お前はカッコイイよ、シルビオ
「シルビオ、遅かったな。アランは?」
「あいつなら、今警察の相手をしている。部屋に軍の奴らが攻めて来てな......どうやら《M.A》の連中が少しだけ口外したらしい」
アランなら、まぁ恐らく一人でも切り抜けられることだろう。
しかし、ゲームで見た『敵だった時は強かったけど、仲間になると弱い』というのを現実で実感できたな。
と言っても別に弱いってほどアランは弱体化している訳では無いし、ただの人間相手なら負けることはあるまい。
「それって大丈夫なの?」
「今の所は問題ない。詳しくは話していないそうで、恐らく今の俺はただの指名手配程度だろう」
「ふぅん......ま、いいけど。それじゃあ早速これを着ろ。生憎私はこの体でな、着せてやることは出来ないぞ?」
「はっ!誰が頼んだんだよ、そんなこと」
軽口を叩きながら、俺はさっさと着た。
真っ黒な鎧。
それは俺に、犯した罪の重みを感じさせた。
「シルビオ、お前がどんな考えなのかは、私には分からない。だが、死ぬんじゃねぇぞ」
「......」
俺は鼻で笑ってみせた。
おいおい、まだ死ぬだなんて言うなよ。
まるで最後みたいじゃねぇか......まだまだだ。
この計画は、まだ始まったばかり。これからが本番だぜ。
「手筈通りいくぞ」
「おう」
俺達は飛び立った。
街のど真ん中まで。
ここなら、大分人目につく。
現に、俺達のことをぼーっと、アホ面で見つめている奴らがいるようだ。
俺は、すぅっと大きく息を吸い込んで、思いっきり大きな声を出した。
「よく聞け!愚民共!!」
俺の被っている兜は、音を透過するように魔法を付与してある。それにより、声が篭もることはほぼ無い。
なんだ?なんだ?と一斉に注目し始める人間達。
空中に浮かぶ人型の鉄の塊を見て、足を止める人間達。
「貴様らは、《コードL》というものを知っているか?」
「コードL?」と、皆口々に言った。
知っているはずもない。それは、最重要機密事項だからだ。
「俺はアードルフ=ヴェロニカに、それを返して貰いに来た」
「王に?」「アードルフ王が、それを持っているって言うのか?」
「そうだとも。奴は俺から、《コードL》を奪った。その罰として、今から貴様らに天災を与える」
人々は何のことなのかさっぱりと言った表情だ。
しかし、どこか不安があるのは確か。
インパクトだ。
衝撃さえあれば、俺のことは強く印象に残る。
「よく覚えておけ!俺の名前はシルビオ=オルナレン。《大破滅》の元凶にして、《破滅獣》を操りし者だ!」
ルインズを操る......?と、人々は驚いた顔を見せた。
カタストロフィ。その言葉は、人類にとって絶望を表す言葉であり、思い出したくもない記憶。
それを起こした張本人ともなれば、無視せざるを得ないはずだろう。
例え冗談でも「自分がやった」なんて言いたくもないことを、あろうことか本人の口から声を大にして発せられたのだから。
「アードルフ。貴様が姿を現さないと言うのなら、こちらも強硬手段に出させてもらおう」
そこで、俺は大きく手を上げて、空を切るように振った。
「やれ!」
すると....
「ぐぁあああああ!!!」
フレンが上空からとてつもない速さで飛んで来た。
そして、まるで爆撃のように魔弾の雨を、街に振り撒いた。
「きぁあああああ!!!」
「ルインズよぉ!!!ルインズがいるぅぅう!!!」
「終わりだァァ!!!もう死んだァ!!」
辺り一面パニック状態だ。
人々の絶望の悲鳴は、爆発音によってかき消されたのか、死んで声も出なったのかは分からないが、あまり聞こえなかった。
悪くない......こんな風に恐怖されるのも、何だか久しぶりで、懐かしいと思えてしまう自分に、俺は恐怖した。
「人が死んでいる......俺が、大量に人を殺している......」
それなのに、俺は何とも思わないどころか成功を喜んでしまっている自分がいることに怖がった。
自己嫌悪。
人が死ぬことに慣れてしまった自分への嫌悪感。
しかし、自分が嫌いなことも、嫌われることにも慣れてしまっているため、もはや何も感じなかった。
「ん」
下で、未だに逃げる素振りを見せていない人間を見つけた。
よく見ると、大きなカメラを持って、俺の方に向けている。
その隣にも数人、あれは......テレビか。
「丁度いい」
良くもまぁ、逃げずに俺のことを撮り続けたなと褒めてやりたいくらいだ。
おかげで、ここに居ない奴らにも俺のことが知れ渡ってくれた。
そのお礼として、俺はカメラの目の前に降り立った。
「よぉ」
翼を折りたたみ、カメラ目線に顔を上げる。
別に目が合ったわけでも無いのに、カメラを持った奴や、隣にいるアナウンサーらしき女。
それと長い棒についたマイクを持った奴らは、揃って退いた。
そんなに怯えるなら、さっさと逃げれば良いのにと思うのは、俺だけだろうか。
仕事と自分の命、天秤にかけるまでも無いだろうに。
「どうも諸君。これを見てもらったら分かる通り、ルインズというのはこの俺が操っている。この街......いや、国を破壊されたくなければ、さっさと表へ出るんだな。アードルフ」
これは、アードルフのみへの脅しではない。
全人類に対しての、アードルフをあぶり出させる為の脅しだ。
「よォく覚えておけ。俺はシルビオ、魔王シルビオだ!」
──────────
「すまない、思っていたよりも手強かった」
「問題無い。お前が帰って来られれば、戦況はあまり変わらないさ」
あの宣言の後、俺とフレンは街の全体をほぼ壊滅させた。
人類は怯え、恐怖し、街を逃げ出した。
そして、残ったボロボロのビルのひとつを、俺達は堂々と拠点にすることにした。
「やっと落ち着けるな」
洞窟よりも広く、食料や武器なども結構残っているここなら、ゆっくり休める拠点となるだろう。
「そうか?もし人類が今、攻めてきたらどうする?」
「確かにそうだな。学園も近くにある事だし、街を占拠されて、軍も黙っちゃいないだろう」
だからといって、再び身を潜める気にはなれないな。
しかし、やはり無駄に戦力を消費するのも好ましくないか......
「そうだな。ならば、こちらも空中要塞を造ってみたらどうだろうか」
「なに?おいシルビオ、本気で言っているのか?」
「本気だ。もちろん、こちらにそんな技術力が無いことは分かっている。ならば、造らせれば良い」
「造らせる......まさか、人間にか?しかし......」
それは難しいことだ。
恐怖で支配しても、やはり大きな物を造らせるというのは簡単なことでは無い。
こっそりと爆弾を仕掛けられても、こちらは気づくことが出来ないし、どうやっても限界がある。
「アラン。これを」
そう言って、俺はアランに鎧の頭を渡した。
銀色に光り輝く、騎士の鎧だ。
「これは......」
「俺がかつて着ていた鎧、銀騎士のものだ」
「銀騎士......なぜこれを俺に?」
「お前には、これを着て俺に立ち向かう騎士となって欲しい」
「なに......?」
「お前は人々の希望となり、悪を討ち滅ぼした英雄となるんだ。そして、魔物と人類の共存する、平和な世界が生まれる」
「......そうか、そういう事か。お前......まさか初めから!?」
「あぁそうだ。これ以外の方法が、見つからなくてな......」
俺がずっと、考え続けて来た計画。
それは、アランに協力して貰わなくては出来ないものだった。
「だったら、あの宣言でアードルフを悪に仕立てあげれば......!アードルフに押し付ければ良かったじゃないか!」
「それは出来ない......アードルフは、俺が眠っている間もずっと人類を守って来た。今更塗り替えることは出来ない」
「シルビオ......」
俺がやらなくては。
俺にしか出来ない事、俺にしか、成し遂げられない事だ。
「お前はカッコイイよ、シルビオ」
「ふん、まぁな」
アランが、要らぬ気を回さぬようにと微笑を見せてやった。
俺は心配無いと、案ずるなと言うように。
そうしなければ、俺の方が嫌になってしまいそうだったからだ。
かっこつけていないと、何もかも投げ出してしまいたくなりそうだったからだ。
「さて。英雄なら空中要塞の一つくらい、造って来てくれるよな?」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている」
アランは、俺の渡した仮面を受け取り、鎧を着た。
ギンギラギンに輝く鎧。それはかつて、俺がスパイとして動いていた際に身に付けていたものだ。
ふと、その時の仲間の顔が脳裏に浮かぶ。
「ここの防衛は任せておけ。行ってこい、銀騎士」
「あぁ、行ってくる」
アランは、拠点を出て行った。




