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魔物の森

「ふぁあぁ」

「おはようございます。シルビオ様」


......まだ慣れないな。

家の構造も大体分かってきたが、やはり朝起きた際に誰かがいるという状況には違和感を覚えてしまう。


「シルビオ様、お話がございます」


昨夜は、リーネのことをあまり話さずに眠ってしまった。疲れていたし、そんな重要な事だと思わなかったからだ。だが、さすがに今日は話しておくか。

軽く着替えを済ませ、食卓の椅子に腰掛けて話を始めた。


「あの子は奴隷。昨日帰りに買って来たんだけど、弱ってるから俺が養うことにした」


ヴィオレッタは訳が分からないといった様子で、疑問を浮かべている表情だ。


「言われた通り、体を洗って新しい服をご用意しましたが、急にどうしたのでしょうか?私達だけではご不満でしたか?」

「いや、そんな事は無いよ。まぁ、色々あったんだ」

「......そうですか」


ヴィオレッタは無駄だと悟ったのか、それ以上は聞いてこなかった。

しかしその代わり、寄り道するなら伝えて欲しいと言われた。どう伝えろと言うのだ。携帯電話も無いのに。


「あぁ、あとリーネって名前だ。俺は奴隷扱いはしないつもりだから、お前らもよろしく頼む。俺の、そうだな......妹みたいなものだと思ってくれ」

「妹さん......ですか、分かりました。くれぐれも気を付けます」


頼もしいメイドだ。優秀だな。

そんな優秀なメイド達に、リーネの教育をお願いしたい。奴隷ではなく、普通の女の子として優秀な人にしてあげたいのだ。ならばメイドとして家事などを学んでもらった方が良いだろう。

俺は、ちょうど着替えて部屋に入って来たリーネに、相談を持ちかけた。


「あっ、ご、ご主人......様」

「俺はシルビオ。シルビオさんでもシルビオ君でもシルビオでも、何とでも呼べ。それでどうだ?ここでメイドとして働かないか?」

「めいど?」

「あぁ、そこの人達と同じ仕事だ」

「仕事......分かりました」


これは、恐らくリーネの意思ではない。奴隷として、主人の言うことを聞いただけだ。

......まだ時間がかかりそうだな。リーネから奴隷意識を無くして、普通の女の子として生きられるようにしてあげたい。

リーネは、これでも俺と二つか三つ程しか歳は変わらない。魔法を使うのに必要となる原料、魔力の強さも優秀だ。訓練すれば、(シルビオ)と共にタッグを組んで最強を目指せるかもしれないほどに。いや、俺では足を引っ張ってしまうか。


「ヴィオレッタ、とりあえずリーネに仕事を教えてやってくれ」

「......本当に、私達と同じ扱いで宜しいのですか?」

「もちろん。リーネは優秀だぞ」

「......分かりました。できる限り努めさせてもらいます」


メイド達なら大丈夫だろう。きっとリーネを立派に育て上げてくれる。

だが、俺が勝手に連れてきたのに、メイドにばかり任せるというのはさすがに自分勝手すぎるか......あまり面倒をかけさせないようにしないとな。


「それじゃあ、行ってくる」


支度をすませ、俺は家を出ようとした。

ふとリーネの方に目をやると、なんだか心配そうな目でこちらを見つめている。

それもそうか。いきなり知らない場所で、知らない人に、知らないことを教えてもらうなんて、不安でたまらないだろうな。

主人である俺すらも行ってしまうのだから、もう頼れるものがない。


「リーネ」


俺は、リーネに歩み寄った。

そしてポケットから飴玉を取り出す。この世界での飴は、割と高値が付く。ので、学園で仲良くなったあかつきに配ってやろうかと思っていたのだが。


「これをやる」


リーネに渡した。

子供というのは、だいたいが飴ちゃんで釣れる。と、思っているのは俺だけなのかもしれないが、嬉しくない子供はそうそういないだろう。

最初は何かと不思議そうに見ていたが、すぐにニコリとして「ありがとうございます」と言ってくれた。まだそれが何なのか分かっていないようだ。


「それは食べ物だ。袋を開けて、中身を食べるんだが......すまない。ヴィオレッタ、頼んだ」

「かしこまりました」


メイド達は「奴隷に......?」「そんな簡単にあげて......」と少しザワめいたが、まぁこれもそのうち無くなるだろう。


「行ってらっしゃいませ」


メイド達とリーネに見送られて、学園へと向かった。

今度は行きも歩きで通うことにした。

他にも貴族がいるとはいえ、馬車での通学はさすがに目立つからな。

少しでも貴族っぽさを無くせば、みんなももっと気軽に接せるようになるかもしれない。


「おはよう」


と、俺は突然、後ろから肩を叩かれた。

振り返るとそこには、男がいた。とても身に覚えのある姿。忘れもしない、自分のもう一つの姿。

主人公のアランだ。

俺は驚いて、少し固まってしまった。まさかアランの方から来るとは、予想していなかったのだ。

俺はまだ、少なくともアランの前では、何もしていない。やらかしていないはずだ。

それなのにアランがわざわざ、この登校という状況で話しかけてくるということは、何かしらの用があるのだろう。知らない人に、いきなり話しかけて来るとは思えない。

ゲームでは、アランの入学当日にシルビオと対立した。シルビオが女子生徒を奴隷のように扱っていたからだ。

しかし、それは俺がシルビオとして阻止することによって防がれた。阻止というか、女の子を扱わなかっただけだが。

その代わりにアランとの対立は無くなり、アランと関係を持つという事象が無くなったのだ。

と、そう思っていたのだが......どうやら避けることは出来なかったらしい。


「君はシルビオ=オルナレンだね?」


馴れ馴れしい。

前のシルビオだったら、とっくに拳が飛んでいっている所だ。だがここは穏便に済ませよう。


「そういう君はアラン=カイバール」

「うん」

「......」


......まぁ、通じないよな。

この世界にはパロディが無ければ、そもそも漫画すらない。悲しい世界だ。


「この前、君が奴隷商人について行った所を見たって言う人がいてね」

「......」


嫌な緊張が走る。

一瞬の間が、とてつもなく長く感じられた。

......見られていたか。全く、なんてタイミングの悪い。


「何を考えているのか知らないが、変なことはするなよ」

「......あぁ。ただちょっと話しかけられてしまっただけでな。お前の気にしているようなことはやっていないさ」


思わずお前と言ってしまった。

俺の方が馴れ馴れしい。


「そっか、なら良かった。要件はそれだけなんだ。それじゃあまた学園で」


アランは、厳しい目付きで俺を睨みに来ただけだった。

まったく、気が抜けないな。

警戒するべきはアランだけではなく......クラスメート。いや、学園全体を警戒しなくてはならないかもしれない。


「おっす。おはよう」


と、アランと入れ替わるようにフレデリックが来た。

謎の安心感がある。

こいつだけは、俺の敵では無いみたいだ。


「おはよう。なぁ、フレデリック」

「ん?」

「俺の敵は、思ってたよりもずっと多いようだ」


その言葉に対してフレデリックは、特に否定しなければ、肯定もしない。

呟くように言うだけだった。


「そっか」


「敵とか言うな」「友達だろ」そんな言葉はいらない。ただの綺麗事だ。

しかしフレデリックは、俺の気持ちをよく分かってくれている。

そうか......こんないい仲間を持っていたのか、アラン。

また、アランへの嫉妬が大きくなってしまっただけだった。

しばらく歩き、学園へ着いた。というか、フレデリックも同じ道だったんだな。何だか少し嬉しい気がする。歩いて来て正解だった。

教室に入ると、俺よりも一足先に着いたアランがいた。俺は途中でトイレに寄って、心の準備をしいたから遅れたのだった。

いつ見ても、周りには女子男子関係無く集まっている。多くの人が、アランを取り囲んで楽しく会話している。その中には、フレデリックの姿もあった。

あぁ、なるほど。こういう気持ちなのか。

主人公では無い人の気持ち。

主人公を目前とした敵役の気持ち。

モブの気持ち。

これが、ハーレムを見る側の人間なのか。

主人公......俺はなぜ、アランに生まれ変わらなかったのだろうか。

なぜ、シルビオなんかに転生したのか。

改めて疑問に思わされることとなった。


―――


「ただいま」

「おかえりなさいませ」


家に帰ると、メイド達が迎えてくれる。

一人暮らしだった俺にとっては、家で誰かが待っていてくれるというだけで嬉しいものだ。


「お?リーネ!」


名前を呼ばれてビクッとしたリーネ。

やはりまだ怖いか......しかし、メイド服を来て向かいに来てくれる姿は、とても癒されるものだった。


「早速仕事できているようだな。偉いぞ」

「......はい。ありがとうございます」

「シルビオ様。お帰りのところ申し訳ありませんが、今日はこれから何人かのメイドが魔物の森へ行ってまいります」


ヴィオレッタは、冷淡にそう言った。

そうか、もうそんな時期だったのか。

貴族は、毎年何回か開かれる貴族の大会に参加しなければならない。

それによって階級が変わるのだ。階級が変われば、偉さが変わる。そんなことをして何が楽しいのか分からないが、貴族とはそういうものだから仕方ない。

そしてオルナレンの家系では、毎週数回だけ魔物を狩るように言われている。

練習のためだ。

しかし、シルビオは「面倒くさ」と言って親に内緒でメイド達に任せていた。

だが、そんなメイド達の服の縫い跡を見る度に、俺は胸が痛くなる。

もしかしたら死ぬかもしれないっていうのに、なぜ比較的戦闘能力の低いメイドを戦わせているのだ。


「俺が出る」

「......えッ!?」

「俺が魔物の森に行く」

「し、しかし......」


本来なら俺が行くべきなのだ。それは、シルビオが行かなかっただけだ。

貴族大会に勝つには、(シルビオ)が魔物と戦い、強くなる。それが最強になるために用意された道のりだ。


「だから、もう誰も魔物の森へは行かなくてもいい」


とは言ったものの、さすがに一人では厳しい。

せめてあと一人くらい、誰でもいいから一緒にいてくれると助かるのだが......


「......リーネ」


ん?と、首を傾げた様子のリーネ。

悪いが......俺は知っているんだ。


「もし良かったらでいいのだが、俺と一緒に来てくれないか?」

「え?」


リーネは、こう見えて戦闘能力が高い。

それは、ゲームで知ったことだ。

まだシルビオに買われて間もないのにも関わらず、まぁ、元々アランに戦う気がなかったとはいえ、結構アランは苦戦していた。

ちゃんと育てれば、もっと強くなれるはずだ。


「悪いな、リーネ。でも、お前の気持ちが最優先だ。もしも嫌だというのなら、別に無理にとは言わない。嫌なら嫌でいいのだぞ」


俺は、ほぼ無理だと分かっていて聞いた。

だが、リーネは首を横に振って返事をした。


「いいえ。ついて行きます」


なに?


「俺が主だからか?」


奴隷は、主の言うことが絶対。

だが、それはやらなくてもいいとリーネに言ったのだ。しかしやはり、奴隷としての性なのか、俺の言うことは全て聞いてしまう。聞かないで欲しいわけではないのだが、なんだかちょっと違和感があるのだ。


「違います。私がついて行くと決めたのです」


その言葉に、思わずグッと来てしまった。

それは、本気だったからだ。

ここまで忠誠されたことなんてあるわけが無いのだが、初めてのことで、慣れていないのかもしれない。

それにしても、奴隷にしては可愛い女の子に、「ついて行く」なんて言われて嬉しかったのは、俺の心はまだ若いからなのか。


「......そうか」


嬉しさのあまり思わずニヤけてしまいそうになった顔を、何とかして真顔で固定し、難を逃れる。


「だが、魔物の森は大変だ。それでも行くんだな?」

「はい」


リーネと魔物の森へ行くことに決めた。

これは、自身の実力も測れる良い機会だ。

俺達は、魔物の森へと向かった。

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