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姉妹愛のおしまい

予定通り、山を挟んで大回りしながら、敵国を攻める作戦に出た。

目標は、左翼のレメイ。元奴隷達のおかげで、いや、これは作戦の成果もあって、おそらくだがバレずに移動できたようだ。

なにせ大人数での裏取りだ。右翼軍と正面の軍が来る前に、一気に左翼を突破しなくてはならない。


「マオウサマ、テキです」

「もう会敵したのか?思ってたよりも敵の進軍が早いな」


まずいぞ。ここで戦いになれば、元奴隷達を倒してきた軍が、すぐに追いついてくる。


「フレン、俺が一人で行く。命令を待て」

「何をする気だ?」

「話し合いだよ」


バサッと翼を羽ばたかせて行く。

正面にみえる敵群の方へ。


「ん......?て、敵襲!敵襲!!」

「バカな!?裏取りに気付かれていたのか?」

「うろたえるな!数を確認しろ!」

「え、えーっと、空に一匹です!」

「一匹だと?嘘をつけ、そんな馬鹿なこと──」

「いいや、本当だ」


バサッ。と、女の後ろへ着地する。

あまりの速さに、兵達は驚いて身を引いてしまっている。だが、女だけは抜剣し、俺に背を向けながらも戦闘態勢に入っている。


「......貴様、何者だ」

「その前に......質問には答える。その代わりどうか落ち着いて欲しい。私は何も、闘いに来た訳では無い」

「......」


女はカチッと、剣を納める。だが柄は握ったままだ。一応話は聞いてくれるようだ。


「ありがとう。私は魔王、君達が戦いに行くつもりだった魔物達の王であり、君達の敵だ」


「なんだって?」と、ザワつく人類。信じられないのか、驚き慌てふためいている。

ただ一人落ち着いているのは、目の前の女だけだ。


「ほう......見る限り、やはりお前がこの軍の隊長のようだな」


パッと見て、前線にいる女はコイツだけだった。

だから当てずっぽうだったのだが、どうやらビンゴのようだ。近くで見て気付いたが、やはり、同じ髪飾りをしている。


「だったら何だ。殺すか?」

「だから、闘いに来たわけじゃないって言っているだろう。話し合いに来た」

「話し合い?私がそんなものに応じるとでも?」

「応じるさ。すぐにな」


そう言って、俺はある物を取り出した。

小さな宝石の付いた、地味なネックレスだ。

それを、女の目の前で堂々と見せつける。


「ここは一時休戦と行かないか?」

「そんなこと、承諾するわけが......」


女は少しだけ不思議そうにネックレスを見つめていたが、すぐに気が付き、顔をしかめた。


「そ、それは......なぜそれを貴様が持っている!!」

「まぁまぁそう怒鳴るなよ。落ち着けって、レメイ=ナード」

「くっ」


そう、これはナタリアに貸してもらっているネックレス。ナタリアには、お守り代わりとして言ったが、本当はその姉であるレメイを騙すための道具。いや、落ち着かせるための脅しだ。


「とりあえずは安心することを伝えよう。妹はまだ生きている」

「やはり、それはナタリアの......」

「そうだ。だが、まだ生きているってだけで、これからどうなるのかは保証出来ない。条件次第では、お別れになるかもしれないからな」

「き、貴様ァ!!卑怯な!」

「取引きと行こうか」


ナタリアと軍が離れたことが幸運だった。

おかげでレメイは、ナタリアの状況を把握出来ない。まぁ、俺も出来ないから、本当に生きているのか、それとも元奴隷達に殺されてしまったのかは分からないが。別にどうだっていい。


「た、隊長......」

「黙っていろ!絶対に下手な動きはするな!絶対にだ!!」


焦っているな。いいぞ、そうだ。焦るがいい。そして良く考えるんだ。どうすればいいのかを。

お前の愛する妹の命は、今魔王の手にある。それを回避するには、話し合いを受け入れるしかない。


「何もここを通せと行っている訳では無い。休戦だ。私は魔物達を殺させたくはないし、君達だって死にたくは無いだろう?それに、特に君は殺されたく無いはずだ。君自身ではなく、妹の命を......ね」


ここを通せというなら、例え妹の命がかかっていたとしても、全力でかかってくるだろう。しかし、休戦ならば、条件を呑めなくは無いはずだ。


「......分かった。条件を呑もう。場は、休戦だ。私達は一旦身を退く。その代わりは妹は......」

「あぁ、良いだろう。解放してやる。だが、一人で帰れるかなぁ、心配だ」

「なにぃ!?おい貴様!話が違うだろ!今すぐ妹を返せ!!」

「まぁまぁ、もう一つ条件を呑んでくれれば、妹さんを届けてやるよ。今からすぐにでも」

「なら場所を教えろ!私が取りに行く」

「なぜ君の言うことを聞かねばならないのか。条件を呑んでからだと言っているだろう?」

「く......ゲスが!」

「結構。条件は、武装解除だ」

「なっ......!?」


武装解除。武器や盾を、捨てろということだ。

これは少しやり過ぎたかもしれないが、利用できるものは利用できる時に利用しておかないとな。

たかが退避だけで、この妹愛という駒を捨てるわけにはいかない。

武装解除までいけば、さすがにここを突破して下さいと言っているようなものだが......。


「......それで、本当に妹を解放してくれるんだな」

「た、隊長!目を覚ましてください!」

「黙っていろと言っただろっ!!......どうなんだ?」

「良いだろう。......すまないね。我々は実は臆病でね。退いたと思わせて進軍して来るという可能性だけで夜も眠れないのさ」

「分かった」


レメイは、腰から剣を外し、鞘ごと地面に置いた。


「これで妹が助かるなら」

「隊長......」


レメイの近くにいたものから、少しづつ他の者も真似をするよに武器を置いていった。

鎧ぐらいは、許してやろう。


「皆、ありがとう......」

「いえ。我々も、死にたくありませんので」

「......よろしい。妹の場所は、この横の山を少し登った所にある洞窟だ」

「そんな近くだったのか......」

「あぁ」


俺は、ゆっくりとレメイに近づき、ネックレスを渡す。


「脅したりして悪かったな。こうでもしないと、我々魔物は信じてもらえないのだ。このネックレス、一緒に買った物なのだろう?お前の手から返してやれ」

「お前......」


レメイが驚いた表情でこちらを見てるので、ニコッと少し微笑んで見せた。後から気付いたが、それは仮面の裏だったので見えていなかっただろうが、優しい雰囲気くらいは伝わったはすだ。


「お前達......魔王でも、優しい所はあるんだな」

「まぁな。俺だって元人間だ。闘いたくはないさ」

「そうか、やはり......なぁ、今度は、敵としてではなく、同じ人間として会ってみたい。できるか?」

「さぁ、どうかな。この戦争が終わったらにでも。平和な世の中になってからなら、是非ともご一緒したいものだ」


すると、レメイは少しだけ微笑んだ。

まさか、さっきまで殺し会おうと思っていた人だとは到底思えないくらい、その笑顔は可愛かった。


「武器は明日にでも取りに来い。それじゃあ、またな」

「ええ、またいつか。平和になったその日まで」


そう言い合って、俺達は踵を返した。

お互いに武器は持たないまま、手ぶらで帰った。

レメイは、これから妹の所へ行くだろう。俺が教えた、嘘の場所へ。


「フレン、全軍に伝えろ。俺の合図と同時に一斉突撃だ。敵は武装を解除している、一気に突破しろ」


俺は、魔物達の目の前で、もう一度踵を返した。

俺達に背を向けて、撤退する人類の菅田はもう見えない。

平和になったら......か。

結局、姉の妹愛は、俺の読み通り本物だった。それも、馬鹿なくらいに。

別に、姉に責任は無い。俺ももし同じ状況下に置かれていたら、同じことをしていたかもしれないし。何より、どちらを選択していたとして、どちらにしろ俺達は突破していた。

ただそれが、素早く楽に突破出来たかそうでないかの違いだ。だから国が支配されても、それはお前の責任では無いさ、レメイ。


「全軍、突撃!!!」


ワァアアっと一斉に走り出す。

魔物は、人類よりも足が速い。それに武器などなくとも、攻撃手段がある。


「ッ!?」


振り返る人間ども。だがもう遅い。武器がない人類など、ただの雑魚。赤子の手をひねるようなものだ。


「き、貴様ぁぁあ!!!魔王ッ!!騙したのかぁああああ!!!」


断末魔の中で、血しぶきの中で叫ぶレメイ。

空中にいる俺に向かって、罵声を浴びせて来る。

なんて哀れなその姿。

何も出来ずに、叫ぶことしか出来ない姿に、俺は同情せずにはいられないな。


「クソッ!まだ私は死なない!ナタリア!!ナタリアぁああ!!!」


レメイは、素手で魔物達を殺していく。殴り、蹴り、首の骨を折り、怒りに我を忘れたように、狂ったように殺す。さすがは勇者パーティーだ。

すると、足元からナイフのような短剣を取り出した。隠し持っていたのか。だが、そんなわずか刃渡り十センチ程度の武器で、魔物達全員を殺すことなどできるわけが無い。


「レメイ......これは冥土の土産だ。これだけ本当のことだ。嘘では無い」

「き、貴様ァ!!魔王がああああ!!!」


地面に降り立った俺を見つけたレメイは、死にものぐるいで俺へ一直線だ。

既に体はボロボロ、魔物達による攻撃で、鎧の隙間から血が溢れ出ている。


「ナタリアならそもそも人質にすらしていない。そのネックレスは、ナタリアに貸してもらったものだ。ナタリアなら反対側の山で元気に生きているはずだよ」

「殺す!!殺すぅううう!!!」


もう声は届いていないか。

あぁ、悲しいことだな。人類とは、ほんの僅かな心の隙により、こうまでなってしまうのか。

左腕の手のひらを、レメイに向ける。

右手で左腕を掴み、固定する。


「レメイ......だが、ご一緒したいと言ったのは本当だったよ」

「殺すぅぅう!!殺してやるぅぅぅう!!!」

「さよならだ」


手のひらから、まるで台風が横を向いたかのような突風が出る。

真っ直ぐ前へ、風がグルグルと回転し、前方にいた人類を巻き込んでいく。

そして風が止むとそこには、抉られた地面と人類の死体、そして静けさだけが残った。

魔物達には、この攻撃の前に起こる僅かな風に反応し、予め退避するように伝えてあっただけに、この攻撃では誰も死ななかった。

だが、素手だった人類に対して少しだけ減らされてしまった。


「先を急ぐぞ」


例え非難されるやり方だとしても。

嫌われるような考え方だったとしても。

それでも俺は前へ進まなくてはならない。

手段は選んでいられない。

もう一度そう、心に言い聞かせて、俺は進んだ。

来た道は、一度も振り返らなかった。


──────────


ヴェロニア国。

ついに、目的地へと到着した。

王の城が見えてくると、俺がまだ?ギルドメンバーと一緒にいる際に作っていた塹壕も見えてくる。

するとその塹壕の裏から、矢が雨のように降って来た。

よく見ると、魔法によりエンチャントされているな。おそらく火属性か、爆破属性といったところだろう。


「最後の難関である弓兵か」


左腕を、空に向けて大きく横に薙ぎ払う。

それだけで、宙から舞い降りてくる矢は、全て吹き飛ばされた。

それどころか、空中で矢同士がぶつかり合い、爆発を起こす。やはり爆破属性だったか。


「どうするんだ?もう少し近づけば、直接矢を放ってくるぞ」

「俺が何のために『銀騎士(ぎんのきし)』として奴らの信頼を得ていたか分かるか?」

「?」

「これだよ」


俺の腰の右側に掛かっているものを、右手で掴む。

久しぶりに使うな、リボルバー。

よく照準を合わせて、正面の塹壕に向けて撃つ。

すると銃弾は、塹壕に吸い取られるように、見えなくなった。


「塹壕に爆破属性を付与しておいた。だから、少しの刺激で────」


ドカァアアンと、爆音が響き渡る。

銃弾が当たった箇所の塹壕が、爆発したのだ。するとその横も、さらにその横まで、と、どんどん引火するように爆破が連なっていく。

あっという間に、塹壕は粉々。近くにいた人もごと巻き込んで、破壊された。


「さ、行こう。ここが最終防衛ラインのはずだ」


俺達は難なく国へ乗り込んだ。

既に盤面は王手。

ここから先は、アラン達が戻ってくる前に、ただ王を取るだけ────のはずだった。


「な......に?」


王城の手前。

そこには、アラン達主力のエリートメンバーが総出で出迎えてくれていた。


「やられたな......一体全体、こいつはどういうことだ?」


なぜ勇者がここにいる?

今頃俺達がいないことに気付いて、戻り始める時間のはずだ。

なのに。なぜ目の前にいるんだ。

勇者アラン、ヒロインフィリア、教師グリエラとシュトリーゼ、そして────


「リーネ......」


豪華メンバーの背には、そびえ立つ台。その上で、やけに背もたれの長い椅子。まさに王の椅子といったようなものに、堂々と腰掛ける者がいた。


「私はアードルフ=ヴェロニア。今のこの国のを治める、王だ」


あいつが王、アードルフ=ヴェロニアか。


「君はさっき、『どういうことだ?』と言ったね。簡単なことさ」


アードルフが口を開く。


「普通、魔王は何も考えずに正面から来る者だ。だから、歴代の魔王達は己の力を過信し、戦術を立てない。故に負けるのさ。しかし、今回は違う。なぜだか、新しい魔王はすぐに攻撃をしてこない。一度こちらから攻撃をしたことがあったね。あの時、魔王なら追いかけて来たはずだ」


だが、今回は違った。

追いかけてこなかった。


「挙げられる理由としては二つ、『我々人類への勝利では無く、何か別の目的があるのか』。もうひとつは、『魔王も頭脳を使うようになった』というものだ。私は、後者を選んだね。だから今回はかけだ。人類の側に、スパイがいることに」


なるほどな、だからギリギリで作戦を変え、そのスパイには悟られないようにしたわけか。

つまり、作戦変更が伝わる前に俺は魔王軍へと戻ったから知らなかったというわけか。


「そして、作戦変更とともに、焦って持ち場を離れた者がいた。それが」

「ッ!」


ミネス......!

ミネスは、アードルフの横から拘束された状態で連れ出されて来た。

捕まったということか。

既にアードルフには、スパイだとバレていたのか。


「ごめん......なさい、私......」

「新参者を疑わないわけが無いだろう?しかもこんな時に」

「それを分かっていて、スパイだと分かっていてわざと引き入れたと言うのか?」

「そうは言わないさ。全てこの子が入ってから、思い出したかのように疑い始めたわけだしね」


誰がスパイなのか見当もつかないまま、情報をわざと掴ませて泳がせていたということか......。

なんて奴だ。


「それに、うちには嘘を暴くのが得意な人がいてね」


すると、ミネスの後ろから、

見覚えのある顔。懐かしいようで、悲しい思い出を思い出す。

オーセリー=イルペ......!

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