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『エイレネ』

依頼は未達成。報酬無しに、パーティーは抜けた。

敵は、勇者アラン=カイバール。傍にはリーネ。

派遣した魔物は殺され、俺達に悲しみをもたらした。


「はぁ」


これほどまでに疲れるとは。予想外だ。

俺はため息をつき、重い腰を椅子に下ろす。

鎧の頭だけ脱ぎ、机に置く。暑いし少し息苦しい。

本当はこのクソ重たい甲冑も脱ぎたいのだが、身も心もそれを面倒くさがるほどに疲れ切っていた。


「おツカれサマです。どうぞ、ミズです」

「あぁ、ありがとう」


グィルが水を持って来てくれた。ただの情報係のくせに、執事のように気の利くやつだ。

だが、やはりお茶やコーヒーが飲みたいものだ。

もっと言えば炭酸。

いや待てよ?あの農園を少しでも奪えば、お茶やコーヒーぐらい作れるのでは?


「グィル、あの大農園を───」


と、話をしかけたところでコロコロと足元にボールが転がって来た。

草や枝で出来た、ボロボロのボールだ。


「モウしワケございませんマオウサマ!」


ワイズウルフの親子か。

子供がボールを転がしてしまったようだ。

まぁ、ここは俺の部屋では無いからな。まるで災害時の体育館のように、魔物達が散乱している。


「いや、構わんよ」


俺は少し椅子から腰を浮かして、足元のボールを片手で拾う。


「ありがとー!」

「あぁ」

「す、すみません!すみません!」


子供達は嬉しそうにボールを咥えて走って行く。

しばらく遊んでいる。


「でだ、グィル。あの大農園がなんとしても欲しい。全てとは言わないが、少し大きめの畑作ができるくらいは奪えるか?」

「おマカせクダさい」

「頼んだぞ」


グィルは、勢いよく飛び上がって、外へ向かった。グィルには何チームか魔物のチームを預けている。おそらくまた、成功してくれることだろう。

話し相手もいなくなった俺は、しばらく子供達を見ていた。

すると、


「アきたー」

「こら、わがままイわないの」


という声がした。先程の子供は、随分と飽き性のようだ。

まぁ、あれだけずっと同じ遊びをしていたら、誰でも飽きは来るか。

遊び道具......ね。


「そうだ」


俺は、まだ少し重たい腰を上げ、机に向かう。


「お、いい案でも思いついたのか?」

「フレンか。亡くなった魔物達の家族はどうだったんだ?」

「泣いてたさ。死を伝えるのには慣れているつもりだが、やはり心が痛いな。まるで私が殺したみたいで」

「悪い。次は俺が伝える」


フレンは暗い顔を、少し微笑んで明るい顔に変えた。


「で、計画でも思いついたのか?」

「いや、計画ならずっと俺の頭にある」

「ならその紙はなんのために?」


紙。これは俺が魔物に教えたものだ。

人類の作り出した便利な物。魔物には必要なかったが、俺は何となく作っておいたのだ。それがまさか、こんな形で活きるとは。


「丁度いい、お前も見ろ」

「......?」


俺は、紙をまず正方形に切った。

角と角が綺麗に重なるよう、半分に折り、また半分に折る。


「ジンルイのユウギですか?」

「あぁ......人類というか、俺の生まれ故郷だな」


いつの間にか周りには人......魔物だかりができていた。

時には三角にしたり、折り目をつけたり。山折谷折を繰り返し、形を作っていく。

そして......


「完成」

「何?これ」

「見てわからないか?つる......鳥だ」

「鳥?」


俺は、部位を指さして教える。


「そう、これが頭でこれが翼。な?見えて来ただろ」

「あ、あぁ、ああ!!本当だっ!鳥だ!」


嬉しそうにはしゃぐフレン。こうしてみると、より一層幼女だな。

外面だけでなく、内面まで幼女になってしまったら、罪悪感が出るのでやめてほしい。


「すごい!すごい!これ紙で作ったの!?」

「あ、あぁ......これは『折り紙』と言って、一枚の紙から色々な動物や植物、物の形を作るんだ」

「すごいです!さすがマオウサマ!」


少し照れるな。

あまりこう、素直に褒められた事がないから、慣れていない。

とくに最近は、嫌われてばかりだったしな。


「後でフレンに教えておく、皆はフレンから教わってくれ」


すると、羨ましそうに見ているゴブリン達。

そうだな......闘い以外の楽しめることが見つかれば、争いは無くなる可能性がある。

人間とだって遊べるかもしれない。


「お前らには将棋を教えてやろう」

「ショウギ......?ですか?」

「そう、将棋だ。真っ平らな木の板とか無いか?」

「それなら、この前武器を作った時に余ったのが......」

「それでいい」


木の板を貰う。

これからノコギリで切るなどの作業をするのかと考えたが、俺の風魔法で簡単に木を切る事が出来た。

魔法の便利さを、改めて実感する。

大きな木の板一枚と、小さな板を四十枚作った。

そして、小さな板一枚一枚に文字を書いていく。おお、日本語なんて久しぶりに書いたな。

なんだか懐かしい。


「なんですか?これは」

「将棋の駒だ。将棋ってのは、簡単に言えば戦略ゲームで、お互いの王を取れば勝ち。まぁ少しづつ教えるから、ルールはそれで覚えろ」


幸い、ゴブリンは学習能力の高い魔物だ。

一度教えるだけで、すぐに理解してしまう。


「た、たのしい!」

「すごい!マオウサマすごい!」


すると、他の魔物たちも集まってくる。


「オレにもやらせてくれよォ」

「イヤだよ、オレがオシえてもらったんだ」

「まぁまぁいいじゃないか、減るもんでもないし。現に俺だってお前らに教えたわけだろ?」


誰だって、楽しいものは独り占めしたい。そんな欲があるだろう。それは、人類も魔物も一緒だ。

だが、


「教え合い、助け合う。嬉しい時も悲しい時も、皆で分け合うこと。楽しいことを分け合えば、皆楽しい。悲しさもみんなで分ければ、和らぐこともある。それが共存ってもんだ。お前ら、種類は違うのに一緒に暮らしているじゃないか。だったら人類とだって上手くいくさ」

「でも、オレタチはマモノ。ジンルイとはチガう」

「同じだ。お前らも人類も、俺だって同じ生物、生き物だ。なら、皆同じ。ただ、今は少し喧嘩をしているってだけだ。また仲直り出来る」


その後も色々な遊びを教えてやった。

チェスにサッカー、バスケや野球まで。

教えるのは簡単なことではなかったが、やりがいがあった。

何よりも、魔物達の楽しげな表情。それを見ているだけで、こちらまで嬉しい気持ちになれた。

ここが俺の居場所なんだと、改めて感じることが出来た。


「そういえば、シルビオは魔力切れしないな」

「ん?」

「普通、魔力には限りがあり、保有している分の魔力を使い果たせば魔力切れが起こる。それは人類も魔物も同じはずだが......それだけの高等魔法を使っておいて魔力切れしないとなると......」

「まさか、俺の魔力は人一倍底が深いだけだよ。もちろん昔はもっと魔力切れを起こしていたし、今だって底が無いわけではないんだ」


そう、限界はある。

ただ、限界までに少し遠いだけ。

そういえば、魔力切れなんてあったなぁ。最近は気にしなくてもガンガン魔法使っていけるようになっているけど、普通だったらとっくに倒れちゃうくらいなんだよな。

これもオーヴェインの影響だったか。

魔力切れ......ね。


「アランは魔力切れするのか......?今のでふと疑問に思ったのだが、俺の敵、アラン=カイバール。奴も底知れぬ魔力を秘めている。俺なんかよりもずっとな」

「直接闘ったことはないが、話には聞いたことがある。それはもう、魔力が無限に湧いているかのようだったそうだ」


無限。

そんなチートなやつ......まぁアランだったら有り得るか。

どちらにせよ、無限だろうが有限だろうが底知れない魔力量だということは変わらない。

そこが問題なのだ。

もし、魔力切れを起こすようなら、まだ俺にも勝ち目があったのだが......。


「待てよ......?」

「どうした?」


魔力切れにさせたいのは、魔法を使えなくさせたいからだ。

あの馬鹿高威力の魔法と、チートな固有魔法さえなければ、なんとかすることが出来る。


「それなら、なにも魔力切れにこだわらなくてもいい。ただ魔法が使えなければ、魔力を使えなければいいだけのこと」

「......?まぁ、その通りだが」

「『エイレネ』」

「ん?なんだそれは」

「魔法を使えなくすることが出来る、神の落し物さ」


そうかそうだそうだった。

すっかり忘れていたよ、このアイテムの存在を。


「感謝するぞフレン。おかげで勝てそうだ」

「礼には及ばん。これが私の仕事なのでな」


『エイレネ』

平和を司る女神から、その名を付けられた。

人々から魔力という武器を封印し、平和を作り上げることの出来る石。その信じられない効力から、『神の落し物』と言われていたそうだ。

効果は、簡単に言えば魔法を打ち消すというもの。

それだけ聞くと、一見最強だが、デメリットがある。それは、自分の魔法も打ち消されてしまうことだ。


「そんな代物があるのか」

「あぁ、これさえあれば一方的な闘いが作れる」

「だが、自分も魔法が使えないのだろう?」

「それについては対策済みだ。自分の攻撃時だけ解除すればいい。『エイレネ』は範囲効果型だ。自分の周りに見えない壁があると思えばいい。だから、その壁を取り除くタイミングはこちらが決められるだけ有利だ」

「ほう、なるほど。そいつは強いな」


そう、強い。

それさえあれば、どんなにアホ強いチートな奴でも、魔法を無効化することが出来る。あとは隙を伺って解除し、こちらが攻撃すればいいだけ。

是非とも欲しい品だ。


「入手は簡単なものでは無い。気を引き締めていくぞ」

「おう!任せとけ」


俺達はその入手場所に向かった。


──────────


「もっと、神殿とかかと思っていた......」

「あぁ、そいつぁ残念だったな」


残念ながら、場所は神殿ではなく。

遺跡やダンジョンなどでもなく、ただの木でできた門だった。


「『エイレネ』は、この国の王が持っている」

「なに?もう他の者の手に渡ってしまっているのか」

「あぁ、だが問題は無い」


ゲームでは、アランがここで『エイレネ』を手に入れる。持ち主はこの国の王、ダルダーノ=ベルエト。


「イムアトル国。ここは奴隷の国と呼ばれるくらい、人身売買が絶えなく、貴族と貧民の格差がとても激しい国だ」


しかし恐ろしいのは、それをよしとする王だ。

ダルダーノ王は、金持ちの貴族にしか助けることをしない、非人道的な奴だ。

まぁ、この世界ではそれが当たり前であって、貴族や奴隷とは本来そういうものなのだ。


「それで方法は?その国を救って、お礼として貰いでもするか?」

「はは、まさか。俺は魔王だぞ?無理矢理ぶん盗るに決まってるだろ。そして、あわよくばこの国そのものを貰う。戦力が欲しい」


確か、貴族よりも奴隷の数の方が上回っていたはずだ。

試してみるか。


「だが先に『エイレネ』を手に入れるぞ」

「まだ魔物軍は到着していないが?」

「問題無い。先に俺達だけで出向いて、宣戦布告をする。できれば、この国の兵力をそのままで欲しい」


ま、ダルダーノ王がそう簡単に他人の配下へ行くとは思えないがな。

自己中心的なナルシスト。

そんな奴が、自分の物を他人にやるなんてできるわけがない。


「軍には国境付近で待機と言ってある。許可を出すと同時に戦争だが、いくつか方法は試す。勝手に手を出したりはするなよ?」

「分かった」


よし、では行こう。

俺達は上から入って検問を抜け、バレずに中へ入る。

ここからは正面突破する。

さぁ、お楽しみの時間だ。

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