君を信じる
「ぐあぁああああ!!!」
足が......足がァ!!
「ふっ......く......!」
いや、待て。
我慢しろ。
何を今更、これぐらいの......この程度のダメージで悶えているんだ。
そんなものは、腕の時に味わっているではないか。
「落ち着け......落ち着け俺......」
こんなもの、気合いでどうにかなるだろ。
「ぐ......あぁあ!!!」
切断部分に魔力を注ぎ込む。
新しい物が生えてくるイメージで......そうだ。そう、何とかなるだろ。
「舐めんなよ......俺はシルビオだぞ......」
魔王シルビオなんだ。
気づけば、両足で再び地面に立っていた。
右足を見る。すると、オーヴェインの......ドラゴンの足が生えてきた。
人の足よりも少し太く、鎧のような鱗の生えている足。少し見た目のバランスは悪いが、そんなことに構っている余裕は無い。
回復力が明らかにおかしい。
自分で言うのも何だが、これは異常だ。
......オーヴェインに近づいているということなのだろうか。
オーヴェイン自身には、回復能力は持っていなかった。
だが、ドラゴンという生き物には、即時回復が備わっているらしい。
おそらくあの時のオーヴェインは、操られていたせいで実力を出し切れなかったと考えるのが妥当だろう。
本来、ドラゴンの中でもトップクラスと言われるオーヴェイン。
俺の体に付与したことで、その実力を発揮しているようだ。
「痛みは引かないがな......まぁそのおかげで気絶しそうになっても起きるから助かってるけど」
なるほどな。
これが賢者の力か。
賢者の魔法。こんなもの、直でくらったら一溜りもないどころか、完全にこの世から消し去られてしまう。少しの骨も残らないだろうな。
「だが、そう何発も撃てるもんじゃない......だろ?」
「はぁ、はぁ、はぁ......」
俺と同様......か、体力で言えばそれ以上疲弊しているように見えるアラン。
あれだけの魔法をノーリスクで撃てるわけがないのは分かる。
そして、それだけ疲弊してまで放った魔法も、見た目だけとは言え回復されてしまったとなれば、相当な痛手のはずだ。
少なくとも、次にこれ以上の威力がある魔法はとんで来ないと予想できる。
なら、有利ではないとは言え、手の内も見えた事だし。
「なんとかなる......かな」
気配を感じた。
瞬間、俺の左側で爆発が起こる。
まるで左腕が爆発したとも思える、その近さ。
だが、煙を左腕で振り払ってみれば、そこには、銃をこちらへ向けたリーネの姿。
「リーネ......」
爆発の魔弾か。
痛い訳では無い。ただ、鬱陶しいだけだ。
だがその鬱陶しさが、驚異となることもある。
なんとかなるのは、リーネがいなければの話だ。
もし仮に、アランを相討ちに出来たとしても、後に残ったリーネによってトドメを刺されてしまう。
しかし、アランとの闘いにおいて、次の闘いにも余力を残せるほど気を抜ける相手ではない。
勝てたとしてもギリギリだろう。
既にもう、俺は限界が来ているがな。
「シルビオさん......あなたは必ず、私が─────ッ!?がッ」
「......?」
どうした......?
俺は何もしていない。
もちろんアランもだ。ただお互い息を切らしながら睨み合っていた。
ただそれだけなのに、リーネはまるで何かを食らったかのように。
攻撃されたみたいに。
苦しみ出した。
「う、うわぁぁぁあああああああ!!!」
「ッ!!?」
な、なんなんだ一体!?
何が起こっているんだ!
フレンも、こちら側の魔王軍は皆闘っている最中。
誰もリーネには手を出していないはずだ。
それに、リーネには外傷も見当たらない。
つまりこれは魔法......
「がぁあああああ!!!!!」
「おい!アラン!てめぇ何をした!」
「それはこちらのセリフだ......リーネはこちらの味方。やったのはお前だろう!」
確かにそれはそうだ。
なぜ味方であるリーネを、苦しませるようなことをするのか。
「リーネ!」
俺は、翼を羽ばたかせ、リーネに近寄る。
「お、おい!近づくんじゃない!」
アランのそんな言葉を無視し、リーネの元へとたどり着く。
「しっかりしろ、リーネ!どうしたんだ!」
「ぐ......ち、近づかないでください!」
「ッぐあ!」
何が起こったのか。分からなかった。
俺の体は一瞬で背後へと吹っ飛び、地面へ叩きつけられていた。
もう痛みは無い。
痛みはないが、驚きだけがあった。
「な、なんだ......?今のは」
「リーネ......?」
「ぅ......がああああああ!!!!!!!!!!」
リーネの体中から、光が漏れだす。
それは、魔力の光だった。
今にも爆発してしまいそうな、そんな勢いで。
「リーネ!!」
「ぐあああああ!!!」
光は強さを増していき、あっという間にリーネを包み込む。
すると、背中からまるで氷のような物突き出してきた。
「ッ!!?」
これは......魔力結晶!
とんでもない濃度の魔力が詰まっている結晶だ。
そしてそれは、リーネの背中からどんどん流れるように出てくる。
そして、一瞬にしてリーネの全身を覆い、巨大な結晶の塊となってしまった。
まるで、大きなオブジェのように。
透明な結晶の中に閉じ込められたリーネの姿は、目を瞑っているがとても苦しんでいるように見えた。
眠らされたような。
封印されたようなその様子。
リーネは、魔力結晶の中に閉じ込められてしまった。
そして突然、結晶からビームのような魔力光線が定期的に放たれた。
「な、なんだッ!!?」
俺の方向......では無い。
誰を狙った訳でもなく、光線はそのまま真っ直ぐ山の方へと飛んでいき......爆発を起こした。
そして、山が消えた。
「おいおい......アラン!これは一体どういうことだ!?」
「分からない!俺にもさっぱりだ。これはお前が仕掛けたことじゃないのか!?」
「こんなこと知らない......こんな魔法、見たことも聞いたことも無い」
こんな威力の魔法に......結晶に閉じ込められたリーネ。
どうしたんだ?
どうなっているんだ?
なぜこんな、破壊兵器のような物が、突然出来上がったんだ?
「始まったか」
そう言ったのはアードルフ=ヴェロニア。
王だった。
「なに?」
「平和へと第一歩だよ」
こんな大惨事だってのに、こんな時だって言うのに、アードルフは落ち着いている。
比較的では無い。いつものように、落ち着いた様子なのだ。
「おいお前、まさか何か知っているのか?」
「おや?逆に知らなかったのかい?この、平和への第一歩を」
平和?第一歩?
そんなもの知らないに決まっているだろ。
どういうことだ。
「私は、リーネが少し咳き込んでいて、調子も悪そうだったから病期だと思ったんだ。それで、治癒魔法を施してあげた時があってね」
アードルフは話し出す。
「結果から言うと、治らなかったんだ。しばらくして、また別の治癒魔法を使っても治らず、どんな魔法をかけても治らなかった......だからもしかしたらと思ったけど」
「......」
「生まれつきだったんだ」
......生まれつきの病気。
まるで後付け設定みたいに......思い出したかのようにそんな設定持ってくるな。
いや、勝手に忘れていたのは俺の方か。
リーネはずっと我慢していたんだ。
俺のいる前では、病気のことを忘れさせてしまうくらいに。
リーネは生まれつき病気を持っている。
そんなこと、このゲームではそんなに大きな問題では無い。
なぜなら、アランがすぐに治してしまうからだ。
......そうだ。
アランが治すんだ。では、アランに着いていかず、俺の元にずっといたリーネは?
病気が治らないままだったリーネはどうなるんだ?
「元王ヴァレンティーノは人と魔物を合体して、魔人を作っていた」
なんだ?
急に過去の話か。
「しかし、それは所詮魔人の劣化版。人工の魔人に過ぎない。本来の魔人の、一割ほどの力しか引き出すことは出来ない」
「......何が言いたい?」
「まだ分からないのかい?リーネは、病気なんかじゃない」
病気じゃ、ない?
「魔人だ」
「......は?」
「むしろ、病気だったのは今までのリーネの方で、今の状態こそが、本当の姿というわけだね。もっとも、今もまだ力を解放しきってはいないようだけれど」
「ちょっと待て、どういうことだ」
「だから、リーネは魔人だと言っているだろう?魔物の力を持っていながら、人間のフリをしていた。それだけの事だよ」
リーネが......魔人?
そんな、馬鹿な。そんな設定知らない。ゲームでは無かったぞ......。
魔人とは最初から魔人として生まれ、人工の魔人よりも遥かに強い。
それは、魔王ですらも手を焼くほどに。
人間で言うところの、天才ってやつだ。
「ということは、知っていたのか......?貴様」
リーネが魔人であるということを。
「もしかしたら」と、アードルフは言っていた。
なら、リーネが魔人であると、少なからず予想はしていたはずだ。
「断定はできなかったさ。けれど、可能性はあった」
「なぜ助けなかったんだ!可能性かあるなら、こうなる前に治してやることも出来たはずだ!」
「どんな魔法も効かなかったと言っただろう?そもそも、治す必要が無いからね」
「治す必要が......ない?」
「うん。実を言うと私は、あの魔人を使って平和を創ろうと思っているんだ」
「平和......だと?」
それが、さっき言っていた平和......だと言うのか?
「あれは全てを破壊する、破滅させる兵器。人類だけではなく、この世の生物全てを壊すことが出来るだろう。だからそれを使って、この不毛な戦争を終わらせる。人間と魔物、人間同士も魔物同士も、全ての戦いを、終わらせることが出来る」
「まさか......終わらせるって......」
全てを破壊し、全てを終わらせる。
絶対的な武器。
その武器の前では、誰も歯向かうことは出来ない。
「そのまさかだよ。絶対的な力には、全ての生物は恐れることしか出来ない。だから私が使う、私の固有魔法『インペリアル・オペレーター』。視界内にある物ならなんでも、一つだけ私の思い通りに動く。これで、世界は私の手の内にあるも同然だ」
「な......!そんなことが、許されるわけ──」
「いつだって、人を動かすには恐怖が一番なのだよ。それは、君もよく知っていることだろう?」
よく......知っている。
あぁそうさ、そうだよ。
強いものに弱い者は敵わない。弱肉強食の世界。
それが、この世界の理不尽な所だ。
「しかしまぁ、まだリーネは覚醒しきっていないようだね。自らの力を抑えているようだ。今は使い物にはならない」
「まるでリーネを物みたいに言いやがって!」
「物扱いしていたのはどちらだい?リーネが言っていたのだが、どうやら君は、あまりリーネのことを見ていなかったようだね」
「......」
「リーネの言葉をそのまま言うと、『シルビオさんとは、近くにいたけど遠かった』と」
「......違う」
「優しくはしてくれたけど、それは他の人にも同じように接していた。そうなんだろう?戦闘狂のシルビオ=オルナレン」
「違う!!俺はリーネを見ていた!リーネのことを思っていた!そんなのは嘘だ!!リーネの言葉では無い!」
「そう思うんなら聞いてみるといいさ。もっとも、今のリーネでも人間一人を殺すくらい容易いことだろう」
クソ......なんて様だ。
結局、俺はリーネを守れずに負けてしまうのか。
死んでしまうのか。
世界平和、か......悔しいことに、考えていることは同じだったようだ。
そして、やり方も似ている。
恐怖による支配。
それが、リーネという兵器を使うか、自分自身を恐怖の的とするか。
どちらにせよ、同じことだった。
俺はもう、無理だ。
とっくに闘いは終わっている。皆、リーネからの光線を避けたり、逃げるたりするので精一杯だ。
もう終わりだ。
全てが。
ここで──────
「おい」
パンッ。
破裂音のようなもの。
その後、耳の中でキーンと響く音が聞こえた。
ビンタだ。どうやら俺は、ビンタをされたらしい。
「ッ......アラン」
「リーネは君の仲間だろ。違うか?」
は、はぁ?
何を急に言って......
「......そうだ」
「なら立て。君の仲間が悲しんでいる」
「あぁそうだな。だが、フレンは戦闘の最中。他の魔王軍も、リーネの攻撃をかわすことで精一杯。俺一人じゃなにも......」
ふと、アランの顔を見上げる。
すると、アランは至って真剣な表情をしていた。
さっきまでは俺への憎悪にまみれたような顔だったくせに、今では何かを決心したような......覚悟を決めたような顔つきだ。
「ここは俺が引き受ける」
「......なんだと?」
「リーネは、君に任せる」
「......」
どういう風の吹き回しだ?
だなんて、聞いている時間は無い。
あの、勇者であるアラン=カイバールが......魔王である俺の敵の、アランが「任せる」と言って来たのだ。
その意味は、十分理解している。
「勇者アランが命ずる!この場にいる者は、総員戦闘中止!繰り返す、戦闘中止!今すぐ回避に徹底せよ!!」
「......お前」
「もう一度言う、リーネは君に任せる」
「......あぁ、任せろ。アラン」
やってる、やってやるさ。
そうだ、俺はリーネを助けるためにここにいる。
おが、リーネを止めてやる!
「だが、アードルフの固有魔法は無視出来ない」
「それなら、考えがある。カルラ!王と私達を閉じ込める」
「了解。アイソレーションルーム!!」
カルラが魔法名を唱えると、勇者パーティー.....今ではアランとカルラの二人だけだが、それとアードルフのみを囲うような形で、地面から光の線が伸びてきた。
そして、立方体の形を作り上げた。
「なるほど。私の能力対策に、二人で来たわけか。でも残念だよアラン君。君には期待していたというのに」
「アードルフ王。あなたのような、そんなやり方は、平和とは言わない!!」
アランは剣を構える。
俺に対してではなく、アードルフに対して。
「行け!シルビオ。君を信じる」
「任せろアラン。必ずリーネを......この世界の人を助ける!」
アランは、顔だけでこちらを振り向いた。
そして、少しだけ笑った。
あぁ、任せてくれ。
今、アランと俺の気持ちが、一致したような気がした。




