学園へ
洞窟へ帰ると、皆が出迎えてくれた。
どうやら、全員無事に帰還できたようだった。
「おかえり、シルビオ」
「アラン......あぁ、ただいま」
自分の帰る場所がある。
それがどれだけ嬉しいことなのか、俺はよく知っている。
「お前らのおかげで、この通り。腕は戻って来た。そしてお前らも、無事に帰って来れた......これは大きな一歩だ」
これからも頼む。
と、俺は笑顔で言った。
上から目線でしか言うことは出来ない。
けれど、どうか今だけは許して欲しい。
リーネを助けて、世界を支配するまでは......
「だが、シルビオ。腕を手に入れたことで俺達の存在は確実に知れ渡った。これから動きづらくなるぞ」
「分かっている。しかし、それ以上に俺達の存在を知らしめるメリットの方が大きい」
俺達が逃げたことなど、とうの昔に知られている。しかし、それでもしばらくの間は見つからなかったということは、見つけることが出来なかったということだ。
腕を狙ってくると分かっていながら、あの程度の戦力しか用意できないようでは、魔王と勇者を相手になど出来るはずがない。
......いや、秘密保持のためか。
例え、あれよりも戦力が増大した所で、こちらが負けることはないと思うがな......。
「しかし慢心は身を滅ぼす。あちらに動かれる前に、こっちから先に動くぞ」
次の計画は、リーネの救出だ。
グィルからの報告だと、フローリカは無事に保護されたとの事。
中々やるじゃないか、さすがはフレデリックの妹だ。
そして、そのフローリカの情報によれば、リーネの居場所で一番怪しいのはもちろん《M.A》の本拠地らしい。
俺達を捕まえたのも隔離したのも《M.A》の連中だ。リーネがいてもおかしくは無い。
空中要塞。
それが、奴らの本拠地になる物だそうだ。
空中要塞など、聞いただけでも強そうな名前だな。
だが、本拠地は未だ完成しておらず、作っている場所なら分かるとのこと。
フローリカの情報も、どこまで信用出来るか分からない......いや、フローリカ自体は信用しているのだが、嘘の情報を掴まされているという可能性もある。
「《フォートレスガーデン》か......」
そこが本当に《M.A》の基地になるのなら、アードルフもきっとそこにいるのだろう。
「それで、その場所ってのはどこなんだ?」
「ん?あぁ、作っている場所か。学園だそうだ」
「学園?」
「ウェンティ学園」
今の時代には、五つの国が存在する。
ティエラ学園、ヒュドール学園、イグニース学園、ウェンティ学園、アーカーシャ学園。
これらは、それぞれ別の国々が作った学園だそうだ。
「ということは、アラン。その学園のある所がアードルフの国か?」
「いいや。アードルフは自分の国を持たない」
「なに?」
「全てがアードルフの国だ。まぁ、世界の国王というわけだ」
「......」
なるほど。
王をも支配する能力ってとこか。
さながらラスボスって感じになって来たな。
「しかし、たった一つだけアードルフが気にしている学園があるらしい」
「ほう。そこがウェンティ学園か?」
「そうだ。俺がまだ檻の中にいる時、フローリカにアードルフの行動を随時報告してもらっていたんだが......ウェンティ学園ばかり気にしていたようなんだ。しかしまさか、本当に《フォートレスガーデン》が......?」
ほぼ毎回ウェンティ学園の名前が出てくるほどだと、アランは言った。
それなら、要塞を作っているというのも頷ける。
......だが、そんなヘマをするか?
アードルフが、そんなあからさまな行為をするとは思えないが......。
「他にあてもない。まだ未完成なら、今から叩くのが良いだろう」
「そうだな。俺もそう思う」
決まりだ。
次の目標、国立ウェンティ学園。
リーネの救出、及びアードルフの撃破だ。
──────────
と、ざっくりとだけ作戦を立てて、翌日。
俺はウェンティ学園へと向かっていた。
空を飛んで、一人で。
「しかし......あまり上空を飛びすぎて見つかっても困るからな」
なるべく低空飛行を意識している。
本当は翼を使いたい所だが、制服が破れてしまうからな。
風を使って飛んではいるが、やはり遅い。
それに、どうにも気乗りしない。
「......くそ、なんで俺が」
こんな制服を着て、学園へ侵入しなければならないんだ......。
事の発端は、俺の「罠」発言にあった。
やはり、アードルフがそんな情報を漏洩するとは思えない。
普通に考えれば、わざとフローリカに情報を掴ませ、アランへ報告させる。
そして俺の所へその情報が行き渡り、おびき寄せる。という典型的な罠だ。
しかし、俺もアランもまだ檻から出られていない時のことで、そこまで情報の漏洩を気にすることはないと言えばその通りだ。
だが、相手はアードルフ。
俺達以外にもアードルフの敵がいるのなら、そいつらに対しても効果があると思われる罠。
どう考えても、学園へ出向くリスクが大きい。
ということで、スパイすることになった。
「なぜ俺がわざわざ......」
魔王である俺が自ら出向く必要があるんだ......とか、文句を言いたい。
まぁ、アランは《M.A》だけでなく、軍にも顔がバレているらしいし、他の奴らは魔物ばかり。
フローリカは《M.A》に既に入り込んでいて忙しい......し、俺の入学手続きはめちゃくちゃ頑張ってしてくれたそうだ。
戦闘力が高くて、見た目はほとんど人間で、顔も世間にはまだバレていない俺ならという消去法だった。
まぁ、正直少し楽しみだから良いけど。
「学園か......」
学園へ着くと、先生共が出迎えてくれた。
「こんな時期に転校だなんて珍しいねぇ」とか、「前はどこの学校にいたの?」とか、そう言う話ばかりして来た。まぁ、当たり前の事なのだろうが、俺は全て流した。どうでもいいことだからだ。
職員室へ行くと、先生から封筒を渡された。
どうやらフローリカが送ってくれた物のようで、中身は俺の設定資料だった。
学園へ入学する際の、俺の個人情報のようだ。もちろん偽装だけど。まぁ、口裏合わせられなかったから、とても助かる。
......ちょっと有能過ぎるな。こうまでフローリカが上手くいっていると、逆に心配になる。
ま、グィルを見張りに着けていることだし、よっぽど大丈夫だとは思うがな。
......そしてもう一つ、紙が入っていた。
「請求書かよ......」
入学金......結構高いんだな。
幸運なことに、制服はアランに作ってもらったから無料だった。
フローリカに、制服の資料を送ってもらい、アランの固有魔法で作ったのだ。いやぁ、便利だなぁアラン君は。
というか、裁縫の固有魔法なんて一体どこで手に入れて来たんだ......?
まぁそんなこんなで、俺は無事学園へ入学。
ここまで何とか上手くはいっているが、これからが問題だ。
スパイというのは、侵入してからが本番。
いかに見つからずに、怪しまれずに情報を盗めるか......だ。
「えー、転校生がおります。どうぞ入って」
ガラガラ、と扉を開く。
真面目そうな顔をして、一般陣を装う。
爽やかな笑顔が優しさを表しているようだろう?
「オルヴァー=ランドルフです。最近ここに引っ越してきたばかりで、世間知らずですが、色々と教えて下さると嬉しいです」
「いいよー」と、調子のいい女子が声を上げる。
笑う人達もいる中、しかしほとんどのクラスメイト達が気になっていることだろう。
両手に手袋をしている。
フローリカの設定資料からすれば、どうやら俺は金属アレルギーらしいのだ。
まぁこれは、俺の左腕を隠すためのカモフラージュに過ぎない。
片手に手袋より、両手の方が違和感は無いものだ。
「えっと......何か質問とかありますか?」
「はいはーい!なんで手袋してるの?」
まぁそうだよな。
そりゃあ聞いてくるよな。
「金属アレルギーで手がただれやすいんだ。申し訳ない」
なんだか久しぶりに、アランとフローリカ以外の人類と話した気がする。
そうか、学園とはこんなようなものだったな......なんだか懐かしい感じがする。
「───────って、呑気に思ってんじゃないだろうな?」
「あ、あはは......」
俺は、電話を耳に近づけながらフレンと会話していた。
遂に俺達にも携帯電話の時代がやってきたのだ。
昨日の戦闘で、ビルに侵入したアランが、武器とか通信機器をくすねて来てくれ、魔王軍にも通信機が配備されたというわけだ。
もちろん、スマートフォン。
まぁ、最近のスマホはGPS機能が付いているから、くすねてきたスマホ同士の連絡先以外と、GPSだけ使えなくしておいた。
いやぁ、前世でスマホを弄り回していたのが、今発揮された気がする。
そんな訳で手に入れた通信機を、早速使って連絡しているわけだ。
「それより報告だ、フレン。今のところは何も見つからない」
休み時間に歩き回って、色々見て回ったのだが、見た目は特に普通の学園とは変わらない。
隠しているような物も見えないし、先生達の様子も普通だ。
とてもアードルフの息がかかっているとは思えない。
「引き続き捜索する」
「了解。気をつけろよ!」
あぁ、当たり前だ。
言うなればここは敵陣の奥深く。
もし本当に隠しているものがあるとすれば......または罠だった場合でも、俺のことを知っている奴がいるはず。
とりあえず、捜索を続行することにした。
──────────
昼休み。
一人寂しく......いや、寂しくはないが、教室で一人で昼食を摂っていた。
見た目は高校生とはいえ、中身の年齢的にはオッサン。もっと言えば、この世界の者では無いのだ。
この時代の高校生などと話が合う訳もなく、さらに俺は転校生。話題の無さで言えば、この上ないほどなのだ。
まぁ、別に仲良くなる必要も無いし、調査が済めばさっさとここを出ていくつもりだし、わざわざ友達ごっこをするつもりは──────
「ランドルフ、お昼食べようぜ?寂しいだろ」
......無い。
突如として話しかけてきたこの青年は確か、嶺風 康人と言った男だ。
名前が漢字というのが少し気になる所だが、それ以上にこいつの行動力に驚きだ。
「お昼食べようぜ」までならまだ分かる。しかし「寂しいだろ」はいらないだろう。
「あぁ、ありがとう。俺のことはオルヴァーでいいよ」
「じゃあ、オルヴァー。屋上にでも行こうか。みんなが待ってる」
そう言って、俺は屋上へと連れて行かれた。
屋上では、知らない女が二人待っていた。
いやまぁそりゃあ知らないだろう。だってここの生徒なのだから。
「あ、おそーい!康人」
「待ってた」
「ごめんごめん、今日はオルヴァーを連れて来たぞ」
「噂の転校生君」
なるほど。
女二人に対して男は一人だったわけか。だから俺を呼んで、男女二人づつの合コン体制にしたと......って、そんなわけが無いか。
ただ、転校生である俺が一人でいることに同情して、ただ自分達の輪の中に引き入れようとしただけだろう。
そんなことくらい分かっているはずなのに、どうも頭が阿呆な考えをしてしまう。
これも、久しい学園生活を思い出してしまったためだろうか。
「早速だけど、オルヴァーはなんでこの学園に?」
「この時期珍しいわね。康人以来だわ」
康人以来......?
なるほど。どうやらこの男も、最近転校してきたばかりならしい。
しかし、立て続けに転校してくるというのは確かに珍しい。
是非とも理由が気になる所だが、今は俺が質問されている。
俺は、フローリカが作った設定通りに応える。
「実は、父親が鍛冶職人でガジェットの製作をしていたんだ。有名では無かったけれど、その技術は一流だと言われていて、俺はもちろん継ぐ気だった。けれど、ある日《破滅獣》によって父は死んだ」
皮肉なものだな。ルインズと人類を仲良くさせようとしているというのに、ルインズに殺されたと言うのは。
ところでこのガジェットという物だが、実のところ俺は説明を受けていない。
武器みたいなもの......とざっくりとは聞かされてはいたが、よく分からない。
個人によって違う形で、魔力を流して使う......?とか何とか。
「今の俺に、父の後を継ぐ資格はない。でも、少しでも自分の技術を活かして皆をサポート出来たらいいと思い、この学園に入学したんだ」
「オルヴァー......」
なんだよその顔は。
同情してんのか?
いや、同情させたのは俺か。
「すまない。こんな暗い話になってしまって」
「大丈夫よ。ここにいる皆、ほとんどの人が同じような境遇で生きている。気持ちはよく分かるわ」
......同じ境遇、ね。
こうして、俺に家族を殺されたと言う人達と、直接会うのは初めてかもしれないな。
気持ちはよく分かるか......そうだな。俺にもよく分かるよ。
俺のせいで家族を殺され、全てを奪われた。
だからこそ、俺はここにいる。
だからこそ、俺は償いたい。
これが償いないにはならないかもしれない。どうやっても、もう死んだ人は元には戻らないのだから。
けれど、それでも俺は人類とルインズを......魔物を共存させたい。
そう思っている。
だから俺は、悲しそうな顔をしてお礼を言った。
例えその表情と言葉が嘘だとしても、俺はこいつらを騙さなくてはならない。
騙して、情報を吐かせる。
「ありがとう......やっぱりここに来て正解だったみたいだ。あ、それと、俺からも聞いてみたい事があるんだ」
こいつらが知っているとは思えない......可能性があるなら、生徒会や先生だろうが、まぁ念の為と言うやつだ。
「《コードL》って、知ってるか?」
「《コードL》?聞いた事無いな」
その顔は、嘘偽り無い表情だった。
なるほど、本当に知らなそうだな。
「そうか。この学園に通う人なら、知ってると思ったのだが......」
「先生に聞いてみようか?」
「ありがとう。でも遠慮しておくよ。先生に聞くほどのことでも無いよ」
そんなこと、されてたまるか。
俺の存在が知られれば、即座に捕まってしまうだろうが!
「何なの?その《コードL》っていうのは」
「......さぁな。それが何なのか、どこにあるのか。それを知りたいんだ。ありがとう。みんなと食べるご飯は美味しかったよ。それじゃあ、俺はこれで」
そう言って、俺は席を立った。
嘘だ。
美味しくなんてなかったよ。
自分のせいで、苦しんでいる奴らと食べる飯なんてよ......。
「もう行くのか?」
「申し訳ないな。まだ転校の手続きが残っていて」
「あぁ......じゃあ、またな」
「おう。ありがとな」
俺は、屋上のドアから出て行った。
嶺風康人......。
何か気になるような雰囲気を纏った奴だったな。
女を二人連れている所とか、どこか昔のアランを思い出させる。
そう、まるで主人公のような......。




