人類との共存
批判が殺到した。
なぜ人類と共存しなくてはならないのか。
なぜあんな奴らを許さねばならないのか。
人類は敵だ!と。
無理もない。
今まで喧嘩していたやつと、簡単に仲直り出来れば苦労はしないのだ。
「人類に恨みのある諸君らの気持ちは分かる。俺も人間は嫌いだ。だが考えてみろ。もし人類と争わなくてもすむなら......誰も死なず、誰も闘わずにすむなら」
「「「............」」」
その言葉を聞いて、魔物達は黙った。
「た、たしかに......オレ、タタカいたくねェよ」
「オレモダ」
「そうだ、ジンルイはキラいだけど、シぬのはイヤだ!」
......どうやら決まりのようだな。
「諸君。君たちの歴史は聞いている。だが、よく考えてみればどっちもどっちじゃないか?先に手を出されても、やり返すのは良くない。だから、もうこんなことやめよう。君たちは闘うために生まれてきたわけではないだろう?これからは、誰も争わなくてもすむ世界を。平和な世の中を!」
おおー!!っと、歓声があがる。
思ってたよりも理解力があって助かった。
そこら辺は、前の魔王に感謝だな。
おそらく、闘うことへの疑問を抱かせてくれたりしていたのだろう。
人類と魔物の共存......それが実現出来れば、俺も何かを成し遂げたってもんだ。
......それが、俺の最初で最後の役目。
「では、平和のためにまずは────」
「お話の途中失礼します。人類が攻め込んで来ました」
「なにぃ!?」
人類が攻めてきた、だと?
どういうことだ。
たしか、魔王の気配を察知できる人間がいたと言っていたな。なら魔王が死んだ今、攻め時は完璧なのだが......
だからってなぜ場所がバレている?
まさか魔王め......初めからこの場所はバレていたな!?そしてそれを俺に使わせたのか?
探知魔法では......いや、探知系の固有魔法を持っているやつがいるのか。
なんにせよ、ここを守らねば平和は成立しない。
むしろいい機会だ。
ここで俺(魔王シルビオ)の存在を人類に知らしめれば、人類も少しは落ち着くだろう。
「なぁ、シルビオよ。まさかここで人類に殺られろだなんて言わないだろうな?」
「そんなこと、言うわけがないだろう?俺は魔王だ。魔物を死なせたりなんかしない」
「なら迎え撃つのか?今さっき仲良くなると決めた相手を」
「そうだな」
「なぁ、シルビオ......仲良くなるって、具体的にはどんな方法なんだ?」
「......」
ここで待っていても殺られるだけ。
殺されないためには闘うしかない。
闘わないために、闘う。
仲良くなるための、方法。
今まであった全てのことを無くして、無かったことにさせて、許させる方法。
それを話すには、まだ早い気がした。
「そのうち言う」
「......そうか」
まずは手始めに、俺の存在を知らしめるために、人類を少しばかり削らせてもらう。
──────────
魔王軍アジト付近。
前線。
「状況は?」
俺は椅子に腰掛ける。
アジトは山の洞穴にある。
その山よりも少し人類に近づいた場所に、もうひとつ山がある。というか、沢山ある。
ここはとても見晴らしのいい場所だ。
まるで、戦況を上から確認しているよう。
「マ、マオウサマ!?」
「よい、楽にしろ」
「はっ!ナニウエ、こんなサイゼンセンにいらしたのですか」
ゴブリン部隊を、門番に頼んでいた。
だが、いざ人類が攻め込んで来たとなると、ゴブリンだけではとても対処出来るものでは無い。
相手の戦力がどのくらいか分からない今、俺自ら戦場にでて確認する必要があるだろう。
「なぁに、ちょっとした暇つぶしさ。それで、戦況は?」
「はっ。ジンルイのキシとオモわれるものが、ヤクジュウスウメイ。ヤマミチへとシンニュウしました」
「それだけか?それだけでこんな大騒ぎなのか?」
「いえ、そのコウホウにスウヒャクニンのグンがいます」
なるほど。
手練の冒険者数人を前に出し、ある程度片付けたところで主力部隊であるその数百人で押すと。
作戦とは言えないな、それはただの数でのゴリ押しだ。
「リザードマン達を敵の背後に回らせろ。あんな塊、すぐに落とせる。ゴブリンは前線で引き続き足止め、危なくなったら無理せず後退しろ。まずは山を崩してあの軍勢を分断させる。それと同時に一斉攻撃だ。俺の指示無しで行けるか?」
「な、なんとかやってみます」
さぁ、ゲームを始めようか。
まずは俺も前に出ないとな。
存在を知らずに死なれたら困る。
あと、リザードマン達には全員殺すなと言っておかなければ。数人だけ逃がして、俺(魔王)のことを伝えさせる。
他は皆殺しだ。
「それでは、作戦開始!」
俺は最前線へと来ていた。
たしかに、二、四、六.....全部で十五人の冒険者だ。
ふん。随分と舐められたものだな。
「ん?」
「なんだぁ?誰か立ってるぞ」
「新種の魔物......いや、黒い鎧だ」
あぁなんだ。
余裕ぶってるもんだから、てっきり上級者かと思ったが、全然大したことないじゃないか。
こいつらが身につけている装備、どれも序盤で手に入る物ばかりだ。ログインボーナスで貰えるやつのほうが、ずっと強い。
「初めまして。魔王が死んだと聞いて、魔物絶滅のために飛び込んで来た方々ですか?」
「だったらなんだってんだよ」
「質問しているのはこっちだ。何をしに来た」
「そうだよ。お前の言っていることで間違いない。で?お前は何者だ。言葉を話せる魔物もいるらしいが、その鎧......人間なんてことはねぇよな?」
「安心しろ。正真正銘の魔物だ」
「そりゃあ良かった。これで気がかりなく、やれるぜ!」
三人ほど突進してきた。
なんだ、自己紹介はもう終わりか。
まぁ、いい。お前らの大半は死ぬのだからな。
「なっ!?」
「にぃ!!」
フレンが上から降ってくる。
土埃や衝撃により、全員冒険者は吹き飛ばされた。
ただし二人だけ残した。俺のことを報告してもらう奴が必要だからな。
「フレン、二人だけ残して後は好きにしろ」
「誰を残す?」
「誰でもいい。まぁ、強いて言うなら恐怖してるやつにしろ」
「了解」
フレンはグリフォンの状態だ。
グリフォンは人よりも体が大きいので、踏みつぶすだけでも相当なダメージとなる。
「ちっ!俺達も簡単にはやられ─────
─────グシャッ
踏み潰され、蹴り飛ばされ、グシャグシャにされた。
あぁ、片付け面倒くさそうだな。
フレンは、まるで虫けらの如く潰した。
プチプチでもするかのように、意図も簡単に。
別にもう、何も感じなかった。
この世界の人間を、同胞だとは思え無くなってしまったのかもしれない。
「ひっ」
その惨劇を見ている、残した二人が、恐怖に駆られた目でフレンを見ている。
いや、俺に恐怖を感じてもらわないと困るなぁ。
「おいお前ら、ギルド長でも何でもいい。とにかく上のやつに俺のことを伝えろ。『新たなる魔王、『漆黒の騎士』の誕生』だとな」
それを聞いた途端、二人は猛ダッシュで逃げ出した。
その背中を向けた姿は実に好きだらけで、お世辞にもプロの冒険者とは言い難いものだった。
「ん?あの二人、後方にいた数百人の軍勢とやらと合流してしまうのでは?」
「あぁ、それなら問題無い。既にその軍勢は倒し終わっているはずだ」
「ごホウコクします。ゴブリン、リザードマン、トモにサクセンセイコウとのことです」
「死傷者は?」
「イマのところはゼロニンです」
「よし」
よくやった。
なんだ、できるじゃないか。
俺は思わずほくそ笑む。こんなところ、リーネだったら何か言われることだろう。だが、二人はは違う。
笑う俺を見て、フレンも嬉しそうに笑顔を浮べる。と言っても、グリフォンの状態だと笑顔も分かりづらいが。
「思ってたよりも簡単に終わったな」
「てやぁ!!」
ガキィイイン
と、響く金属音。
剣の刃とグリフォンの爪が交わったのだ。
「ほう、逃げて行ったと思ったが......?」
「俺は借りを返す主義なんでね」
もう一人の方を逃がして、自分だけ戻って来たか。
さては、仲間の死体の山でも見て、逆上したか。
復讐心に燃える男。
まぁ、その決断がどうであれ、戻って来たことは褒めてやろう。
「それで、何をしに戻って来たんだ。忘れ物でも?」
「あぁ、お前を殺しわすれていた!」
「ここは私が」
「いや、フレン。ここは俺が殺る。たまには闘わないと、腕がなまっちまう」
肩を回して少しほぐす。
鎧がガチャガチャ音を立てる。重いなこれ。
「いくぞ!」
ふん。さっきは不意打ちしてきたくせに、正面からだとご丁寧に「いくぞ!」と言うのか。
だがそこが
「甘い」
俺は左腕で、引っ掻くように空を斬る。
手は、熊の手のように指を立てて。
「ッ」
見えない刃は、剣を振りかぶった冒険者に命中する。
そして、まるで砂で出来ていたかのように、跡形もなく切り刻まれた。
綺麗に三等分。
頭と胴、そして足に分けられた。
「弱いな」
「そりゃあね。一応魔王なんだから、それぐらいは」
「まぁ、な」
一応魔王......ね。
これでまずは第一波を乗り切ることが出来た。
これからどんな敵が現れようと、俺が魔物達を守ってやる。
それが、魔王としての使命。
俺が、魔王として受け取った運命。
「よし。次の作戦に入る」
「え?もう?」
「当たり前だ。事態はすでに悪化している。まさかこんな早くここがバレるとは思っていなかったからな。また攻め込まれる前に、今度はこちらから行こうじゃないか」
「進軍するの?」
「いや、侵入するのは俺だけだ。人類の味方として......まぁ、スパイみたいなものだな」
「ふぅん」
一旦洞窟へ戻り、黒い鎧を脱ぐ。
そして、代わりに銀の鎧を来た。
まるで聖騎士かのような、煌びやかな白銀鎧に、燃えるような赤いマント。
いかにも何か悪い物でも切り払いそうな剣。
それらを全て身につけ、洞窟を出る。
「行くぞフレン。くれぐれもグリフォンの姿には戻るなよ」
「分かっている」
「あと、俺を呼ぶ時は『銀騎士』と呼べ」
「......さっきもそうだったが、お前あまり名前のセンスないな」
「ほっとけ」
俺達は人類の街へと向かった。




