聖騎士
「随分と遅いご到着だなァ、聖騎士団さん」
「......何者だ、貴様」
「フレン、ここは俺に任せろ」
「分かった」
聖騎士団は、男、男、そして女か。合わせて三人。
俺を倒すには少なすぎる人数だ。
「私は魔王。悪いが、この国はこれより私のものとなる。もし、反対だと言うのであれば、お引き取り願いたい」
「なるほど、これは随分とご丁寧な魔王様だこった。状況がすぐに掴めたよ」
「そうか。それで、私に歯向かうか?」
「あぁ、もちろん。そうさせてもらうよ」
正面のリーダーっぽい男が、剣を抜きながら近づいてくる。右手にブロードソード、左手にはバックラーを持っている。
その隣りの女は、ファルシオンソードを二本。両手剣使いか。役職なら、ソードダンサーと言ったところだろう。
三人目は普通、パーティーなら回復役やタンクにするものだが、この男はグレートソード。大剣を持っている。
「珍しいな、私を魔王だと認めてくれるのか?」
「貴様が魔王であろうとなかろうと、ここを自分の国だと言っているなら倒すまで。それが、聖騎士団の役目だ」
「......そうか。なら、一人づつではなく、三人でかかって来い」
「いや、これは俺と貴様との決闘だ」
右手をかざす。
グレートソードの男を、吹き飛ばした。
『インパクトブラスト』
久しぶりに使った、ただの魔法だ。
「これは決闘ではない。私は私の国を守るため、お前らは、お前らがかつて住んでいた国を奪還するために戦う、これは戦争だ」
「......よかろう。ならこちらは三人で行かせてもらう」
まぁ、そのうちの一人は既に俺が攻撃してしまったが。
まだ動けるようだ。
さすがは大剣使い、体力があるな。
「行くぞ!うぉおおおお!!!」
三人同時に向かって来た。
まずは正面の男が、剣を縦に振り降ろす。
「メテオスラッシュ!」
斬撃を駐距離まで飛ばす魔法。
だが......
「『エイレネ』」
斬撃は、俺に届く前に消え去った。
『エイレネ』の効果で、魔法を打ち消したのだ。
「ッ!?」
「まだよ!」
次は女。二本の剣で軽やかに、まるで舞うように、踊りでも踊っているかのような斬撃。
魔法を使わない攻撃だ。
なら、『エイレネ』を解除してこちらが魔法を使えばいい。
「ウィンドスパーク」
流れる風に、電気を付与する。
女の剣がそれに触れると、ビリビリと電撃が走った。
「あがっ」
剣は金属。電気は、それを通って女の身体へと伝わる。
しばらくは動けないほどの電圧だ。ゲームで言うなら、状態異常『麻痺』ってところか。
「オールヒール!」
と、盾の男が味方を回復させようとした。
が、すぐに打ち消される。
「っはは、させねぇよ」
打ち消される。
「く、くそ!なら、これはどうだ!フレイム......な、なぜだ!」
なぜ魔法が使えない!と、男は嘆く。
情けない。魔法が使えないくらいで、もう闘えなくなるのか?
大剣の男は起きることがなく、女は麻痺で動けない。
「残るはお前だけだ」
構えもせずに、怖気づいている盾の男。
俺は一歩一歩、少しづつ近づいて行った。
「何が目的だ......?貴様、この国を支配して一体何が─────」
話は途中で止まった。
そして終わった。
話す口が無ければ──口の付いている顔が無ければ、頭が無ければ。
言葉を発することは出来ないからだ。
俺の左腕には、男の頭。
その頭から流れ出る血は、目の前で立っている体の首から流れる血と、同じ色をしている。
バタッと、目の前の体が勢いよく地面に倒れた。
頭の無い体は、機能を失い、倒れる。死ぬのだ。
それは国も同じこと。
頭の無い体は、死ぬ。
だから、俺が頭になる。国を治めるのは、この俺だ。
「『エイレネ』の効果を、付与する」
こんなことが出来るとは思っていなかったが、思いつきでやったら成功してしまった。
まさか、『エイレネ』の魔法打ち消しという効果を、人間に付与出来るとはな。
これでこの三人は、二度と魔法を使うことが出来ない。
付与魔法は、強化魔法とは違って、解除できない。
「痛々しい刺青を入れられたものだな」
「入れたのはお前だがな」
「ふん」
「マオウサマ。ホカクしてマイりました」
リザードマンがダルダーノ王を持って来てくれたようだ。ダルダーノは気絶している。
「モウしワケございません。イきているあいだにホカクにはセイコウしたのですが、トんでいるトチュウに......」
「かまわん。うるさくなくてむしろ助かった」
「ありがたきおコトバ」
「よし、お前ももう戻っていろ」
ちょうど良い、グッドタイミングだ。
「どうするんだ?こいつら、起きたらまた反抗するだろう?」
「この四人は、元奴隷達に任せよう。煮るなり焼くなり好きにさせる」
「残酷だな」
「優しさだよ。元奴隷達に対しての、だがな」
さて、これで邪魔者は全て消し去った。
ここはもう、俺の国だ。
「最も優秀な元奴隷を三人連れて来い。判断基準は、そうだな......何でもいい、とにかく優秀な三人だ」
魔王軍にそう命令すると、俺はダルダーノが座っていた玉座に腰掛ける。
ドサッという音と共に、一気に疲れが襲ってきた。
それほど魔力を使ったわけでもないのに、最近よく疲れる。
もう闘いも終わっただし、鎧くらい脱ぐことにした。
「......」
ふと、鎧の下に着ていた服の胸元から、自分の胸を見る。
既に心臓まで侵食していたオーヴェインの左腕は、右半身をも飲み込んで来ていた。
なるほど、妙な体力と魔力の消費は、これが原因かもしれない。
「大丈夫なのか?」
フレンが、俺の体を見て言う。
これが大丈夫に見えているのであれば、それこそそちらの頭が大丈夫では無いだろう。
「あぁ、大丈夫だ。痛みは無いが......というか慣れたのだが、少し動きが鈍るくらいだ。感覚がほんの少しばかり麻痺しているからな」
「なら問題ないか。ところで、この国を手に入れたがどうするんだ?果たしてこの人類共を生かして、意味はあるのか?」
「前にも言ったが、今は少しでも兵力が欲しい。個人の能力や魔法の多さでは人類側に軍配が上がる。だから、こちらは数で押すしかない。それに、人間に恨みを持った人間、つまり元奴隷達を仲間に引き入れ、人質とする。奴隷反対派の勇者や王なら、これは見逃せまい」
奴隷でなくとも、人を魔物と一緒に殺すことは出来ないはず。
こいつらはちゃんと人質として機能する。
「そう上手くいくのか?」
「いかせるさ」
全て上手くいく。
俺が上手くいかせる。
──────────
「マオウサマ、ツれてキました」
「......ん」
いかん、眠っていた。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「ほう、この三人か?」
一目で見た印象は、「汚い」だ。
それもそうだ、何せ今の今まで奴隷だったのだからな。
ボロボロの服に、ボサボサの髪。
靴なんて履いていない。目の中には光がなく、まるで死体が動いているだけのようだ。
「ミネス=カゼーナ......肉体労働には自信がある」
「シュミン=ギザーザです。これは......助けて下さった。と判断してよろしいのですか?もしそうであれば是非、お礼を言わせてもらいます」
「ティーヌ=アギッド......です......な、何もできることはありませんが、魔法だけはでき......ます」
「ほう」
この三人か。
見た目は悪いが、中身はしっかりしていそうだ。
「早速だが、お前らには元奴隷達のリーダー的存在となってもらう」
「り、りぃだぁ......ですか?」
「私達にできると?」
「思っている。というか、してもらう。確かに、王はこの私だが、いくら私とて全ての国民を面倒見ることは出来ない。そこで、お前らにはこの国のリーダーとなってもらいたい」
一人に背負わせるより、三人で協力させた方が良いとの考えだが......。
生徒会だって国家だって、数人で構成されている。
王政なのは俺の国だけで十分だ。
「......」
「不満か?」
「お前は、ミネス......だったか?不満があるなら述べよ」
「不安も何も、納得いかない。確かに、奴隷制度を無くしてくれたことには感謝しているし、憎かった貴族共をぶち殺させてれたのはあんただ。けど、だからってまた何で言うことを聞かないといけないんだ?私達は自由に生きたい!」
「ミネス......!」
自由に......か。
それが出来れば、いいのだがな。
俺が国の王になるのが納得いかないのだろう。
せっかく手に入れた自由を、再び奪われるわけだからな。
「ならば問おう。現状、この国には騎士がいない。つまり、守れる者がいない。このままでは他の国に狙われ、また占領されてしまうだけだ。そこで、私が国を守る代わりに、お前らにも私の手伝いをしてもらおうと言うだけのこと」
「それでも......」
「それでも納得いかないというのであれば、かかって来い」
「......」
ミネスは黙り込む。
この俺にここまで歯向かえた者はいない。
自分の意思があり、それに沿って動くことの出来る、数少ない性格の持ち主だ。
「気に入った。お前は私の直属の部下にしよう。私がこの国からいなくなった時、お前がこの国を導いてやれるように、私の元で学ぶんだな」
ミネスはあまり嬉しそうではなかったが、まぁそのうち分かる事だ。
元奴隷なりにはよく頑張った。
どうせ俺と闘ったところで、勝てないことぐらい、野生の本能でも、勘でもなんでも分かるものだ。
そう、だから闘わないのは正しい判断だ。
そんな不毛なことに時間を割いている余裕はない。
「しばらくの間、ここに少しだけ魔物を置いていく。話のわかるやつだからそこは安心してもいい。この国の国民には、闘いを覚えることを強いる」
「闘い......」
「そうだ、死にたくなければ闘え。さもなくば死ぬぞ」
こいつらを前線に出すつもりは無い。だが、少しくらいは手伝ってもらう。
まぁ、何にしたって『エイレネ』が手に入ったことが一番だ。
これほどまでに優秀な武器はない。
そしてこの国は、貴族共が住んでいた土地に大規模な農園を作り、食料を確保することにしよう。
さらに人質も手に入ったことだし、今回で得たものは大きい。
「フレン、帰るぞ」
「ん」
俺達は魔物の国へと帰って行った。




