運命の宿命の因縁の闘い
アラン=カイバール。
何度も説明する通り、このゲームの主人公だ。
チートな力を持ち、どんな敵も一網打尽。
負け知らずの無敵な主人公。
それに比べて対立するのが、シルビオ=オルナレン。
俺だ。
俺のゲームのでの役割は、簡単に言えばアランの敵で、ライバル的な存在。
しかし、ピッコロやベジータと違って、仲間にはならない。
永遠の悪役だ。
最悪最低の貴族。
学園一の最弱固有魔法の使い手で、沢山のメイドと、リーネという奴隷を従えている。
だから、それを治してきた。
俺は、昔の俺を変えるために、今頑張ってきた。
嫌われ者の最弱貴族であるシルビオ=オルナレンを。
「汚名返上をしてきたって言うのに......」
前のシルビオとは違う。
俺は、シルビオと違って最低じゃなくなったんだ。
それなのに......
「邪魔をするなァ!!」
左腕を横に振る。
目に見えるほどの風が、まるで刃物のように鋭い形となり、アランへと向かって飛んで行く。
「おっと」
アランは軽々とかわす。
その軽々しさが、俺にまた油を注いだ。
「何怒ってるんだよ。俺何かしたか?」
「アラン、お前の存在が邪魔だった。お前がいるから俺は弱く見え、お前みたいなのがいるから、俺を敵に仕立て上げる。俺は、そんなに悪いヤツなのか......?」
「悪いよ」
何度も何度も、ガムシャラに腕を振る。
アクロバティックに蹴りを出したり、魔法を放ったりする。
が、全てかわされ、弾かれ、打ち消されてしまった。
「なぜ......なぜ......なぜッ!なぜ当たらない!!」
アラン!
お前は俺の敵だ!
お前さえ倒せば......倒すことさえ出来れば!!
過去の俺に勝つためには、アランに勝つ必要がある!
「この......勇者候補ごときがッ!!」
「なに!?」
アランは一度距離を取った。
俺も、連続で技を出すには少し疲れる。これを機に、一旦攻撃をやめた。
「......君、なぜその事を?」
知っているんだ?
そう思うのも無理はない。
なぜなら、アランはこのことを隠していたからだ。
「知っているさ。お前が、一度見た固有魔法を全て使えるというチートな固有魔法の持ち主なことを。しかしその力は認められず、『勇者候補』という形で終わってしまったことも」
「どういうこと?」と、周りはザワつく。
そう、勇者候補。
かつて魔王という存在が、世界を滅ぼそうとしていた頃。
魔王は、その強大な力と大量の魔物で、人類を絶望へと陥れた。
人間は、魔王に対抗すべく力を持つ、勇者を探したのだった。
そして、数人の候補が見つかった。
うち、その一人がアラン=カイバールだったのだ。
「他の勇者候補生より、一人だけステージがズバ抜けていた。がしかし、なぜ勇者になれなかったのか......」
理由は簡単。
アランは、強過ぎるが故に、気付かれなかったのだ。
気付かれないように隠されたのだ。
俺は淡々と語る。
アラン=カイバールの過去を。
俺が、かつてアラン=カイバールだった頃の話を。
「アランは、子供の頃から強かった」
初めから最強な人なんていない。
そう思っている人が多いだろう。しかし、アラン=カイバールは違う。
最初から強く、最強だ。
「なぜそんなに最強だったのか。それは簡単なことだ。アラン=カイバールは、転生者だからだ」
転生者。
俺と同じ。
一度死に、生き返ったということだ。
ゲームでの設定によれば、アランは前世に良いことをした。たくさんのすごく良いこと。それが具代的に語られたことは無いが、とにかく良い人だったようだ。
だから、死んだ際に転生出来た。
こんなチート能力をもって。
「バカな話だ。どこの誰が、こんなチートを授けたのかは知らないが、アラン本人はそんなこと知らないんだよ」
もちろん、周りは知らない。
周りからしても、本人からしても、ただただチートを持っているってだけで、前世のことなど誰も知らない。
なら、一体誰のためにこんな能力を授けたのだ。
なぜ、前世の記憶もないようなやつに、そんな力を与えたのか。
「今のお前は知らないがな。後から思い出すはずだ」
「......」
そして、山奥で暮らしていたアランに、国王から直接お呼ばれしたのだ。
賢者と友達の、国王に。
その時の国王はヴァレンティーノでは無いので、おそらく見る目のある国王だったのだろう。
いや、見る目の何も無い。
あのアランの圧倒的な圧倒さや、大人でも考えられないほどの力。
それを見れば、誰でも分かる。
最強なのだと。
「賢者の息子」
それが、アラン=カイバールの正体だった。
いろいろ設定を盛りすぎ?俺も最初はそう思ったさ。
だが、これは事実なんだ。
親に捨てられたまだ赤子のアランは、賢者に拾われ、育てられ、その力を強めていった。
「元から最強の能力を持ったアランを拾ったのは、賢者だった。だから、強くなったのだ。もし、拾われたのが普通の家庭だったら、どうなっていたかな......」
その理由も、アランの固有魔法。
固有魔法をコピーするという固有魔法だ。
「一度見れば、どんな魔法でも......たとえ固有魔法だとしても、自分のものとしてしまう能力。受動的な固有魔法だが、コピーした魔法を自分で好きなように改造できるのが強みだ」
その固有魔法で、賢者の魔法をコピーしたのだ。
コピーし、強化した。
より、効率的に。
より、高威力に。
「この上ない幸運と、理不尽と、不平等にまみれた人生。そのツケが回ったのか、それともこれこそ幸運だったのか。アランは勇者にはなれなかった」
隠蔽されたのだ。
アラン以外の勇者候補生は、アランの存在を良しとしなかった。
当たり前だ。
他人の固有魔法。つまり個性を、簡単に真似するどころか、勝手に改造して踏みにじるようなことをするからだ。
そんなやつ、普通のひとなら許せない。
少なくとも、当時の勇者候補生達はそう思っていたようだ。
「国王は死に、賢者もどこかへ行ってしまった。もうアランの強さを知っている者は、アランを妬んでいる勇者候補生だけ。アランは勇者にはなれなかった」
そして、魔王が現れた。
「魔王は、アラン以外の勇者候補生達で食い止められた。勇者は一人しかなることが出来ない。だが、勇者候補生達全員の力を合わせなければ、魔王に対抗することは出来なかった」
そして。
「敗れた。魔王の勝ちだ。だが、ただ負けたわけではなく、魔王を一時的に封印するような形には出来た。だからこうして、今は魔王が暴れていないのだ」
その魔王を救うために、魔物達は暴れているのだ。
「......」
アランは何も言わない。
俺が、アランの過去を話始めてから、ずっと黙っている。
何かを伺うように。
俺のことを探るようにして、聞いていた。
「......君、何者だ」
「俺は、シルビオ=オルナレン。お前の敵だよ。アラン=バーリミアン」
賢者テオドール=バーミリアンの息子よ。
「教えて欲しければ、勝てってことか......?」
「察しがいいじゃねぇか」
賢者の息子で、チートで、最強だからって、調子乗ってんじゃねぇ。
そうやって人を見下しているんだろう?
なにみんなに内緒になんかして、自慢してない風を装って、一人で良い気分味わってんだ。
まるで自分が皆を守ってやっているような。
まるで自分だけが、世界を救えるとでも思っているような。
そんな気分になってんじゃねぇ。
気持ちよくなってんじゃねぇ。
───うざいんだよ。
「なら、もう終わっているよ」
「は?」
突然。
アランはそう言った。
まだ何もしていないのに。
していないはずなのに。
されているわけなんて、絶対無いのに。
お前もアランも、正面に向き合ったままで、一歩も動いていないのに。
俺の身体から、赤い雫が垂れていた。
「......?」
見ると、所々に傷が入っている。
いや、体中に傷がある。
......いつの間に?
痛みも感じなかった。
速すぎて、切られたことに気づいていなかった......のか?
「君の負けだ」
「ッ!?」
どうして!!どうやって!?
アランは少しも動いて......
あった。
動かずに相手を攻撃する技が。
それは、俺がよく知っている技。魔法。
さっきから使っていた攻撃方法だ。
「君のその禍々しい左腕を真似るだなんて、そんなことしたくは無かったけれどね」
風。
俺の左腕で生み出す風は、人間の身体程度なら動かずとも切れるくらいの威力を持っている。
......真似したのか。
「君が暴露してくれたおかげで、もう隠す必要は無くなった。これ以上まだ闘うというのなら、容赦はしない」
皮肉まじりの言葉。
そしてその言葉は本心からのものだろう。
容赦はしない。
俺の全身に軽い傷を付けたのなら、次はもっと深く。
本気でやれば、俺など一瞬で倒せる。
そう思っての言葉だろう。
「それでも俺は闘う。お前を、倒さなくちゃならないんだ」
お前に勝てないようでは......そこら辺のモブと同じだ。
弱いままでは、また嫌われてしまう。
「そうか......なら───」
アランは手のひらを俺に見せるように、ゆっくりと腕を挙げた。
「インパクト・ブラスト」
──────間一髪。
俺がさっきまでいた場所の後ろの壁に、ぽっかりと穴が空いてしまった。
まるで豆腐にストローを差し込んだような。
ストローよりも大きな穴だが、綺麗な円で抉られている。
いや、押し込まれたのだ。抉られたわけではなく、壁が円形に潰された。
ギリギリのところでかわした。
正直、危なかった。
風の盾は、まるでそんな物無かったかのように、一瞬にして消え去り、俺が身をひねりきる時間をも稼いでくれなかった。
あと、数ミリでもズレていたら......
「触れた物に衝撃波を与える、インパクトという格闘魔法と、形の無いものを遠方まで飛ばすブラスト。この二つを合わせて、ついでに威力をあげた魔法だ」
威力上げをついでかよ。
俺の魔法は呆気なく使うし、知っての通り、とんだぶっ壊れ能力だ。
自分が使う分にはいいが、いざ敵に回すとなると、その理不尽さはよく分かる。
「次は決める」
こいつの能力的に、技をあまり見せるものでは無い。
パクられてやり返されて終わりだ。
なら、次でやるしかない。
一撃で、一発で決めれば、真似されることは無い。
「これで決める」
左腕に力を込める。
かつて、あのオーヴェインを倒した時のように。
硬質化、刺突強化、魔法防壁。
強化魔法を重ねがけする。
これでも、アランにはきっと勝てない。
まだだ、まだ足りない。
風を見に纏い、左腕だけに集中する。
同様に、アランも片腕に強化を集中している。
俺に合わせているのだろう。
「行くぞ......シルビオ!!」
「来い、アラン!!!」
技名は無い。
ただの気合いのぶつけ合いだ。
しかしそれでいい。
それでしか、今はアランを倒せる方法を思いつかない。
「うおぉおおお!!!」
「うぉおおぉお!!!」
単純な攻撃。
俺もアランも、ステージのど真ん中でぶつかり合う。
俺は左腕で、アランは右腕で拳をぶつける。
拳と拳の鍔迫り合いだ。
これで、お互いの力の差がハッキリすると言うことだ。
だが、アランは一つだけミスをおかしている。
俺に合わせて、強化魔法でのバトルをしたのだ。
その平等さが、この勝負の鍵となる。
俺は、付与魔法で付与したのだ。
お互いの手袋を、強化し、殴り合ったつもりのようだが、俺は付与魔法。強化とは、威力の差がある。
俺は、勝ちを確信した。
「ッ!!! ......?」
おかしい。
全力で力を入れているのに、決めきれない。
どこにそんな力が......?
「攻撃力アップ特大......付与!!」
「なっ!?」
アランから聞こえたのは、付与の言葉。
まさか、俺の付与魔法まで......!?
「俺の勝ちだ」
アランはそう言った。
自分の固有魔法を使われて、絶望している俺に。
自分と同じ条件でも、勝てなかった俺に。
「うぉおおおおお!!!」
押される。
もう、どれだけ力を入れても勝てない。
単純な強化魔法の威力や、使える数は、同じ条件なら断然アランの方が上だ。
勝算は、俺の付与魔法にかかっていた。
だが、それをアランも使えるとなると、もう既に負けに等しい。
俺は、負けたのだった。
「ッが」
アランの拳は、俺の拳を突き飛ばして顔面へと刺さった。
左頬に衝撃が走る。
その時間は一瞬だったが、俺にはとても長く、ゆっくりと感じられた。
そして、回転しながら壁へと飛ばされる。
壁には既に穴が空いていたが、俺がぶつかることでもっと大きな穴となった。
そして俺は、敗北を味わったのだ。
静まり返る会場。
風でアーマーを作っていたとはいえ、これだけの衝撃を喰らえば、ひとたまりもない。
舞う砂埃の中から、アランが現れた。
「く......そ......」
転生して無双するんじゃ......無かったのかよ......。
あぁ.....今、気持ちが分かった。
ゲームでアランを使っている時は、簡単に敵を倒せる楽な世界。気楽に無双する最強の主人公だった。
だが、敵になってようやく気が付いた。
こんなの、理不尽だ。
どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、簡単にいなされてしまう。
こちらがどれだけ本気を出そうと、向こうからすれば赤子の手をひねるようなものだ。
「これで満足か?」
「......」
もう何も言えない。
言い返せない。
負けたのだ。俺は。
アランに、勝てなかった。
あれだけ練習したのに。特訓したのに。訓練したのに。
頑張って、努力して、それで挑んだ。
その結果がこれか?
俺は、結局嫌われる運命にあるのか?
「まだやるってんなら────」
パキィイン。
と、場が突然凍った。
比喩ではなく、物理的に凍ったのだ。
虚ろな視界が、一瞬にして水色になる。
会場で見ていたギャラリーも、アランも、俺までも、全員が氷によって動きを無理やり制止させられている。
「そこまでだ」
聞き覚えのある声。
全員、凍らされているのは腰までで、上半身は比較的自由に動ける。しかし、いきなりのことに驚いて、声も出ないようだ。
そしてその自由な首を動かして、声のした方向を見た。
「シュト......リーゼ............先......生」
「お前ら、覚悟しておけ。こんなこと、許されると思うな」
怒りに満ちた声色。
顔がよく見えなくても分かる。
そうか、先生にバレちまったか。
まぁ、これだけ派手にやって今までバレなかったのがおかしかったのだ。
「全員、とけるまで反省だ」
溶ける。
解ける。
「それと、アラン=カイバールとシルビオ=オルナレンは後で俺の所に来い。シルビオは怪我を治してからだ」
「......」
負けた。
何度もその言葉を味わせられる。
嫌われるのは嫌だ。
もう嫌なんだ。
誰にも相手にされず、構ってくれず、話してくれない。
そんなのはもう......嫌なんだ。
「......」
左腕は使い物にならない。
先生は、意図的に左腕を凍らせているのか分からないが、どちらにせよ動かない。
右腕は......まだ動くか。
「......フレイム」
手のひらから熱を発し、少しだけ氷を溶かす。
これで十分。
十分弾丸が取れる。
リロード用の銃弾。
付与魔法で、慣性維持や威力増大を使えば、これだけでも、十分に威力が出るのだ。
───指にセットする。
コインでも弾くかのように、銃弾を─────
弾く前に、弾は俺の指から消え去った。
手を、叩かれたのだ。
「何やってるんですかッ!!!」
─────え?
「リー......ネ?」
どうして動け......
「どこを狙ってるんですか!!」
そうか、リーネも炎属性魔法で氷を溶かしたのか。
他の人は真面目に反省しているようだが、リーネは素早く抜け出したようだ。
「......アランさんじゃないですか」
「そうだが?」
「ッ!」
パンッ。
平手打ちを食らった。
さっき殴られた箇所だ。
「......」
「バカですッ!!」
......馬鹿?
俺に向かって言ったのか?
周りの人達は、全員こちらに振り向き、唖然とした表情で見ている。
もちろん、アランもだ。
「そんなにアランさんが倒したいんですか!こんな、避けられないような状況で......不意打ちする形ででも、倒したいんですか!」
「......」
「分かりませんか?自分で。楽しんでいることを。闘いを、好んでいることを。もし本当に闘いたいだけで、アランさんと闘ったのであれば、それはただの戦闘狂です。シルビオさんは、戦闘狂になりたかったのですか?」
「......違う」
「なら、なぜ闘ったんですか?」
「............違う」
「ただ勝ちたかっただけなんじゃないですか!」
「違う!!」
俺は、これから嫌われないようにするために......
「本当ですか?」
「......」
「何も、言い返せないんですね......じゃあいいです」
リーネは、俺に背を向ける。
なんだ......?この感じ。
嫌な予感がする。
リーネ......?
「もう、私はシルビオさんにはついて行けません」
「......は?」
「さようなら」
......................................................は?
リーネはそのまま、歩いていってしまった。
その背中は、とても遠くに見えた。
追うことは出来ない。
力が入らないからではなく、氷を溶かせないからでもなく。
俺に、追える資格がないと思ったからだ。
氷が溶けても、そのしがらみだけは解けることは無かった。




