絶対
「久しぶりだな。シルビオ」
アラン。
アラン=カイバール。勇者にして最強の男。
かつての俺の宿敵。
「アラン......」
「シルビオォオオオ!!!」
突然、拳が飛んで来た。
それは男の頬に当たり、痛みを感じる。
久しぶりの痛みだ。
胸の痛みではなく、実際の痛み。
「リーネを守ると言ったじゃないか!!何をやっているんだァ!!」
そう言って、アランは俺を殴る。
強く、意志のこもった拳で。
何度も何度も殴ってくる。
俺は抵抗せず、それを全て受け入れた。
殴られれば殴られるまま、痛みを受け入れた。
「はァ、はァ、はァ......君のせいで、どれだけの人が死んだことか。どれだけの人が悲しんだことか」
「......」
「分かっているのか!!」
「分かっている!......つもりだ」
腫れた頬を抑え、アランに向き直る。
分かっているだそんなことは。
自分自身の犯した罪は、償おうと思っている。
「......だが、俺もアードルフを逃した......だから、お前も俺を殴れ」
「なに?」
「君を勝手に殴ったことを謝りたい。......すまない、感情が高ぶってしまった。だが、本音だ。そして、俺も俺自身が許せない。だからお前が殴れ」
「......」
そう言われて、俺は右手に拳をつくる。
先程殴られたお返しではなく、アードルフを取り逃し、自分を許せないというアランのために。
殴った。
「......これで、お相子になるか?」
「どうだろうな。アードルフを逃したと言ったな?それはどういうことだ。まだ生きているということか?」
「そうだ。あの時俺は......アードルフに負けて捕まってしまったのだ......本当に、すまない」
アードルフが生きている......か。
なるほどな。
だからリーネは、自らを封印したというわけか。
「アードルフはまだリーネを狙っている。リーネの封印が解ければ、すぐにでも......」
「あぁ、だろうな。そのリーネは今どこに?」
「......アードルフの所に」
だよな。
そんなことだろうと思っていた。
「なら、殺り合うのはリーネを助けてからだな」
「もちろんそのつもりだ。リーネを助ける。そのために俺は、君を助けたんだ」
「助けた?」
「はい。シルビオさんを助けるために、アランさんが計画を立てたのですよ」
アランが?
「君が生きていると知って、黙って見ているわけにはいかないだろう?君と同じさ。利用できるものは利用する」
「けっ、もはや勇者の台詞ではないな」
「そうだな。俺はもう既に、勇者ではない」
お互いに、失ったものは多いようだ。
俺は魔王という地位を失い、アランは勇者という称号を失った。
失っていないものと言えば、自らの身体ぐらいだ。
まぁ、俺は左腕が無いが。
「そう言えば、なぜ奴は俺とお前を殺さなかったんだ?」
不思議な話だ。
アランは、起きているし俺を殴るほど元気だとは言え、捕まっている状態だ。
こんな所でよく計画なんぞ立てられたなと感心するほどに。
俺に至っては眠っていたのだ。
殺せないわけがない。
「君は風によって守られていたらしいからな。殺そうにも殺せなかったんだ。それで、左腕を何とか切断出来たと思えば、今度は目覚めちゃったってわけだ」
なるほど。
目覚めなければ殺されていたのか。
「じゃあお前は?」
「俺は利用しようとしたんだと思う。 《破滅獣》を殺させるために」
「ルインズ?あぁ、あの化け物か。あれは一体何なんだ?魔物じゃないだろ?」
「あぁ。正直、俺にも分からない。リーネがあんな状態になってからというもの、魔物の出現率が激減してしまった」
「代わりに現れたのが《破滅獣》というわけです」
《破滅獣》......か。
俺の覚醒によって生まれたか、または現れたのか分からないが、俺のせいだと考えるのが自然。
だが、どうしても何か引っかかることがある。
あの時、目が合ったように感じたのは気のせい......だったのか?
本当に、魔物はもういなくなってしまったのだろうか。
「それにしても、何だか変な感じだな。まさか俺とお前が協力するとは」
「リーネを助けることは、俺にとっても世界にとっても良いことだ。アードルフさえ倒せば、間違った平和は起こらない」
だが、真の平和も起こらない。
アランは、そう付け足した。
「平和とは、争いの起きない世の中である。ならば、アードルフを倒したとしても《破滅獣》という第二の魔物がいる限り、平和は訪れない。魔物ならまだ、君の言うことを聞いたかもしれなかったが......」
「その事なんだが、何か気になるとは思わないか?」
「......?」
アランとフローリカは、顔を見合わせて首を傾げる。
俺からの意見があるとは思わなかったのだろう。
「あれだけいた魔物が、突然消え去るとは思えない。まぁ、人だって俺が消してしまったわけだが、残っている人だっているのに、魔物だけ消滅しただなんておかしいとは思わないか?」
「まぁ、それはそうだが」
「そして、入れ替わるように現れた《破滅獣》。奴らはなぜここに現れ、どこへ向かっている?」
「それが分かれば苦労は......いや待てよ。《破滅獣》はこの街にしか現れたことは無い。そして、人類にしか興味が無い......」
「この街にしか現れたことが無いのであれば、目的は明白だ。唯一、この近くに凄いものが隠されているだろう?」
「......!まさか!?」
「そう───────」
と、言いかけたところでドンッと音がし、扉が勢いよく開かれた。
アランを閉じ込めていた、この部屋の扉だ。
「そこまでだ」
銃弾も通さなそうな分厚い服装。
特殊部隊しか持っていないような、ゴツイ銃。
そう言えばここ、独房だったな。
「ごめんなさいアランさん......カメラには映っていないはずなんだけれど......」
「音声が入ってたんだよねぇ、お嬢ちゃん。残念でした」
と、品の悪そうな隊長っぽい奴が言った。
音声のハッキングを忘れるだなんてミスするか?
......って、ここの元はファンタジー世界。
ハッキングが出来るだけ凄いことか。
「問題無い、おかげで時間は稼げた。後はここを出るだけだ。シルビオ!」
「なんだ」
「君と一緒なら、俺達にできないことは無い。そうは思わないか?」
自信ありげなアラン。
確かに俺は元魔王、アランは元勇者で、最強コンビもしれないが。
「残念ながら俺の左腕は行方不明。固有魔法は使い物にならないし、俺は闘えない」
「なるほど。状況は絶望的だな」
全くその通りだ。
早くこの場から逃げているべきだった......。
絶体絶命。
そう思った時だった。
突然、背後の壁が壊れた......いや、破壊された。
「ッ!?」
「な、何だ!?」
「馬鹿なッ!!この建物は超硬度の魔法石で造られたものだぞォ!?」
「マホウセキ?ただのイシころとナニもカわりませんが」
まさか......そんな......嘘だろ。
目を疑った。
破壊された壁の向こうで佇むその姿。
信じられない光景だった。
「グィル!」
「おマたせしました、マオウサマ。このヒを、どれだけマチノゾんだことか......」
「魔王だと!?貴様まさか!シルビオ=オルナレンかッ!?」
随分と俺も有名になったようだな。
まぁ、今は喜んでいる場合ではない。
むしろ、逃走がバレてしまったことを残念に思うべきだな。
「そろそろヴィオレッタさん達も気付いている頃です。早くこの場を離れましょう」
「そうだな。グィル、任せた」
「おマカせを」
グィルの炎魔法により、目の前にいた部隊は全滅。
跡形も無く、一瞬で消え去った。
こうして見ると、恐ろしいな。魔物の力は。
「む。そこにいるのは、ユウシャ!?」
「あぁ、アランはもう仲間だ。攻撃するな」
「なに?君が俺の仲間になったと思っていたのだが......まぁいいか。魔王の仲間ね......悪くない」
「元魔王だがな」
「さ、ここから離れましょう。グィルさん......でしたか?どこか良い隠れ場所はありますか?」
「それならありますよ。とっておきのバショが」
グィルに着いて行った。
それは、深い深い森の奥。
街から相当な距離が離れていた。
「ここは......?」
「イきノコりタチのたまりバです」
生き残り......?
森のさらに奥深くには、小さな洞窟があった。
俺達は、恐る恐る中に入る。
すると、中は意外と広く、住もうと思えば住んでしまえそうな場所だった。
「マオウサマのごキカンです」
「マ、マオウサマ!?」「なんだって!!?」
「イきておられたのですかッ!!」
と、沢山の声が聞こえた。
その光景はあまりにも懐かしく、愛おしいものだった。
「お前ら......生きていたのか!!」
魔物。
俺の配下に仕えてくれた者達の集まりだった。
「まさか、生き残りがいたとは......」
「なっ!?ユ、ユウシャ!?」
「心配するな。今はもう仲間だ」
それにしても、よくぞ生きていてくれた......俺は、仲間までも殺してしまったかと......。
「すまなかった......随分と長い時間、待たせたな」
「いえ......イマサラ、ミつけたワレワレのホウこそ、モウしワケありません」
「見つけた?どうやって?」
「スコしマエに......アいましたよね?オオきなクロいマモノに」
黒い魔物......まさか、ルインズのことか!?
「ルインズ......の正体は......お前らだったのか?」
「ジンルイにはそうヨばれているそうですね。そうです。あれはワレワレのシュウゴウタイ。アタラしいマモノのカタチです」
集合体......?新しい形?
つまり、あれは魔物が集合したものだと言うのか?
「こちらへ」
案内されるがまま、俺達は洞窟のさらに奥へと向かった。
するとそこにも、また信じられない光景が広がっていた。
巨大な黒い体......ルインズ。
しかしその身体は、所々が欠けており、怪我をしている。
と言うよりは、作り途中......と言ったところだろう。
そこへ数々の魔物達が、飛び込み、欠けた場所を埋めている。
「お、おい!」
「マオウサマ......?」
「マオウサマだ!!」
「よかったぁ、よくぞごブジで......」
魔物達は、俺に気付くとすぐに駆けつけてくれた。
「シルビオ......か」
作りかけのルインズから、声がした。
そんな......おいまさか......嘘だろ?頼む、嘘だと言ってくれ!!
「フレン......なのか......?」
「久しぶりだな......シルビオ。なんだ、生きていた......のか」
────────!!!
フレン......!!
「何やってんだァ!お前!!」
真っ黒なグリフォン。
しかしその姿は、俺が知っている時のものよりも数段大きいが、体は崩壊寸前。
まるで作りかけのパズルのように、欠けていた。
「はは......何って、これから集合体になるんだよ......この方が、魔物の形として、は、強い......から」
「バカやろう......」
そんな姿になってまで......一体、何をしてんだ。
「お前を探すのに、どれだけ時間がかかった......ことか」
「おい、もういいだろ?さっさとやめろよ。元の姿に戻れよ!」
「残念ながらそれは......出来ない。もうこれが、私の姿。完成するまでは動けない......」
そん......な。
フレン......お前、俺のために......。
「すまなかい......本当に......すまなかった」
「いいんだシルビオ......私は別に、死ぬわけじゃないしな」
フレンはそんなことを言う。
だが、俺は自分が許せない。
何を今まで、呑気に眠ってなどいたんだ。
フレンや他の魔物達に、こんな姿にまでなってもらい、何がリーネを助けるだ。
自分勝手にも程がある。
「必ずだ。必ず、平和を作り上げてみせる」
「必ずなんて、リーネの時にも聞いた」
「ッ!......あぁ。そうだったな」
「『絶対に』と言え」
「......」
リーネを助けて、平和を作り上げる。
「絶対にだ!」




