開発
ヴァレンティーノを殺したことは、リーネでは無く、俺だということにしておいた。
あの後、家に帰る前に、騎士に捕まってしまったのだ。
事情聴取を受ける前に、お前がやったと言っておいた。
リーネの手柄を横取りするわけではない。これから学園に通えなくなるのは、俺一人で十分だからだ。
そして、一応事情は聞いてくれるそうなので、学園に連れていかれることになった。
「シルビオさん......」
「大丈夫だ。全ての事実を話せば、分かってくれるさ」
もちろん、所々は伏せる。
しかし、イルペ脱走の手助けはしていないし殺したのもヴァレンティーノとフレデリックの師匠だけだ。
どれも全て自衛のため......と言えば、納得出来ない話では無い。
罪悪感は、ゼロでは無かった。
──────────後日。
俺は無実だと判明した。
元騎士団であるグリエラが、弁解してくれたのだ。
これで、どう頑張っても疑われてしまう俺の話を、まともに聞いてくれるようになった。
あとは、証拠を出すだけ。
アルマリアの部屋で十分だったが、城内も探せば隠し部屋が出てきた。
そこには、大量の魔物の死骸と、数人の貴族の死体があった。
どうやら実験台は、イルペ家だけでは無かったようだ。
しかし、その証拠のおかげで、俺は罪には問われなかった。
名目上は......だ。
人を殺したし、悪とは言え王も殺した。
そんな俺に、全くの無罪だとは言い難い。
よって少しの期間、謹慎処分を受けることとなった。
まぁ、それで済むなら全然構わない。
むしろその方が良い。あんなクソみたいな奴らしかいない学園に、そう毎日行く理由も無い。
──────────と、そう思っていたのだが......
「なんで謹慎処分食らった次の日から、また学園に行かなくちゃいけないんだ」
「仕方ないです。先生がお呼びですから」
てっきり今日は学園に行かないものだと思って、ガッツリ眠っていた。
急いで身支度をする。
ったく、これだから電話が無いと不便なんだ。
連絡に時間がかかる。
「よし、準備出来た」
「シルビオ様、馬車は......」
「いい、走って行った方が早い」
俺はもう既に、馬よりも速く走れるようになったのだ。
もちろん、魔法での強化だから疲れること間違いなしだが。
今求められるのは持久力より単純な速さだ。
とにかく遅刻せずに学園へ行く。
最悪の場合、遅刻によって謹慎期間が伸びたりするかもしれないからな。
「それじゃあ、行ってきます」
俺は飛ぶようにして学園へ登校した。
「いつもより十五分ほど短縮できたな」
これはいい訓練になるかもしれない。
まぁ、俺は風魔法で飛んで来れるからな。
「五分遅刻だ」
しかし遅刻はしていたようだ。
先生の目が怖い。
「お客様がお見えだ。ついてこい」
「はい」
お客様......ね。
呼び出したのは、正確には先生ではないようだ。
どうやら、俺に客が来ているらしい。
「......」
それにしても、廊下を歩くのは辛い。
周りの目が痛いのだ。チクチクと刺さる。
「あれが王を殺した犯人か?」「人殺し」
「よく学園に来れたな」「最悪」「無罪だって?何かの間違いじゃ......」「あのオルナレンがやったことだ。悪いに決まっている」
聞こえなくとも聞こえるようだ。実際にコソコソと聞こえている声もある。
前よりも格段に、その嫌われようは上がっていた。
「......こうなることは分かっていただろ」
「ええ、まぁ......しかし、自分は悪いことをしたとは思っていません。判決も無罪です」
「こう言っちゃなんだが、元々お前はあまり人気がある方では無い。だから、偏見の目で見られることも────」
「分かっています。ですが、俺は正しいことだと思います」
そう信じたい。
信じなければ、この先やっていけない。
「そうか......」
先生に連れられて、部屋に入った。
お客様を対応する部屋だ。
そこには、一人の男が座っていた。
「やぁ」
「や、やぁ......?」
アホそうな、丸眼鏡の若い男だ。見た目は随分と痩せており、騎士ではなさそうだ。
「君がシルビオ=オルナレン君だね?僕はザック=アスケル、科学者さ。最近はダンジョンの研究をしているよ」
また新キャラか。
ったく、こんな奴ゲームには少しも出てきていないぞ。
それか、いても気が付かなかったか......
「いやぁ、君の荷物を拝見させて貰ったんだけどね。どれも初めて見るものだったよ」
荷物。
俺が騎士共に拘束され、自重聴取されている際に、持っていた荷物を一旦預けさせられたのだ。
銃や、リーネの武器。
「それと......最近の新しいダンジョンで、少し漁られた形跡があってさ。調べると、いくつか物を持っていったみたいなんだ」
......なかなか鋭いやつだ。
正直あっぱれだよ。
証拠なんて無いだろうが、俺が持っている見たことの無いものと、あのダンジョンにあった見たことないものが一致したのだろう。
こいつ、アホでは無いらしい。
「それで?俺が盗っていたらなんだ。また捕まえでもするか?この王殺しを」
「僕にとっては王がどうであれ関係ないよ。興味があるのは君と、君が作った物だけさ」
変な奴。
「僕じゃあどう頑張っても、知識が足りない。だからさ、ちょっと君に尋ねたいのだけど」
なるほど、そういうわけか。
どうやら、研究を優先するようだな。
「......分かりました。どうせ今は謹慎処分でやる事がありませんから」
「ありがとう。それじゃあ、早速今から僕の研究室に行くよ」
え、今から?
まぁ良いだろう。俺も、俺だけじゃどうも開発しきれない物があって、困っていたところだしな。
少しでもこの世界の技術が発展すれば、もう少し楽に生きられるだろう。
「行こうか」
今度の移動は馬車だった。
「ようこそ!ここが僕の研究室だよ」
「お邪魔します」
学園からはあまり遠くは無かった。
しかし、外見はすごく普通の家で、中もそこまで『研究室』という感じでは無い。
俺のイメージだと、バットマンの地下室や、トニースタークの家を想像していたのだが、やはり異世界。未来感は無いようだ。
なんと言うか、『理科室』というのが一番似合っている。
「あの、アスケルさん」
「ザックで良いよ」
「じゃあ、ザックさん。ここは、何を研究しているのですか?」
「ここは主にダンジョン......かな?ダンジョンで得られる物を研究しているんだ。と言っても、まだ成果はゼロだけどね」
ゼロなのか。
なんだ、凄い人かなのと思っていたが、そこまででは無いのか。
いやしかし、周りを見渡すと人はいる。
助手......なのか?見えるだけでも三人はいるが。
「ただ、成果を出していないだけであって、出そうとすればいつでも出せるんだよ」
「ほう?」
妙なことを言う。
なら、そうしてもらおうじゃないか。
「早速ですが、まず帰って良いですか?」
「ん?どうしてだい?」
「サンプルを、持ってきますので」
一旦家に帰って、またここに来るのは楽じゃなかった。
最速で行くため、または自分を試すため、馬車は使わ無かったのだが、物凄く辛い。
もう魔力切れになりそうだと思ったが、ギリギリもった。しかしこれからまだ研究が残っている。
「で、これはなんだい?」
俺は、ザックさんとその助手達の前に、家に置いていた銃とスマホのサンプルを出した。
「おっほー!面白い物だね。これは?」
「拳銃と言って、俺が使っている武器です」
「こっちは?」
「スマートフォン......または携帯電話と言いまして、遠くに離れていても会話が出来るというものです」
「遠くに離れていても会話出来る?それは、大声を出すのと何が違うんだ?」
と、助手の一人がそんなことを言う。
「大声で無くとも、壁越しでも、どこにいても電気さえ通っていれば会話が出来る」
まぁ、正確にはそんなカンタンなものでは無いけどな。
「ぷ、ふっはっはっはっは!お前アホか?何言ってやがる」
こいつ、アホだ。
お前こそ何言ってやがる。
しかし無理もないか。そもそもそんな離れたところで会話するだなんて概念自体ないものだからな。
「それで、作れそうかい?」
助手がこんなに笑っているってのに、ザックさんは落ち着いているな。
スマホから作るのはさすがに無理だ。
だから、グラハム・ベルが作ったものから順に完成させて行くことにした。
概念の無い人達に、今からアイデアを与える。
面白いことになりそうだ。
まずは、声を届けるということから入ろう。
「声を、信号に変える」
とはいったものの、電話なんて作ったことあるわけが無いし、そもそも構造なんてサッパリ分からない。
だから、何となくそれっぽいのをオリジナルで作る。
幸い、この世界には魔法というものがある。
ある程度は融通が効く優れものだから、なんとかなるだろう。
「声を信号に?」
「先生、こいつマジモンのアホですよ。こんなやつに構ってないで、研究続けてた方が絶対役に立ちます」
「そうしたいならそうしてくれてもいい。ただ、僕は彼の発想が気に入った。実際に、『拳銃』とか言う物は作ったみたいだしね」
「......」
発想......というか、どちらかと言えば記憶なのだがな。
「それでは、話が通じる人だけご協力お願いします」
「......チッ」
結局、付いてきてくれたのはザックさんだけだった。
もしかしたら、ザックさんは無理をしているのかもしれないと思った。
本当は失敗したことに気付いている。しかし、呼んだのは自分、だから、責任を持って自分だけでも協力しようと、そう思っているかもしれない。
例えそうだとしても、必要な魔法や仕組みについて話している時、ザックさんはワクワクしているような笑顔になる。
興奮したように喋る。
楽しんでいるかのように話し合う。
そんなところを見せられてしまうと、こっちも楽しくなってしまう。
そうするとなかなか、やめるって切り出せなくて......気が付いたら、本気で作っていた。
電話を。
「形はどうするの?」
「そうですね......ここが声を入力する所で、こっちが相手の音声を聞き取るところです。色は、黒で─────」
謹慎処分なんて忘れていた。
「へぇなるほど......それで音を信号に?」
「はい、これが一番かと。あと問題なのは、電波です。有線にすると、街中が線だらけになってしまうので、無線にしたいです」
「じゃあ、雷魔法の──────」
俺が誰かなんて忘れていた。
そんなこと、どうでも良かった。
俺が嫌われ者の貴族で、騙され続けていて、またこれも俺を騙していたとしても。
それでも、楽しかった。
初めて、人の役に立てたと思えた。
今まで闘ってばかりだったけれど、たまにはこういうのも......悪くないな。
「できた......」
「完成!やったね」
ついに......完成した。
「これが......電話」
中身はスマホに近いが、使い方は固定電話。
そう、黒電話だ。
少し大きくて形も歪だが、中身はちゃんと機能するはず。
「試してみようか」
「はい......」
二台あるうちの一台持って、俺は隣の部屋へ移った。
防音では無いが、叫びでもしない限り壁から声が漏れることはない。
ついに......運命の瞬間だ。
『ジリリリリリリリ』
音がした。
電話がかかってきた合図だ。
ガチャッと、受話器を手に取る。
『シルビオ君、こっちに来てくれないかな?何か拭くもの持ってない?水が......』
「......ッ!!」
聞こえた......聞こえたぞ......!
やった!!大成功だ!!
俺は、勢いよく部屋を飛び出し、隣の部屋に突撃した。
「ザックさん!聞こえました!!」
「あぁ、それは良かった。そんなことより、水がこぼれちゃったんだ。何か拭くもの持ってない?」
「ハンカチなら」
「ん。ありがと」
こうして、俺達の発明は完成に終わった。
結局、たくさんの魔法と、貴重な素材のコストのせいで、実用化はされず、使われたのは騎士だけだった。
しかしそれも、電話としてでは無く、遠くにいる騎士に収集の合図として、もっと安価で作れる物だ。
騎士長がボタンを押すと、ビービーと音がする小型の機械を、騎士全員に作った。
電話を作ったのは俺とザックさんだったが、騎士に呼ばれたのはザックさん率いる開発チームだけだった。
「これからはうちで働いてもらう」
とのこと。
ザックさん達は、騎士の元で武器などの開発チームをやることになったらしい。
この世界には特許などなく、もちろん俺の拳銃もザックさんが開発し、功績もザック=アスケル行きなのだろう。
ザックさんは......最後まで申し訳なさそうな顔をしていた。
俺はまた、居場所が無くなってしまった。




