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貴族だった嫌われ者

真っ暗だ。

暗い。怖い。それに痛い。

なんだろう、すごく、とても、この上なく疲れている。


「......ぅ」


目が開いた。

それは、まりで悪夢から覚めたかのように。

一気に覚醒した。

とてもいい目覚めだとは言えないが、まだ眠気が残っているような、曖昧な目覚めではなかった。


「意識が戻りました」


ここは......?

誰......だ?

女の顔、人類だ。女が、覗き込んでいる。

覗き込んでいる?俺は何かに入っているのか。

周りが暗い。室内。しかし俺は横になっており、天井と女の顔しか見ることが出来ない。


「私が、見えていますか?」


応えない。その代わりに、目で追っているのを女は察したようだ。

上司と思わしき人に、敬語でその事を報告する。


「呼吸正常、目も通常とは変わりません。はい、はい分かりました。言葉は、話せますか?」

「あ......あぁ」


喉が痛い。

カラカラに乾いていて、声が出てこない。

風邪でもひいているかのようだ。


「は、はなせる......」

「会話も出来ます。はい。了解。最後に、あなたは誰ですか?」

「俺......は......」


誰だ......?

どこにでもいる、ごく普通の一般人。

ゲーム大好きな男。

いや違う。

俺は......


「シルビオ......シルビオ=オルナレン」

「自己認識はあります」


シルビオ......シルビオ......そうだ。

もう既に、全てバレているのだろう。俺が魔王だったことや、何もかもが。

俺は確か、そうだ思い出した。

リーネ。

リーネを助けたんだ。

魔人化したリーネを、救ったんだ。

確かに強かった。今まで闘ったどんな奴よりも、比較にならないほどに強く、強大な敵だった。

それは、放っておいたら世界をも滅ぼしてしまうほどのものだった。

だが、俺はやり遂げたんだ。

ついに、リーネを助けることが......


「リーネ......は?どこにいる......?俺が......助けた、リーネ......は」

「記憶の欠損もありません。はい。了解しました。......本当に、この人が《大破滅(カタストロフィ)》を......」


しばらくすると、ここがエレベーターの中だということがわかった。

俺はエレベーターから出され、廊下を走っている。

もちろん寝たままだ。天井の電気が眩しい。

そうか、俺は担架に乗せられているのか。

そして、ここは病院。

─────病院?


「対象の部屋への運搬に成功」

『了解。拘束を解除して、あなたはこちらの部屋へ。見張り二人はそのまま継続、気を抜くな』

「了解」


今度は電話?ではなく、部屋自体から声が流れ出てきた。

スピーカーがついているのか。

ガシャンガシャンと、音がする。

どうやら俺の拘束が外されたようだ。試しに、腕を上げてみる。

俺の視界に、自分の手を入れる。あぁ、俺の手だ。

ちゃんと動く。

ゆっくりと、担架から降り、床に立ち上がった。

まだ頭がクラクラする。

何も無い部屋。

椅子が一つ置いてあるくらいだ。

あとは、ひとつの壁だけ真っ黒なガラスが貼ってあり、向こう側は見えない。

床に降りて気がついたが、裸足だった。

服は病院で着るような、薄手のシャツ。しかし寒くはなかった。エアコンが効いているようだ。

女が部屋から出ていくが、俺は後を追えなかった。

銃を持った物騒な男二人が、俺に銃口を向けて阻んできたのだ。

警戒......されているのか。


「......?」


ふと気がついた。


「あれ......?」


俺の左腕は?


「シルビオ=オルナレン」


突然、名前を呼ばれた。

すると、ガラス張りの壁がウィーンという機械音とともに黒色を消していった。

ガラスは透明な、普通のガラスへと変化し、向こう側の部屋が見えた。


「ヴィオレッタ......?」


向こうの部屋には数人の人がおり、さっきの女もいる。

全員が全員、俺のことを睨むようにして見ている。これは何も被害妄想などではない。本当に、嫌な顔でこちらを見ているのだ。

しかし一際目立つのは、俺に真正面から向かっている女。

ヴィオレッタ......に似ているが、誰だ?

ヴィオレッタにしては年老いた気がしなくもないが。


「おい、ここはどこだ?お前達は誰だ?リーネはどこだ!俺はここで何をされているんだ!!」

「黙れ。この化け物が!お前のせいで何もかも!!クソ......《大破滅(カタストロフィ)》さえ無ければ!!」


なっ......部屋の後ろの方にいる男が、俺に向かってそう言った。

するとそれを手で制するようにしたのは、やはり正面の女だった。


「質問には答えられるものだけ答えます。まず、あなたの現状から。ここはあなた専用の隔離施設。施設内でのスキル及び魔力は使うことは禁じられております。そして私達は《M.E.S.I.A.(メシア)》を管理する者、《M.A》です。あなたは私達によって管理されます」

「管理って......なぜ俺が?俺が何かしたのか?ただリーネを助けただけだ!救っただけだ!それで、なんで俺がこんな投獄のようなことをされなくちゃならないんだ」

「あなたはとても危険だからです。現に、あなたの左腕は切り離させて貰いました。もし今も付いていたら、使っているでしょう?」


俺の、左腕を......?

なぜ......こんな、こんな目に遭わなければならないんだ。

突然、ビービーという大きな音が鳴った。

サイレンの音のようだ。全員が慌てる。


「ヴィオレッタ司令、《破滅獣(ルインズ)》です」

「各自、急いで持ち場へ着け!戦闘準備!」


ヴィオレッタ?ヴィオレッタなのか?


「お、おい、ヴィオレッタなんだろ!お前一体何をしているんだ!俺が誰だか分からないのか?」

「分かっているからッ!!」


ヴィオレッタは声を荒らげる。

驚いて、思わず後ずさりしてしまった。


「分かっているから、こうしているのです。面会はここまで。それでは」


ヴィオレッタは足早に席を立つ。

他の人達も、次々と部屋を退出していった。


「お、おい!ちょっと待て!」

「私はここに残ります。何かご質問があれば、答えられるものにだけお答えします」


さっきの女が一人残った。


「なぁ、《破滅獣(ルインズ)》ってなんだ?新たな魔物か?それとも、俺の次の魔王か何かか?」

「見てみますか?色々と質問されるより、ご自分の目で確かめるのが手っ取り早いでしょう。百聞は一見にしかずです」


そう言って、女は俺の部屋へと入って来た。

手錠をしなければ、部屋の外に出してくれないそうで、頑丈なものを付けられた。

手錠と言っても、片腕しかないので、左腕に義手のような棒を取り付けられた。

棒は伸び縮みするだけで、自由度は低い。

それに右腕を手錠で拘束され、身動きが取りずらくなった。


「ついて来てください」


言われるがままに廊下を歩く。

途中、何人もの見張りを見たが、全員銃を持って装備していた。

警備隊......か。


「ここです」

「な......」


そこは、広い景色の見られる場所だった。

この施設の最上階。

天井以外全面ガラス張りで、ほぼ外にいるような気分だ。

そこから見える景色に、俺は驚愕のあまり言葉を失った。


「なんなんだこれは......」


数多の高層ビルが建ち並ぶ、まるで近未来都市のような街の姿。

その上空にそびえ立つ。いや、宙を舞う、頭に二本の角を生やした、狼のような顔をしているが目はたくさんあり、体は人に近い。

背中には翼の形を模した角のような、牙のようなものが生えているが、どのように浮遊しているかは分からない。

長い腕の先に着いた指には、大きな鋭い爪がある。

しかし、何よりもとにかく巨大なその体。頭から足の先だけでも、ビル五階分に匹敵する。


「《破滅獣(ルインズ)》。《大破滅(カタストロフィ)》と共に現れるようになった、未知の生物。その生態は謎で、今のところは人間を襲うことしか確認されておりません。まさに破滅を呼ぶ獣です」

「人間を襲うことしか......じゃあ、人間しか攻撃しないづてことか?」

「はい、人間しか攻撃しません」


人間しか......つまり、あの生物、というより化け物には自我があって、目的もあるということなのか?

魔物には見えない。かと言って、機械でも生物にも見えない。

自然が具現化したもの、とでも言っところか。


「それより、どうするんだ?倒せないのか?」

「もちろん倒します。あの人達が」


そう言って指をさした方向を見る。

すると、何か物体が飛んでいるのが確認できた。

人......なのか?

形は人型だが、空を飛んでいる。


「あれは、《M.E.S.I.A.(メシア)》。対《破滅獣(ルインズ)》用に結成された、人間の部隊です。選ばれた者しかなることの出来ない、エリート中のエリート戦闘員です」

「メシア......」


気になるのはその戦闘方法だった。

特殊な装備により、飛行をしているのか、魔力は感じられない。

武器は、遠方から光る物を発射している。おそらく、形から察するに、いや、間違いなく『銃』。

俺が知っている限り、この世界には銃が存在せず、俺が作り出したのだ。

その後、技術は知れ渡り、様々なところで銃が使われるようになった。

だが当時は回転式拳銃、リボルバーしか普及していなかったはずだ。自動式拳銃だなんて......。


「あなたが生きていた時代には無かった技術ですか?」

「......あぁ。驚いたよ」


《M.E.S.I.A.(メシア)》と呼ばれる人は、見えるだけでも三人。

三人が三人とも、素早い動きで敵を翻弄し、周りをグルグルと回りながら銃を撃っている。

アサルトライフル、スナイパーライフル、ライトマシンガン......他にも日本刀などを装備しており、まるで俺の元いた世界の技術力だ。

いや、それ以上。

こんな大都市、完全に未来の技術だ。


「教えてくれ。なぜ、自動ドアやエアコン、それに通信機器まで、この世界には存在しているんだ?俺が眠る以前には無かったはずだ」

「無かったはずなのに、全て名前を言い当てられる理由について、私は聞きたいですけどね」


しまった。

他に何と例えればいいか分からず、つい知っている言葉で呼んでしまった。


「まぁ、いいでしょう。シルビオ=オルナレンさん。あなたが眠っていた時間は、約六年。その間に、様々な技術が発展しました」

「ちょっと待て、俺は六年も眠っていたのか?」


驚き、思わず話を止めてしまった。

止められたにも関わらず、嫌な顔一つしないのは、この女の子のいい所なのだろう。

などと呑気なことを言っている場合では無い!

六年......?そんな長い時を、俺は眠って過ごしていたのか?


「眠って過ごしていた......問題はそこではありません。大事なのは......六年もの長い時年月の間、あなたが眠っていた事ではなく、その眠る原因となったのが問題なのです」

「原因?」


女の子は、大きくため息をつく。

まるで、話したくないように、嫌気がさしたかのように。

二度と、口にしたくなかったことを、話すかのように。

重たい口を開いた。


「眠る原因、それは、極度の魔力切れです。今の時代、魔法というものはありませんが、あなたは使えたようですね。それを使い過ぎて、魔力が暴走したらしいです」

「あぁ、そこまでは覚えている。だがそんなことは稀ではない。よくある事だ。たったそれだけの事で、六年も眠るなんてことは」


ありえない。


「覚醒、したんですよ。あなたの魔力が」

「覚醒?」

「簡単に言えば、一時的に物凄い潜在能力が目覚めた。と、漫画でありがちな展開ですが、あなたの強い心はそれを行ってしまった」


現実で。

と、女の子は強い口調で言った。


「これが、あなたの壊したものです」


女の子は、広い景色を俺に見せるようにする。

まさか......


「あなたが《コードL》......あなたの言うところの『リーネ』という人を助けた出した結果です」

「俺......が?」

「《大破滅(カタストロフィ)》。それがあなたの犯した罪の名前です」


そういえば、何回か聞いていた。

カタストロフィ。

俺のせいでどうとか......


「あなたの覚醒の結果、《コードL》を助けようとした結果。あなたは多くの犠牲を払いました」


人々も、国も地形も、友も愛する人も家族も、全てを削って、全てを消し去って。


「崩壊......まさにその言葉通り、世界は崩れ、壊れ、失われました」


そんな......嘘だ。

嘘だ!ありえない!俺はただ、リーネを......リーネを助けたかっただけなのに......


「助けたなんてそんなこと......あれだけ多くの人を殺しておいて、よく言えますね」


......本当にその通りだ。

もし、それが本当なら......俺は......

たった一人を助けるために、一体何人の犠牲を出したんだ。

たった一人の、俺の欲望のためだけに、一体どれほどの悲しみを生み出したんだ。

左腕が無いのは、警戒ではなく罰。

こうして監禁されているのは、そういう理由だったのか。

ヴィオレッタが冷たいのも、皆の支線が痛いのも、全て俺自身のせいだったのか。


「......なぁ、俺は君の家族も......殺してしまったのか......?」

「......ええ」

「そうか......謝ったところで許される訳では無い。だが、ごめん......どうか俺を、許さないでいてくれ」


絶望した。

失望した。

死にたく、なった。

自分が、とても嫌で、殺したくなるほど、大きなミスを犯してしまった。

もはやミスで済まされることでは無い。


『グァアアァアア!!!』

「ッ!!?」


な、なんだ今の音......いや、声は!


「驚きましたか。これが《破滅獣(ルインズ)》の咆哮。完全防音の防弾ガラスでも貫通して聞こえるくらい、大きな声で鳴くのです」

「か、勝てるのか......?」

「ええ、勝てるからここまで生きてきたのです」


そ、そうじゃなくて......こんなやつに勝てるのかという意味ではなくて、今、この現状を見て言っている。

三人のうち一人が、地面に叩き落とされたこの状況を見て。


「大丈夫......なはずです。あのスーツは魔力伝導の装甲でできているので」

「魔力伝導?」

「はい。《M.E.S.I.A.(メシア)》のほとんどの装備は、魔力によって動く仕組みとなっています。この時代の魔力は、魔法のためではなく、代わりにスキルというものに使います。魔法はもう、無くなりました」

「スキル?固有魔法のようなものか?」

「まぁ、そんなところです。人により違う能力で、魔力を使って出すものです。魔法で火を出すより、マッチでつけた方が体力を使わないし、簡単ですよね?」


それに気づいてはいたが、今の時代になってやっと、魔法に代わるものが発明されたと。そういうわけか。

そして、固有魔法はスキルへと形を変えた。

その代わり魔法は、誰もが使える便利な道具が代役を務め、魔力を全てスキルへとつぎ込めることに成功した。魔力切れも起こらない。


「ほら、そう言っている間にも、勝負がつきそうですよ」


見ると、確かに敵はよろめいていた。

素早い斬撃に、銃撃。

残念ながら、今回はスキルという物をお目にかかれなさそうだ。

結構余裕がある。


『グアァアアア!!!』


バキッと、骨か何かの折れる音。胴体が蹴られたのだ。

と、同時にこちらへと飛んできた。おいおい、こっちに向かって蹴り飛ばすなよ。


「防弾だって言ってたが、それってルインズの攻撃も耐えるのか?」

「はい。そのための防護ガラスです」


ゴンッと、ルインズが当たった。

確かに、ガラスは無傷だった。

だが、やはりこうして見るとでかいな。

間近でルインズを見ることが出来たので、むしろ感謝しよう。

と、そんな呑気なことを思っている間に、敵が起き出した。


「......」


今、目が合ったような......気のせいか。

いやしかし、ジッとこちらを見ている。さすがにこれは、俺のことを見ているのではないだろうか。


『グ......』

「フレアランス!!」


突然、掛け声と共に炎の矢が、敵の腹から突き出してきた。

これが、スキルか?


「フレアランス。ジーリオさんのスキル、『バーンアウト』で炎を自由自在に操り、作った武器です。ただし自分では発火出来ないので、バーナーをいつも装備しています」

「それだったら、普通にバーナーの方が楽じゃないか?」

「炎を操るんですよ?形も大きさも自由自在、温度だって変えられます」


そいつは強いな。

なら、結構使い道はあるスキルかもしれない。

まぁ、固有魔法も結局は本人の使い方次第だからな。


「どうやら、今ので決まったようですね。ルインズは、その体のどこかに『(コア)』と呼ばれる、人間で言うところの心臓があります。それを壊されれば、体は形を保つことをやめ、倒すことが出来ます」


確かに、体の中心部にある、球体状の何かに刺さっていた。

ルインズは頭の先まで燃え上がり、どんどん灰と化して空に消えて行く。

心做しか、最期まで俺のことを見ていたような気がする。

その沢山の目で、全ての目を使って、俺のことを見つめていた。

そう、思ってしまった。

......思い過ごしか。やはり自意識過剰過ぎるな。


「この《破滅獣(ルインズ)》も、あなたが生み出したものです」

「なに?俺はこんな怪物知らないぞ?」

「《破滅獣(ルインズ)》は、《大破滅(カタストロフィ)》が起こってからすぐに現れた怪物です。関連性が無いとは思えません」

「だが────」


言葉が詰まった。

何も言えない、言い返せない。

確かに、聞いている限りではおそらくカタストロフィが原因。少なくとも俺が関係していることには間違いないだろう。

しかし、本当にこんな奴は知らない。

こんな、『魔物』の形すらしていない怪物。


「とりあえず、緊急事態は終わったことですし、部屋に戻ります。あなたはまだ拘束されている身ですから」


そう言って、すぐに拘束部屋へと戻った。

少し時間を置いてみると、本当に何も無いことが改めて分かる。

それにしてもまだ頭が混乱している。

大破滅(カタストロフィ)》、《破滅獣(ルインズ)》、《M.E.S.I.A.(メシア)》、それに《コードL》......リーネまで。

あの頃から十年経っている......それだけは確かなようだ。


「なぁ......俺は、やっぱり嫌われているのか......?」


ガラス越しに話しかける。

目線は完全に下を向いており、女の顔なんて見れたものでは無い。


「ええ、まぁ、そりゃあ......たった一人を救うために、大勢の命を犠牲にしたのですから」


はは、聞いていてもまだ実感がない。

俺が......殺した?そんなこと、魔王の頃からずっとやって来たことじゃないか。

いつも何も変わらない。今更、殺すのを躊躇ったって......悔やんだって......。


「すまない......」

「はい。あなたは一生そうやって後悔して下さい。後悔して後悔して、それでもまだ足りなくて、悔やんでも悔やみきれなくて、それでいてさらにまた後悔を積み重ね、後悔してもしきれないほどに反省して下さい。それをさせるのが私の仕事ですから」


あぁ、分かっているよ。

本当に反省しているさ。だが、心の奥底ではまだこう思う自分がいる。

「なぜ、助けられなかったんだ」と。

「大勢の犠牲を払っておいて、女一人も助けられないのか」と。

こんな大きな罪を背負って、そのまま死ねるのか?

ここで静かに大人しく、死んだように生きて、それで楽に死ぬのか?


「そうやって、楽に死ねると思ってるんですか?」

「え......?」

「これだけの犠牲を払ったことは、当然許し難い行為です。そう、許されるわけがない。しかし、そんな行為に及んだにも関わらず、人を一人も助けることが出来ていないというのは、ただの人殺しです」

「......何が言いたいんだ」

「ただの大量殺人犯か、一人の人を救った英雄の殺人犯か。選ぶのはあなたです」


大量殺人犯か。

英雄の殺人犯。

誰も救えず、誰もかも殺した俺が英雄ね......。

だが、せめてリーネだけでも......救いたかった。


「救いたいさ......そりゃあ救いたかったさ!!そのために俺は力を振り絞った!限界まで使った!!その結果がこれだ!こんなことって!!......こんなことって......」


誰も救えなかった。

これが結果。

どうしようもなく、どうしても変えることの出来ない結果だ。


「今日はもう眠って下さい。いえ、十年も眠っていたら、そりゃあ眠気なんてありませんよね。失礼しました。やることが無いのであれば、ずっと悔いていてください」


随分と辛辣だな。

いや、こうして俺が生かされているだけでも、ありがたく思うとしよう。

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