新たな作戦
「《フォートレスガーデン》が、既に完成している......?」
「そうだ。まだ予想の段階だが、そう考えてもおかしくは無い」
そんな馬鹿な......いや、ありえなくもないか。
情報は罠では無かった。ということは真実の可能性が高い。
しかし、情報とは違って《フォートレスガーデン》は作製されていなかった。
あれだけ探しても無かったということは、もっとどこか奥深くで作られているのか、それとも既に完成されているかのどちらかどと予想はつく。
「だがもし、本当にもう完成しているとなれば......」
「あぁ。かなりまずい状況だ」
逃げられてしまう。
空飛ぶ要塞、『フォートレスガーデン』。それは、フローリカですらも情報を掴めない程に極秘の物らしい。
分かっていることは、常に空を飛び続けることが出来るというのと、要塞と言われるほどの武装を兼ね備えているということ。
まぁ、宇宙戦艦みたいなものだろう。
しかし、その空を飛ぶというのが問題だ。
「もし完成しているのであれば、既にこの空のどこかにいるということだ。海よりも広いこの空で、どうやって探す気だ?シルビオ」
そう、探さなくてはならないのだ。
目的はリーネだ。しかしそのリーネが、今どこで囚われているのか分からない。
「おそらくリーネは『フォートレスガーデン』にいる。だが、今頃どこの空を飛んでいるのか分からない」
そう、問題はそこなのだ。
例え完成していなかったとしても、今アードルフがどこにいるのかは結局の所分からない。
「炙り出すしかないだろう」
「なに?」
「隠れているアードルフを、公に引きずり出す。アラン、フレン達に連絡をしてくれ。作戦会議だ」
──────────
アードルフを引きづり出す方法。
そんなことは簡単だ。
俺が姿を見せれば、世の中に出ざるを得ない。
「しかし、本当にそれだけで引き釣り出せるのか?」
「それをやるのは俺じゃない。国民共だ」
「国民?」
そう、国民だ。
これはあくまで、『フォートレスガーデン』が完成していた場合の作戦。
まぁ、完成していなくても通用はするだろうがな。
「俺が世の中に悪役として顔を出す。ルインズを操っている黒幕が俺で、《コードL》を寄越せと宣戦布告するのだ」
例えアードルフが聞いていなかろうが、国民が聞いている。
未だに国王をやっているアードルフの耳に、国民の声が届かないわけが無い。
「渡さなければ国にルインズを解き放つと言われれば、国民共はさぞかし不安になることだろう。そうすれば、嫌でもアードルフは表に顔を出さなければならなくなるさ」
「なるほど......確かにそれなら、隠れていようが顔を出すだろう。支配者ゆえ、世間の意見を無視は出来ない」
悪が現れれば、正義も現れざるを得ない。
それが、ヒーローの役割だ。
俺が悪として現れ、アードルフを誘い出す。
アードルフを正義とは言いたくないが、世の中の立ち位置的には英雄らしいからな。
『けどよぉ、そんな簡単に信じてくれんのか?いくらルインズを操れるとは言え、口だけならいくらでも言えるぞ』
と、電話越しに言うフレン。
「それをお前にやってもらいたい」
『は?』
「お前に、俺の指示通り暴れて欲しい」
俺がルインズを、本当に操れるということを知らしめたい。
それで、シルビオという存在に対して人々が恐怖を抱くことになるはずだ。
「しかし、もしアードルフが姿を見せず、ずっとリーネを隠し続けていたらどうするんだ?」
「この国を支配してしまえばいい。アードルフが姿を隠し続ける限り、全ての国を支配し続ける。国の全勢力を使えば、さすがに見つけることも出来るだろう」
ただ、その分時間はかかってしまう。
できればさっさと出て来てくれることを祈るが。
「それで、アラン。お前にはやって欲しいことがある」
「俺に?」
「そうだ。お前にしか出来ないことだ」
──────────
時刻は午前七時頃。
俺は学園の制服に着替え、外に出る支度をしていた。
「フレン達は到着したか?」
「いいや、まだだ」
「あと、どれくらいかかるんだ?」
「そうだな......約三十分と言ったところか」
フレン達魔王軍には、昨夜の作戦会議からすぐに洞窟を出てもらった。
魔物が来るのは少し遅れるだろうが、フレンだけでも全速力で来てもらっている。何せ主役はフレンだからな。
俺のように半身人間じゃあ人々は怖がらないだろう。
今、人々が怖がっているのはルインズ。つまりフレンだ。
「なら、俺は先に合流ポイントへ行っておく。今回は俺の護衛だ。頼むぞ」
「任せてくれ。しかしまさか、お前を守る日が来るなんてな」
俺もお前に守られるとは思っていなかったさ。
しかし、協力しなければこれはできない事だ。
俺を信じてついて来てくれるアランを、みんなを......死なせる訳にはいかないな。
「今回は俺の名を世の中に知らしめるだけだ。そこまで難しい話では──────」
突然大きな音が聞こえた。
バンッと、部屋の扉が開いた───いや、倒れた。
壊されたのだ。
「シルビオ=オルナレンだな?我々と共に来てもらおう」
「これはこれは......随分と物騒じゃないか」
突然のお客さんは、全員武装集団。
ゲームでしか見た事のないような銃、いわゆるアサルトライフルと言うやつ。いや、これはサブマシンガンだな。
そんなものを俺とアランに向けて来た。
「まさか、やはり罠だったのか!?」
「違うな。こいつらは軍、《M.A》じゃない」
罠ならば、わざわざ俺の家を特定してまで捕まえに来ることは無い。
それに服装でわかる。こいつらは国の軍隊だ。
しかし、俺の情報は公表されていないはずなのに。
確かに、あの学園は《M.E.S.I.A.(メシア)》を育てている場所だから、それを管理する《M.A》と繋がりがあって当たり前だ。
俺を目撃した《M.A》か、家を特定して攻めて来るにしても、なぜ軍を使ったのか......。
秘密にしていた情報を公表してまで、俺を捕まえに来させたのか......。
「何か手が放せない理由でもあるのかな?」
「無駄話なら後で聞く。とりあえず、同行してもらおう」
こいつら......表情はあまり見えないが、あまり俺達をそこまで警戒していないように見える。
俺達が武器を持っていないからか?それとも、学生服を着ているから......?まぁ、どちらにせよ好都合。
どうやら、俺達の強さまでは知らされていないようだ。
「シルビオ、ここは俺に」
「久しぶりの戦闘だろう?大丈夫なのか?」
「俺を、誰だと思っているんだ」
そうだったな。
お前は、アラン=カイバール。
「元勇者だ」
アランは、片足で大きく踏み込むと、目にも止まらぬ速さで正面の一人に接近した。
そして、右手の拳を腹へ。
捻じるように繰り出されたボディーブローは、人一人を回転させながら吹き飛ばした。
あーあ......壁に穴が空いてしまった。
まぁ、扉も既に壊されていることだし、大家さんが怒るなら軍に対してにして欲しいな。
「なっ......!?う、撃てぇ!!撃てえぇええ!!!」
一斉射撃。
一体どこを狙っているのか分からないような射撃で、何を考えているのか分からないような方向へと弾は飛んでいく。
いや、アランが避けているのだ。
この狭い部屋の中を、縦横無尽に駆け回るアラン。
「おっと危ない」
お陰でこちらにも流れ弾が飛んでくる。
風のシールドが無かったらどうするつもりだったのだろうか。
「くっ、なぜ当たらない!?」
連中は、当たらないと、分かっていても弾をめげずに撃ち続けた。
もう、アランが飛び回った場所は足跡でいっぱい。壁中穴だらけで、改築待ったナシとなってしまった。
そして、やっとの事で全員の弾が切れたようで、射撃が止んだ。
「ふぅ、もうそろそろ諦めろ。これだけ撃っても当たらないってことは、無駄なんだよ。さ、とっとと帰った帰った」
「ぐ......」
何も言い返せないと言った表情で、悔しそうにする連中。
その言葉通り、リロードはしなかった。
俺達に銃を向けることすらせずに、俺達が部屋を出ていく所を黙って見送って行った。
「......勇者というのも中々大変なものだな」
「何の話だ?」
「人を傷付けないことに全力を尽くす。その為ならば、自らが傷付くことも恐れない」
「......」
何も無かったようなフリをして歩いてはいるが、その腹や腕。何発か食っているのだろう。
それに足も、跳躍の歳に捻っているようだな。
「俺が気付かないとでも?」
「......はぁ、さすがだな。君は」
いくら元勇者と言えど、全盛期はとっくに過ぎている。
久しぶりの激しい運動と、狭い中での立体的な高速移動。
そして現代兵器の自動小銃。あんな弾幕の嵐を、全て切り抜けられる方がおかしい。
「あの人達を傷つけたく無かった......」
銃弾を受けてでもそれを隠して、全て避けたフリをする。
そうすることで、戦意を喪失させた。
「何を今更......俺と手を組んでいる時点で、お前はもう立派な悪役だ」
「そんなことは分かっている。だから、これは俺の自己満足だ。こんな事で罪を償おうとは思っていない。ただ、目の前の救える人くらい救いたいだけだ」
「......そうか」
アラン、お前は甘すぎる。
相手にも、そして自分にも。
「出血は?」
「無い。これから君を、世界に紹介しに行くんだ。こんな所で、しょうもないくたばり方はしないつもりだ」
それが嘘では無いことを、俺は信じている。
お前には、生きてもらわなくてはいけないからな。
......俺よりも長く。
「さて急ごうか。フレンもそろそろ着いた頃だろう」
「あぁ、先に行っていてくれ」
今度は突然ではなく、向こう側から近付いてきたのが見えた。
大通りの奥から、白と黒のカラーをした車が何台もこちらへ向かってくる。中には黒色で、他の車より少し大きなものもある。
そして、俺達の目の前で停車すると、中から人が出てきた。もちろん全員、重武装。
「今度は警察か......」
しかしここは大通り。
外に出ているのなら、アランも無理をしてかわしたりすることは無いだろう。
「これから世間に知れ渡るってのに、もう人気者だな。俺は」
「しかし、君のことを知らない人の方が多い。この人達も、ただ捕まえて来いと言われただけなのだろう」
「んな事は分かっている。アラン、さっきの言葉忘れんなよ」
「あぁ。必ず行くさ」
今はアランを信じるしかない。
そう思い、俺は翼を広げた。
勢いよくバサバサと羽ばたかせ、空高く舞い上がる。
俺のことを撃ち落とそうとしてくる奴らもいたが、そいつらはアランに任せる。
ここで死ぬような奴ではあるまい。
「ふっ......懐かしいな。いつかの日も、こんな感じで俺を信じてくれたんだったか......」
しかし、今度はあの時とは違う。
必ず戻って来る。
そう約束したのだった。




