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計画

「俺が立てた作戦は、シルビオ。君を助ける所までだ。だから次は、君が作戦を立ててくれ」

「ん?あぁ、構わないが......良いのか?他人の犠牲を惜しまないような男だぞ」


自分で言うのもなんだがな。


「そんなこと、俺も同じようなものだ。勇者パーティーの仲間たちを守りきれず、カルラを犠牲にしてもアードルフは止められなかった。君の仲間だ」


君について行くと決めたのは俺だ、だから君に任せる。

と、アランはそう付け足した。


「だが、問題はアードルフだけでは無い。君も気づいているだろうが、アードルフを倒した後でも、魔物の恐怖がある」


人類と魔物という二種により、再び戦争が起きる。

アードルフはそれを武力によって解決しようとした。

リーネという強大な力を使って、魔物を......人類までも制圧しようとした。


「それなら、良い考えがある。俺がずっと、温めてきた計画がな」

「......?」


大衆を納得させ、真の平和を気づくための計画だ。

もう、これしか方法は無い。



──────────


「フローリカ、俺の固有魔法......スキルは世間に公表されているか?」

「いえ。《M.A》内ではもちろん公表されていますが、世間までは広がっていません。そもそもあなたの存在自体が極秘のものなので、何も情報は知らされていないかと」

「《M.A?》」

「メシアアドミニストレータ。メシアを管理する機関です。言ってませんでしたっけ?」

「あー......まぁいいか。デマを流す」

「デマを?」

「そうだ」


嘘の情報。

平和を築くにも、時には嘘というものが必要になる。

上手く騙せるといいが。


「まぁ、それはまだまだ後の話だ。それよりも先に優先すべきことがある」

「ほう?それは何かな?」

アランは少し嬉しそうに聞いてくる。

ふん、分かっているくせに。


「決まっている。俺の左腕を取りに行く」


その言葉を聞き、この場にいた全員に笑顔が浮かんだ。

活気が取り戻ったような気もする。

不思議な話だ。左腕を取りに行くと言っただけで、明るくなるとは実に変だ。

しかし、それは俺のことを知っているからこその反応。

シルビオが、オーヴェインの左腕を取りに行く。

つまりそれは、魔王の復活をも意味する。


「マオウサマ、これを」

「ん?」


こ、これは......!

黒く光る金属。

まるで新品同様......とまでは言えなかったが、しかし俺が最後に身につけていた頃よりは見違えるほど修復されている。


「鎧......か、懐かしいな」

「ミナでブヒンをアツめ、フタタびツクりアげました」


本当に......魔物というのはどこまでも気が利く......いや、魔王想いなのだな。

違うな、それも違う。仲間想いなのだ。

俺一人を助けるためだけにも、今までどれほどの犠牲を払って来てまで、探してくれたのか。

もしかしたら、人類よりも魔物の方が良い生き物なのかもしれないな。


「ありがとう。着させてもらおう」


黒い鎧。

それは、俺が魔王になった際に着た物。

魔王の象徴なのだ。


「よし。それでは、早速左腕を取り返しに向かう」

「左腕なら、《M.A》が管理している施設に閉じ込められています。当たり前ですが、あそこの監視はそこら辺のとは比じゃないありません」

「だが、俺もアランも助け出したんだ。密かに取りに行く計画も考えていたんじゃないのか?」

「それは......」


......あれ。

考えて無かったのか。ま、まぁいいか。


「俺とシルビオが居なくなったのも、とっくにバレているだろう。なら、左腕の監視も大幅に強化されるのは必然。隠密行動など不可能だ」

「それに、敵があのヴィオレッタさん達となると......厳しいです」

「ふん。何を恐れている?」


俺は鎧を着る。

懐かしいこの感じ。自分を偽るような、自分に言い聞かせるようなこの気分。

それが、むしろ今は心地良い。


「俺は魔王シルビオで、隣にいるのは勇者アラン。そして部隊には最強の魔物軍団と可愛いフローリカだぞ?」

「か、かわっ......!?」

「俺達に出来ないことは無い」

「そうだな......確かに君の言う通りだ」


そうだろう?

何を怯えているのだ。

俺達に不可能など無い。無敵だ。

ならば無敵らしく、堂々と行けばいい。


「敵が隠密を警戒しているなら、その裏をかけばいいだろう」

「裏?」

「正面突破だ」



──────────



表から堂々と行く。

それが、俺の選んだ策だ。

これだけの力を持っているのなら、使うが吉。

それに、魔王シルビオが復活したことを、人類に知らしめなければならない。


「しかし、良いのか?全人類を敵に回すことになるぞ。敵は《M.A》だけでは無い。軍だってあるんだ」

「関係ない。むしろ、この計画には俺を......シルビオを世に知れ渡らせる必要がある。《大破滅(カタストロフィ)》を起こしたのは、この(シルビオ)だとな」


故に、大胆不敵に突撃するという事だ。

まぁ、俺とて何も考え無しに突撃と言っている訳では無い。

まずは俺とフレン、そしてアランとフローリカを基盤として動かす。


「問題は、その施設とやらのどこに腕があるか......だ。フローリカ、行けるか?」

「私も指名手配されているでしょうが、敢えて捕まり、中を調べることは出来るかもしれません。いきなり殺処分は無いでしょうし」

「いいや、まだお前は助かる。設定は、俺......シルビオに暴れられ、捕らえられてしまったと言えばいい」

「し、しかし......それでは信じて貰えません」

「そうか。なら、一つ土産を渡してやる。『ルインズの正体は魔物だった』と言え」


これは、衝撃的事実だ。

しかし、あちらにとっては有益な情報。

フローリカが命からがら持って来た情報ならば、少しは信じても貰えるだろう。


「ただ、それなりの罰は与えられるだろうが......」

「構いません。例え拷問されたとしても、私は本当のことを言いませんし、捕われの身だったと言い張ります」

「......心強いな。だが無茶はするなよ。その後もあちらで、いつも通り行動していて貰いたい」


俺やアランなら、有無を言わせず殺されるだろうが。

まぁ、フローリカも安全だとは言いきれないが、いざとなれば俺が何とかしよう。


「フローリカ、お前を兄のように死なせはしない。必ず俺が守ってやる。だが、今はすまない......お前はこちらには居させられない」

「構いません。私は、世の中が平和になれば何でもいいですから」


......フローリカ。

ありがとう。


「よし、作戦を説明する。まずはフレン、お前には暴れ回ってもらう。敵の注意を全て引きつけろ」

「まかせろ」

「他の魔物はフレンの援護だ。奴らがルインズを殺した所をこの目で見た。奴らにはその力がある。何としてでもフレンを守れ」


それと、どうしようもなくなったら逃げろ。と、強く言い聞かせた。

作戦遂行よりも生き残ることが最優先だ。


「その隙に侵入したフローリカには、無線機を使ってもらう。あるだろ?」

「な......まぁ、それくらいなら」

「その無線機を使って、状況報告だ。スキルを使えば、それくらいの時間は稼げるだろう。あと問題なのは侵入くらいだな。アランの時は、グィルが壁を壊せたが......あれは威力の問題か?」

「あの施設は、内側を強化していました。当時はアランさんぐらいしか恐れることは無かったのです。ルインズは施設を狙っては来ませんし、外側よりも内側に重点を置いたのでしょう」


なるほどな。

で、今回は外側を強化している......と。

まぁ、腕が独りでに暴れたりはしないだろうからな。

警戒するなら外側だ。

正面から行くとは言え、馬鹿正直に玄関から入っているようじゃ、簡単に追い払われてしまう。

侵入するなら、壁を壊して直接入りたいところだが。


「さすがのグィルさんも......もちろんルインズでさえも、おそらくあの壁を壊すことは出来ないでしょう」

「そんなに硬いのか?」

「はい。それに、あの壁には特殊な物資が使われているのです」

「特殊な物質......?」

「あぁそうだ。俺が施設から脱出出来なかったのはそのせいだ」


と、アランが言った。

考えてみればそうだ。あの勇者アランが、数十人や数百人ごときを相手に、逃げられないわけが無い。

いくら硬かろうが、あんな壁ぐらい簡単に破壊できるはずだ。

しかし、それは出来なかった。


「魔力を打ち消す物質。それによって、俺は一切の魔法を使えなかった」

「ッ!?魔力を......打ち消す!?」

「そう、『エイレネ』。君もよく知っている物だ」

「馬鹿なッ!エイレネはあの時、破壊されたはずだ!」


最後の戦闘で、リーネによって......銃で撃たれて破壊されたはずだ。

それは、身につけていた俺が一番よく知っている。

この目で、その様を見ていたのだから。


「まぁ、本当に『エイレネ』かどうかは分からないがな。効力が全く同じなんだ。だから、少なくとも『エイレネ』から何かしらの効果は受けていると思う」


なんだよ焦らせやがって......。

だが、もしかしたらの話しだとしても笑えんな。

もしそれで本当に『エイレネ』が使われていたとすれば、魔力が使えないのは相当な痛手だ。

向こう側は重機があるから、特に影響は無いだろうが、こっちとしては魔法だけが頼りなんだ。

『エイレネ』じゃないにしろ、似たような効果なら、同じく痛手だ。


「いやしかし、前回のグィルの攻撃も魔法を使っていたと思うが?」

「効果があったのは内側のみのようだ。外からの魔力は打ち消せない」


......なるほどな。

アランの時は、外側からグィルが壊し、効力を失ったというわけか。


「やはり今回は内側から侵入して、破壊するしか無さそうだ。フレンが引き付けている間に、フローリカを侵入させる。後に続いてアランも入れ」

「俺がか?それなら、君が入ってさっさとくっつけた方が良いと思うが」


確かにそれも悪くは無い。

アランは顔バレしているし、既に俺と同じ指名手配。

だが、今は俺よりも戦闘能力が高い。


「今の俺は、魔力の欠けらも無い。固有魔法で手助けすることくらいしか出来ない。だから、アラン。お前なら一人でも施設を攻略出来るだろう」

「随分と俺を高評価してくれているようだが。君の期待に応えられるかどうか」

「なら、グィルを付ける。それと少し魔物も持って行け。小規模部隊だ」

「分かった。やってみる」

「だが、内側からだとしても、誰が破壊するんだ?フローリカだけじゃ破壊出来ないだろ」


まぁ、確かにな。

さすがのアランでも、大量の人を相手に闘うことは出来ないだろう。

場所は、相手の陣地内だ。

数で負けるし、どんなトラップがあるのかも分からない。

だから、フローリカにスパイをしてもらうわけだが。

フローリカの固有魔法では、壁を破壊することが出来ない。そう言いたいのだろう。


「強化壁くらい、爆弾で壊せる」

「なっ!?爆弾なんて、一体どこに......」


と、そこでアランは気づいたようだ。

そう、一つだけある。

魔力を使わなくても爆発してくれる爆弾が。

そこら辺の石っころでさえも、小さな爆弾に変えてしまうような方法が。


「付与魔法か」

「そういうことだ」


付与魔法。

俺の固有魔法にして、最強の強化魔法だ。

魔力が必要なのは、付与する時だけだ。

なら、爆破属性を予め付与しておけば......。


「衝撃を受けて爆発する爆弾が作れる......のか」

「そう、だがそれを律儀に壁へ貼り付けている時間はない。ならばフローリカに持たせ、中から爆破してもらう」


そして、アラン達も侵入するわけだ。

後は俺が、腕の奪取と同時に、堂々と姿を現すだけだな。

俺が現れれば、《M.A》の連中も黙っていられまい。

全てのヘイトは俺に集まることだろう。


「逃走手段は?」

「そうだな......ド派手なやつを用意しよう」


大衆の目につくような、カッコイイものをな。


「大まかな流れは以上だ。何か質問は?」

「出発はいつなんだ?」

「そうだな......フレン。後どれくらいでその身体は完成するんだ?」

「一日もかからない」

「そうか。なら、完成次第すぐに出発する」

「なッ!?」


嘘だろ?

と、全員が驚いたような顔をする。

当たり前だ。今でなくて、いつ行くと言うのだ。


「これからここを拠点とするが、この場所がバレるのも時間の問題だ。ここだけではなく、女の子達がどこへ隠れようが、必ず見つかる。なら、見つかるよりも先に動かねばなるまい」

「だからって、いくらなんでも早すぎる......君は本当は、自分の腕を早く取り返したいだけなのではないか?」


ふん。なにを言い出すかと思えば、そんなことか。

確かに、腕をが無いのは心配だが......。


「そんなことは無いな。なんなら、腕くらいお前にくれてやってもいいぞ、アラン」

「......分かった。腕は君以外使いこなせない。今は君を信じよう」

「ありがとう」


細かい指揮は、現場でやることにした。

いつどこで、どんな風に盗聴されているか分からないからな。

腕は、なんとしてでも取り返したいものだ。

だからこそ、冷静に作戦を練らなければならない。


「今のうちに、各々準備をしておけ」


もしここで失敗し、捕まるようなことがあれば、今度こそチャンスは無い。

失敗は許されない。

命懸けの計画だ。


──────────


「おい」


やることも無く、一人で静かに空を見上げていた。外は既に暗く、もう夜になっていた。

するとそこへ、背後から声がした。


「フレンか」


振り向くと、そこにはもう少女の姿は無い。

真っ黒で、まるで鎧のような体。

グリフォンの形をしてはいるが、体中に棘が生えている。

もはや、動物というよりはロボットのようだった。


「完成......したのか?」

「あぁ」

「もう、元の姿に戻ることは......出来ないのか?」

「......あぁ」

「そうか......今の姿の方がかっこいいぞ」

「ふっ、お世辞が下手だな」


ま、まぁな。

あまり人を褒め慣れていないものでね。


「その......魔物というのは、魔物同士で合体出来るのか?」

「いいや。これは魔力を使った、一つの手段に過ぎない。お前ら人類だって、魔力を使えばこれぐらい出来ると思うが」

「おいおい、俺はもう人類じゃあないぜ」

「あぁ、そうだったな」


ふふっ。と、俺達は二人で笑った。


「なら、お前と合体した魔物達の分まで、闘ってやらないとな」

「あぁ、そうだな......」


フレンは、悲し気な表情を浮かべる。

グリフォンなので、正確には読み取れないが、声のトーンからして元気では無いことは分かる。

仲間命を犠牲にして得た力。

元はと言えば俺のせいなのだが、俺にはその命を取り戻す力がない。

だから今は、前を向いてそう言うしかないのだ。


「なぁシルビオ。お前は初めに、人類と魔物を仲直りさせると言った。それが、今になって叶う時が来るとはな」

「遅かったか」

「いいや。まさか叶うとは思わなかった。いつだって、誰だってそんなことを思い......願い......そして叶えようとしてきた。しかし、叶えられたのはお前だけだ」

「まだだ、まだ叶えてなどいない。これからだ」

「......そうか」


しばらくの沈黙。

久しぶりに会ったせいか、話があまり弾まない。

いや、今まで弾んだ話などあったっけか?

どんなこと話してたっけ......?


「シルビオ......あのな私............私は......」

「......?」

「お前のことが......」

「フレン、俺の勘違いだったらすまないが、お前の気持ちには応えられない......」

「......ッ!」


お前のことが......に続く言葉なんて、決まっている。

だが、俺は応えられない。

応えることが出来ない。

もちろん、フレンのことは俺の好きだ。だが、それは他の人にも言えることだ。

俺にはリーネがいる。なんて、そんなことは関係ない。

ただ、俺のことはもう忘れて欲しいだけなんだ。

この闘いが終わったら......俺は............。


「見た目の問題じゃない。中身でも無い。俺の問題だ。だからすまない......フレン」

「ふんっ。お前、何か勘違いをしていないか?私は、お前のことを見直したと言おうとしたんだ。勘違いにも程があるな!」

「......そうか。それはすまなかった」

「まったくだ」


プイッと、そっぽを向いてしまうフレン。

しかしその目には、少し涙が浮かんでいたところを、俺は見てしまった。


「必ず帰って来い。シルビオ」

「おいおい、まだそれを言うのは早いぞ。まるで俺が死にに行くみたいじゃないか」


まだ左腕も取り返していないってのに。


「ありがとうな、フレン。俺を探そうと......助けようとしてれて」

「当然だ。お前は私の、魔王様だからな」


そう言うとフレンは、重たそうな翼を羽ばたかせ、空へ飛び上がった。


「私は準備万端だ。さっさと取りに行くぞ!左腕!」

「あぁ、もちろんだ!」


俺は洞窟内へと戻り、全員に指示をした。

これから、長きに渡った計画を再始動する。


「さぁ、作戦開始だッ!」

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