これだけは使いたくなかった
「カルラか」
「申し訳ございません、アードルフ王。イムアトルの奴隷に手こずっておりまして」
「言い訳はいい。君も参加してくれ」
「はっ」
右翼部隊も合流して来たか。
思ってたよりも時間を食っているようだ。
最強の魔法士のご到着ともなれば、士気はある程度は元通り。
形勢逆転もありえる。
「まずいな......」
非常にまずい状況だ。
まず、兵の数はこちらの方が少しだけ勝っていたのだが、合流した分も含めると、だいたい同じ数へと戻ってしまった。
そして、あちらにはまだアランが残っている。
それに、リーネも。
「ここは私に任せろっ!だァ!!」
勢いよくカルラに向かって突撃するグリフォン。
しかし、カルラの魔力防壁によって防がれてしまう。
「フレン!?」
「ここは私が引き受ける!早く勇者を倒せ!」
しかし、それではフレンの相手が多くなる。
カルラは、味方の兵士がいる限りは特大魔法を撃ってくることは無いはずだ。
砲台でもそうだったが、味方を巻き込むのを出来るだけ避けている。
なら、フレンとの一体一なら何とかなるはず。
「任せたぞ、フレン。さぁ来い!アラン!」
「あぁ、そうさせてもらおう。君と、決着をつける」
お互いに構える。
もう、何を考えても仕方が無い。
フレンが任せろというのだから、俺は任せるだけだ。
......アラン。
お前さえ倒せば、勇者さえ倒すことができれば、もう勝ったも同然だ。
「いいえ!まだ私がいます!」
何!?
反射的にギリギリかわしたが、少しだけ腕にかすった。
糸。
俺の方へ飛んできた後、すぐに硬化した。
ダメージにはなっていない。
だが、危ないところだった。
「リーネ......」
「シルビオさん。私が、間違いを正します!」
「邪魔をするなァ!!」
俺と、アランとの闘いを。
リーネと言えど、邪魔することは許さない。
「うぉおおお!!!」
左半身が痛い。
いや、全身が痛い。
まるで身体中を蝕まれているような感覚。
あの、魔王との闘いを思い出させる。
「アァラァァアンッ!!!」
「シルビオォオオ!!」
メキメキ、バキバキと音が聞こえる。
体が悲鳴をあげているのだろう。
しかし構わない。
例え、体のほとんどがオーヴェインに侵食されようとも。
「ぐおぉおお!!!」
背中の翼を羽ばたかせ、高速でアランへとタックル。
すると見せかけ、それを避けさせる。
わざと避けさせた後、空中で方向転換。
回し蹴りを食らわせた。
「ぐっ!」
が、腕でガードされた。
ガードしたのは左腕。
がら空きの右腕に、光を纏わせているのが見えた。
「くっ!『エイレネ』!!」
「それはもう無い!」
魔法名も叫ばずに、アランの手から放たれた光線が俺の顔へと飛んでくる。
が、間一髪で避け、お返しとばかりに風を浴びせる。
左腕の大振りだ。
この距離なら当たるだろう。
そう思ったのも束の間、アランの左腕のパンチが早かった。
それは、まるでモンハナシャコのパンチのように。
ボクシングで言うところの、ジャブ。
それを、顔面にもろに食らった。
「がッ」
「遅い!」
威力はそれほど高いわけでは無い。
だが、顔面に食らったことで少しの隙が出来てしまった。
ほんの少しだけだ。
しかし、アランならその隙に魔法を使うことが出来る。
「エクスプロード・インパクト!!」
物凄い衝撃が俺を襲う。
気付いた頃には、俺の体は背後の壁へとめり込んでいた。
吹っ飛んでいるという感覚をも感じさせないほどの速度で、叩きつけられたようだ。
痛みさえ感じないほど。
「ぐ......はぁ」
吐血した。
いや、まさか。
あの距離で遠距離魔法を撃ってくるとは。
本来、エクスプロード・インパクトは対軍魔法の一つ。
離れた場所から魔弾を放ち、敵に触れると爆発を起こすという魔法。
それを、こんな近距離で撃つとは。
「なるほど......あの短時間で、いや、あの一瞬で防御魔法もほぼ同時に展開したのか......」
イカれたやつだ。
おかげで、自分自身にもダメージが入っているようだ。
防御魔法も完全防御では無い。
俺程ではないが、多少なりともダメージは入る。
しかし、ノーモーションで発動できる強力な魔法だとはいえ、自身まで犠牲にして俺を吹き飛ばすとは。
「俺が先に倒れるか、君が先に倒れるか......だ」
短期決戦......というわけだな。
いや、どちらが早く決着をつけられるかということか。
どうやら、自らを犠牲にしてでも俺を倒すつもりらしい。
「いいだろう」
めり込んでいた壁を破壊し、無理矢理脱出する。
すると立ち上がった瞬間に、銃声が聞こえた。
しかし聞こえてからでも十分に反応できるほどに、俺の反射神経と運動能力は向上していた。
左手を顔の横に持ってくる。
それだけで銃弾は左手に当たり、弾かれた。
「二人とも相手してやる」
アドレナリンの効果で、大きな痛みは感じないが、それにしたって痛くなさ過ぎる。
そろそろ痛みを感じて来てもいい頃なのだが、全くと言っていいほどダメージが無いのだ。
先程の爆発によって壁に叩きつけられた際に、背中の翼が折れてしまったと思ったのだが......いつも通り動くようだった。
「リーネ、邪魔をするな。これは俺とシルビオとの闘いだ」
「そう言うなよアラン。俺は二人とも相手してやると言ってるんだ。それに、人が一人増えたぐらいじゃ、この俺は倒せない」
「言ってくれるな。だがその自惚れが、仇となるぞ」
「さてそれは、やってみないと......」
低く構え、クラウチングスタートのような体勢になる。
それを見てか、アランも低く構えた。
そして、俺は思いっきり地面を蹴り、アランへ向かって一直線に飛んだ。
「分かんねぇだろッ!!」
アランとの距離は約二十メートル。
その間に、横に向かって腕を払うようにして空を切る。
リーネへと不意打ち。
牽制だ。
案の定、俺の思惑通り、リーネは自分への攻撃は来ないと思っていたらしく、急に来た風圧に驚いてそのまま吹き飛ばされていった。
そのことを確認するのが先か、アランとぶつかるのが先か。
正面から迎え撃って来る気のようだ。
だが、ギリギリで武術の構えを解き、唐突に両手を地面へ突き刺した。
次の瞬間、アランとの距離もわずか数センチといったところで、俺の動きはピタリと止まる。
止まってしまう。
少しも動かせない。
「なんだ!?」
俺の目先にある腕を見ると、鎖が巻きついているのが確認できた。
これは......この強固さ。
固有魔法か。
「終わりだ」
しまった!
アランが、足を天に向かって高々と上げたところが見える。
かかと落としか。
「くッ!!」
まだだ。
こんなところではまだ終われない!!
全身に力を込める。
チェーンは、とても強く固定されており、少しも動かせないような状態だ。
だが、俺の方が一枚上手だったようだ。
「アラン!!」
バキィインと、左腕を拘束していた鎖が砕けた。
左腕の鱗を、まるでナイフのように鋭い鱗を、立てたのだ。
鳥肌のように。
そして、鎖を解いた。
腕だけ動けば十分。
その自由になった腕で、地面に向かって風を放ち、砂埃を上げさせた。
「なに!!鎖を断っただと......!?だが、まだ!」
今度は炎。
アランの口から、高熱の炎が吹き出された。
範囲は広く、勢いも強いが、距離を取れば問題は無い。
そして砂埃が消え、お互いに位置を確認すると、即座に攻撃に移った。
アランの手から雷が放たれる。
これも固有魔法か。
どうやら、今まで使っていなかった固有魔法を、使いまくるという作戦らしい。
だが、どれも俺に大ダメージを与えられるものはなく、全てかき消され、打ち消され、相殺された。
「お前の固有魔法が分かってきたよ。他人の固有魔法をパクれる、チート級のものだと思ったが、箱を開ければ大したことはない。その力、同時に使うことが出来ないのだろう?」
同時に使えない。
いくらアランの魔力が強かろうと濃かろうと、一度に二つ以上の固有魔法を使うことは出来ないのだ。
それぞれの固有魔法の持続時間や、次の魔法の発動タイミングから見ると、同時発動が出来ないことが分かる。
「その受動的な能力故に、弱点があるとはな」
「さすがは魔王、やるじゃないか。だが、これならどうだ」
アランは思いっきり後ろへと跳んで下がった。
なんだ?と、一瞬思ったが、アランが両手の平をこちらへと向けて構えた。
「これだけは使いたくなかった」
しかし魔力が集まっている様子はない。
何も変化が無い。
一体何なんだ?
攻撃では無い......のか?
「父さんの魔法」
父さん。
一瞬、理解が遅れた。
父さん......アランの実の父親である、賢者のことだ。
それに思い当たった直後、いや、直後では間に合わなかった。
思い当たると同時に、全身全霊を持って回避した。
「......ッ!!」
俺は地面に倒れるようにして、無様に生還する、
そして後ろを振り向くと、とんでもない光景があった。
「まじ......かよ......」
地面が、まるで月のクレーターのように抉られていた。
アランの前方一直線上に、もはや地面と呼ばれるようなものは無かった。
「あれ......?」
立ち上がれなかった。
恐怖や驚きででは無い。
足の感覚が無いのだ。
「足......が」
わずかにその範囲に入っていたのか、俺の足は......俺の右足は膝から下が綺麗に無くなっていた。




