魔王シルビオ
時刻は深夜二時。
よく考えてみれば、それは既に二時間も過ぎており、フレンの言った「一日もかからない」というのはとっくにオーバーしていた。
まぁ、一日というのが二十四時間という意味ならばオーバーはしていないがな。
と、そんなことを思いながら俺は空中を漂っていた。
まぁ、今の俺には翼が無く、自力で飛行することが出来ない。
よって、フレンの上に乗っているのだが。
「やはり空を飛べないというのは不便だな」
「そうなのか?俺は元々飛べないから、分からないなぁ」
「......」
なぜこいつがいるんだ?この、元勇者のアラン=カイバールよ。
「お前は別に魔法を使って飛べるだろ」
「温存しておけと言ったのは君だろ......」
だからって、俺と一緒に乗ることは無いだろ。
現在、《M.A》の施設。つまり、俺の腕があると思われる場所を目的地として、洞窟から出て反対方向へと飛行中だ。
洞窟から直接向かってもいいが、それだと経路を辿られ、拠点がバレることとなってしまう。
帰ることの出来る場所は必要だ。
ということで、相当な大回りをしているわけだ。
「なぁフレン。あとどのぐらいで着くんだ?」
「そうだな......フローリカに聞いてみないと分からないが、朝までには着くだろ」
「......そうか」
これはさすがに、そのままの意味での「朝まで」だろう。
それならまだ、警戒することは無いな。
あまり派手に動きすぎると、目的地に着く前に撃ち落とされてしまう可能性もあるからな。
まだ、《M.A》の技術力を知らない。
だから、どこまて出来るのかを試すのも、今回の作戦で見ることにした。
──────────
しばらく進み続けること数十分。
目的地の街が見えてきた。
プラスチックや金属が多いに使われており、全体的に白く仕上がった街並み。背の高いビルディングがいくつも立ち並んでおり、その屋上には緑も見える。
そして、道路を行き交う車。その上に敷かれたレールの上を走るリニアモーターカー。
これが、俺が産まれた時代から想像していたような近未来都市と言えるものだろう。
「急発展、ね......」
いくらなんでも、六年でこんなにも成長するとは思えない。
高度経済成長......とか、もはやそんなレベルでは無い。
これは進化だ。
今まで馬車しか知らないよな人類が、たったの六年でリニアモーターカーに乗っている......。
......もう考えるのはやめよう。頭が痛くなりそうだ。
「シルビオさん、見えました。おそらくあそこのビルに収容されています」
フローリカが指したのは、街の中でも特に目立つ、大きなビルディング。
あそこに俺の腕が......。
「物を隠すには向いてなさそうな、自己主張の激しいビ建物だな」
「ええ。そのおかげで、もはや要塞同然。無関係者に侵入された回数は、脅威の零回。シルビオさんの腕に至っては、《M.A》のメンバー、もちろん私ですらも、お目にかかれたことはありません」
そんなになのか。
そりゃあ厳重なこった。
なにせ、世界を破滅へと導いた左腕だからな。
出来れば破壊したかっただろうが、生憎それは不可能だったようだし。
......まぁ、腕だけとは言え元はあの風龍オーヴェイン。それに、付与に付与を重ね、魔王の力をありったけ詰め込んだ代物だ。
そう簡単に破壊できるほど、ヤワじゃない。
「早速、作戦を実行する。二手に別れろ!」
作戦通り、俺と魔物チーム。そして、アラン率いる左腕奪取チームに別れた。
「アラン。お前なら腕くらい持ってこられると信じているぞ」
「任せてくれ。必ず帰って来てやる」
そう言って、アランはフレンから降りて行った。
フレンはまだ上空にいるのだが、アランは俺の固有魔法をパクっているからな。
風魔法を利用して、地上にフワリと降り立った。
「......本当に奴は信用できるのか?」
と、フレンは俺に問う。
まぁ、疑うのも無理はない。
あんなにも本気で闘っていた敵が、今では心強い味方となっているからな。
「あぁ。あの時、あの闘いの最後に、アランは俺にフレンを託した。あれから気持ちが変わるなんてことはないだろう」
「しかし、あれから随分と時間が経っている。もしかしたらこのまま腕を持って行ってしまったり、私達を誘き寄せるための罠かもしれないぞ」
「まぁ、その時はその時だ全員で立ち向かえばいいさ」
「楽観的だな」
そうかもな。
だが、今の俺にはどうすることも出来ない。
もしアランが裏切るようであれば、敵に回して叩くまで。
それが例え、フローリカであろうと......フレンであろうと。
敵が誰であれ、俺は正面から立ち向かう。
どうせ一度は死んだ身だ。
やれる所まではやるつもりさ。
「だが、何としてでもリーネだけは助ける。誰が裏切って敵になろうとな」
「......そうか。やはり、勝てないな」
「......」
そろそろアラン達がビルに着いた頃だろうと思った時、ジーと言う音がした。
トランシーバーの音だ。
『こちらフローリカ。作戦ポイントへ到達。どうぞ』
「了解。アラン侵入後、『帰って来たけど追われてたフリ作戦』開始」
『了解』
『こちらアラン。準備完了、いつでも入れる』
「了解」
もう少し高度を下げれば、おそらく空上レーダーに引っかかっることだろう。
フローリカによると、レーダーは割と低空にあるようだ。
ルインズってのは、空を飛ぶとしても低い位置を飛ぶらしいからな。上はあまり警戒していないのだろう。
「派手にやろうか」
俺は、フレンに攻撃命令を出した。
するとフレンは、思いっきり大きな炎のブレスを、周りの街全体にお見舞した。
人ではなく、建物を狙って。
「な、なんだあれはァ!?」
「ルインズだァ!!ルインズが出たぞォ!!」
ワーキャーワーキャー、お祭り騒ぎだ。
逃げ回る人類、それを見て俺は、少し楽しい気分になってしまった。
もう一度生まれ変わったら俺、ドラゴンになりたい。
「おー、思っていたよりも来るのが早かったな」
ブンブンとハエのように飛び回る、人型の飛行物体。
《M.E.S.I.A.(メシア)》だ。
全部で3機......か。
おそらく、俺達はとっくにバレていたのだろう。しかし、あちらもあちらで様子を伺いながら、メシアだけでも予め出撃させていた......といった所か。
「フレン。蹴散らせ」
フレンは、再び火炎放射をする。
今度は、飛んでいるメシア共に向けてだ。
フレンの上に乗っているこっちでさえも、少し熱く感じるほどの熱量。
「そろそろか。フローリカ、聞こえるか?突入開始だ。アランは、自分のタイミングで頼む」
「はい」「了解」
よし......フローリカ達の方は完全に任せた。
後は、こっちでどれだけ敵さんの興味を引けるか。
そして時間を稼げるか......だな。
「フレン。俺をこっそり下へ降ろせるか?本当は先に降りておくつもりだったんだが......」
思っていたよりも随分と早いご到着だったからな、降りれる暇も無かった。
俺が乗っているままでは、フレンの自慢の機動力が活かせないからな。残念だが、今の俺は完全に戦力外。
もう少ししたら、俺の存在を明かすとしよう。
それまでは頼んだぞ、フレン。
「悪いな。それはちょっと、難しい頼みかもしれない」
「なに?うおッ!?」
突然、大きく揺れたフレン。
既に敵の攻撃は激しくなっており、俺を降ろすどころの話しでは無さそうだ。
「ならば仕方ない。そのための援護として、魔物を少し持って来たんだ。一瞬だけ地面に近づいてくれ」
「分かった」
フレンは、敵からの攻撃を上手くかわしながら、地面ギリギリを飛行した。
そのタイミングを見計らい、俺はフレンから地面へと飛び降りた。
「ぐっ!」
勢いよく地面を転がり、フィギュアスケートのようにグルグルと回った。
しかし、鎧が衝撃をある程度吸収してくれたことにより、死には至らなかったのが幸いだ。
しばらく勢いに乗って転がりまくり、気に激突して停止。
何とかスパイラルからは抜けられたようだ。
「がっは......危うく脳がバターになっちまう所たたな......」
と、まだ回っている目で辺りを見渡す。
ぼやぼやっとした視界が、いつも通りに戻ったところで気づいた。
なるほど、やはり俺は森へ落ちたようだ。
頭上では未だに、フレン達魔物部隊がメシアと交戦中だ。
「役に立てないというのは、何だか寂しいな......」
まぁ、仕方ない......と思うしかないが。
今の俺に出来ることと言えば、邪魔にならないように隠れることぐらいだ。
「......ッ!?」
突如、背後から気配を感じ、咄嗟だったが何とかかわした。
何かを。
何かが飛んできたようだが、見えなかった。それほどの速度。
もう一度振り向き、俺を狙って来た物を確認する。
「ほう、今の攻撃を避けるとは......貴様。只者ではないな」
空中を浮遊する人型の物体。
鉄の翼を生やし、鉄の鎧を纏った男。
なるほど、こいつが《M.E.S.I.A.(メシア)》か。
「我が名は針龍 弦雷。貴様、こんな場所で何をしている?」
「それを聞くなら攻撃する前にしてくれよ......まぁ、ここに入った奴は全員殺せとでも言われているんだろうけど」
「ご明察。だが、残念ながら今回はあのルインズから降りた貴様を見つけたまで。それに、殺そうとはしていない。峰打ちだ」
それでもあの速度で喰らえば、タダでは済まなかっただろう......。
しかしそうか、見られていたのか。これもまた失態だな。
「何をしている?......と聞いたな。答えてやろう。忘れ物を取りに来たんだ」
「忘れ物......?こんな所にか?そんな鎧を着て」
「そうだとも。だから、どうか見逃して欲しい」
「それは叶わぬ願いだ。大人しく捕まるか、ここで散るか。選べ」
男は、片手に持った刀の先を俺に向けてくる。
刀......日本刀......。
こいつの態度と言い、これは少し手強そうだ。
雑魚なら相手をしてやったが、別に倒すことが目的ではない。
下手に闘って、捕まりでもすれば今までの苦労が水の泡だ。
ここは......逃げるのが得策だ。
「なっ、逃げるなッ!」
俺は走り出した。
ガチャガチャと鎧が音を鳴らし、ドスンドスンと地面を踏みつける。
これ......走りにくいな。
「拍子抜けだな」
「ッ!?」
い、いつの間に......!?
気づけばすぐ真隣に。
そりゃあそうか、こんなに遅く走っていたら、空を飛んでいる奴なんて簡単に追いつける。
「何をしたかったのかは知らんが、これで終わりだ」
「マオウサマッ!!」
突然、視界から消えたメシア。
その原因は、声の主である魔物のお陰だ。
「ありがとう。助かった」
「いえ、これがオレタチのヤクワリですから。さ、セナカへ!」
狼型の魔物。
しかし俺よりも遥かに大きく、背中に乗れるくらいだ。
そしてそれを利用し、俺は背中に乗って走ってもらった。
うむ。全然こっちの方が早いな。
「まぁ、それくらいで倒れるようじゃあルインズは倒せないよな」
「ッ!?」
また、並列していた。
クソッ、こいつ速すぎる。
このままでは振り切れない。
「針龍流、壱の型......」
「ぐッ、ファイア!!」
ボゥッと、炎の塊を片手から放つ。
真横で並走してくれていたので、距離は近い。
さすがにこの距離、当たっただろう。
まぁ、当たって無かったとしても今のは危なかったから、技を阻止できただけ良しとするか。
なんか刀の柄に手をかざして、抜刀の構えをしていたからな。
絶対一撃必殺技だろ、あれ。
「針龍流......」
「なにッ!?」
う、後ろ......だと!?
間に合わない。
そんな、まさか体を捻ったりしてかわした......のか?
なんという反射神経......なんという機動力......こいつ、エリートか。
「壱の型、閃!!」
まずい......これは!
「シルビオォオオ!!」
ガイィインと、金属と金属のぶつかる音。
普通なら刀と刀がぶつかるような際に聞こえる音だが、今回は違う。
フレンの翼が、敵の刀を防いでくれたのだ。
「フレン!?」
「乗れ!」
言われるがまま、背中に乗る。
ナイスタイミングだな、これは素直に助かった。
クソ......今回は助けられてばかりだな。情けない。
「他の奴らは倒したのか?」
「いいや、まだだ。だが、シルビオが危険だと思ったから......つい」
「......ありがとう。よし、そろそろフローリカ達も俺の腕を見つけてくれた頃だろう」
今どこにいるのか想像もつかないが、これ以上時間を稼げる気がしない。
今はアランを信じて、俺の存在を世に知らしめるとしようか。
「おいお前ら!よく聞け!」
俺の存在。
そう、魔王シルビオの存在を知らしめることが、この計画において最も重要なことだ。
だから俺は、自らを明かす。
俺の名を......シルビオ=オルナレンの名を轟かす。
「俺の名前は、シルビオ。魔王シルビオだ!!!」
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