ダルダーノ王
この国には俺のことを知っている者もいない。鎧の仮面は、むしろ付けている方が目立つ。
そんなわけで、この黒い装備を全て外し、まるでモブのような服装へと変え、初めから住んでいたかのような顔をする。
フレンも同様に服装を変えるが、これじゃまるで親子連れだ。さらに現地民感が増した気がする。
「で、そのダルダーノ王とやらには会えるのか?」
「もちろん、簡単さ。おい、そこのお前」
「?」
王の住む城を、警備している兵士に話しかけた。
話す内容は簡単。「王に会いたい。王の持っている石が欲しい」と言うだけだ。
すると、『石』のことが気になった兵士は、王に面会を求めている人のことを王に伝える。そして、王に『石』のことを聞く。
すると王は、誰も知らないはずの秘密を知っている、つまり『石』について知っていると思わしき人物を、放っておくわけにはいかない。
「おい、お前ら。ダルダーノ王様が謁見の間にてお待ちだ」
というわけだ。
「ほう、これはまた見事な作戦だ」
「こんなの、作戦でもなんでもない。ただ、王に俺の存在を知らせただけさ。もしダルダーノ王が、このことを戯言だと無視するのなら突撃するまでよ」
俺達は待合室の椅子から腰を上げ、謁見の間とやらへ案内される。
随分と大きな扉を開けると、そこには広々とし過ぎた、だだっ広いだけの空間に、チョコんと、真ん中に椅子が置いてある。
それに腰掛けているデブが、おそらくダルダーノ王だろう。椅子の手すりに肘をかけ、拳で顎を支えている、いかにも王らしい姿だ。
チーズとか好んで食いそうだな。
「どうも、お初にお目にかかりますダルダーノ王」
「よい。単刀直入に問おう。貴様は何者だ?」
「私は─────」
なんと答えようか、迷いはしなかった。
俺はシルビオと言わず、
「魔王だ」
と言った。
すると、ダルダーノは「ブッ」と吹き出して笑う。
「貴様が魔王?ガッハッハッ!!笑わせるでない!これまた、なんの冗談かな?」
「たしかに私服で分かりにくいかもしれないが、どれ、一つ......」
「我に手品は効かぬぞ?」
「そうだろうな。だから、ただ魔法を見せるだけでなく」
左側にいた兵士を、軽く葬る。ただ、左腕をピンと立て、伸ばした指先をその兵士に向けるだけ。それだけで、体が真っ二つになり、血が飛び散った。
「ずいぶんとあっさり殺るんだな、兵力が欲しかったのではなかったか?」
「一人も二人も変わらん。これぐらい、王に認められるためだったらお安い御用さ。それに、どうせ後で死ぬ」
しかし王はまだ認める素振りは見せず、だが手足は少し震えているようだ。
「ふん。これも手品だろう?」
なかなかしぶとい奴だ。
「はぁ......フレン、姿を見せてやれ」
「ふむ。致し方ない」
フレンは、その場でジャンプをし、空中でクルっと一回転すると、瞬く間にその姿を変えた。
いや、変えたと言うより戻ったと言う方が正しいか。
「これでどうだ?」
「ひっ」
やっと怯えたようだな。
全く、地味に手こずらせやがって。
「これでもまだ、手品だと言い張るか?」
「もういい!もういい分かった!」
どうやら魔王だと認めてくれたらしい。
まぁ、こいつにとっては俺が魔王であろうがなかろうが関係ないか。
次は殺されると察したのだろう。
例え俺が魔王であってもなくても、身の危険を感じたからとりあえず要求に従う。我が身大事で何よりだ。そういう奴が一番操りやすい。
「さて、本題に入ろうか。お前の持っているその『石』──『エイレネ』についてだ」
「やはり『エイレネ』を知っているのか!?なぜ
......なぜ貴様が知っているのだ!」
俺は無視をする。
ゲームでやったことあるから、なんて言っても分からないだろうし、わざわざ答える必要はないだろう。
「それをよこせ」
「や、やらん!絶対に貴様らには渡さんぞ!」
なら仕方ない。
力づくででも奪ってやる。
手のひらを、ダルダーノに向ける。
「......」
「......」
「......なんだ?どうしたんだ?」
どうした......だと?こっちのセリフだフレン。
魔法が一瞬発動しかけたのに、すぐに消え去ってしまった。
まさか......これが『エイレネ』なのか!?
こんな一瞬で、何も詠唱することもなく、ただ石を俺に向けているだけで発動できるのか。
しかもこんな高等魔法まで打ち消せるとは......素晴らしい。
いや、神器はこうでなければ。
「『エイレネ』の効果範囲内であれば、魔法は疎か、魔力を使うことすら出来ない......か」
俺の魔力が打ち消されると共に、ダルダーノの首飾りが光を発した。
つまり、それが『エイレネ』だ。
「なるほど、首飾りか」
バンッと音が響く。
「な、なぜ......!?」
「これは魔力を必要としない武器。銃って言うんだ。遠く離れた距離でも、人間くらい簡単に殺せる」
「そんな......」
「これで魔力無しでもお前を殺せるぞ!」
「ひぃっ、や、やめてくれ!頼む!欲しいものはなんでもやる!だから、我にだけは手を出さないでくれ!!」
「......」
無様に命乞い......プライドの欠片も無いのか。
まぁ、そんなものか。こいつなら迷わず命を選び、次に財だ。だが今回はそれが助かる。
変に闘わなくても済む。
こんなにもあっさり手に入ったことが、少し怖いくらいだが......まぁでも、ゲームでめこのくらいの強さだったな。
どちらかと言えば、王直属の聖騎士団の方が強かったような。そう言えば見ないな。
「分かった、俺はお前を殺さない。俺の部下もお前を殺さない。約束は守ろう。その代わり、この銃をつかえばいつでもお前を殺せる。約束を守っている限りは、俺からはお前を殺さない」
「わ、分かった」
よし。交渉成立だ。
俺は首飾りを受け取り、能力を解除した。
そして銃もしまう。
「言っただろ?約束は守ると」
「あ、あぁ」
ダルダーノは安心したのか、再び王座へと倒れるように腰掛けた。
「グィル」
「はっ、おヨびですか?マオウサマ」
「鎧をくれ」
そう言って、魔王の証である真っ黒な鎧を受け取った。
ついでに、怯えているダルダーノから王冠を取り上げた。そして、窓の外から城のベランダへと身を乗り出す。
「この国の全ての国民に告ぐ!私は魔王だ!」
この国は、国と言っても街程度の大きさしか無い。
どこにいても王の城が見えるくらいだ。
これなら、少し声を大きくする魔法を使うだけで、ほぼ全ての国民へと声が届くはずだ。
「奴隷達に告ぐ!貴族共の王の首をとった!!これより、私がこの国を治める王となる。そして今、奴隷制度を撤廃することをここに宣言する!」
俺は、王冠をグルグルと振り回しながら叫ぶ。
王の首ではないが、首を取ったと信じやすいだろう。
「貴族共を許すな!!私の魔物達、魔王軍が手助けする。存分に仕返しをするが良い」
それだけ言うと、俺は王冠を捨てた。
街はざわめく。
どうするのか、迷っているようだ。
お互いに近くにいる奴隷たちが話し合っている。
「あの人の言うことは本当なのか」「私たちに闘えるのか」
よく考えることは大事だ。
だが、考えすぎて本来の目的を忘れてしまうこともある。
だから、程よく考えて動くのが適切なのだ。
すると─────────誰かが殴った。
思い切って、魔王を信じてみたのか、それともよっぽどの恨みがあったのか、自分の主人をこぶしで殴り始めたのだった。
それが、きっかけだった。
一人がやり始めれば、後は他の人が便乗するだけ。
人間ってのは単純なものだ。他人がやっていることならば、自信を持ってやれるのだから。
あっという間に街は乱戦状態。
貴族よりも奴隷の数が多い分、袋叩きにできる。
そこに魔王軍が手助けするだけで、奴隷は一気に有利となった。
「いいのか?兵力が減るぞ」
「構わん。無能な貴族共を残したところで、食料と場所の無駄遣いだ。なら、ついでに元奴隷達に殺しを経験させた方がまだ経験値になる」
「だが、元奴隷と貴族の違いなんて分からないだろう?間違えて魔王軍が殺してしまうかもしれん」
「分からないなら聞くように言ってある」
「我が身大事の糞貴族が、元奴隷を名乗るぞ」
「そんなことをしてみろ。貴族としてのプライドを捨てることとなる。例えそれで生き残ったとしても、たかが貴族に何ができる?本当に元奴隷だったかのように、素直に俺の言うことを聞くしかないだろう」
さて、ここまでは計画通りだ。
上手く事が運びすぎて、逆に心配になって来る。
一番の気がかりは、聖騎士団。
今は留守にしているようだが、そのうち必ず闘うことになるだろう。
ダルダーノも、いつまでも大人しくしているとは思えないしな。
「おい、ダルダーノ......」
後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。
俺もフレンも気を抜いていたようだ。いや、これは隠蔽魔法か。
使用人か誰かが、気配を消して逃がしたな。
「そこのリザードマン!デブ王を探せ!見つけたら、殺さずに持って来い」
「はっ!サガしてまいります」
さぁ、おおかた片付いたかな。
貴族は力が弱く、財でしか闘えない生き物なので、単純な殴り合い、喧嘩なら奴隷の方が強い。というか、魔王軍が付いているのに負けるはずがない。
ので、乱戦はすぐに静まっていった。
「まおうさま!」「まおうさまばんざい!!」
魔王様コールが巻き起こる。
ふむ。悪い気分ではないな。
「マオウサマ」
「どうした?」
「ナニモノかが、レフにノってこちらへとムかってキます。おそらく、キシのモノでしょう」
やはり来たか。
だが、迎え撃つまでだ。
かかってこいよ、聖騎士団ども。




