれは......水?どうやら、液体を操る固有魔法......のようだな。
男の方は分からないが、問題は無い。
使われる前に大人しくさせる!
「ルインズはっ、操られているだけなんだ!君達が思っているほど、悪い奴らでは無い!」
「お前......今まで死んでいった人達の気持ちを、踏みにじる気かァ!」
「ッ!?」
ガンッと言う音が、仮面越しに聞こえた。
それと共に、少しの衝撃が頭に走る。
殴られた......?のか?
突然の攻撃。
今のは、どうやら女の子の方の能力。
水を自由に操り、形を変えて殴ってきた。
「容赦ないな......なるほど、そこまでしてルインズを倒したいのか」
「あぁ、そうだ。邪魔をするなら......お前から先に倒す!」
こいつ......ルインズを倒すことに必死過ぎて、我を失っている。
何があったのか知らないが、これは《M.E.S.I.A.(メシア)》としても駄目な心情だ。
「邪魔をしているのは君達の方だ。これ以上言うことを聞かないと言うのであれば、こちらも強硬手段に出る」
「やってみろよ」
「警告はした。行くぞ!」
真後ろに風を噴射し、最短距離で詰める。
相手の男は、ガジェットと呼ばれる金属の塊を正面に構え、防御の姿勢。
なら、このまま攻撃させてもらう。
シルビオがやっていたように、片脚に風を纏わせ、回転させる。
しかし......
「何ッ!?」
男に触れた瞬間。
一瞬、体が落ちかけた。
俺の体を支えていた風が、消えてしまったのだ。
......いや、これは魔法そのものが消されたみたいだ。
なるほど......シルビオの言っていた、『エイレネの青年』とはコイツの事だったのか。
ある程度男から離れると魔力は元通りになり、再び飛行が可能となった。
「俺はこいつと闘う。ユアはルインズを頼む」
「分かったわ!」
「......」
時間稼ぎか。
確かに、あの女の子が相手なら、俺も負けはしない。
それはこの男に対してもだが、負けはしなくても勝てないかもしれない。
良い判断をするじゃないか、学生。
「しかし......残念ながらこんな所で諦める俺では無いのだよ」
「......?」
「君達には悪いけれど──────」
少し、眠っていてもらおうか。
「シルバー・インペリアル!!」
「ッ......?何も起きな──────」
男の背後から、巨大な鎌が現れた。
男は、反応しきれずに叩き落とされ、そのまま地面へ落下。
落下先には、男と共に来た女の子の姿もある。
「君達とは、闘いの経験が違うのだよ」
シルビオから学んだ、嘘。ハッタリだ。
その間に、ルインズが後ろから攻撃してくれた。まったく、シルビオは優秀な仲間を持ったものだな。
「......」
ルインズと、一人で闘えると思うな。
魔物の集合体は、そんな甘いものでは無い。
「グォオオオオオオ!!!」
気を取り直して、ルインズの攻撃をかわしつつ、近づいていく。
そして俺は声高々に、皆にわざと聞こえるように言った。
「魔物よ!君は操られているのだ!目を......」
顔の間近まで接近し......
「覚ませ!」
額と思われる場所に、思いっきり手を当てた。
もちろん、これらは演出だ。
ルインズは普通に自我を保っており、催眠術なんかもかけられていない。
しかし、これでルインズは催眠が解けたフリをし、いきなり攻撃をやめる。
「な......!?」
下で口を開けて見ていただけの《M.A》達が、俺の行動と大人しくなったルインズを見て驚いた。
「ば......馬鹿なっ!?」
「そんな、ありえない!」
俺は、ルインズと共にゆっくりと地面へ降り立った。
もう危害は加えない。
ルインズは、それを態度で示してくれる。
「お前らの兵士を巻き込んだのには謝罪する。しかし、我々ど同様に被害者側であるルインズに、攻撃をして欲しくなかったんだ」
「ま、まさか......本当、なのか?」
「もちろんだ。俺は、ルインズと共に催眠に掛けられていた身。俺なら、その催眠を解くことが出来る」
「......信じていいんだな」
「信じなくてもいいが、それでシルビオに勝てるかな?ルインズを味方につけた方が、今後も楽になると思うが......」
と、俺が説得しようと試みた途端。
そこは驚きの光景となっていた。
「く......やっとか」
「やっとだな。やっと、この時が来たようだ......」
《M.A》の人達の大半が、目に涙を浮かべて始めたのだ。
中には鼻水を垂らして号泣する人の姿もあった。
「......」
そうか。
彼らも彼らなりにずっと闘ってきて、ルインズに苦しめられて来たのだったな......。
《大破滅》によって人類の大半が死んだ。もちろん家族を失った人も多いことだろう。
さらに、破滅寸前の人類に追い打ちをかけるかのように現れた《破滅獣》。
人類は絶望していたのだ。
しかし、俺の起こした奇跡によって、人類は再び光を見つけた。
希望を......もう、《破滅獣》と闘わなくても良い世の中になるための道を。
「俺は銀騎士。魔王シルビオを倒す者だ!君達が信じてくれるというのなら、俺の後に続け!」
「「「おう!!!」」」
シルビオ......君のお陰で、世の中は今変わろうとしている。
俺は、この身が朽ち果てようとも君に尽くそう。
それが、俺の覚悟だ。




