正体
作戦はこうだ。
まず、俺が空中を飛び回って、あのクソ兵器の注意を引く。全てのターゲットを俺に集めることによって、魔物達は攻めやすくなるはずだ。
「俺なら、ちょっとやそっとじゃダメージを負わない」
「その体で、よく言えるな」
確かに、さっきまで槍が刺さっていたような体じゃ、体中の傷から血が出ているようじゃ、説得力はない。
だが、俺しかできない事だ。
俺が適役。
「砲台が全て俺の方を向いたら、一気に攻め込め」
「分かった」
それでは始めよう。
最後の戦いを。
「ふむ。万策尽きたか......その身一つで戦おうとは情けない」
王の前に、俺は正面から仁王立ちで構える。
予想通り、砲台は全て俺の方へと向いた。
「それとも、魔物共に見放されたのかい?」
「どうかな」
俺は、真下の地面に向かって左手を横に振った。
すると、風により砂埃が上がる。
「それで、目くらましのつもりかい」
もちろんそんなつもりは無い。
だから、砂埃を上げると同時に、真上へと跳躍していたのだ。
いや、跳躍し、飛翔した。
「上か」
アードルフが指示を出すと、砲台も全て上を向いた。
再び、俺に照準が定まる。
全て────だ。
「放て」
砲台から針が射出される。
一点に集中しているだけあって、先程よりも数が多い。
「だが、照準速度よりも俺の速さの方が上だ」
全力で飛び回る。
全ての針を避けて。
右往左往、上昇下降を繰り返し、グネグネと曲がり、グルグルと回り、針という針を全てかわす。
空中で針は形を変え、槍となる場合もあった。
だが、反射神経を研ぎ澄ませ、ギリギリだが避ける。
避けて避けて避けて。
とにかく避けることに、精一杯だった。
「今だ!」
「うおおおおおぉおおお!!!」
合図を送る。
すると、待機していた魔物達、魔王軍が一斉に突撃をかける。
先程とは違い、もう妨げるものは何も無い。
「ほう。けど、そんなものは策とは呼べないよ」
再びアードルフが指示を出した。
すると今度は、冒険者達が向こうから突撃して来た。
さっきまでは砲台を使っていたから、冒険者を出すと味方にも被害が出てしまう恐れがあった。
だが、砲台は完全に俺のことを撃ち落とすのに専念させ、魔物は冒険者で防ぐことにしたようだ。
「いつまでも逃げ回っているだけだと思うなよ」
砲台。
それは、高威力を出すために造られた兵器。
高威力、高火力を出すためには、その分の火薬や魔力が必要となる。
そのため、発射する装置そのものも、自然と大きくなってしまう。
そのせいで、撃つ際の衝撃も激しく、どこかに固定しなくてはならなくなった。
それが、固定砲台。
「つまり、死角があるということだ」
固定砲台は、壁の上にある。
そしてその壁は、国を囲う形で、円状だ。
そこで俺は、素早く近づき、砲台の真横を狙う。
「砲台というのは、近いほど死角となる。それに砲台と砲台の間に入れば、撃つことは出来ないだろう」
砲台とは言っても、さすがにこの時代でほ全自動化は不可能だ。
よって、砲台一つ一つに人が付いている。
なら、砲台同士で撃ち合うことも出来ないだろう。
「終わりだ」
左腕に風を纏わせ、細かく振動させることにより、チェーンソーのような武器を作り出す。
そしてその腕で、砲台を一つ一つ破壊していった。
「なんてやつだ......ほ、砲台を片腕で....!!」
「に、逃げろ!」
数個破壊しただけで、他の砲台を使っていた人も逃げ出してしまった。
情けない。
そんなことでは戦争には勝てないな。
死をも恐れぬ者。
そんな人こそが、勝つことが出来るのだ。
「さてと......」
砲台はこれで無力化した。
あとは雑魚どもを一掃して、アードルフを......
「おい」
突然、右から何かが飛んできた。
反射的に右腕で防御するが、腕が痛む。
相当な破壊力、蹴りだった。
「ぐッ!」
「忘れないでくれないか。僕が、いるってことを」
忘れるわけが無いだろう......アラン!
魔物達は全員闘っている。
フレンも、敵のエースと交戦中で手が離せない。
対するアランも、同じ状況か。
つまり──────
「一体一......ね」
「そうだ。本当に助けの来ない、本当のサシだ」
「......」
「魔王、お前は僕が倒す」
「かかってこい、勇者」
決着を付けてやる。
「......」
「......」
二人で、向き合いながら睨み合う。
お互いに構えてはいるが、どちらも動き出そうとしない。
この勝負、先に動き出した方が負ける。
と......思っているようだが、俺はそうは思わない。
先に動き出し、最高速の一撃で決める。
俺は足に力を込め、思いっきり地面を蹴った。
それにより、一瞬にしてアランとの距離は縮まる。
「避けてみろ!」
左腕の大振り......と見せかけ、風を纏わせた右腕の突き。
アランは、元々風を纏わせている左腕を警戒していたようで、フェイントに少し釣られながらも、ギリギリ右腕を掴み、止めてきた。
俺のスピードに追いついたのが仇となったな。
アランの腕の鎧と、俺の右腕の風が触れ、火花が飛び散る。
「くっ!フローズン!!」
アランは、そのまま腕を掴んだ状態で魔法を使って来た。
「ッ!?」
それには、俺も驚かされた。
なんと、使ってきた魔法は氷。
俺の右腕を凍らせようとしているのだ。
これは、シュトリーゼの固有魔法か。
「『エイレネ』!」
バキン。
と、氷は割れた。
魔力で作っているものだ、右腕が凍りきる前に『エイレネ』で打ち消す。
だがその代わり、俺の腕に纏っていた風も消えた。
これで一旦リセット。と思ったが、アランはまだ俺の右腕を離していなかった。
「なに!?」
俺の腕を強引に引っ張り上げ、俺の体が引き寄せられる。
気を抜いてしまったのがいけなかった。
アランはそのまま腕を離し、俺の腹に肘打ちを入れた。
続いてボディーブローにより後ろへ飛んだ俺に、追撃をするように蹴りも入れられる。
「がはっ」
鎧は少し砕ける程度で済んだが、中の肉体にはダメージが届いていた。
どうやら、貫通式の武術のようだ。
今のは『型』に見えた。
なるほど、『エイレネ』で魔法が使えなくともお構い無しか。
「もう終わりか」
「いや、まだだ」
倒れそうになるが、踏ん張って耐える。
追撃に来たアランは、俺と同じように、右腕で突き。
手刀のように鋭いそれは、俺の左肩を掠めるだけに終わる。
一方俺は、かわすと同時にアランの左側へと回り込み、左腕でのラリアット。
アランのように型が使えるわけではないが、その分パワーとスピードで補う。
そのために体に直接付与したのだから。
「ふぐっ」
「おりゃああああ!!!」
力を込め、地面に叩きつける。
手応えはあった。だが、このくらいで殺られるようなやつでは無いことは知っている。
すぐさま距離を取り、様子をうかがう。
砂埃が上がっており、まだ姿は見えない。
「さっさと立ち上がれ、そんな所で時間を稼いでも─────」
金属の破裂するような音。
何度も聞いたことのある、発砲音だ。
それに続くように、銃弾が視界に入って来た。
この距離なら、かわせる。
が、銃弾を意識していたせいで、既にアランが間合いに入っていたことに気付くのが遅れた。
すぐさま振り返り、拳を叩き込む。
「ぐふっ、があぁ!!」
腹に命中。したのは、アランの拳だった。
だが、それぐらいでいちいちやられていては埒が明かない。
俺は痛みに耐えながら、腹にめり込んでいるアランの腕を、肘打ちした。
骨の砕けるような音が聞こえる。
しかしアランも、腕の犠牲を無駄にはしない。
反対側の腕で、俺の頭を掴み、膝で打つ。
「ッ!」
一瞬。思考が停止してしまうほどの衝撃。
その隙にアランの腕は離れる。
驚いたのは、その後だった。
アランは、その折れた腕もろとも殴りかかって来た。
「馬鹿なッ!?その腕で」
「うぉおおおお!!!」
殴り蹴り。
切り突き、叩き破り。
格闘をする。
しかしそれに対抗し、俺も攻撃をする。
殴り合いと殴り合い。
魔法など使えず、一切使わず、単純な喧嘩のような。しかしそれでいて殺意のある闘いだ。
お互いに鎧はボロボロ、攻撃している方もされている方も、どちらも徐々に体力は削られていった。
「はぁ!!」
「うおぉ!!」
同時に顔面を殴る。
鎧を通して、頭に伝わる痛み。
あちらは顔に鎧を被っていない分、ダメージは大きいはず。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ぐぅ......がはっ」
アランは、ついに吐血する。
だが、俺も立っているので精一杯だ。
「なかなか、やるじゃないか......勇者」
「魔王のくせに......俺みたいな人間なんかと......互角に闘っていていいのか?」
当たり前だろう?
半分はドラゴンになっているとはいえ、元々は人間だ。
人間同士で闘って互角なのは、何も不思議じゃない。
だが、そろそろ終わらせなくては。
見たところフレンは重症を負っているようだが、敵エースは倒している。
他の魔物達も、人類より損傷は抑えられているようだ。
なら、ここで俺が勝てば─────
その時だった。
金属の破裂するような音。
銃声。
しかし、よく聞くものよりも重く、強い気がした。
どこだ?どこから聞こえたんだ!?
辺りがスローに見える。
しかし、アランは銃を構えていない。
なら、どこから─────
ガキンッ
「......ッ」
頭の左側。
気づいた時には、既に衝撃が来ていた。
「命中。これでいいのですね」
「あぁそうだ、それでいい。良くやったよリーネ」
リーネ?
まさかお前が......?
「アードルフ!!手は出すなと!」
「アラン君。君は隙を作ってくれた。おかげで魔王をやることが出来た。感謝するよ」
「アラン!騙したな!何が一体一だ!!」
「俺じゃない!アードルフには手を出すなと言った!」
ピキピキと音を立てる頭の鎧。
ひび割れの音だ。
そして、バキン。
と、鎧は砕けた。
「ッ!?」
「......!」
視界が広がり、辺りが見渡しやすくなった。
呼吸もしやすい。
しかし、皆の視線が全て自分に集まっていることは、不快で仕方ない。
「そんな......嘘......ですよね?」
「......」
リーネの驚く顔もよく見える。
鎧......いや、仮面が割れてしまった俺は、ついに正体がバレてしまったようだ。
「やはり、君だったんだな」
「ほう、お前は気付いていたのか?アラン」
「疑ってはいたさ。突如姿を消して、その数日後には魔物の動きが変化した。さらに、左腕を中心とした闘い方、風魔法。これはほぼ確定と言ってもいい」
「ならなぜ、疑っていたなどという曖昧な表現をするのだ」
「信じたく無かったからだ!同じ人間なのに......闘わなくちゃいけないだなんて!」
そんなこと......魔物にも同じことを言えるではないか。
人間も魔物も同じ生き物だ。
なら、魔物と殺しあえるなら、人間とも殺しあえるはずだろう。
「わ、分かりました......幻覚ですね!そうやって私を騙すために!固有魔法を使って」
「リーネ......久しぶりだな」
俺は、リーネの方を向いて、優しく微笑んだ。
「そうだ。俺が」
マントを翻し、声高らかに名乗る。
全員に聞こえるよう、この場にいる全員が理解できるよう、叫ぶ。
「俺がシルビオだ!!」
魔王シルビオだと、俺は言った。
「本当に......シルビオさん、なんですか?」
「あぁそうだとも。あの後、捨てられた後、俺は魔王に拾われた。そして、魔王の意志を受け継いだのだ」
そう、魔物も人類も、共存できる優しい世界を作ることを。
「違う!君は利用されているだけだ!」
「そうだ。俺は自ら利用されに行ったんだ。魔王の夢を叶えるために」
「シルビオさん!もうこんなことやめて、戻って来て下さい!」
「うるさい!」
俺は自らを捨てたんだ。
もう元には戻れない。
......本当は気付いていた。
自分が、闘いを楽しんでいることを。
異世界に転生して、転生先は最悪の悪者だったけれど、それでも最強と言うほど力を持っていて。
けれどやっぱり、主人公であるアランには勝てなかった。
だから、主人公を奪ってやろうと思った。
リーネやメイド達にも優しくし、純粋に学園生活を楽しもうと、そう思っていた。
でも......無理だった。
俺はシルビオとは違って、優しいし強いし、主人公に向いていると思っていたんだ。
しかし現実は違った。
実際にはシルビオと何も変わらなくて、メイドの使い方も荒く、リーネは利用しているだけ。
金と自由さえ与えていれば、優しくしていることになるとでも思っていた。それが優しさだと、そう思っていたのかもしれない。
結局、素の所ではシルビオと何も変わらなかった。
変わっていなかった。変われていなかった。
だから......
だからせめて、俺は魔王の意志を継ぐと。
この世界に平和をもたらしてみせると、そう考えたのだ。
「お前らに何が分かる!」
地面を蹴り、アランへと突撃する。
不意を打ったつもりはない。
ただ感情に流され、目の前の敵をぶん殴りたくなっただけだ。
しかし、その拳は空振りに終わる。
「分かるさ、その気持ち。俺も幼い頃、父さん───君達が賢者と呼ぶ人に拾われた。父さんは凄い人だった。その当時は賢者だと言われてもよく分からなかったが、凄い人だということだけは、見てわかった。だから、俺も父さんについて行こうと思っていたのだ」
アランは、避けるだけでなく、俺の拳を受け始めた。
そして、アランも攻撃を開始する。
「けど違った!父さんはついてくるなと行ったんだ。自分の意思で決めろと、周りの人に頼るのも悪くは無い。けれど、自分で解決もできるようになれと」
アランの拳はとても重く、そして思いが詰まっていた。
「確かに凄い人は、凄いと思う。その人が絶対だと思ってしまうくらいに。けれど、君はどうなんだ?それは君の道なのか?ただ他人の道を歩いているだけなら────」
「黙れ!!俺が自分で決めたと言っただろ!お前は何もかも持っているから、そんな余裕のある事が言えるんだ。俺は道を踏み外した訳では無い、元々踏み外していたんだ」
転生して来た時から、道を間違えていた。
方向を、勘違いしていた。
正しかったのは、こっちの道だった。
「こんな不毛な会話を続けたって、なんの意味も無い!ここで終わらせてやる!」
「そうは、させない!」
バキンッ!
何かが割れる音がした。
ガラスで出来た、何かだ。
「このために練習してきた。ただひたすら、これだけを」
な、なにぃ!!?
破壊されていたのは『エイレネ』だった。
リーネの射撃。
その精密さには、驚きを隠せない。
「良くやったよリーネ。君は最高だ」
「あ、ありがとうございます!アードルフ王様」
「くそ、『エイレネ』が」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
俺はいつの間にか地面に倒れており、頬を抑えていた。
後から気付いたが、焦っている俺の頭に蹴りが飛んできたようだ。
「これで魔法も使える」
アランは光を手から放ち、剣の形に変える。
その光の剣は実体化し、本物の金属の剣になった。
アランは、その剣で俺に向かって斬りかかってくる。
「くっ、自分だけが魔法を使えると思うな!」
左腕に力を込める。
すると、腕の鎧が砕け、ドラゴンのような禍々しい肌が姿を現した。
そして、そのまま左腕で剣を受止めた。
ガイィンという金属音。
普通の左腕なら、刃物を受け止めるなど不可能。
しかし、俺の腕は既に人のものでは無い。
刃も通さぬ皮膚と、山をも砕く剛腕。
そして何より、その身に纏う風を起こす能力。
「その姿、もはや魔人のそれだな」
「こうでもしなければ、お前に届きすらもしない」
数回、剣と腕で斬り合うと、再び距離を取り直した。
「それこそ無駄な行為だと、なぜ分からないんだ。君は僕には勝てない!」
「勝てないなら挑戦しないのか?挑戦が大好きなのは、主役(お前ら)の方だろ」
「君には、何を言っても無駄なようだ」
「ようやく、俺のことが分かってきてくれたようで嬉しいよ」
もう一度、アランと斬りあおうとしたその時だった、背後からの攻撃に気づいた。
銃弾ではない。これは、魔法だ。
威力も速度も無い。
俺は簡単に片手で払い除けた。
しかし、その振り払った腕に、痺れを感じた。
なるほど、雷系統の魔法か。まともに食らえば麻痺ってことか。
「勇者様、遅れて申し訳ございません」




