嶺風康人
帰り。
今日の学園は終わり、もう帰る時間なのだが。
今日一日、嶺風康人を観察してみた。
もちろん、《フォートレスガーデン》を探すのが最優先なのだが、授業中などはさすがに動けない。
そういう時に、少しだけ見ていたのだ。
すると、奴のスキルに驚かされてしまった。
......スキル、俺の時代では固有魔法と呼ばれたそれは、個人によって違う能力を持っている。
しかし、あの嶺風とか言う奴、アイツは少し特殊なようだ。
「おいおい聞いたか?ミネカゼとか言う奴が、訓練場でまた闘ってるらしいぞ!見に行くか?」
「あのルインズを倒したっていうミネカゼか!?見に行くに決まってんだろ!」
と、そんな声が聞こえた。
嘘をすればなんとやら。
どうやら訓練場の方で、嶺風康人が闘っているらしい。
ルインズを倒した......か。
その噂は、学園に来てから何回か聞いていた話だ。
普通なら褒められるようなことなのかもしれない。凄いことなのかもしれない。
けれど俺には、褒めることは出来なかった。
仲間を殺されておいて、恨まないことは出来なかった。
「......見に行ってみるか」
実の所、嶺風康人のスキルは知らない。
ただ、なぜか奴への攻撃がかき消されるということだけは分かっている。
どうやら、ルインズを倒した奴を気になっている人も多いようで、生意気に思っている奴も、腕試しの奴も、皆嶺風康人へ挑んでいるらしい。
「はぁッ!!」
ガキィンと金属のぶつかる音、擦れる音、壊れる音。
様々な音が響き渡る会場内。
ルインズとの実際の戦闘では、先日俺達が遭遇した時の奴らのように、変な機械を体に取り付けて空を飛ぶ。
そして、ガジェットと呼ばれる武器とスキルを駆使して闘うようだが、対人戦は地上が基本。
ここでは、ガジェットとスキルのみのタイマン戦が行われている。
「どうも、オルヴァーさん」
「ん?」
嶺風康人の試合を観ていると、突然声を掛けられた。
こんな俺に声を掛けてくる人なんているんだなぁと、素直に驚いてしまった。
「えっと、確か生徒会長の......」
「ロレーナ=カナレハスです。ロレーナとお呼びください」
ニコッといい笑顔をする。
まぁ、嘘だろうが。
嘘の笑顔。
「この学園には慣れて来ましたか?」
「あぁ、まぁな」
「それは良かったです」
生徒会長の話なんぞに興味は無い。
俺は、あの嶺風康人を知らなくてはならない。
奴のスキルが......気になって仕方無いのだ。
他の人のスキルを全て打ち消している......いや、スキルだけでは無い。
魔力を使って動かすというガジェット。銃の形をしたガジェットは、魔力の塊を飛ばすらしい。その魔力弾をも、打ち消している。
無効化している。
「康人君ですか?スキル、凄いですよね。何せ、他のスキルを無効化してしまうようで......」
「......ッ!」
ここで、俺は気付いた。
なぜ、今まで気付かなかったのか不思議なくらい、簡単な事だったのに。
嶺風康人の指についているリング。指輪。
「生徒会長さん。嶺風康人はあの指輪を外したことはありますか?」
「私は......見たことないですが。お風呂の時などには外しているのでは?」
......なるほどな。
似ている。あまりにも似ている。
『エイレネ』に。
「生徒会長さん、嶺風康人の家族に合わせてくれ」
「康人の家族......ですか。それは難しいですね。何せ、今は母親と妹さんがしかおらず、そのどちらも入院中だと聞いておりまして......」
「なら、その病院を教えてくれ」
「え、で、でも......個人情報ですし」
入院中だとまで言ったんだ。個人情報もクソもないだろ。
......まぁいい、最悪自分で探すか。
「生徒会のお仕事を手伝ってくれると言うのなら、良いですよ」
「......は?」
──────────
生徒会のお仕事と言うのは、病院へ手伝いに行くことだったようだ。
そして嶺風康人の母親は、どうやらその病院にいるらしく、「手伝いに来てくれるのならついでに会わせられなくもない」との事らしい。
何とも偶然な事なのだが、まぁ会えれば問題は無いだろう。
もし俺の見当違いだとしても、それはそれで良い。
「んで、何でまた病院で手伝いを?生徒会ってのはこんな面倒なことをしているのか?」
「ここの病院には、医療や入院など色々とお世話になっているので。そのお礼に、せめてお手伝いを......と」
それなら金で済む話だと思うがな......まぁ、人間関係という物はとても面倒な物で、「気持ちが大事」だとか「礼儀」とかそんなのばかり。
俺なら金だけで十分何だが。
「これで最後の荷物ですので、頑張って下さいね」
文句を垂れつつも、仕事はちゃんとこなす俺。
重い荷物は運べませんなどと抜かす生徒会長の代わりに、結局ほとんど俺がやってしまった。
まぁ、在庫品を移すだけの簡単な作業だったから良かったものの......これ本当に手伝う必要あったのか?
「それじゃあ行きましょうか、嶺風さんのお部屋へ。本当は一人で行きたかったんですけどね」
心做しか、楽しみにしているように見える。
生徒会長......まさか嶺風康人の親に、いち早く自分を紹介しておく気なのか?
嶺風康人の親から、アプローチをかけるつもりなのか?
とか変なことを考えている内に、部屋へ着いた。
病室の扉は自動ドアで、静かに開いた。
「あら、久しぶりのお客さ......」
「......」
真っ白なベッドの上で横になっている女性。
その姿はやつれており、いかにも病気といったような見た目だ。
そして、俺を見るなり急に黙り込んだ。
なるほど、そういう事か。
「初めまして。私はウェンティ学園生徒会会長、ロレーナ=カナレハスです。あなたが嶺風康人君の母親、嶺風 枢菜さんですね」
「......えぇ、そうよ。康人のお友達?」
女は、俺を見て驚いたような顔をしていたがすぐに切り替え、生徒会長に応じた。
「康人君とは仲良くしてもらっています。それで、一度ご挨拶に......」
「ごめんなさいね。その前に、そこの人とお話させてくれないかしら」
そう言って女は、俺の方を向いた。
「......」
「え、えぇ......別に構いませんが」
生徒会長は、少し嫌そうな顔をしたが、それ以上に不思議に思っていた事だろう。
席を外し、女と俺を二人きりにした。
「......まだ俺のことを、人と呼ぶのか。ミネス」
「別に良いじゃない。見た目は人なのだから......それよりも、変わってないわね」
「変わったさ。何もかも」
「......そうみたいね」
ミネス=カゼーナ。
かつて俺が『エイレネ』を奪った国で、奴隷として働いていた女だ。
その後は俺の直属の部下となり、勇者パーティーへ諜報員として送り込んでいた。
そうか、まさか生きていたとはな。
「生きていたのね。シルビオ」
「それはお互い様だろ?」
「まぁ、ね。それで?なぜ分かったの?」
「お前の居場所か?それとも存在か?まぁ、どちらも知らなかったさ。ただ、お前の息子である嶺風康人が持っている物が気になってな」
嶺風康人の持っていたあの指輪。
魔力を使う技を、全て打ち消すというあのスキル。
「あれはスキルではなく、『エイレネ』だろ」
「......ええ、そうよ。康人に持たせた指輪、あれは『エイレネ』の欠片」
なるほど。
やはりそうか。
どうりで嶺風康人のスキルと『エイレネ』の効果が、似ていると思った。
違うのは効果範囲だけで、打ち消すという部分では同じだったわけだからな。
「あの、最後の闘いで、あなたが落とした物を拾ったの。それはもう壊れていて、欠片しか残っていなかったけれど」
「それで、父親は誰だ?確か娘もいるらしいじゃねぇか」
「父親なんていないわ。私は、康人とその妹である絵梨香を拾ったの。そして、お守り代わりとして『エイレネ』を持たせた......ただそれだけなの」
なるほどな......これで全て納得がいく。
そうか、奴が『エイレネ』を......。
「シルビオ、私は間違っているとは思っていない。それよりも、自分たちのために多くの人を犠牲にしたシルビオ達の方が......」
「黙れ。その話はもう聞き飽きた......」
もう、聞き飽きたんだ。
「別にお前を殺しに来た訳では無いし、『エイレネ』を返せとも言わない。ただ俺は、確認しに来ただけだ」
「確認......」
「俺は、罪を償うために今動いている。だから、ここで見ていろ」
必ず世界を変えてみせる。
そう俺は言った。
──────────
「おかえり」
「あぁ」
手伝いも終わり、学園から少し遠い所にあるボロ屋へと戻って来た俺。
今は、激安アパートの部屋を借りてスパイ活動をしているのだが、まさか魔物達をここへ連れてくるわけにも行くまい。
だから、俺が一人でここに来て、アランに洞窟の方を任せたはずだが......なぜかそのアランが俺の部屋に居座っている。
「お前......いつまでここにいる気だ?そんなに俺が心配なのか?」
「違う。もし君が捕まってしまった場合に、助ける人が近くに必要だろう?」
「......やっぱり心配なんじゃねぇか」
よく分かんねぇ野郎だな。
まぁ、アランがいると心強いのは確かだ。
だが、なんか落ち着かねぇな。
「それで、例の要塞は?」
「俺が見た限りでは無かったな。隠しているという雰囲気も無かった。やはり嘘をつかまされた可能性は高いが......罠では無さそうだな」
「ではなぜ、そんな嘘情報を......?」
「知るかよ。俺はアードルフじゃねぇし。というか、俺よりもお前の方がアードルフのことを分かっているんじゃないのか?」
いつからアードルフの仕えていたのかは知らないが、俺よりは関わっていることだろう。
もし《フォートレスガーデン》が存在しないのならば、その方が良い。
「ふむ......アードルフなら、必ず罠を張っているはずだ。しかし無かったとすれば......」
「意味の無いデマだったな。それか、フローリカの勘違いだったのかもしれん」
「いいや、そのどちらでもない」
「......なに?」
アランが、いつになく真剣な表情をする。
その中には少しの焦りも見える。
「考えられる中で、一番最悪な自体かもしれないな」
「というと......?」
「《フォートレスガーデン》は、既に完成している」




