体術と魔道具と固有魔法
広場のような場所で、俺達は止まっていた。
最上階では無いが、どうやらここは城のど真ん中らしい。
天井がガラスで出来ており、光が差し込んでいる。
そこで俺達は、一人の騎士と睨み合っていた。
「副長がやられたのか......まぁいい。ここで私が殺ればいいだけのこと」
「ということはお前も騎士団だな」
青い甲冑に短弓。
頭には何も被っておらず、その素顔が明らかとなっている。
女だ。
後ろで髪を結んだポニーテール。
その美しい金色の髪が、風でなびいている。
俺はなぜか、この弓兵に違和感を感じた。
「ヴァレンティーノ王直属の騎士団。グリエラ=ドラーギ」
「ニース=サジェンド」
「キャスバル=レイ」
「レイン」
当たり前のように偽名を名乗っていく。
「お前らの素性はもう割れている。偽名など使う意味は無い」
なんだ。
やはり騎士団全員には知れ渡っているようだ。
「やはり、闘うしかないのか」
「いいや、闘う必要は無い。お前らが私に、一方的に殺られてくれればいい話さ」
「ふん。そんなこと、あるわけがない!」
また、フレデリックが突撃した。
こいつ、実は脳筋なのか?
しかし、前回よりはマシかもしれない。相手は弓、不意打ちのようにいきなり突撃してしまえば、相手の隙を突けるかもしれない。
「愚かな」
グリエラは、膝から崩れ落ちて低姿勢になった。
しかし、フレデリックも低姿勢の突撃、素早くジグザグに動くことによって、矢に当たらないようにしている。だが、弓は構えるが矢は引かない。
かと思うと、正面から来たフレデリックよりもさらに低く構え、背を地面に付けながら巴投のように、フレデリックを足で促した。
そして、足で持ち上げている瞬間、弓を引き、至近距離でフレデリックに矢を放った。
「なっ!?」
そんな距離で外すわけがなく、フレデリックは見事に撃ち抜かれ、投げ飛ばされた。
「ぐっ」
「フレデリック!!」
俺が向かう前に、グリエラはサマーソルトのように後方に回転しながら距離を取ってきた。
素早い判断だ。
それに、よく周りが見えている。
グリエラは、地面に着地と同時に俺に向かって、矢を放った。
特別速いわけでもない。普通の矢だ。
走りながら、難なくかわす。
第二射、今度は二連だ。
矢を二本同時に放って来た。が、それもかわす。
なんだ?凄いのは身体能力だけか?
第三射。次は二回連続で放って来た。
弓は引くのに時間がかかる。それなのに、どうして二連放てるのかは分からないが、それでもこれぐらいならなんてことはない。
と、気を抜いてしまった。
一発はそのまま直線的に俺を狙ってきた。
これもまたかわした。
つもりだった。
「バウンドアロー」
二本目は、地面に放った。
そしてそれは地面を跳ね返り、一本目をかわした俺を、あらぬ方向から狙ってきた。
跳弾。そんな魔法もあったのか。
いかん、このままだと命中する!
ギリギリだが、右腕で振り払う。
なんとか風で防ぐことが出来た。
が、バランスを崩し、地面に体が打たれてしまった。
受け身でなんとか体勢を立て直す。
しかし、起き上がった先で、もう矢は目の前まで来ていた。
ヤバい......終わった。
「シルビオさん!」
その声と同時に、目の前の矢が消えた。
リーネだ。
横から矢を掴んで、払ってくれた。
「ナイスタイミングだ。リーネ」
「ありがとうございます。それにしても......あの人、何かおかしいです」
「あぁ」
早すぎる。
いくらなんでも、引くのが早すぎる。
身体能力と、弓が短いことを利用したトリッキーな闘い方は分かる。
確かにそれが強みであるというのは、闘ってみてわかる事だ。
しかし、矢は矢筒から取り出さなくてはならない。
矢筒から取り出し弓を引くまでに、早くても0.5秒はかかるはず、だが、グリエラはほぼノーモーションで放ってみせた。
「おいてめぇ!コッチを見ろォ!!」
フレデリック!?どうやら動けるほどには無事なようだった。
グリエラは俺達を見ている。
その隙に、フレデリックが後ろから襲いかかったのだが、
「うっ」
フレデリックには見向きもせずに、矢を刺した。
右手で持っていた矢を、そのまま直接。
それは、またフレデリックの腹に突き刺さっていた。
「サンダーアロー。しばらく大人しくしていなさい」
「く、そ......」
強い......!
もしかしたらあの赤い騎士、ウリエン=パーリは、相手が俺達なだけに手を抜いていたのかもしれない。
本人のその意思がなくとも、無意識のうちに。
「......!?リーネ!矢筒が......」
「無い......」
今更気が付いた。
こいつ、矢筒が無い。
どころか、どこにも矢がないのだ。
初めから違和感はのだ。しかし、何が足りないのか分からなかった。
そうか、矢筒が無い。
持っているのは弓だけ。
それでどうして矢を放てるというのか。
「やっと気が付いたようだな。この弓、アルカリスの特性に」
「そういうことか。それがその魔道具の力というわけだな」
「そうだ。矢を必要としない弓、それがアルカリスだ」
そんな力を持つ魔道具もあるのか。
どうやら魔道具は、魔鉱石の純度百パーセントというだけではないようだ。
それにより、何らかの特殊能力が備わっている。
「故に、弓を引けば矢は出てくる」
グリエラは、そう言いながら弓を引いた。
確かに言っている通り、どこからともなく矢は現れた。
連射の秘密はこれか。
「こんなことも出来るぞ?」
するとグリエラは、弓を上に向ける。
高い高い天井に向かって。
まさか......!
「アローレイン」
弓を引く。
それと同時に、一本の矢は無数に増え、矢の雨がシャワーのように降り注ぐ。
「リーネ!俺の近くに!」
「はい!」
左腕で振り払う。
大きな風を起こし、俺達の周りだけだが矢を吹き飛ばした。
「シルビオさん!」
「ッ!!」
至近距離に矢。
また油断してしまった。
もうかわせる距離ではないし、振り払うことも出来ない。
左腕を盾にし、守る。
オーヴェインの腕は硬い。
矢の一本や二本くらい、防げるはずだ。
だが─────
「ぐっ」
刺さる。
腕では無く、肩に。
「ほう、本当に寸前で体をずらしたか。驚異的な身体能力だ」
もう少しで胸に刺さるところだった。
しかし、腕で完全にカバー出来ていたはずなのに......カスリすらもせず、まるで腕を貫通して通ったかのような射線だ。
おかしい。
「確かに防いだはずなのに......か?」
「......」
「図星のようだな。それは、分かるの固有魔法だ」
「なに?」
「私の飛ばした物は、どこまでも貫通する。例えそれが壁だろうが布だろうが、どんなに硬かろうが柔らかかろうが、薄かろうが厚かろうが、関係ない」
全てを貫通する。
それは、相性が良すぎる能力だ。
弓にしても固有魔法にしても身体能力にしても、どれも弓兵としてはトップクラスの才能。
文句なしの強さだ。
「だが、風なら!」
グリエラはジリジリと近づき、再び矢を放つ。
壁や物を貫通する矢。
なら、空気ならどうだ。
空気を動かす風なら──────
「貫通しないとでも?」
痛み。
今度は腹に命中した。
そんな......防げないなんて......
「風の抵抗を受けないということは、それだけ速度も上がるということだ」
矢一本の威力は低いが、こんなのを食らっていたらすぐに殺られてしまう。
全てかわしきれる自信も無い。
これは厳しい闘いだ......
「それでは、終わりにしよう」
「まだです!」
リーネだ。
リーネは、距離を置いた場所から糸を飛ばす。
「邪魔をするな」
グリエラは、矢で糸を切ろうとする。
だが、リーネの糸は他の糸とは違う。
硬い状態なら、普通の矢では切ることが出来ないほどの強度で、柔化していれば、それはそれで切れないほど柔らかいのだ。
「切れない......?ほう、面白いものを持っているじゃないか」
グリエラは、糸をかわすと、またリーネに近づいた。
どんどん近づく、糸に対して近距離というのは不利ではないか?
「スレッドネット!」
糸を、蜘蛛の巣状にして矢を受け止める。
矢はその網目よりも大きい。だから、通ることは無いのだが、『貫通』のせいで呆気なく破られてしまう。
糸の巣は破られていないのに、技は破られる。
しかしそこに、俺は僅かながらの違和感を感じた。
わざわざ近づく必要は無くないか?
いくらショートボウとは言え、たかが数十メートルくらい届くだろう。
......まさか。
「リーネ、距離を取れ。とりあえず取れるだけ距離を取るんだ」
「は、はい」
すると、リーネへと飛んで行った矢は、リーネがかわした後に地面や壁に当たった。
どうやら読みは当たったようだな。
「その固有魔法の射程距離、つまり有効範囲は十メートル程度。それより遠くは、効果が及ばないんだろ」
射程距離外へ出てしまえば、少なくとも固有魔法は無くなる。
かわす以外の選択肢が増えるだけでも、だいぶ楽になるってもんだ。
「ふむ。なかなかの観察力に、察しがいいな。副長でも知らないことを見事に当ててみせるとは」
「お前が分かりやすいだけだ」
対策は分かった。
後はもう倒すだけだ。
「だが、私とて簡単にやられるわけにはいかないのだよ。王の......国民の平和は邪魔させない!」
「国民の平和?はっ、国民を犠牲にしておいて平和のためだってか?」
「犠牲......?」
なんだ?なぜそんな顔をする?
まるで初めて聞いたかのような。
「王は、直々に研究に協力し、魔物を絶滅させるために武器を作っておられると」
「その武器とは、どんなものか知っているのか?」
「......」
どうやら、知らないようだな。
「知っているかのよう口ぶりだな」
「知っているさ。知っているとも。だから俺達はここにいる」
「......」
グリエラは構えを解き、弓を降ろした。
「その話、聞かせてくれないだろうか」
それから、俺達は話した。
王の真の目的。
兵器について。
イルペ家がどのような仕打ちにあったのか。
全ての信じてを話した。
その間にフレデリックを回復させてくれるのを、グリエラは許してくれた。
もし俺達がそれを目的に時間稼ぎしているとしたら、どうするのだろうか。
「......そうか。そうだったのか」
グリエラは、まだ信じられないといった感じだ。
無理もない。今まで仕えていた王が、本当は悪いヤツだったと知っては。
「信じて、くれるか?」
「分からない。お前達は侵入者だ。そうやって私を騙そうと言う風に取れないこともない。だが、思い当たる節はある」
「......なら「だが、全て信じることは出来ない。私がこの目で確認するまでは。だから......」
グリエラは少し黙る。
考えているのだ。
俺達としてはなるべく闘いたくないわけだし、こんな強い協力者がいるとなれば心強い。
「私も同行しよう」
「かきょ......いいのか?」
「己の目で確かめるまで、お前とは一時休戦だ。ただし、嘘だと分かればすぐにお前らを撃つ」
「構わない。逆に俺達が正しいと分ければ、真実だと分かれば協力してもらう」
「もちろんだ。私は、王に仕えてはいるが、それよりも国民を優先する」
ありがたい。
もしここで証明できれば、こんなに心強い味方が出来ることになる。
「......師匠、フィオン副長も、それは知らなかったのか?」
「分からない。ただ、私と副長は王とはあまり直接話すことは無い。だから、知っているとしたら団長だ」
団長。
もしフレデリックの師匠も王の真実を知らなかったのなら......いや、考えるのはやめておこう。
もう終わってしまったことだ。
今更考えたって、生き返るわけじゃない。
「それなら、早く行きましょう。こうしている間にも、王は逃げようとしているかもしれません」
「たしかにそうだな。リーネの言う通りだ」
「もう次の階層で最後だ。おそらく団長はそこにいるだろう」
そのために騎士団で時間を稼ぐという作戦かもしれない。
急がなければ。
俺達は覚悟を決めて、最後の階段を上った。




