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平和のための戦争

俺は今、『銀騎士(ぎんのきし)』としてギルドメンバーと共にいる。

国の周りに、塹壕を作っている。侵入しにくいように、それと弓兵を置くためにだ。

残念ながら、戦争の幕開けはここで行うことになりそうだ。まるで年が明ける時にトイレにいるような、そんな気分だ。

だが、おかげである程度の情報が確定した。

元々聞いていたものだが、自分の目で確かめることが出来た。

まず、警戒すべき人物は勇者アランとそのパーティー。引退後、学園の先生をやっていたグリエラ、シュトリーゼ。

主力メンバーのリストには記載されていなかったが、おそらくどこかのギルドメンバーとして、ヴィオレッタも参加していると考えていいだろう。

そして......リーネ。

単純な数と力の差では人類より魔物の方が優勢だが、人類のエースと魔物のエースでは、人類の方に軍配が上がる。

つまり、今のところは五分五分ということだ。


「なぁ、ギン。緊張してるか?俺はしてるぜ!」

「うるさっ、そんだけ大声出して元気なのに。緊張してるように見えねぇっつうの」

「うるせぇなナタリア!緊張してるからこそこうして大声出して紛らわせてんじゃねぇか」


......なんだかアホになりそうだ。

前回の件もあり、今『銀騎士(俺)』を認めてくれている人は少なくない。だが、やはり一度組んだことのある人はと一緒に組んだほうがいいのか、オレ......オレゴのパーティーに配属された。


「......そういえば、もう一人いなかったか?もうちょっとまともな奴がいたと思ったんだが」

「まるで俺達がまともじゃないみたいな言い方だな!」

「『達』ってなによ『達』って、あんたと一緒にしないで。......フラヴィオのこと?」


あぁそうそう、そんなような名前だったかは忘れたが、確かリーダー的存在だった気がする。


「亡くなったわ。......単独行動をしていたら、魔物に......」

「そうか......それは、すまなかった」

「え?」

「あぁ、いや。軽率だった。思い出させるようなことを聞いてすまなかった」


今殺されるということは、ミネスについている魔物か。

ここ数日は魔物を外に出していない。無駄な死亡により戦力が減るのと、準備を必要があったため、頻度を下げていたのだが。

ということはミネスを疑って探っているところでころされたのか、あるいは偶然会ってしまってころされたのか。

まさか、俺がオレゴ達に流した噂を聞いて、疑ったのか?

だとしたら殺しておいて正解だったな。


「オレグ」


オレゴじゃなかった。


「もうそろそろ作戦が始まるけど、私のお姉ちゃんを探そうとしないでね」

「あぁ。だがもし会ったら分からねぇ。何もしない保証は出来ねぇ」


......なんだって?

お姉ちゃんがいるのか。


「保証して。もし出会ったとしても、何も話しかけないで」

「おいお前ら。いい加減、そこまでにしておけ。ギンが困っているだろう?」


盾持ちのでかい奴が口を挟んだ。


「ダイアン......」

「お、俺も、少しはすまなかった......」


二人とも盾持ちのでかいヤツ(ダイアンって名前だったのか)の言うことを聞いて、大人しくなった。


「すみませんギンさん。ナタリアちゃんのお姉さんは、勇者パーティーにいて、今喧嘩中なんです」

「ちょっ、こら!ミレンダ!」

「あっごめんなさい!私、言っちゃいました......」


慌てて両手で口を塞ぐも、既に俺には伝わってしまっている。

なるほどな。勇者パーティーに姉か。


「はぁ......まぁ、いいわ。別に喧嘩中ってわけじゃないのだけれど、ちょっと......ね」

「冒険者になるのを、反対された......とか、そんなところか?」


ナタリアは驚いた顔をする。


「す、凄いわね......なんで分かったの?」


ビンゴか。まぁ、だいたいそんな所だろう。

そして、冒険者になるのを反対する理由としては、妹のナタリアが心配だから。

だから姉として強くなるために、または強くなったから勇者パーティーに入った。

しかし妹は冒険者になってしまった。故に冷たく接している。それにナタリアは気付いていない。

と、まぁこんなものか。


「だいたい分かるさ。オレゴンが言っているのも、ナタリアのことを分かってくれない姉に対して一発入れてやりたい。みたいなことだろう?」

「そうそうそういうこと!ちなみに俺はオレグな!」


しまった。ついに名前を覚えていないことがバレた。


「で、姉の名前は?」

「ギン、あなたまで────」

「違うな。私はただ気になっただけだ。別に出会ったとしても何も無いよ。そもそも出会う事もないだろうしね」

「そう......たしかにそうね。姉の名はレメイ=ナード。私と同じ髪飾りをしているわ」


ほう、同じ髪飾りか。

これで確定だな。

姉は妹を嫌ってなどいない。やはり守るためか何かで強くなり、勇者パーティーに入っただけのことだ。冒険者とは常に危険が付きまとう。だから、妹には反対したわけか。


「守るために敵対する......か」


本当はそばにいたい。敵対なんてしたくない。しかし、守ろうとしても敵対してしまう。その気持ちは分からなくもない。

なぜならそれは俺も────


「ん?何か言った?」

「......いや、なんでもない」


違うな。

俺に守りたいものなんてない。守りたい人なんていない。

守りたい人なんて......

『シルビオさん!』

その言葉を何度聞いたことだろう。

何度お前は、俺のそばにいてくれたことだろう。

....いや、違う!お前敵だ。

リーネ......お前は敵なんだ。

平和を築くためには、お前と敵対しなければならない。そして、俺は魔王としてこの世界を治める。

それが平和────なのか?

そもそもなぜ平和にするんだ?

決まっている、悲しむ人がいるからだ。

なら、支配することが本当の平和だと言えるのかだろうか。

それは──────


「お集まりいただいている皆様、一度こちらへとご集合下さい!」

「みんな、行こう」


もう遅い、すべては終わったんだ。既に人類側は魔物を許す気がない。可能性なんて無いんだ。

俺はもう、後には退けないんだ。

支配するしか、方法は無い。

なら俺は、俺のできることをやるだけだ。


「えー、今回はお集まりいただきありがとうございます。それでは、今回の作戦内容を復習させてもらいます─────」


作戦内容は、やはり聞かされているものと同じようなものだった。

まず、正面の部隊と裏取りの部隊、合計三つ用意する。

それぞれの部隊の隊長には、勇者パーティーのメンバーを使うようだ。

右翼がカルラ、左翼がレメイ、そして正面がアランだ。正直、カルラってやつは知らないから何とも言えないが。

全軍で前進し、右翼または左翼が裏取りをする。どちらか一方が裏を取れれば、片方は正面に加勢するらしい。


「ちなみに私達は右翼。カルラさんの隊ね」

「カルラ、カルラ=ミュラーと言えば、勇者様は除いて最強の魔法士と言われている」

「その実力は、およそ百匹以上の魔物の軍勢も、一瞬で焼き尽くしたほどと聞いたことがあります」

「ほう、それは凄いな」


凄い。本当に凄いよ。

そんなしょうもないことを自慢に思っているのであれば、凄い自信だ。


「まぁ、お姉さんと離れれて良かったじゃないか」

「それは......まぁ」


腑に落ちないな。

やはり、思うところがあるのだろう。

今会いたくはないが、機会があるのなら会いたかった、といったところか。


「ナタリア、少し頼みがある」

「何かしら?私に出来ることがあったら、なんでも言ってちょうだい」

「何か、何でもいいから君の持ち物を私にくれないか?御守りにしたい」


ナタリアは、少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、もじもじする。しまった、勘違いさせるようなことを言ってしまった......のか?


「わ、私の?」

「あぁ。全員から記念に貰おうと思ったのだが、四人から貰うのは少し重たいと考えてな」

「え?あ、あぁ、なるほどね!確かにそれいいかもね!あはは......」


こいつ、感情隠すの下手過ぎだろ。

バレバレだ。


「そう言われても......特にないわね。あ、ならこれを貸してあげる」


そう言って、俺の手に渡してきたのはネックレスだった。肌身離さず付けていたネックレス。


「これは?大事なものじゃないのか?」

「まぁね。昔、お姉ちゃんと一緒に買ったやつよ。だから貸すだけだけど。......絶対に戻って来なさいよ」


生きて帰って来なさいよ。そして返しに来い。と、後押しされた。

生きて帰って来い......か。もちろん死ぬつもりはない。だが、生きていても帰ってくるかは保証できないな。


「あぁ、ありがとう。大事にする」


そんな大事なものを他人に預けるなんてな、気が知れないよ。

それとも、ナタリアの中では俺はもう他人では無くなっていたりしてな。


「必ず全員、生きて帰ろう」

「「「おう!!」」」


そして、たった今戦争が始まりを迎えた。

平和のための、戦争が。







「お別れの挨拶は済ました?」

「あぁ」


魔王軍への突撃開始から約十分。

俺が逃げるために仕掛けた、第一ゴブリン部隊と接触後、無事俺は戦線を離脱すること成功した。


「お別れも何もないさ。俺はあいつらに思い入れなんかない」

「ふぅん。にしては、随分と大事そうに持っている物があるようだけど?」


フレンは、俺の片手に握ったネックレスを横目で見て言う。

なんだ?妬いているのか?


「勘違いするな。これは道具に過ぎない」

「道具?」

「まぁ、そのうち分かるさ」


俺は、背中から大きな翼を生やして、フレンと共に後方へと向かった。

空中で、鎧に魔力を込める。

すると、『銀騎士(ぎんのきし)』の特徴である、鎧の銀がみるみるうちに剥がれていく。

そして、中から姿を現したのは黒い鎧。

ガギンガキンと音を立てながら、鎧は少しづつ造形を変化させ、最終的には見慣れた黒い鎧へと形を変えた。


「付与魔法って、そんなことも出来るのか」

「あぁ。これは、魔王の鎧に銀の鎧を付与したんだ。自由に切り替えられる」


「もう、なんでもありだな」なとと、フレンがボヤく。

きっとお前も、アランを見たら今以上にそう思うだろうよ。


──────────



「予定通り、山を挟んで大回りしながら敵国を攻めに行くぞ」


元奴隷達にここは任せる。時間稼ぎくらい出来るはずだ。


「右翼と左翼があるのだろう?どちらから行くんだ?」

「左翼だ。頭はレメイという女だ」

「了解。それでは───」


全軍出撃!!

その合図で、魔王軍総員で裏口から出た。

山を回り込んで、見つからないようにヴェロニア国へと向かう。

行くぞ、アラン=カイバール。

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