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魔王

目が覚めるとそこは......真っ暗闇だった。


「ここは......?」


どこだ?

目が覚めた......ということは、俺は今まで気絶していたということか。

眠った記憶は無い。

だとすれば、歩いている途中で何らかの事件、事故が起こり、気絶し、今に至るわけだ。

......思い出せない。


「よォ。気が付いたか?」


暗闇から声がした。

まさか、拉致?

男子生徒を狙った、昏睡レイ───


「勘違いすんなよォ?落ちて来たとはテメェだからなァ。というより、堕ちてきたってェとこかァ?」


落ちた?

俺が?いや、それよりも......


「誰だ」

「暗視魔法を使えばいいだろォ」


あ、そうか。


「ナイトヴィジョン」


唱えると、目の前の真っ暗闇が一気に消え去り、声の主はその姿を現す。


「......着ぐるみでは無さそうだな」

「そうだな」


全身真っ黒な鎧に、大きなマント。

大きさは少し普通の人よりも大きめ。

大きくて立派な角。

そして何より、姿を見ただけでその圧迫感に耐えられずに死んでしまいそうなくらいの威圧。

こいつは......


「魔王」


本人だった。


「なぜ魔王がここに?」

「逆だよ。てめェがここに来たんだァ」


そうか。

ずっと歩いていたら穴に落ちたと。

それがここと言うわけか。

しかし、木に叩きつけられたり、壁に叩きつけられてたりを経験した俺に、今更穴に落ちたぐらいで気絶するとは信じ難い。

......いや、それだけ体力が残っていなかったということか。


「魔王......ね」


魔王の存在は、知っている。

ゲームで闘うことは無かったが、魔王という存在があることは知っていた。


「ばれん......ばれェん......バレンンィヌ?だったか?」

「あぁ、ヴァレンティーノか」

「そうそう。そんなよォな名前のやつゥ。元気かァ?」


ヴァレンティーノ王。

あの人でなしの王。

俺の親友や国民を魔人化させ、魔物に対する兵器にしようとしていた奴。

まさか魔王と何らかの繋がりが?だとしても、俺は真実を伝える。


「俺が殺した」

「そうかァ」


魔王はあっさりと。

本当にどうでもいいかのように一言だけ放った。


「別に仲間とか友達とかァ、そういうものじゃァねェんだけどよォ。『貴様をぶっ殺す』とかァ言われちャッたら期待しちャうよなァ」


期待。

まるで殺されるのを楽しみにしているかのよう。まるで殺されたいかのようだ。

「ところで」と、魔王は話を続けた。

喋りたがりなのだろうか。


「ずっと見てたけどよォ、テメェ、独り言多いよなァ」

「ほっとけ」


話したがりのお前に言われたくない。


「知ってるかァ?主人公って奴は、どうやら独り言が多いらしいぜェ」


主人公?あぁ、主人公か。

(シルビオ)がなりたかったもの。

(シルビオ)にはなれなかったもの。

魔王はクックックと不気味な笑いをする。


「......なぁ、お前魔王なのになんでこんな所にいるんだ?魔王ならこんな穴くらい......外に出られるだろ?」

「まるでこの穴を『住みにくい場所』みたいに言ってくれるねェ。魔王だからこそ外には出ねェんだよォ」

「魔王だからこそ外に出ねェんだよォ」

「人間に殺されるからか?」

「逆だ。強すぎるからだァ」

「......」


変な悩みだ。

強すぎる故の、最凶故の悩み。

強すぎるから、敵の前に姿を現さない。


「変な話だな。そんなに強いなら、人類なんてさっさと絶滅させてしまえばいいのに」

「人類を殺すのが目的ならァな」

「......?」


どういうことだ?

と、俺が聞き返そうとする前に、魔王は話を続けた。


「てめェ、なかなか面白い奴だなァ」

「......急だな。なぜだ?」

「魔王を前にしてるってのによォ、少しも怖がらねェ」


なんだそんなことか。

魔王の面白さってのは少し変わっているな。

相手が怖がらないだけで面白い。

お化けとは真逆の性格なんじゃないか?


「残念ながら、こう見えて結構怖がってるんだぜ?さっきから足がすくんで立ち上がれない」

「足がすくむ程度で済むのは、あまり怖がってェないッて証拠だァ。常人ならァ死んでる」


死んでる......は言い過ぎだろう。


「ならてめェはなぜ生きてるかッてェ?簡単さァ、死んでもいいと思ッてるからだろォ」

「......」


俺が?

死んでもいいと、思っている......のか。

......たしかに、心の奥底ではそう思っているのかもしれない。

恐怖とは、死から来るものだ。

間近な死ほど、恐怖するものはない。

であれば、生きることを捨てたものは、死を恐れない。

恐怖など、感じないのだろう。


「......不思議なものだな」


俺はフッと、鼻から息を漏らした。


「こうして、魔王と話していることに、どこか落ち着きを感じる」

「ほォう?」


暗い穴の底。

湿っぽくて、人間にとっては居心地の悪そうな場所。

こんな場所で魔王と二人、腰を下ろしてゆっくり話す。

こんなにシュールなシーン、滅多に無い。

それなのに......


「落ち着きを感じる、かァ......。この魔王に対してそんなことォ言うやつは初めてだなァ」

「だろうな。俺自信、割と驚いている」

「まァ、あれだけ騙され続きじャァ、絶対の魔王といる方が落ち着くだろォよ」


騙され続き......俺のことを知っているのか。

まぁ知っていてもおかしくは無い。

なぜなら魔王だから。

沢山の魔物を従える、唯一無二の王。

絶対の魔の王。

魔王。


「良くもまァ、騙されたとは言え躊躇なく人を殺れるもんだ。これは、現実なんだぜェ」


人を殺す?あぁ、ヴァレンティーノのことか。

その前にも......殺しているな。

たしかに、これは現実だ。

ゲームじゃない。

俺だって人間だ。それに、この世界にいる前の世界では、俺は戦争の無い時代に産まれている。

人が死ぬところを見たことも無いのに、簡単に人を殺した。

殺せた。


「それは多分、俺がシルビオ(俺)だからだろう」


クックックと魔王は笑う。

何も言うことが無いのか、笑いがこぼれただけかは分からない。


「魔王」

「あァ?」

「なぜ俺に構ってくれるんだ?目的は何だ」

「クックック......」


魔王はまた笑う。

今度は、顔が笑っていない。

魔王の表情なんて分かったものでは無いが、何となくそう思うのだ。

どちらかと言えば、他に何か考えているようだ。


「てめェ、自分のことしか頭に無いよなァ」

「どういうことだ」


分かったようなことを言いやがる。

たしかに俺のことはよく知っているようだが、分かっているわけではないようだ。


「仲間のフリして、家族のフリして、助けているフリして、フリしてフリしてフリしてフリしてェ、それだけだよなァ」

「そんなことはない......俺は、本当の仲間や家族を手に入れた。そして、守ってきた」

「今は無き......だがな」

「......」


何も言い返せない。


「リィネェ......だっけかァ?テメェ、あのガキのことォ、ただの武器としか思ってねェよなァ。そんなんで守ってるゥつもりとは、頭おめでてェやつだなァ」

「......黙れ。俺はリーネのことを、そんな風に思っていない」

「そんなんじャ嫌われてもォ、おかしくねェよなァ」

「黙れッ!」


思わず手が出る。

だいたいの人は、図星のことを言い当てられると、怒らずにはいられない。

特に俺の性格上、この場合手が出てしまうのが悪いところだ。

左腕で殴りかかる。


「おおッと、魔力はとっくにカラッけつだッてことォ、忘れたかァ?」

「前はこんなこと無かったんだがな......俺も怒りっぽくなったものだ」


例え魔力が無かろうが、自分の敵となるものは倒そうとしてしまう。


シルビオと同じように。


「かかッて来いよォシルビオ=オルナレン。魔王様が相手ェなッてやるよォ」

「それは嬉しいな......どうやらここが俺の墓場になりそうだなァ!」


爆風。

暗視魔法出みていた視界も、煙で全く見えなくなってしまった。

暗視魔法は、何も透視では無い。

暗闇で魔力を光に変えて反射し、その僅かな光を集めて、見えるようにするという魔法だ。

だから、砂煙の中では役に立たない。


「くっ」


俺が攻撃をする前に、爆発した。

おそらく魔王の仕業だろう。


「ディメンションホール」


急な浮遊感。

落ちた......のか?

そう思った瞬間、俺は地面に立っていた。

地面に立っていることが分かるくらい、周りが明るかった。


「外だ」


魔王の魔法で外に出されたのだろう。

一体どんな魔法なのかは、暗くてよく分からなかったが、転移系だと予測はつく。


「外に出たのは久しぶりだなァ」

「......そうかい」


改めて見ると随分と大きい。

魔王......見るからに強そうだ。


「どうしたァ?ハッキリ見えてビビッちまッたかァ??」

「バカが......弱そうだと思ったんだよ!」


魔力の回復は......未だ出来ていない。

だがやるしかない!


「はァ!!」


左腕での殴り。

風を螺旋状に纏わせ、ドリルのような刺突。

が、呆気なく防がれた。

腕が魔王に届く前に、魔法を打ち消された。

風が、やんだのだ。


「......!」


スッカラカンの状態での戦闘......しかも敵は魔王と来た。

本当にこいつ、何が目的だ?

なぜ俺と不毛な会話なんか......


「こんなォを倒して、楽しいか?」

「いやァ全く」

「ならなぜすぐに殺さない?俺の攻撃は全く通じていないんだぞ」

「さぁな」

「......サディストが」


跳片足での跳躍。

右脚に力をこめ、横回転しながら頭目掛けて蹴りを入れる。

が、また当たる前に弾かれてしまう。


「クソ......がぁ!」


殴る。

蹴る。

なるべく魔力切れを起こさないよう、細く鋭い魔法を使う。

が、どれも魔王へは届かない。

魔王は少しも動いていないというのに。


「なんで、なんで!」


こいつが災悪か。

ヴァレンティーノの言っていた、災悪というわけか。


「別に難しいことじャァねェ。合わせるだけだァ、ただてめェに合わせているだけ」

「くっそおぉ!!」


連打。連撃。連続攻撃。

どんなに攻撃を繰り返しても、届きやしない。


「いいのかァ?誰にも知られずに死ぬぞォ」

「構わない。どうせこんなのがお似合いだ」

「堕ちるところまで堕ちたなァ」

「はなからこの奈落を這い上がれるだなんて思ってないさ」

「面白い......てめェの全力を見せてみろォ!」


付与魔法は本来、自らにかけるものでは無い。

そんなことをすれば肉体は刺激に耐えられず、崩壊してしまうからだ。

だが、直接効果は生まれる。

服や手袋、靴では、フィルターを通ったように、魔力が削れてしまう。

だが、直接なら......


魔法付与。

攻撃力アップ特大、物理攻撃力アップ、魔法攻撃力アップ、対人攻撃力アップ、対物攻撃力アップ、近接攻撃力アップ、近距離ダメージアップ、中距離ダメージアップ、遠距離ダメージアップ、俊敏、瞬速、特効、速攻、貫通、命中率アップ、クリティカル攻撃力アップ、クリティカル発生アップ、属性攻撃力アップ、風属性、炎属性、水属性、氷属性、雷属性、光属性、闇属性、爆破属性、迎撃、連撃、空撃、奇襲、範囲拡大、背後攻撃力アップ、正面攻撃力アップ、狙い撃ち、反撃、反動無効、麻痺、凍結、気絶、混乱、睡眠、毒、火傷、目くらまし、暗闇、硬化特大、斬れ味、鋭さ、即時再生、ストライク、ガードブレイク、シールドブレイク、マジックブレイク。


「なッ!?てめェ!!馬鹿か!」


どうやら魔王は察したらしい。

そりゃあこれだけ苦しんでいれば分かるだろう。

手足は震え、頭はガンガンする。とても痛い。

身体中が熱い。まるで......


「まるで死の直前だなァ」

「そいつは......どうも......ぐッ!!」


痛い痛い痛いぃ!!


「だがこれで......」


足が重い......身体中が重たい。

だが歩く。

歩いて歩いて、歩いて近づく。

そして......


「終わりだ」


左腕で──────────


「......倒れたかァ。どれだけ付与しようとォ、それを振るう力を持っていなければ意味はないなァ。魔法ッてのはじッとしてたら効果ねェんだからよォ」


俺は倒れた。

倒れた。

わざと。


「ッ!!!」

「捕まえた......ぜ」


ついに、魔王の足に触れることが出来た。

心配になったのか、無警戒にノコノコと近付いてきてくれたのが助かった。


「騙したなァ」

「あいにく騙されるのには慣れてるんでね......騙すのになんの罪悪感も無くなってるんだよッ!!」


右腕で足を掴んで、左腕で、引っ掻くようにする。

付与された魔法が全て、魔王へと牙を向けた。

一撃。

この一撃だけで、魔王にやっと傷をつけられる。


「ほう......傷を付けられたのは初めてだなァ」

「はぁ、はぁ......そうかい」

「面白い......気に入ったァ」


魔王は、クックックと笑う。

そして俺を抱きかかえると、何かを唱えた。


「初めて使った魔法だァ、まさか使う時がくるとはなァ」


その魔法は、ヒール。

俺の怪我と体力と魔力は、みるみるうちに快復して行き、あっという間に全回復した。


「......なんの真似だ」

「テメェに、全てを話そう」


魔王は俺をまた地面に立たせて、対面する形でお互いに立つ。




──────────




かつて、人間と呼ばれる人類と、その他多くの動物がいた。

ある時、人類は急成長して行き、またたくまに発展した。

そのせいで、動物達の行場は失われ、人類の思うがままの世界と行った。

そこで、人類に反旗を翻したどういうがいた。

それが、魔物だ。

魔物は人類を殺し、食らい、人類と同等の力を得た。

そのうち、人類は王という力を持つものを作り、魔物も魔王を作り出した。

そして、二つの種の戦争が始まったのだ。


だが、戦力差は圧倒的だった。

人類と魔物では、知能が違ったのだ。

魔物には、知恵が足りなかった。

そして、いつしか魔物は人類に負け、山奥でしか生活出来なくなってしまったのだ。


「それだけの力を持っているのにか?」

「持っているのに......だァ。あっちには、勇者とかァ言う存在があるからなァ」


勇者......ね。

たしかに、そうかもしれない。

勇者なら、魔王を倒してしまうかもしれない。

そこで、魔王は一つのことを思った。

考えているうちに気付いてしまったのだ。

この戦争が、いかに意味の無いものかということに。


「まったく、これだけ長い時間考えねェと気付けねェなんてよォ......情けないぜェ」


そもそもどうして戦わなくてはならないのか。

人間と、話をすればいいではないか。

仲良くして、一緒に暮らせば、共存すれば良い。

そう思いついたのだ。


「今では人類の言葉を話せる魔物もォ少なくねェからなァ」


だが、気付くのがあまりにも遅かった。

今じゃお互い少しづつ攻撃し合うばかり。

魔王が顔を出せば、すぐに刈り取られておしまいだ。

喧嘩した後は気まずいもの。

何かきっかけが必要だった。


「まぁ......それに最初に気付いたのが魔物だったという時点で、人間のこっちからすれば恥ずかしいものだがな」


知能の点で負けている......か。

果たして人間は、本当に頭がいい生き物なのかと問いたいね。


「......それで?お前の目的は何だ」

「次の魔王の誕生」


ッ!!


「もうじき死ぬ魔王に変わって、てめェに魔王になって欲しィんだよ」

「なぜ俺なんだ」

「向いているようだからなァ」

「......それで、人間との仲が良くなると?」

「今よりは可能性がある」


......肯定はしない。

だが、否定も出来なかった。

たしかに、今の魔王よりは人間の俺が魔王になった方が良いのかもしれない。何かが変わるかもしれない。


「てめェの方が、頭ァキレるみたいだしなァ」


......俺は、何もかも失った。

もうこれ以上、失うものは何も無い。

なら、引き受けてやっても......


「なァ、『優しい世界』って、知っているかァ?一度で良いから、行ってみてェなァ......」

「......俺が行かせてやるよ。その、『優しい世界』ってのに」


俺がしてみせる。

この世界を、優しい世界に。


「そうかァ」


次の瞬間、俺は一瞬目を疑った。

魔王のした行動に。

正気の沙汰ではなかった。


「おぉぉぉおおいい!!何やってるんだぁあああい!!!」

「ごふッ」


魔王は、自らの体を、自らの手で貫いていた。

その鋭い爪が、肉体にくい込む。

倒れ込む魔王を、俺は思わず受け止めようとする。

が、その大きな体を支え切ることは出来ず、地面へ倒れてしまう。


「......死んだことはァ魔物達に伝わる。恐らく、人間の中にも数人、分かる奴がいるはずだァ......後は......てめェに任せる......」

「お、おい!何を言っているんだ......まるで死ぬみたいじゃねぇか!!」


たしかに、魔王が死ななければ何も始まらない。

死んだことが分かるというのなら、死んでいないことも分かる。

なら、俺が魔王を殺したという証拠は無く、魔王になることは出来ない。

魔王に認められても、魔王にはなりきれない。

本物の魔王でなければ、強くなければついてこない。それが魔物だ。

だからって、本当に死ななくても......


「都合の良いことを言っているのはァ分かっている......だがァ今のてめェしか出来ねェんだ......」

「......」

「てめェを信じる」


信じる......信じる、信じる。

そんな言葉を、まさか魔王から言われる日が来ようとはな。


「やってみせろ......新たなる魔王よ」


俺は、泣いていた。

なぜか自然と、涙がこぼれ落ちていた。

リーネに見捨てられ、ヴィオレッタに追い出されても出なかった涙は、たかが魔王が目の前で死んだくらいで流れる。

なぜだろう......フレデリックと似ていたとか......?

ならば、応えなければならない。


「......あぁ、任せろ」


この日、俺は決意した。

魔王になり、人間との平和を築くことを。

もしかしたら、また騙されているのかもしれない。

都合の良いことだけを言って、俺に同情を誘い、全て俺に丸投げしただけかもしれない。

だが、それでも良い。

俺にやるべきことを与えてくれた。

それに、本当に人類と魔物が仲良くなれたら最高じゃないか。

そんな理想郷......


「面白そうじゃないか」


俺は笑顔で応える。

そんなことをする理由なんていらない。

騙されるのに、利用されるのに理由なんて。

「面白そう」ってだけで十分だ。

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