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先生

久しぶりに我が家に帰ったのだが、皆いつも通りに接してくれた。

しばらく黙って家を留守にしていたのに......みんなは俺がいなくても働いていてくれたのだ。


「シルビオさん!おかえりなさい!!」

「リーネ......」


俺の居場所はここだと、ハッキリ分かった。






──────────


「なぁ、リーネ」

「はい?」

「久しぶりに外に散歩にでも行かないか?二人で」

「わ、私と......ですか!?」


頬を赤らめるリーネ。

なんだ?嫌か?


「い、いいです......けど......な、なんで急に」

「まぁ、たまには良いじゃないか。最近ゆっくりできていなかったからな」


外でブラブラする。

特に目的もなく、色んな店によったりよらなかったりで。

こんな平和な日も、いいな。

謹慎処分ということで、平日に家を出たことはあまりないからな。

人が少ない気がする。


「おっちゃん、これなに?」

「知らないのかい?あんた学生だろ?こんな風にサボってるから、そんなことも分からないんだよ」


余計なお世話だ。


「ちょっと!シルビオさんに失礼じゃないですか!」

「し、シルビオ!?あのオルナレン家の!?こ、これは失礼しました......」

「リーネ、そういうのは良いんだ。俺は何も、貴族ってのを自慢して歩いている恥ずかしい輩になりたいわけじゃない」


学園は貴族まみれで、どうも忘れがちだが、オルナレンはわりと有名な貴族だ。

悪名で、だがな。


「す、すみません......」

「はぁ、で?これは何だったんだ?」

「はいぃ、それはスターキーと言いまして......美味しい果物です」


見た目は完全にリンゴだな。

だが名前は全然違うようだ。


「二個もらおう」

「さ、先程の無礼をお詫びさせてください。お代はいただきません」

「うるせぇ、ヘコヘコすんな。気分悪い」


俺は、ちゃんと二つ分値段を払った。

お詫びとか、そういうのはいらねぇんだよ。

そのくらいで怒るほど、俺は短気ではないつもりだ。


「ん」

「美味しいです」


完全にリンゴだな。

しかしちょっと普通のリンゴより美味しいかもしれない。

いや、久しぶりに食べたから、分からないな。

普段は貴族の豪華な料理だから、たまにはこういう庶民の物を食べると、逆に新鮮だ。


「邪魔だ。どけ」


道の真ん中を歩いている、大柄な男。

そいつは、自分の前にいる人々をどけて歩いている。どけているのは使用人だがな。


「随分と自意識過剰なやつだな」


あれは絶対貴族だろう。

金ばかりのアクセサリーに、たくさんの奴隷を連れて、ズカズカと歩いている。

あぁいうのには関わらないのが吉だ。


「がっはっはっは!ここはゴミ売り場か?こんな所でゴミなんか買ってどうする?」

「お言葉ですがアンドニ様、ゴミ同然の者がゴミを買って当然です」

「がっはっは、それもそうだな!さっさと新しい奴隷でも見つけるとするか。お前らの仲間だぞ?」


ほれほれと、チェーンを引っ張る。すると、奴隷に首輪に繋がれたチェーンは、ガチャガチャと音を立てる。

皆ボロボロの体だ。

しかし、こんなクズのような貴族は大勢いる。

もしリーネも、あんなようなやつに買われていたらと思うと、どこか胸が張り裂けそうな気持ちになる。


「ん?おやおや?おやおやおやぁ?」


最悪だ。クズ野郎がこちらを見ている。

これは......目をつけられたようだ。

クズ貴族野郎は、ズカズカとこちらに一直線で歩いてくる。

そして、リーネの目の前で止まった。


「これはとんだ上物だな!よし、貰っていくぞ」

「承知しました」


クズ貴族野郎の使用人が、リーネの腕を掴む。

が、その腕は即座に離された。

リーネからも、肉体からも。


「な......あがぁぁあああああああ!!!?」


ボトッと、遠くに落ちる腕。

血をまき散らしながら、無くなった腕を反対の手で抑えて狂い悶える使用人。

それを、俺は冷たい目で見つめていた。


「リーネに触るな」

「なんだ?貴様。何者だ」

「お前なんぞに教える義理はない」

「このアンドニ=ザドルノフ様に歯向かう気か?」

「俺のリーネだ指一本でも触れてみろ。そこの奴と同じように、腕が吹っ飛ぶ」

「......」


別に俺は、正義の味方じゃない。だから、こいつが連れている奴隷に興味無ければ、さっきからこいつが一般人を奴隷として捕まえているのをやめさせるわけでもない。

俺には関係無いことだ。

だが、一度関わるからには......少しくらい正義の味方をしてやっても、いいかもしれないな。


「貴族の奴隷が......調子に乗るなァ!」


こんなクズなんかに時間を持っていかれるのはもったいないな。

ちゃちゃっと片付けて、さっさと帰ろう。

俺は腰から銃を取り出し、クズ貴族の脚に向かって一発。


「ぐおおぉおおお!!」


すると転げ落ちるように寝そべり、悲鳴を上げた。


「な、なんだ......?今の......魔法か?」

「そうだ。お前を懲らしめる、魔法だ」


もう一発、反対側の脚に撃ち込む。

銃弾での傷程度、この世界の治療系魔法なら完治することだろう。

だから─────


「殺さなければ傷つけてもいいよなァ?」

「ッ!?」


一発、二発、三発、四発、五発撃つと、六発目は出なかった。最初に撃ったからだ。

四肢合わせて四発、残り二発は大きな腹へ命中した。


「ぐ......」


アンドニ......だったか?

もう痛みの声すら上がらず、ただただ苦痛の表情をしていた。

目には涙まで浮かべ、必死に撃たれた箇所を押さえている。


「クズが......」


それだけを言い放った。

周りの人々は、目を真ん丸くして俺を見ていた。

なんだ?見世物じゃねぇんだ。さっさと散れ。

というか、お前らを奴隷にしたような奴を懲らしめたんだ。

感謝くらいしろ。


「......ッ」


と、リーネがこちらを黙って見つめている。

その目には、どこか恐怖が混じっているように見えた。


「どうした?リーネ」

「い、いえ......」


ふと、隣にあったガラスが視界に入る。

そのガラスに映った俺の顔は、とても不気味に笑みを浮かべていた。


──────────



それから、家に帰った。

帰り道に、俺達は会話が無かった。

お互いに一言も。

発しなかった。


「お帰りなさいませ。シルビオ様」

「ただいま、ヴィオレッタ......シャワーを浴びてくる」


勢いよく出る、水の音。

雨に打たれているような感覚が、俺の心を落ち着かせる。


「......あの笑顔。一体俺はどうしちまったんだ......?何かいい事でもあったのかなぁ」


そんなわけが無い。

いいことなんて、リーネと一緒にいた時間ぐらいだ。

しかし、全てはあのクソ貴族の野郎。あいつのせいで台無しだ。

せっかくの幸せを、壊しやがった。

だから、俺も壊してやった。

両手両足と腹に数発。


「......ッ!」


俺......


「笑ってる......」


しかしそれよりも、もっと気になることがあった。

左腕。

確か、腕までだったよな......?

鏡に映ったその姿は、左胸の端までドラゴンの腕だった。

背中では、肩甲骨に差し掛かっている。そこだけ皮膚の色が違うのだ。


「まぁ、こんなもんだったような気もするな」


考え過ぎだ。最近疲れているんだな、きっと。

早く寝よう。

寝れば、心も落ち着くはずだ。


──────────





ようやく謹慎処分も終わり、再び学園生活が始まる。

王を殺したのは俺だということになっているが、同行していたリーネも同罪ということて、結局俺達は二人して謹慎を食らっていた。

フレデリックに関しては、やはり完全な被害者となっており、相変わらずオーセリー=イルペの消息は掴めていない。

そしてあの騎士団二人はというと......


「今日から配属されることになった、グリエラ=ドラーギだ」

「同じく、シュトリーゼ=ヴァイコフ。これからこの学園で、貴様らの講師となる」


急に集会とか言うから、何かと思えば。

どうやら講師になったようだ。

この学園は、割とレベルの高いところなので、今回のように王直属の騎士団をクビになった者が、講師として就任する場合がある。

まぁ、クビになった原因は俺なのだがな。


「すげぇ......ヴァレンティーノ王直属の騎士団団長、シュトリーゼ=ヴァイコフだ......!」

「私、夢を見ているのかも」


はぁ、そんなに有名な人達だったのか。

そうとは知らず、ただの敵としか思っておなかった俺は、無知な自分を少し恥じている。


「元騎士団として、お前らに教えこんでやる。覚悟しておけ」


おー!っと、皆は盛り上がった。

なるほど、人望の厚さは伺える。


「あ、それと、オルナレンは後から話がある」

「なんだ......?」

「あれじゃねぇか?ほら、王様を殺したから......」

「バカ、もっと声小さくしろって」


話......ね。



「フレデリック=イルペには妹がいたようだ。

一人残らず家族を無くしたが、強い子だ。

それに、優しい人が保護者になってくれたらしく、心配はいらない」


休み時間、俺は呼び出しされていた。

話とはこの事だったのか。

まぁ、グリエラはともかくなぜシュトリーゼもここにいるのかは謎だが。


「なぜ俺にそれを?」

「心配はいらないってことさ。今後お前が妹の存在に気づいて、心配するだろうから。その前に伝えておいただけだ」


それはありがたい。

出来れば俺から一言でも声をかけてやりたいが、今の俺には何も出来ない。

フレデリックの妹さんに会ったところで、フレデリックの友達、親友だったところで、何もしてあげることは出来ないのだ。

だったら、関わらない方がいいのかもしれない。


「で......なぜ団長さんもここに?」

「元、団長だ。シュトリーゼでいい」

「ではシュトリーゼ先生。なぜ、ヴァレンティーノの研究に賛成派だったあなたが、反対派のグリエラや俺と一緒にいるのです?」


普通の疑問だ。

危険な人体実験。そして、正気とは思えないヴァレンティーノの計画に、間接的ながらも少なからず協力していたシュトリーゼ=ヴァイコフ元騎士団団長。

しかしそれが、一体なぜ。

敵対した俺達と、こうして肩を並べているのか。


「あぁ、その時は本当にすまなかった。私としたことが、付く相手を間違えたのだ。お前に負けて気がついた。全く、情けない話だ......」

「シュトリーゼ先生......」


騙されたわけではない。

自分の意思で失敗をしたのだ。

だがそれを認めて、開き直ることは、そう簡単なことでは無い。少なくとも俺はそう思う。

自らの過ちを認めるのは、やはり難しいのだ。

特に、シュトリーゼ=ヴァイコフのような自信家には。


「俺は、お二人が無事だっただけで、十分ですよ」

「ふん。お前が原因だがな」


否定はしない。

だが、それは王を倒すために必要なことだった。

邪魔して来る者は、排除しなければならない。


「おいヴァイコフ。それは無いんじゃなないか?こいつはお前の間違いを正すために闘ったんだ。怪我くらいいいだろ」

「お前......先生という同じ身分だからって、いい気になりやがって」


なんだか、めんどくさいことになっているようだった。


「とにかく、シルビオ=オルナレン。王を殺したからって周りに言われることをいちいち気にするな。お前は正しいことをしたんだ。私が保証する」

「グリエラ先生......」

「クラス全員に嫌われているってワケじゃないだろ?だったら、好きな人達とだけ付き合っていればいいさ」


クラス全員......か。

そうだな。

だといいな。


「先生、俺は────」


言いかけたところで、授業の合図のベルが鳴った。

もう教室に戻らなければならない。


「おっと、授業か。私たちにとっても初めての授業だからな。よろしく」


どうやら、今からの授業はこの二人が担任らしい。

次は訓練だから、二人の得意分野だ。まったく、ここの生徒は幸せ者だ。

騎士団に教えて貰えるなんて、強くならないわけが無い。


「それじゃあ、先に行って準備運動でもしてろ」

「はい」


俺は着替えてから、グラウンドへ向かった。

そういえば、言い損ねたな。

「クラス全員に嫌われていて、俺もそんな皆が嫌いです」と。

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