魔王シルビオ
亡き魔王のマントを取る。
俺には大きな代物だが、少し破れば丁度いいサイズだ。
大き過ぎる......なんてことは無い。
器は、持っているのだから。
「初めまして魔物諸君、よくぞ集まってくれた」
大きなホール。
魔王が俺を魔法で転送させた際に、どうやら別の場所に飛ばされたようだった。
前の真っ暗な洞窟が見当たらない。
その代わりに、洞穴が見つかった。
俺が落ちた所は、下に深かったが、今回は奥に深い。
故に、出入りが楽だ。
そして、その奥で俺は魔物達を集めた。
魔王の伝達係として翼の生えた魔物が何体か、早速俺に仕えてくれたので、そんなに難しいことではなかった。
「皆、知っての通り、魔王は死んだ」
ザワザワとする。
まるで怒らない先生の授業風景のようだ。
先生の話を聞かず、友達同士で喋る。
魔物も同じようなものだな。
「そして俺が新たなる魔王、シルビオ=オルナレンだ」
は?
と、皆一斉に驚きと疑問を抱いた。
首をかしげ、頭の上に疑問符を浮かべる。
ある者は怒り、ある者は驚きのあまり理解出来ていないようだ。
「ニンゲンじゃねェか!」「そうだそうだ!」
「おマエがマオウだなんてミトめねェぞ!!」「マオウサマをカエせ!」
酷い罵倒だな。
全く俺は、嫌われる天才かもしれない。
人間界でも魔物界でも、どちらにしろ嫌われている。
だが、そこを納得させてこそ魔王だ。
「魔王に聞いた。どうやら魔物の間では、強い者が魔王になるらしいな。つまり、魔王を倒したのは俺、俺が魔王でも問題無いのでは?」
「それは......」
魔物界は弱肉強食。
強き者が弱き者を支配する。
もちろん、強い弱いの判断は────
「バトルだ」
魔物達の中から声がした。
「ほう......」
群れを押しのけて、一人だけ出てくる。
思わず一人と数えてしまうような、人型の魔物。
成人男性よりも数倍大きな体。
魔王ほどでは無いとはいえ、俺よりは大きい。
その体には骨でつくった鎧を纏っており、片手には巨大な大剣。自分の体の半分......というか、俺よりも大きな体その大剣を、片手で持っているというだけで、力強いことが分かる。
オーガだ。
「オレはミトめねェぞ。バトルしろ」
オーガは血気盛んだからな。
まぁ、こうなることも予想はしていた。
しかし、闘って勝てば言うことを聞いてくれる。
会話での説得よりはその方が手っ取り早い。
「いいだろう」
俺は、オーガの目の前まで歩いて行く。
近づくほど大きいな......だが、こんなのゲームでいくらでも見た。
実際生でみるとまた違う恐ろしさがあるが、それでも大きなは躊躇なく近づく。
魔王だからだ。
今の俺は、魔王を倒したこととなってる。
なら、威厳を保たなくては。
オーガの目の前でピタリと立ち止まる。
上を見上げなければ顔も見えない。
鼻息が当たる。温かい。
「さぁ、いつでもかかって来い」
「おマエをタオして、オレがマオウになる!」
オーガは、片手で大剣を振り回した。
俺を斬りに来るというよりは、俺に向かって剣を振り回すと言った方が正しい。
剣の扱い方が雑。
ただ力任せに剣を振り回し、地面に、洞窟の壁に当てながら俺を追う。
その怪力で、大剣が至る所に刺さったりめり込んだりするのだが、それも怪力で引っこ抜く。
そしてまた振り回すのを繰り返す。
いわゆる、脳筋というやつだ。
俺としては避けやすくて良い。
「ふん!!ふん!!」
怒ってんなぁ......当たらないことに苛立ち、怒りのパワーを蓄えている。
スピードや威力が上がっているな。
少し厄介だ。
そろそろ追いつかれる。
「ヨけるなァ!!」
「そりゃあ無理ってもんでしょ」
当たっても、一撃では死にはしないものの、一溜りもない。
風の鎧でも、俺の体ごと吹き飛ばされれば意味は無い。
なら、避けられるのは避けるのが一番なのだが......それもそろそろ厳しくなってきた。
「そろそろ......か」
圧倒的なまでに圧倒する。
オーバーキルってほどの力を見せれば、それだけで強いと思わせられる。
ようはインパクト。
衝撃なのだ。
「グォオオオ!!!」
「うるせぇ」
身を翻して攻撃をかわす。
そして、流れるようにオーガの懐へと入り込み、左手を腹に添えた。
優しく、ソフトにタッチする。
「吹っ飛べ」
風を、手のひらから太い筒状にして送り込む。
風を筒状の壁でコーティングすることによって、分散されずに真っ直ぐ飛ぶ。
さながら空気砲のようなものだ。それを近距離で撃てば、オーガのような巨体でも───
一瞬で最高速度を出し、オーガは後ろへと吹き飛んだ。
魔物達の群れを越え、洞窟内の壁に叩きつけられる。
ヒビが入る程度ではすまなく、まるで月のクレーターのように、穴が空いてしまった。
「思い出したくもねぇもん思い出しちまった......」
......まぁいい。
予想通り魔物達はポカーンと、口があるものは口を開け、無いものは目を見開いて、どちらも無いものは沈黙という形で驚いた。
「少なくともここにいるものは分かったようだな。そうだ、俺が魔王シルビオだ!!」
もう一度宣言する。
「マオウサマ」
早速俺に使える魔物が近づいて来た。
と思ったが、魔物達を集めるのに協力してくれたやつだった。
「なんだお前か」
「はい、ワタシでございます。ミナがマオウサマをミトめてくれたようで、ナニよりです」
「そうか......お前は俺が魔王で、反発しないのか?」
ガーゴイル。
翼が生えている。
オーガより小柄で、人より少し大きいくらいのサイズ。
見た目は野性的、というかデビルって感じだが、言葉遣いは意外と丁寧で、態度もとても上品。全てのガーゴイルがそうだとは限らないが。
魔王の情報伝達係だったそうだ。まぁ、今もだが。
「ワタシはマオウサマにツカえるミです。シルビオサマがマオウサマなら、シルビオサマにツカえるだけです」
それは、魔王への忠誠。
魔王が誰であろうが、魔王という役に忠誠するだけだ。
まぁ、今はそれをありがたいと思っておこう。
「そういえばお前、名前は?」
「ナマエなど......ワレらにはありません。ニンゲンのマネごとはしたくないのです」
強がりを言ってはいるものの、どこか寂しげな表情をしている。
今まで魔王は何と呼んでいたのだろうか。
......やはり不便だ。
これから人間と仲良くなるわけだし、名前くらい付けてやってもいいだろう。
「グィル。お前は今からグィルだ」
「おナマエをいただけるのですか?」
「あぁ、何かと不便だからな」
グィル。
発音しにくいところが何ともカッコイイ。
「それじゃあグィル、全魔物とそいつらが入る場所を用意しろ。出来れば声が響いて聞こえやすいようなところが良い」
「ショウチしました。ですが、ナニをするかだけオシえていただけますか?」
「作戦会議だ」
「しかし、まだマオウサマをミトめていないモノが......」
ふむ......たしかに、ここにいるものの全員が全員俺のことを認めたわけでもあるまい。
それに、魔王には側近がいる。
こうして近い者のみとはいえ集合をかけたのにも関わらず、側近が来ないということは、俺をまだ認めていないということだ。
「その中で一番強いやつを教えろ」
「グリフォンです」
グリフォン......元魔王の補佐官か。
簡単に言えば、四足歩行の鳥。たしか、上半身が鳥で下半身がライオンだったか。
翼が生えているから、ライオンのように駆け、鳥のように羽ばたくことができる。
「分かった」
「グリフォンのトコロにイかれるのですね」
「あぁ」
「モウしワケございませんが、バショはワかりません」
「大丈夫だ。わかる」
全員とまでは行かなくとも、せめてグリフォンだけでも欲しい。
「俺がいない間に、鎧を作ってくれないか?別に奪ったやつを改造したのでも構わないが、真っ黒のやつだ」
と、俺は魔王のマントを渡した。
「魔王様に鎧なんて必要ありません」
「いいから、お願いしたい。それと銀の鎧もだ。覚えたか?黒と銀の鎧一つづつだ」
「かしこまりました」
今度は、用途を聞かないんだな。
まぁ、どうせ後から作戦内容を伝える。その時に全て分かるだろう。
俺は、グリフォンの所へ向かった。
──────────
洞窟から約数十分。
魔王との闘いで、背中にドラゴンの......オーヴェインの翼が生えた俺は、空を完璧に飛んでいる。
風の操作は、まるで手足を動かすのと同じようにできるし、翼を使えば空中戦も自由自在だ。
ただ、翼を出すたびに服の背中が破けるので、あまり頻繁には使えない。
早速今使ってしまったので、しばらくはこの破れた───もとい敗れた制服で過ごすしかない。
そう、アランに敗れた制服で。
「お」
いた。
グリフォンは、ゲームで少し闘ったことがある。
あの時は、途中で邪魔が入って強制終了だった。
その際に、グリフォンが「落ち着く場所」と言っている所に行った。
そして今回もそこにいると予想していたのだが、やはり的中だ。
「よぉ、グリフォン」
山の上の、さらに上。
頂上に、岩の棒のような柱がいくつも刺さっている。
その真ん中に、まるで人が作ったような、ステージのような大きなお皿がある。
器。
そう、これはグリフォンと闘う場所。聖なる器だ。
と、ゲームでは言っていたが......
「私の居場所が分かるとは......ふむ。だてに魔王を名乗ってはいないということか」
「そうだな。だって俺が魔王だからな」
「きッ!貴様が魔王を語るなど!!」
許さない。と、いきなり来た。
寝ていた体を起こすと同時に、勢いよく翼を羽ばたかせ、俺に突進してくる。
「貴様が!貴様が魔王様をッ!!」
泣きながら、雑な攻撃。
そんなんじゃ、オーガより避けやすい。
だが、オーガより説得しやすい。
「魔王は、俺に託した」
「ッ!」
俺が話を始めると、ピタッと攻撃をやめた。
なるほど、やはり端から闘いを望んでいたわけではないようだ。
「......どういうことだ」
「俺は、魔王を倒してなんかいない」
グリフォンは、頭のいい魔物だ。
他の魔物と違って、ちゃんと話せば分かる。
「お前には、事実を話そう。本当の、魔王の話を」
それから、俺は魔王との出来事を話した。
魔王が何を望んでいるのか。望んでいたのか。
そして、俺に託したこと。
魔物は、強いものを魔王とする。
強者への忠誠心だ。
グィルは、魔王というものへの忠誠心。
魔王という記号への、絶対服従。
それに比べてグリフォンは、先代の、俺が殺した魔王への忠誠。いや、恋心......と言うのが一番的を射ている。
魔王という記号では無く、あの先代魔王のことが好きなのだ。
魔王を認められないわけではなく、俺が先代の魔王の、魔王とう役を取ったからでもなく、魔王を倒した。殺したということが許せないのだ。
だからこそ、その魔王の願いとあれば────
「......分かった。それが事実かどうかは、お前を見て判断しよう」
「ありがとう」
やはりグリフォン。
話がわかる。
他の魔物と比べて、人間の言葉も達者だしな。
「これで、お前と闘う理由は無くなった」
「それは助かる」
だが、こんなことでは終わらない。
たったこれだけで、俺への忠誠心が芽生えるわけでもなければ、逆に疑いの目でしか見ないだろう。
だからもう一押し。
「それで、一つだけ俺からお願いがあるんだが」
「なんだ」
「名前を付けさせてくれ」
「名前?」
そう名前だ。
名前というものは、なんというか......大事だ。
人の価値観的には、とても大切なもの。
それを与えられるということは、やはりどこか心に来るというものだ。
「フレンダー......長いな。フレンでどうだ?」
犬でもロボットでもないけど。
「フレン......いい名前だな。気に入ったぞ!」
「それは良かった」
気に入ってくれて何よりだ。
「名前を貰うなんて初めてだ......」
フレンは喜びを噛み締めるように復唱する。
「じゃあ帰るとするか」
「おう!」
──────────
帰ると行っても、洞窟だ。
前の洞窟に戻っただけだった。
「よっと」
洞窟入口。
フレンが地面に降り立ったと共に、回転した。
と思ったら、体がどんどん縮んでゆき......
「......ッ!?」
変身......いや、変化か?
とにかく、目を疑うような光景だった。
「女......の子?」
に、変わった。
姿形が、完全に女の子。中学生......?くらいの幼女だ。
「お?」
「お?じゃねぇよ。なんでロリ形態なんてあるんだ」
聞いてねぇぞ。知らねぇぞ。
そんな設定ゲームにあったか?
「ろり......?ってなんだ?」
「まぁ、気にするな」
「うむ。ところでシルビオ、これから何をするんだ?」
シルビオ?
たしかにさっき話すときに名乗ったし、間違ってはいないが、名前で呼ばれるとは思っていなかった。
フレンにとっての魔王は、先代魔王ただ一人なのだろう。
「よし、全員集まっているな」
「いえ、セイカクにはまだキュウワリほどです」
これで?
この洞窟内ぎゅうぎゅう詰めで?
というか、早いところ拠点を見つけないとな。
俺は作ってもらった。または奪った鎧を着る。
マントは、鎧につけてもらった。
黒に黒で、真っ黒だ。
魔王っぽい。
「それでは、作戦会議を始める。主題は、『人類と仲良くするために』だ!!」




