決闘
「行ってらっしゃいませ。シルビオ様」
「......」
嫌われ者......か。
逆では無いか?
俺が嫌われているのは確かだが、それはみんなが嫌っているからだ。
なぜ、人を嫌う。
俺は、そんなに悪いやつなのか?
たしかに、前のシルビオは悪いヤツだった。だが、今は違う。
生まれ変わったのだ。
「あ、あのオルナレン君......これ」
教室。俺が独りで、窓の外を眺めていた時。
突然、同じクラスの女が話しかけてきた。
なんだ?ノート?
「ずっとお休みだったから......授業のメモ、いるかな?って......」
ふん。クラスの委員長か。
優等生気取りか?俺に関わりたく無いのなら、初めからそうすればいいのだ。
構うな。
どうせ嫌っているのだろう?なら話しかけるな。
「余計なお世話だ」
「ご、ごめん......」
女なんて、みんな俺のことを金づるのようにしか思っていないだろう。
みんな騙そうとするのだ。女は怖い。
男だって例外はない。みんな、正義の味方ヅラして、俺を悪にしたてあげて、本質なんて見ようともせずに。
勝手に悪いやつだと思い込んで避けるのだ。
ならば、逆に利用してやろう。
使われる前に使ってやる。
俺を偏見の目でしか見ていない奴らを。
俺は、こんなにも生まれ変わって言うのに。
そうだ。きっと、皆俺に使われるために産まれてきたんだ。
なんてな。
「おいてめぇ、俺と闘え」
「ん?」
突然だった。
突然、知らない人が俺にバトルを申し込んできたのだ。
知らないと言っても、同じ学園の生徒だし、一度は見たことがあるだろうが、話したこともないような人だ。
「あの元騎士団の先生、やたらとお前と比べてきやがる。先生は小声で言っているが、俺には聞こえるんだよ......『シルビオなら避けられた』『シルビオなら耐えられた』一体なんなんだ?お前そんなに強いのか?だったら俺と闘って、最強を決めようじゃねぇか!!」
「......」
あいつら......もしかしてアホなのか?
俺とここの生徒を一緒にしてもらっては困る。
確かに、この学園生は強い。
だが、俺は上級の魔物であるドラゴンをも倒したのだ。
その違いは一目瞭然。
ただ、一人の例外を覗いてだが。
「勝負しろ!」
「あいにく、俺は忙しいんでね」
こんなしょうもない事に付き合ってやれるか。
一人でやってろ。
俺は適当にあしらってやった。
しかし、この知らない人は不敵な笑みを浮かべる。
「所詮、貴族は貴族か......金がなければ何も出来ない、おち溺れ貴族」
「......なんだと」
言ってくれるじゃないか。
まぁ、たまにはこういうのを楽しむこともいいかもしれない。
何事も楽しむのが大事だ。
──────────
訓練場。
周りには野次馬が集まり、多くの見物客が俺達の闘いを見届けてくくれる。
そこには、リーネもいる。
「シルビオさん、本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ、心配するな。負けはしない」
「そうじゃなくて......」
と、そこで言葉を切った。
なんだろう。リーネは、まだ何か言いたそうだ。
しかし言えない。そんなような含み方。
「なんだ?」
「い、いえ......なんでもありません」
「そうか」
まぁ、いいだろう。
今は闘いだ。
これで勝って、俺の強さを証明してやる。
そうすれば、こいつのように舐めた真似をする輩も減ることだろう。
「それじゃあ、いくぜ......オラァッ!!」
まだ準備出来たと言っていないのに......まぁ、構わないが。
勢いよく突進。いかにも脳筋って感じだ。
「ほぅら!」
目の前で急ブレーキ、かと思えば大きく横回転蹴りだ。
フェイントのつもりだろうか。
体の動きでバレバレだ。
俺の横腹に入りそうになるが、腕で防いだ。
「まだまだァ!」
次はなぜか反対向きに回転し、一旦地面着地した後、再び飛び上がった。
前回転からのかかと落とし。
動きにキレはあるが、ただのダンスと変わらない。連続的な攻撃では無く、間が空いていることによって、次の攻撃への対応がしやすい。
「どうしたどうしたァ!」
かかと落としを防いだ後も、回転からの攻撃ばかりだ。
こいつ、回転が相当気に入っているのか?
殴りも蹴りも大して威力はない。
だが、本人にその自覚は無いようで、自分が押していると思い込んでいる。
「もう終わりか?やはりただの落ちこぼれ貴族のクズだな!」
格闘ラッシュの次は、魔法ラッシュだ。
避ける隙もないほど、連続で下級魔法を放ってくる。
「す、すごい......」
「あんなの、耐えられるわけがない!」
「あいつこんなに強かったのか、見直したぜ」
......馬鹿どもが。
この程度でか?こんな程度で強い?
......なら、本当の強さをというものを見せてやろう。
「どうだ!これで......」
「......」
「なっ、なぜまだ立っている!?あれだけの攻撃を受けておいて......」
「あの程度、攻撃だとは言わない」
腰に着けている物を取り出す。
毎度おなじみの銃だ。
そして、トリガーを弾いた。
「これが攻撃だ」
安心しろ。弾は無い。
魔法で作りだした空砲だ。殺傷能力は無いが、衝撃波はある。
「ッ!!」
腹部に命中。
危機を察して、シールドを貼ったようだが、そのシールドもろとも吹き飛ばした。
それどころか、背後の壁まで叩きつけられ、自らのシールドに押し潰されてしまった。
「ぐっ......かはッ」
ひび割れた壁の欠片と共に、床へずり落ちる。
場は一瞬にして静まり返った。
「相手が調子に乗り始めたところで、叩きのめす。これが盛り上がるんだよなぁ」
「シルビオさん!!」
リーネ?
どうした、そんな必死な顔して。
他の野次馬どももどうしたんだ?俺のことを、怖がっているような目で見て。
──────────あ。
俺今。
「笑ってる......」
「おい」
静まっている野次馬の中から、一つ声がした。
「やめろ」
男の声。しかし、どこか優しく、とても懐かしい声。
かつて俺であって、俺ではなくて、俺の敵となった者。
世界最強にして主人公の。
「アラン=カイバール」
「久しぶりだな。シルビオ=オルナレン」
今までずっといなかったくせに、急に出てきて正義の味方ヅラかよ。
「久しぶりに学園に戻って来たと思ったら、なんだ?この有様は」
どこへ行っていたのかは知っている。
アランは今まで、ヴァレンティーノ王に別の国へ行かされていた。
ヴァレンティーノとしては、強い力を持ったアランが邪魔だっただけのようだが「今は別の国が危険だ」という名目で出張させたのだ。
修行も込みだから、だいぶ長期の旅だったようだが、アランは知る由もないだろう。
本当はもっと早く帰れたらしいのだが、アランが勝手に周りの人(女)を助けていってしまうので、随分と遅い帰りとなってしまったのだ。
世界最強の魔法使い。
アラン=カイバール。
周りがザワつき始める。
アランは、みんなのヒーローなのだ。俺がヴィランで、今はヒーローが助けに来たシーン。
アランへの歓声も、自然と上がる。
「シルビオ、そこで倒れている人は......君の仕業だな」
「そう見えるかい?だがそれは偏見ってもんだろ。お前の知っているシルビオは、こんなにも強かったのか?」
「戯言を......どう見ても君以外やったと思える人はいないな」
「そうかい......お前、見る目あるな」
これも戯言。
どうでもいい、他愛もない話さ。
だが、こうでもしなければいけない。
立っていられない。
この、圧倒的な圧倒に耐えることは出来ない。
野次馬どもはアホだから気付かないのか、それとも俺だけに向けられた殺意だから俺しか感じ取れないのか。
どちらにしたってこれはヤバい。
戯言でも言って、主導権を......余裕を見せなければ。
自分を誤魔化さなければ。
今にも座り込んでしまいそうだ。
「だったらなんだって言うんだ。俺と闘うかいでもするか?」
「いや、遠慮しておくよ。君の噂はよく聞いている。君、相当悪いことやってるな」
「はっ、だから俺と闘えって。それで勝ってみせろ。お得意の力で、ねじ伏せてみろ」
アランは、歓声と共に俺のいるステージへと上がる。
カッコつけなのか実用性があるのかよく分からないが、マントみたいな羽織っていたものを脱ぎ捨てる。
中に着ていたのは制服だった。至って普通の、この学園指定の制服だ。
ステージに上がりながら、手を横にかざす。
すると、どこからともなく剣が飛んで来た。
グルグルと回転しながらアラン目掛けて飛んで行き、アランのかざしている手で止まった。
アランが掴んだからだ。
まるほど、ソーのムジョルニアのような、持ち主の元へ帰って来るという特性を持つようだ。
まったく、羨ましいね。
「なぜ君がそんなに俺と闘いたがるのかは分からない。けど、それで君が悪事をやめてくれるのなら」
「いいねぇ。リーネ、手を出すな」
「いいえ、反対です」
「......なに?」
反対?リーネが?今、反対と言ったのか?何が反対だと言うのだ。服の向きか?それとも、アランの弱点とか?
「私は、シルビオさんがアラン=カイバールと闘うことに、恐れ入りながら反対させてもらいます」
「どういうことだ」
この土壇場で、いきなり何を言い出す。
「シルビオさん......とにかく、私の話を────」
「黙ってろ」
「シルビオさん......」
「お前は口出しするな。もう後には退けないんだ」
もう、後戻りは出来ない。
誰がなんと言おうと、俺はこいつと闘う。
この、アラン=カイバールと。
アランは、俺の目の前に立ち、容赦なく剣を抜く。
その剣先を俺の首元に突き立てて、俺を睨みつけた。
剣はまるでクリスタルのごとく輝きを放っており、その光はアランの心を表しているように思え、俺にはいっそう眩しく見えた。
─────ずっと。
ずっと闘いたかったよ。アラン。
ここで勝って俺は、お前よりも強いことを証明する。
それで、自分にも勝つんだ。
シルビオよりも強い俺。強くなければ、過去の(シルビオ)には勝てない。
「おいおい、武器を使うのか?俺は丸腰だってのに」
「......」
アランは少し考えた後、剣を鞘に納める。
──────途端に
俺が銃を取り出した。
アランが現れた瞬間、隠していた銃を。
「ッ!?」
三発。
アラン目掛けて至近距離での連射。
しかし、アランは不意打ちにもかかわらず、シールドを張ってきた。
「卑怯な......!」
弾は全て弾かれてしまった。
この反射能力、シールドを展開する速さ、そしてシールドの硬さ。
全てがこの銃を超えていた。
なんて奴だ......ここまで来ると気持ちが悪いくらいだ。
アランはすぐさま距離をとる。
だが俺も、休憩させてやるほど甘くはない。
そのまま残り三発を全弾放った。
しかしアランはすぐに剣を抜き、三発とも弾いた。
銃弾を斬るとは......動体視力、精密さともにずば抜けているな。
「どんな手を使ってでも勝つ......ということか」
「違うな。勝負はもう、始まっているということだ」
クイックリロード。
アランが近づいてくる前に──────
「遅い」
一瞬。
何が起こったのか分からなかった。
アランの顔が間近で見えたと思ったら、次の瞬きにはもう景色が変わっている。
背中が痛い。
アランが遠い。
そこから導き出せる答えは、壁まで吹き飛ばされたことだ。
アランは正拳突きのポーズをとっている。
つまり、殴りでぶっ飛ばされたのか。
しかし腹は痛くない。
痛すぎて、痛みを感じないようだ。
「ぐ......」
落ちる銃弾。
一発もリボルバーに入れられず、俺の手の平からこぼれ出した。
「まだ続けるか?」
「......」
痛い。
痛くて痛くて痛くて痛い。
だが......
「負けねぇ......俺は、絶対に」
壁にハマっている体を起こす。
すると瓦礫がボロボロと落ちていくのが見えた。
オーヴェインとの闘いを思い出す。
あの時も、背中によく食らっていたな。
「まだ......負けられねぇんd───
今度は、見えすらもしなかった。
何も言えず、何も見えず、何も出来ずにやられた。
まだ話の途中だってのに......空気が読めない奴だ。
「だが、それ......でも......」
再び体を起こす。
もう起きないと思ったが、まだ立てる。
立ち上がれるようだ。
「君はなかなかタフだね」
「あぁ。俺は最強だからな」
まだ俺には、オーヴェインの腕があった。




