冒険者
冒険者ギルド。
二階建ての、ファンタジー世界にはよくある建物で、酒場とギルドが一緒になっている。
ギルドとは、冒険者達が依頼を受け、その依頼に応じて報酬を払うという事務所のようなものだ。
まぁつまり、働く冒険者も働かない冒険者も、ベテラン冒険者も初心者冒険者も、そして冒険者に憧れる学生でさえもここに集う。
そんな酒臭い場所に、俺とフレンは来ていた。
「どうも」
そう言ってギルドに入った、銀の鎧を着た騎士。
ガチャガチャと音を立て、扉を開ける。
後に続いて小さな幼女。
まぁ、大きな幼女なんて俺は知らないが、俺の半分ほどの身長しかないので小さいと言ってしまった。
ちなみに騎士が俺で、幼女はフレンだ。
「......」
俺達二人が入った途端に、ギルド内は静まり返った。
外にも盛れるくらいバカ騒ぎしていたくせに......そんな顔でこっちを見るな。
「......どうもとか言うからだ。何も言わずに入ればいいものの」
「いや、たぶんこのギンギラ銀の鎧だろ。さり気なくすれば良かったぜ。まぁ、こいつが俺のやり方だけどな」
なんて、懐かしい歌を言ってみるも反応がない。
そりゃそうか。
少し落ち着こう、緊張しているようだ。
「あー......依頼なんかあります?」
と、足早にカウンターへと歩いた。
カウンターのお姉さんは、苦笑いで「ありますよ」と答える。
まぁそりゃあるだろう。
ただ、このしらけた空気を誤魔化すために聞いただけなのだから。
「なんだアイツは」と、ザワザワする。
ここの冒険者達は、別に雇われている訳では無い。
事務所とは言ったが、冒険者というのは基本フリーで、仕事は自分で見つけなくてはならない。
事務所と言うより、バイトだな。
そして冒険者はフリーターだ。
だから、どんな冒険者が来ても不思議ではない。ここら辺では見ねぇ顔というのが、毎日のように来るのだ。
それにしても懐かしいな。主人公やってたころも、こんな風に「なんだこいつ」って感じだった。
「ご希望の依頼内容はありますか?」
「他の冒険者がいる所に、相席したい」
「は、はぁ......かしこまりました」
お姉さんは不思議そうに首を傾げるも、依頼を探してくれる。
そう、他の冒険者と相席。
つまり、チームでもない冒険者グループと、同じ依頼を受けるのだ。
ゲームで言うところの、「野良」ってやつだ。
なぜそんなことをするのか。答えは簡単、見ている人が欲しいから。
ソロで行ってもいいのだが、それじゃ魔物を退治している姿を確認してくれる人がいない。
第三者が必要なのだ。
もっとも、魔物を倒したフリなのだがな。
「申し訳ございません。冒険者さんが受けている依頼はたくさんあるのですが、一緒にやるとなると......」
相手が承諾してくれない......か。
だろうな。
そりゃあチームでも無いやつを入れるわけが無い。手柄はもちろんのこと、報酬を分けるのが嫌だからだ。
さて、どうするかな......
「俺達と一緒に来るか?」
と、なんと信じられないことに、心優しい冒険者方々が誘ってくれた。
声のする方向に振り向くと、そこには五人のパーティーがあった。
「いいのか?」
こんなギンギラギンだけど。
全身を鎧で覆い被さって、すごく怪しいけれど。
幼女連れてるけど。
「いいぜ。ちょうど人手が欲しかったところだし、困った時はお互い様だろ」
な、なんて心優しい人達なんだ。
俺は感動したよ。
というようなリアクションを取ってみるも、フレンに冷たい目で見られた。
フレン、これが処世術だ。覚えておけ。
そんなわけで、俺達は無事パーティーに入れてもらえた。
──────────
俺達は、馬車に揺られ、目的地へと向かっていた。
今回は依頼主がお金持ちなだけあって、現場まで馬車で送ってくれるらしい。
その代わり大変な依頼だ。
「俺はオレグ=ジリーグ。世界最強の冒険者だ!いずれは勇者になって、魔王をぶっ殺す!」
と、アホそうな奴。
オレグは、明らかに駆け出しの冒険者というような格好で、武器だけ少しゴツイ片手剣だ。しかし盾を持っていないところを見ると、自分に自信があるのだろう。
「私はナタリア=ナード。魔術師よ。遠距離での攻撃が得意なの。火力なら誰にも負けない自信があるわ!」
こっちは、元気がいい女だ。
自信があるというのなら、上級魔法の一つや二つは使えるのか?
「ダイアン=フリステンコ。盾役だ」
盾......ね。確かに大柄だし、大きな盾を持っているかはそうだろうとは思ったが、こんなノロそうなやつで大丈夫なのか?
動けない盾など、地面に突き刺しておくのと同じだ。
「わ、私はミレンダ=ボロー......です。回復魔法を使います。」
随分とまた弱々しい回復役だ。
こいつさえ倒してしまえば、もあこのパーティーは回復できない。
それは、そう難しくは無さそうだ。
「僕はフラヴィオ=エルバーン。このパーティーのリーダーだ、よろしく」
しっかりしていそうだな。
見た目も、中身も。
ただ、こういうリーダー的存在のやつが、だいたい初めに死ぬんだよな。
まぁ、兎にも角にもこんな風に個性のあるメンツに、入れてもらえたことを感謝しよう。
「私は銀騎士。本名は、訳あって話せないので、そう呼んでくれるとありがたい。そしてこの子はフレン。ほら、ご挨拶だ」
「こ、こんにちは......」
顔が引きつっている。
中身が魔物だとはバレないだろうが、本当は幼女じゃないってことぐらいバレそうだ。
「おう!よろしくな!」
馬鹿は元気だ。
「ねぇ、本名が言えないようなやつ、本当に入れちゃっていいの?」
と、女。ふむ、こいつは考える頭があるな。
怪しむという行為を知っているようだ。
しかし、質問をされているリーダーの方はどうかな。
入れてもらってなんだが、正直俺のように怪しいヤツをパーティーに入れるべきではないと思う。
まぁ、今回はそれに助けられたのだが。
「困った時はお互い様だ」
......なるほど。
頭の中がだいぶおめでたいことになっているようだ。
そんなこと、騙されたことがないようなやつのセリフだ。
まるで主人公。
アランを思い出すようで、不愉快だ。
「で、なんでパーティーに入りたかったんだ?その装備からして、初心者の冒険者では無いだろう?それなら一人で依頼を達成することくらい出来るはずだ」
ダイアン。
まぁ、その質問は来ると思っていた。
「ただ、少し寂しくなっただけだ。別に変な理由はない。しかし、見てわかる通りフレンという小さな女の子を連れている。この子の親は魔物に殺されたようで、そこを私が保護したのだ。だから、守りつつ闘うことは難しい」
「なるほどね。そこでパーティーに入れば、人数が増えるから、少しは安心できるってわけか」
俺は頷く。
まぁ、本当は全て嘘なのだがな。
「今回は本当に感謝している」
「いいっていいって、むしろ、こんな強そうな人が来てくれて嬉しいよ。もしかして、もうハイテリトリーに行ったことあったりするのか?」
「いや......」
行ったも何も、上級の魔物であるドラゴン。オーヴェインを倒したことがある。
思い出しただけでも左腕が疼く。
「まぁ......そうだな」
「おおー」と、少しだけみんなが反応する。
ここは少し大袈裟に言っておくことにした。
全員の信頼と、その強さの証明が必要だからだ。
「......」
しばらくの沈黙。
急な猛者発言に、緊張してしまったか?
「そういえば今向かっている大農園、ラディチ大農園の一部らしくて、だからあんなに報酬が良いらしい」
沈黙を破ったのはやはりリーダーであるフラヴィオだった。
そこはちゃんとリーダーしているのだな。
っていうか、今ラディチって言ったか?
「ラディチ大農園ってなんだ?」
ナイスだ馬鹿。
俺だと安易に聞けないからな、お前、なかなか頼りになるじゃねぇか。
「ラディチ大農園ってのは、ラディチ家の大きな農園だ。その規模は相当なもので、この国の九十パーセント以上は、ラディチ大農園から賄っている」
「へぇー」
へぇ、だからあんなに金持ちなのか。
「とにかく規模が大きくて、大量に安く手に入ることから、こんなにも浸透したそうだ」
ラディチ......恐ろしいやつだ。
そんなに大きな農園があるのなら、もしかすると魔物達も食っていけるかもしれないな。
あいつら、いつも腹が減っているようだし、少しくらい持って行ってもバチは当たるまい。
「銀の騎士......あー、呼びにくいな。なんかもっと良い呼び方ないのか?」
「じゃあ、ギンで」
「ギン。あぁ、それなら呼びやすい。それでギン、ここから大農園まで、まだまだ時間はかかるようだ。だから、少しでも君のことを知っていたい」
「......」
俺のことを、話せと?
確かに、お互いのことを知っていた方が、安心するし統率も取りやすいことがあるだろう。
「私は──────
と、語ろうとしたところで、時間が止まったように見えた。
一瞬。
一瞬で、それは起こった。
馬車の前方が、いきなり崩壊したのだ。
何か、物が当たったかのように。
その衝撃で、馬車は全体が破壊され、乗っていた俺達は外へと強制的に追い出された。
「ぐぁああ!!」
「うわぁっ!!」
「な、なんだ!?」
「落ち着けみんな!早く陣形を作るんだ!」
見ると、一体のリザードマンが空を飛びながらこちらを伺っていた。
そうだ。今農園に向かっている理由は、農園に魔物が現れたことで、それを仕組んだのは俺だった。
何を隠そう、農園を襲わせたのは俺で、それまでの道のりで来た人間を排除しろと言ったのも俺かのだ。
だから、こうして襲われることも配慮しておくべきだった。
「ジンルイみっけ!」
「魔物!?まだ農園には着いていないのにっ!」
「いや、今は魔王が死んで、新しい魔王になったことで魔物の動きが少し活発になって来ているそうだ。どこにいてもおかしくは無い」
ふむ、ちゃんと伝わっているようだな。
新しい魔物の存在。
それを聞いて少し安心した。
「みんな、ここは一つ、私に任せてくれないか」
「ギン......?」
ここで見せる。
俺が闘えるという所を。
悪いなリザードマン、その場しのぎだから、もしかすると殺っちゃうかも。
「......ん?あれ?もしかして、フレn「オラァ!!」
俺は、勢いよくリザードマンに飛びかかり、地面へ押し倒した。
危ねぇ!そういえばフレンはそのまんまで来ていたんだった。
俺は鎧を着ているから、分からない魔物も多いだろうが、そのまんまフレンを知らない奴は多くないだろう。
俺はリザードマンを押さえつけながら、小声で言う。
「大人しくせずに聞け、俺は魔王シルビオだ」
「え?マオウサマ?」
「そうだ、訳あって今は人類と仲のいいフリをしている。だから、俺に合わせて殺られてくれないか?もちろん演技で」
「え、ど、どういう......?」
クソッ!これだから魔物は!
「とにかく、俺がお前の首を斬るフリをする。だから、お前は斬られたフリをしろ。それで、しばらく死んだフリでもしてれば見逃すから」
「わ、わかりました」
「よし、いいな。一撃で決めるぞ」
俺はわざと緩める。
どころか、後ろへはね飛ばされるフリをし、受身を取った。
それと同時にリザードマンは空へ再び飛び上がり、俺は腰の剣を抜く。
「お前達は下がっていろ」
走り出す。
リザードマンに向かって、跳ね上がった。
空中で身をひねり、右手に持った剣で、リザードマンの長い首を掻っ切る。
フリをした。
念の為、剣にはふんわりと風を纏わせていたので、切れている心配は無いが、血が出ないことをどう誤魔化そうか。
「ぐお......」
なんとかリザードマンは、上手いことやられたフリをして、地面へと落ちてくれた。
「フレイム!」
ボウッと、両手から炎を出す。
大きな炎は、リザードマンを包み込み、覆い隠してしまった。
否、そうした。
だが、リザードマンには風を纏わせている。少し暖かいくらいのはずだ。
「ン?」
「......くっ」
早く、早く逃げろ!
今のうちに!
ボシュウと、炎が消えた。
「や、やったか?」
やった。
炎の壁が消えると、リザードマンの姿はそこにはなかった。
上手く逃げてくれたようだ。
「ふぅ......見てのとおり、魔物は綺麗に消し去った」
おお!っと、また歓声が上がる。
なんとか誤魔化せたようだな。よかった。
「さすがは上級の冒険者......」
「お前思ってたよりやるじゃねぇか!」
「す、すごいです」
正直焦ったが、とりあえずは一件落着のようだ。
まだここから本番が残っているが、あれはちゃんと打ち合わせをしてあるので今のよりは大丈夫だろう。
全く、騙す方も楽じゃないな。
「さっさと現場へ向かうぞ。もうここにまで魔物が進行しているということは、おそらくそれだけ農園もピンチだということだ」
「でも馬車が......」
「そうだな、歩いて行くしかなさそうだ」
歩いて......か。
俺達は空を飛んで行くことが出来るが、こいつらにそれを見せれば怪しまれてしまう。
なら、このパーティーに合わせるしかない。
「よし、あそこら辺で飛んでいる鳥。見えるか?」
俺は空高くにいる大きな鳥、ロック鳥の姉妹系の動物。
「レフか」
レフという鳥型動物。
魔物ではなく、普通の野生の動物だ。
森や山なら滅多に見られないというほと珍しくもない生物だが、その巨体さ故に捕まえることが難しく、敵に回すと厄介なやつだ。
何より標高の高い位置におり、人間は簡単に手を出せないのだ。
「おいおい、鳥収集家でも、手も足も出なかったんだぞ?確かに、一体でもテイムできれば、背中に乗って飛んでいくことができるが......負けることはないにしろ、そもそも攻撃が届かない」
常人ならな。
俺は魔王だ。お前らとは違う。
あれぐらい余裕で撃ち落とすことが出来るのだが、さすがにそこまでやってしまうと疑われることになる。
だが、ドラゴンの翼を見せて、飛んで現地へ向かうよりはマシだ。
そこは上級の冒険者ということで済ませよう。
「任せろ」




