表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/80

依頼

腰に携えた剣を抜く。

安い剣だ。どこでも買えるような、代物。

しかし、綺麗に塗装してしまえば、案外分からないものだ。

それを、逆手に持つ。

普通は、片手剣を逆手に持つことなんてない。

短刀ならまだしも、片手剣なら普通に上向きで持てばいい。

だが、今回は違う。

それは槍投げのように。投擲のように。

遠くに、真っ直ぐ飛ばすイメージ。


「何する気?」

「ま、まさか」


そう、そのまさかだ。

俺は一本、二本歩き、三歩目は足を地面に突き刺し、思いっきり踏ん張る。

そして、力いっぱいに剣を投げた。


「ふん!!」


剣はまるで槍のように、いや、槍よりも数倍も速く、遠くへと飛ぶ。

そして、宙を舞う鳥へ一直線に向かってゆき......


「命中」


剣は見事にレフに当たり、バランスをくずしたレフはゆっくりと落ちてきた。

傷ついてはいないはずだ。

剣を風で包み、威力を抑えていたからだ。


「お、これが本当の一石二鳥か」


なんと、レフは二体落ちてきていたのだ。

まぁ、俺達の人数的にも、二体の方が丁度いいか。


「す、すごい......これが上級冒険者の実力......!」

「けど、どうやってテイムするの?まさか急に言うことを聞いてくれるなんてこと無いだろうし」

「それなら問題ない。少し乗せていってもらうだけだから」

「......?」


気絶して動いていない今のうちに。

チェーンバインド。

レフの体に鎖が巻きついた。

まるでパペットのように、それを動かすことが出来る。


「少し可哀想だが、操らせてもらう。そっちはフレンが操縦だ」

「そ、そんなことも出来るのね......」


そんなことも出来て当たり前でなければ、魔王なんてやっていられない。

まぁ、もちろん鎖を巻き付けただけで操っただなんて言えない。

毎度おなじみ風魔法で、翼を風を当てながら操縦する。

もはや俺の固有魔法は風魔法と化していた。


「さぁ乗れ。さっさと行くぞ」

「お、おう」

「空を飛ぶだなんて初めてね」

「フレン、俺についてくるだけでいい」


フレンは小さく頷いた。

そして、二体のレフが飛び上がる。

バサバサと音を立てながら、力いっぱいに翼を羽ばたかせる。

砂埃が舞い、同時にレフも宙へと浮いた。


「す、すごい!飛んでる!」


と、歓喜の声を無視して、一気に速度を上げた。

急ぐ。魔物達が、別の冒険者に討伐される前に。


──────────



到着。

時計がないので、時間通りかどうかは分からないが、飛んできたので比較的早く着いただろう。


「はぁ......もう二度と乗らないわ」

「そうか?俺は楽しかったぞ!」

「でも、少し怖かったです」

「おい、気合い入れろよ。ここはもう目的地だ。いつどこから魔物が出てくるか分からん」


俺は分かっているがな。

さ、ここからが本番だ。

俺が予め支持しておいた魔物達に、俺達を襲わせる。

そして軽く魔物を倒す茶番をし、作戦を実行する。

そうすれば俺のことを信用してくれるだろうし、まぁ強さは充分分かってくれただろう。


「ん?」

「どうかしたのか?」

「あぁ、いや......」


少し歩いたが、魔物が見つからない。

そろそろここら辺で出てきてもいい頃なんだが

......やはり動物型だと知性が劣るか。

ゴブリンやリザードマンにしたほうが良かったかもしれないな。


「全然見当たりませんね......魔物」

「あぁ、だが確かにここの農園での依頼を受けたんだ」

「でも、作物はあまり食い荒らされてないわよ」

「不思議だ」

「少しだけ食べて帰っちまったのかも!」

「そんな馬鹿な......魔物はもっと欲が深い生き物だぞ。途中退室だなんてありえない」


その通りだ。

ここまで見当たらないとなると、このだだっ広い農園でくまなく探すのは厳しい。

大声で呼ぶというのも、違和感があってあまりやりたくない。

と、考えている時に、フレンが小さく手招きしてきた。


「血痕がある」


そう言って指をさした場所には、たしかに血が落ちていた。

まだ土に染み込んでおらず、光を反射している。新しいものだ。


「こっちだ」


フレンは、楽しげに血の痕跡を辿って行く。

どんな人間か楽しみだと言っているので、恐らく魔物が人間を捕らえたのだと言うのだろう。

まだこの血が人間のものだと確定したわけでは無いってのに。

もしかしたら人間かもしれないが、他の動物かもしれないし、はたまた─────


「......ッ!?」


魔物のものかもしれない。

その予測が出来ていなかったフレンと、俺とでは、「ひっ」という声を漏らすか盛らなさないかという形で差が出た。

俺達が目にした光景は、死屍累々とした魔物に囲まれている人間の姿。

その人間は魔物の首を片手で掲げ、もう片方の手で剣を持ち、その剣先を魔物の首に突き刺した。


「ん?」


こちらに気が付いたようだ。

俺は、落ち着いているように見せ、フレンを片手で制止させる。今にも飛びかかりそうなフレンだったが、何とか食い止めている。


「おっと、ゴメンね。女のコには少し刺激が強すぎたかな?まさかこんな所に小さな子がいるだなんて思っていなくて」


普通、魔物を殺している人を見れば、歓喜の声が上がる。

それは、大人も子供も魔物が嫌いだからだ。

それが当たり前。

だが、フレンは悲鳴を上げた。

殺されているのは魔物なのにも関わらずだ。

だが、そこら辺は見た目に助けられたようだ。


「えっと、なぜここにいるんだ?ここは魔物がいるから、危険だと言われたなかったのかい?」

「あぁ、見てわかる通り......というか、鎧を着る理由なんてひとつしか無いだろう?」


俺は少し肩をすくめて、自分の鎧を披露するように見せた。


「魔物退治だ。もっとも、その依頼は達成出来ずに終わったようだがな」

「ん?あぁもしかして、ここの魔物退治の依頼? それは悪いことをしたな。たまたま近くを通りかかっただけなのに、頼まれちゃってさ、無償でやってあげたんだよ」


無償......ね。

ボランティアってやつか。そりゃあここの脳炎の主さんも喜ぶだろうよ。


「さすがは有名な勇者候補なだけはあるな」

「あれ、俺のことを知っているのか?」


知っている?あぁ、知っているとも。


「知っているとも」


とてもよく知っている。


「素晴らしき」


憎き。


「皆のヒーロー」


俺の敵。


「アラン=カイバール」


また貴様の名前を呼ぶことになろうとはな。

生きていることを不快に感じるよ。主人公。


「嬉しいな。でも一つだけ違う。俺はもう勇者候補では無い。正式な勇者だ」

「......」


アランは睨むようにして俺を見つめる。

疑っているのか?この俺を。

失踪したシルビオ=オルナレンだという可能性を。それとも、単に警戒しているだけか?素顔の見えない相手を。


「そいつはおめでとう。すまないな、なにせ私はずっと旅をしていたもので、情報には疎いのだ」

「旅ね......その女の子は、娘さんかな?ずっと旅の最中連れ回していたのか?」


奴隷商人を疑っているのか。確かにこんな所まで来女の子を連れ回すのは自然ではない。不自然だ。


「あぁ、この子は旅の途中で保護した子だよ。帰る家すら分からないから、私が世話をしてやっているんだ。この子の家族は......その、色々あったらしくてだな。それを忘れさせてやるためにも、少し危険だが、旅に付き添わせてやっている」

「なら、その鎧を女の子に着せてあげるべきだな」


痛いところを突いてくる。

確かにその通りだ。フレンだから鎧は必要無く、むしろ邪魔でしかなかったのだが、客観的に見ればただの女の子。


「鎧って重たいだろう?私も一応上級の冒険者だ。鎧を買えないことは無い。だが、無理強いはしなくない」

「ふぅん」


まだ納得言っていないのか、適当な返事が返ってくる。


「その頭の鎧、取ってよ」

「すまないがそれは出来ない。人に晒せるような顔ではないし、これは私のまじないのようなもので、申し訳ないが遠慮してくれないか」

「そこまで言うなら仕方ない。別にいい」

「感謝する」


なぜ感謝しなくてはならないんだ。

全く、どこまでも気に障るやつだ。


「よし、伝説の勇者様を見れたことだし、そろそろ帰るとするか」

「うん」


フレンは元気がない。

怒りは静まったようだ。その代わりに、今度は悲しみが襲っているのが分かる。

俺も同じ気持ちだからだ。


「アラン!そろそろ帰りますよ」


と、女の子の声。

なんだ、お前も女の子を連れているじゃないか。


「そうだな、リーネ。帰ったらまた買い物にでも行くか?」


リー......ネ?

リーネ......?

リーネなのか?


「はい!私ちょうど欲しいアクセサリーがあったんです」


振り向くと、そこにはとても見覚えのある顔。

いつもそばにいて、いつも一緒にいた。

しかし、今ではとても遠くに見える。

リーネ。

心臓の鼓動が高まる。息が苦しい。

汗は流れ、手足が震える。

まるで病気にでもかかったかのように、体調が悪くなった。

緊張しているのか?この場面を、チャンスだと思っているのか?

そうだ、今ならまだ......!


「ん」


腕が引っ張られた。

フレンだ。

俺とリーネの関係は、軽くだが話したっけ。

その時は俺を止めてくれと、そう頼んだっけ。


「また繰り返す気?」

「......」


もう、同じ過ちは繰り返さない。

あんな気持ち、二度と味わいたくはない。

だから諦めたんだ。

だから今こうして、俺はここにいる。

もう後戻りは出来ないのだから。


「勇者さん」

「?」

「どうかお気をつけて」

「......あぁ、ありがとう」


そのまま、アランとリーネは去ってしまった。

懐かしい顔ぶれだったな。

実に出席したくない、とても気まずい同窓会だったが。


「フレン......」

「なに?もしかして、今更魔王をやめたいだなんて言わないよね?」

「はっ、まさか」


そんなこと、万が一にあったとしても出来ないだろう。

俺は魔王の運命を背負っている。思いを、願いを背負っている。

それはあまりにも重すぎて、処刑台にも登れないほどに。


「作戦は失敗だ。だが、まだプランはある。あいつらの仇、アランは必ず俺がこの手で殺す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ