魔王なのだから
なるほど、オーセリーなら本人に気付かれずに本性を暴ける。優秀だな。
「貴様が魔王か......ふむ。思ってたよりも若い声をしているな」
オーセリー......拘束されていないということは、やはりもう敵の手駒か。
「だが、スパイが分かったなら処分すればよかっただろう?なぜしなかった」
「今の状況がその賜物さ。君は見事に引っかかった」
敵の方が一枚上手だったということか......だが、まだ負けた訳では無い。
ここで勇者共を殺し、俺がこの国を治める。
「いやいや、むしろ感謝するよ。ここで全員まとめて葬れるわけだからな」
「お前には無理だ、魔王。そろそろ諦めたらどうなんだ」
アラン......うるさい虫だな。
何をしても好かれるお前には、この気持ちが分からないだろう。
何もかもを持っているお前には、俺のことが分からないだろう。
だから嫌いなんだ。
「いくぞみんな!集中砲火だ!!」
周りを囲んでいる兵が、一斉に魔法を放って来た。
まだ残っていたのか雑魚共。お前らに用は無い!
「『エイレネ』!」
魔法は、発動する前に消え去った。
魔法士の雑魚共は、驚いている。その間に、俺は『エイレネ』を解除して、左手で横に薙ぎ払う。
遠距離魔法でしか届かなような距離でも、俺のかぜは余裕で範囲内だ。
あっという間に雑魚共を粉微塵にしてやった。
その隙に、俺の後ろにいる魔物達は、一気に詰め込む。
「へぇ、『エイレネ』か。あの魔力を打ち消すという魔道具。私が知っているもので良かったよ」
「なに?」
アードルフの口から、思わぬことが聞こえた。
『エイレネ』を知っているだと?
「驚いている顔だね。無理もない。だが、私が知らないわけもないのだよ。なぜならイムアトル国や他の国のほとんどが、ヴェロニア国の監視下なのだよ」
「監視下だと?だが、ヴェロニアは完全独立した国だと......」
「そう思わせているだけさ。イムアトルの王が代わる度に、諜報員を送り込んでいたようだね。この国の前王様は」
前......ヴァレンティーノか。
確かに、あのイカレた野郎ならやりかねないことだ。
他の国の技術を盗むためか、バレていないか情報を知るためかは定かではないが、それをアードルフにも利用されたというのは痛いな。
「もっとも、貴族になりすましていた諜報員は、見事に死んでしまったようだが。しかし、『エイレネ』の情報だけは手に入った。それだけで十分だと私は思うね」
「アードルフ王。一つ、御質問があります」
「なんだい?アラン=カイバール君」
「その『エイレネ』という魔道具、魔力を打ち消すと言いましたが、魔力の無いものなら打ち消さないのでしょうか?」
「もちろんだとも。そのために君には、それを渡したんだ」
「それ」?なんだ、「それ」とは。
いや、そんなことより『エイレネ』だ。存在を知られているとしても、対策なんか出来ない。
なら、このまま『エイレネ』で魔法を打ち消し、俺の魔法では『エイレネ』を解除する。
「行くぞ、魔王。俺がお前を倒してやる」
「あぁ、かかってこいよ。勇者」
アランは、左手の平を俺に向ける。
「フォトンスプラッシュ」
全く予備動作のいらない魔法。
アランの左手の平から、人の顔程度の大きさの光弾が放たれた。
舐めているとしか思えないその魔法は、まるで俺に『エイレネ』を使えと言っているようにも思える。
良いだろう、何を考えているかは知らないが、その作戦に乗ってやる。
「『エイレネ』」
パンッ!と、光の弾が弾けた。エイレネの効果範囲を調べていたのか?
と、思っている間に
「ぐっ!なんだ!?」
目の前が真っ白になる。
光だ。
先程の光弾が弾け、光が空中で広がったようだ。
こいつはただの光弾では無く、魔力で光を集めて包んだもののようだ。つまり、魔力を消す『エイレネ』によって外殻を壊された光の弾は、中の光を一気に放ち、俺の視界を眩ませたわけだ。
だが、それがどうした。いくら距離を取ろうと、俺の周りに効果が及ぶ『エイレネ』だ。範囲にはいれば魔力は消される。
「つまらない闘い方だな。勇者ってのはこんな小賢しいやつなのか?」
「俺だって嫌さ」
やっと視界は見えるようになり、アランの姿を確認する。
が─────アランは銃を持っていた。
「けど、手段は選んでいられない」
発砲音。
いつもはもっと近くから聞こえていた音。それが、ずっと遠くから聞こえる。
気付いた頃には遅かった。
アランの持っているものが銃だと分かった時には、もう俺の目の前まで弾丸は到達しており、『エイレネ』の解除も、体を捻ってかわすことも出来ない。
「ぐッ」
カァンという大きな金属音を立て、俺は少し後ろへ退いた。
胸に命中したようだ。さすがはアラン、武器の扱いは手馴れているものだ。
衝撃はあったが鎧を貫通することはなく、へこみを作るだけに終わった。鎧は特別製で、付与魔法によって防御力を上げているからな。
「銃か......」
確かに、魔力を一切使わない銃であれば、『エイレネ』の範囲内であっても打ち消されることは無い。だが、この世界に銃は存在しないはずだ。
唯一、俺だけは持っているが......
「まさか......」
ザックか。
あの変態科学者。過去に俺と共に電話機を作り、全ての功績を持って行った男。ザックはそのつもりが無かったとしても、結果的にはそうなってしまったのだった。
やつなら一度、銃のことを話したし、リボルバーくらいなら作れそうだ。
国の騎士のために働いていると聞いていた。なら、あれはおそらく、俺のリボルバーのコピペだ。
アランは、銃口をこちらへ向けながら、詠唱を始めた。
「射出威力増加、付与」
なるほどな。『エイレネ』の範囲外で、銃そのものに付与をし、銃弾の貫通力を上げるのか。
『エイレネ』を解除すれば、魔法が飛んで来る。しかしこのまま解除しなければ、銃弾を防ぐことも、反撃することも出来ない。
どころか、一方的に撃たれてしまう。
「次は弾けない」
バンッと、もう一発放たれる。
来ると分かっているなら避けられる。そう思っていたのが甘かった。
確かに、避けることは出来た。真っ直ぐくるその銃弾は、俺の頭を掠めて、後ろの方へと飛んで行った。
しかし、もう一発の方が命中したのだ。
アランは、避けられると思っていたのか、二発撃ったのだ。
そりゃあ、一発づつ撃たなくては行けないなんてルールはない。これは殺し合いなのだから。
「ぐぅッ」
しかも、弾丸は右肩に命中し、見事にくい込んでいた。
「が......ぐッ、うう!」
痛い。熱い。
やはり鎧を貫通して来たか。
「このまま殺らせてもらう」
あと三発。
あと三発撃たせれば弾切れだ。
リボルバーの弱点は、装弾数。全六発までしか入らないリボルバーは、必ずリロードを入れなくては再び撃つことが出来ない。
その隙に間合いを詰めればいい。
こちらもリボルバーで対抗すれば良い。それも思ったが、リボルバーを使えばその瞬間、俺の正体がバレてしまう。
「さぁ、来い」
バンッ。
四発目。ギリギリ回避。
五発目。腹部に命中。そのせいで少し動きが鈍る。が、今が攻め時。一気に間合いを詰める。
そして最後の、六発目。
これは覚悟の上だ。俺は六発目を甘んじて受け、勢いを殺さずにアランの元へ走る。
つもりだった。
アランは六発目を撃つ前に、何がを腰元から取り出し、空に向かって投げた。
そして、その何かを最後の一発で撃ち、破壊する。と、何かからは黒い煙が一気に吹き出し、あっという間に俺の────いや、俺達魔王軍を包み込んでしまった。
「また小賢しい真似を......」
周りが黒い煙で、視界は全く頼りにならない。
この隙にリロードか。だが、そうはさせない。
一時的に『エイレネ』を解除し、左腕の大振り。風で煙を吹き飛ばす。
「こんなものに惑わされる俺では......な、んだ?あれは」
目の前の壁の上には何台もの大きな兵器がこちらを狙っていた。
なぜ兵器で、こちらを狙っているのか分かるのかと言えば、それは簡単な話だ。
それは、大きな銃に似ていたからだ。
「リロードのためではなく......まずい!魔王軍、退避!!」
退避命令も間に合わず、他の魔物達も危険を察知したころにはもう遅かった。
何かが発射される。
そして、それは思っていたよりも弾のスピードが速かった。
風のバリアをすり抜け、俺や他の魔物達もの体に命中する。
「ぐッ」
あの大砲から放たれた割には、細い針だ。おかげで風の抵抗を受けにくいようだ。しかし、針は鎧に刺さっているものの、貫通はしていない。
俺は命拾いをしたようだ。
と、安心していたのもつかの間。横腹に命中した針は、形が一瞬で変形し、槍のような形になった。
大きさ、そして形が変わった。
同時に、鎧を貫通した。
「ぐはっ......け、形状記憶か」
元々は短剣ほどのサイズしか無かった針だが、槍のような、身長ほどもあるサイズへと変わった。
小さくすることで、かさばらずに撃てるわけか......そして、連射もできるようだ。
すぐさま二発目が放たれた。
近くにいた魔物達ごと庇い、風魔法で対処する。
「俺一人なら耐えられるが、魔物では対処できない!」
まるで矢の雨のごとく、ミニガンのように飛んでくる針。
目の前で次々と魔物が死んでいく。
「クソ、ここまでか......下がれ!一旦退く!!」
ここで全滅してはかなわない。
それだけは避けなくてはならないので、魔王軍は全力で退避した。
針の雨を受けながらも、何とか射程外に出ることは出来た。
だいぶ城から離れてしまったが、仕方あるまい。
魔王軍の約半分が失われてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ......」
「マオウサマ、ゴブジですか?」
「あぁ、俺は大丈夫だ......それよりも、他のものの手当を」
俺....と言ってしまった。
俺も随分と余裕が無いようだな。自覚してしまう。
体中に突き刺さっている槍。
抜かなければ横になれないほど、大きな物だった。
「とりあえずは近くの森へ隠れたが......」
「このままじゃ、私達は全滅......だな」
いつバレるか分からない。
いや、わざわざ殺しには来ないかもしない。だが、それでも攻めることが出来ない。
「あの兵器、空中にいる魔物も撃ち落としていたな」
「あれさえ壊せば、まだ勝機はある」
どうかな。
俺は、あの勇者に......アランに勝てなかった。
今ここで闘っても、おそらく同じ結果だろう。
「クソッ!どうすればいいんだ!!」
アランは銃を使い、その銃の応用で兵器まで作りやがった。
こちらの方が、エリートを覗いての兵力は上。しかし、あちらの方がエリートが多く、総合戦力としては負けている。
「勝てない......俺じゃあどう頑張っても勝てないんだ。やはり、最初から間違っていた......魔物が人類に勝つなどと、幻想を......」
「落ち着け。お前は誰だ?他でもない、魔王なんだろ。だったら、魔物である私達を導け!いままで通り、いつものように、お前の作戦で」
「俺の......作戦」
「そう、シルビオの作戦で」
シルビオ......そうだ。俺は魔王シルビオだ。
俺は前魔王の意思を受け継いで、世の中を平和にすると決めたんだ。
魔物と人間の、争いのない、闘いのない世界にすると。
「そうだな......ありがとう、フレン。さすがは魔王の補佐だ」
「気付いたならいい。さぁ、作戦を」
「あぁ、任せろ。だって俺は」
魔王シルビオなのだから。




