表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/80

リーネさんを、助けるのでしょう?

「おはようございます。今日から一日一回、魔力抑制剤を投与します。魔力はほぼ残っていないと思いますが、念の為です。食事は一日三食。それ以外は、外には出られませんが自由です」


おはようございます......か。結局、昨日は眠ってしまった。のか?

自分でもよくわからない。ボーッとしていただけかもしれない。

魔力抑制剤。

そんなものもあるのか。

左腕が無いだけで、結構な魔力を持っていかれた。どちらにせよ、今の俺には魔力があろうが何も出来ない。

する気が起きないし、出来やしない。

ただ自分の犯した罪を悔いるだけだ。

女は注射器を俺の腕に押し当て、薬を投与する。

力が抜けていく感覚。

気持ちが悪いな。


「なぁ、いいのか?お前こんなに俺なんかに近付いちまって」

「私は、死ぬ覚悟であなたの面倒を見ています。確かに危険ではありますが、その危険は誰かがやらなくてはならないものです」

「......立派だな」


女は少しも表情を崩さなかった。

褒めても嬉しそうにしないし、俺を見る度冷たい顔をしている。

全く笑うことも無い。俺に向けられているのは、ただの怒り、憎しみだけだ。


「何か、俺にやれることは無いのか......?」

「......?」

「罪滅ぼしがしたい......死んだ方がいいのであれば、俺をこのまま殺してくれ」

「死なせません。罪滅ぼしがしたいというのであれば、そこで一生反省していてください」


反省......か。

俺にはお似合いの言葉だ。

今まで、どれほどの罪を犯して来たのだろう。

人を殺して、殺して殺して、また殺す。

ついには、世界を崩壊させた。


「魔王らしいな......」


ふと、そんなことを呟いた。

魔王。

俺は魔王から、魔王という肩書きを受け継ぎ、魔物と人類の平和を築くためにも闘っていた。まぁ、それは結局リーネを助けるために諦めた事だったが。

しかしリーネも助けられていない。

何一つ、成し遂げられていない。

そう言えば、魔物はどこへ行ってしまったのだろう?

フレンもグィルも見ない。

やはり、皆俺のせいで亡くなってしまったのか。


「......なぁ、この時代まで生きることが出来ているのは、俺だけなのか?」

「はい」


......そうか。

まぁ、期待はしていなかったさ。

リーネ......せめてお前だけでも、助けたかった。

助ける。

助けるだって?

俺のせいじゃないか。

リーネの病気のことを忘れ、アランに頼まず治してもらわなかった。

放置したのは誰だ?

リーネのことを守るとか言っていて、結局放っておいたのは誰だ?

奴隷扱いしない?なら武器のように、道具のように扱うのは良いのか?

全て俺だ。

俺のせいだ。

助ける?自分の尻を自分で拭っているだけで、何を上から目線なことを言っているんだ。


「......はぁ」


寂しい気持ちは、もう痛いほど味わった。

なぜ俺が、こんな目に遭わなくてはならないのか。そんなこと、今更問わない。

自分の責任だ。

大人しくシルビオ=オルナレンとして生きて、死んでいれば良かったのだ。


「......オルナレンさん。あなたは本当に、魔王だったんですか?この時代からは想像も出来ないような事ですが」

「......あぁ」


確かに魔王だったよ。

六年というのは、長いようで短いものだ。

眠っていたにしてはとても長く、科学や人類の発展にしてはとても短い時間だ。

その変わりようと言ったら、まるで異世界。

だなんて、おかしな話だ。

未だにここが、まだあのゲームの世界の延長線だなんて思えない。


「だがもう俺は魔王でも何でもない。ただのモブさ」


ラスボスにも、中ボスにさえもなれやしない。

ただのモブ。


「本当にそうですか?」

「あぁ。もう二度とあんなことはしない。というか、守るものなんて既に何も無くなった」

「もし、守るものがまだ残っていたとしたら......?」

「......?何が言いたい」

「《コードL》......リーネさんは生きています」

「──────ッ!!?」


いや待て、ハッタリだ。

嘘に決まっている。

そんな都合の良い話、あるわけが無い。

俺はリーネを解放出来なかった。

それで終わりだ。


「信じてないって顔ですね。それが出来るのも今のうちですよ。これを見て下さい」


そう言って、女は一枚の写真を見せて来た。

そこには、氷のような結晶の中に閉じ込められた少女の姿が写っていた。

見覚えのあるものだ。

そして心当たりも。


「これは......」

「えぇ、リーネさんは未だ囚われの身です」

「どういうことだ」

「あたが起こした《大破滅(カタストロフィ)》。あれは、リーネさんを助けようとした結果です。そして、一度は助けた。ですがあなたは気絶してしまい、リーネさんは身を守るために再び、今度は自ら結晶の中へ閉じこまってしまった」

「一体何から、身を守るんだ?」

「忘れているはずが無いでしょう?リーネさんを利用して、間違った平和を築き上げようとした者。かつての王、アードルフ=ヴェロニア」


アードルフだと!?

死んだとばかり......いや、俺が勝手に思い込んでいただけか。

きっと、奴の手に渡るくらいならと、リーネは利用されないことだけを選んだんだな。


「しかし、なぜお前がそこまで知っている?そしてなぜ俺に話すんだ。......何を企んでいる?」

「申し遅れました、私はフローリカ=イルペ。フレデリック=イルペの妹です」

「ッ!!」


イルペ......フレデリック=イルペ!!

懐かしい名だ。

忘れるはずもない名前。

憎き相手でもあり、良き友人でもあった。


「今では、カッツェローネ家に養子として住まわせて貰っているため、フローリカ=カッツェローネですが」

「た、たしかに、妹がいるとは聞いていたが......」


まさか、こんな所で出会うなんて。

それなら、俺が気絶した時の情報を知っていてもおかしくは......いや、おかしい。

俺達の闘いに、フレデリックは既に関係ない。

その妹となれば尚更だったはずだ。


「私は、あなたを救いたい。兄がそうしたように、私もあなたの力になりたい」

「だが、俺は......」

「いくら罪を背負っていようと、もう手遅れだろうと、やるべき事だけはやって下さい」

「やるべき事......」

「リーネさんを、助けるのでしょう?」

「......ッ!!」


確かにそうだ......情けない。

俺としたことが、こんな少女に言われてしまうとはな。


「だが、まだその情報源を聞いていない。その写真もな」

「まだ信用してくれませんか......まぁ構いません。今から行く所に、全て答えが揃っています。詳しくはそこで」


そう言うと、フローリカは俺の部屋を開けて、枷を外してくれた。


「......いいのか?こんなことをして。ヴィオレッタは優秀だ。すぐにバレるぞ」

「ええ、存じております。ずっと見てきたので」

「......そうか」


身体的に自由になると、フローリカはすぐに部屋を出た。


「裏ルートは知っているので、黙って着いてきてください」

「あ、あぁ」


しっかりしているなぁ。と、感心してしまう。

外には警備がたくさんいたはずだったのだが、いつの間にか俺達はそれらを全て抜けていた。

上手いことやるものだ。

こんなの、前々から計画していなければできない。

俺は終始感心していると、最後には車にまで乗ってしまった。

完璧だ......というか車?もう既に俺の知る世界では無くなってしまっているな。


「これお前のか?というか運転出来るのか?これからどこへ?」

「質問が多いと思ったので、黙っていて欲しかったんですが......まぁ、一つだけ答えます。これか別の施設へと向かいます」

「施設?」

「あなたの腕を取りに行きます」



──────────




車に揺られ、しばらくたつ。

ここまでしてくれる奴が、俺を騙しているとは思えない。

フローリカ=イルペか......名前を出せば俺は信用する。

そう思ったのだろうか。


「そろそろ魔力は回復して来ましたか?」

「ん?あぁ、どうだろうな」

「あれは本物です。あなたがまた暴走されると、困るので」


......俺もあまり信用されて無いみたいだな。

それもそうか。

人類を破滅へと導いた奴の信用なんて、あるわけが無い。


「一つ質問してもいいですか?」

「なんなりと」

「兄さんは......どんな人でしたか?」

「フレデリックか。懐かしいな......あいつは、初めから俺のことを騙していたんだよ」

「騙していた?」

「あぁ。目的のために、俺が邪魔だったんだ。でも、最終的には本物の友達ってのになれた気がしてな」


そこからは......語る必要もあるまい。

学園に通っていた頃から、俺の友達なんてフレデリックくらいしかいなかった。

でも最後は結局、俺の代わりに......。


「良い奴だったよ。本当に」

「そうですか......私は、あまり家族とは接することが出来なかったので。家族というものが、よく分からないんです」

「家族なんてただ一緒に住んでるだけだ。だが、それだけじゃない。たとえ離れていても、喧嘩しても、家族は家族なんだ。だから、俺はリーネと、今も家族だと思いたい」


そう信じている。

それが、今の俺を動かす、唯一の原動力。

リーネを助ける。

何としてでも。


「着きました」

「ここが、その施設とやらか?」

「はい」


車を降り、外へ出る。

靴は施設を出る際に、拝借してきたが......そう言えば俺、右足が無かったよな?

恐る恐るズボンをめくって見てみる。

すると、妙にゴツゴツとした皮膚の、黒っぽい足が生えていた。


「どうしました?」

「いや、足が生えたんだなって」

「あぁ、そう言えば右足もドラゴンのものだったらしいですね。切り離すことを考えてたようですが、どうせ生えてくるとのことで、やめたと言っていました」


あぁ、だろうな。

この足は、後から生えてきたものだ。

今は人間のものに近づいた形だが、違和感なく使えている。

便利な体だ。


「左腕は生えないんですか?」

「生えないだろうな。あれはオーヴェインのものだ。足だってオーヴェインが生やしたものだろうから、その源となる左腕の居場所は無くならないだろうな」


全てはそこから始まった。

左腕を失い、オーヴェインの物となってから。


「で、この施設に腕が?」

「いいえ」


え?

腕を取りに来るって言ってたじゃないか......。


「これを着てください」


フローリカは、自分が着ている物と同じ服を手渡して来た。

なるほど、これで変装ってことか。


「シルビオさんはもちろんお呼ばれしていません。先程の施設の監視カメラには、私とシルビオさんが映っている動画を繰り返し流していますが、実際に見られれば一瞬で警報が鳴り、捕まります」


こんなにも用意周到だとは......これで確信した。

協力者がいる。

ここまでのことを、全てフローリカが一人で計画し、実行出来たとは思えない。

何かしらの団体や人物がバックにいることくらい、分かる。


「フローリカ以外にも仲間はいるんだろ?誰だ?どこにいる?」

「詳しいことは後で話します。とりあえず中に入りましょう。この施設の中ほど、安全な場所は無いですよ」

「......?」


普通、逆じゃないか?

施設の中こそ危険な場所だと思うのだが。


「入ってみれば分かります」


フローリカはそう言って、正面のメインゲートから足を踏み入れた。

やはり警備はとても厳重で、思えないがいた施設と変わらないくらいの人数。そして武装。

そこまでして守りたいものがあるのかと、問いたいくらいだ。

まぁ、あるのだろうけど。


「行きましょう」

「え?」


さっきから何か、カウンターの所で話しているなぁとは思っていたが......案外呆気なく通れるものだな。

俺なんて何も検査されなかった。


「意外に甘い警備だったな」

「そんなわけがありません。私のスキルです」

「スキル?」

「お父さんと同じ、『目を直接見ることで、催眠をかける』スキルです」


お父さんと同じ......イルペの目か。

何だか、懐かしいな。

リーネもかけられて、何とか助けたんだっけか。


「しかし私も職員ですし、対策くらいされているでしょう」

「あぁ。そう言えばさっきの人、サングラスしてたな」

「はい。それだけで私のスキルは通じません。しかし、サングラスくらいなら貫通するように、魔法を付与してもらいました」

「付与?確かに俺の固有魔法だが......そんなことをした覚えなんてないぞ?」


貫通......の魔法なのか?

固有魔法は、誰にでも使えるようなものでは無い。

俺以外に使えるやつなんて、いないだろう。


「いるじゃないですか。もう一人」

「......?」

「着きました。この部屋です」


しばらく廊下を歩いて、立ち止まった場所はとびらの前。

監視もおらず、鍵も無い。

というか、ここしか扉が見当たらない。

広さ的にも、まるでこの部屋のために施設があるようだ。

するとフローリカは扉を数回ノックし、部屋の中にいると思われる人に向かって話しかけた。


「フローリカです。シルビオ=オルナレンを連れて来ました」

「......」

「入りますね。アランさん」


アラン......?

おい、今アランって......!


「なっ」


扉を開けると、そこには真っ白な部屋が拡がっていた。

ソファーとベッド。

小さな机に、椅子。本棚。

それ以外には何も無く、まるで少しだけ生活感のある監獄のよう。

そして、そのベッドに座っている男。

とても見覚えがある顔だった。

かつて敵として闘い、そして共に手を組んだ。

勇者、アラン=カイバールだった。


「シルビオ」

「アラン......」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ