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嘘と嘘

「まだ、名を名乗っていなかったな」


と、赤い騎士は言った。

見たところ一人のようだが、こいつ、猛者だ。

一人で十分だってことか。


「私は、ヴァレンティーノ王直属の騎士団副長、ウリエン=パーリだ」


直属の騎士......団だと?

王様だし、そういうのがいるってのは予想出来ていたが、団か。

ということは少なくとももう一人以上いるという事だな。


「対等な闘いをしたい。名を教えてもらおうか」

「対等、ね......いいだろう。俺はニース=サジェンド」


ガッツリ偽名じゃねぇか。


「ふむ。ニースか、よろしく頼む。して、貴様は?」

「キャスバル=レイだ」

「キャスバルに、ニース。覚えておこう。それと、そこのお嬢さんは?」


なに?

リーネには、接敵した瞬間から気配を消して身を潜めるように指示してある。

そして、今回も隠れたはずだ。

敵の隙をつけるし、最悪の事態でも捕まるのは俺達二人だけだ。

しかしこいつは今、お嬢さんと言った。


「レインだ」

「ふん。気配隠蔽とは、姑息な」

「それを言うなら『卑怯』だろ?姑息はその場しのぎって意味だ」

「これは失敬」


まぁ、姑息な手であることは否定しないがな。

リーネについては、俺が答えた。

リーネなら本当に言ってしまいそうだったからだ。

さっさとこいつを倒して、王のところまで行かなくちゃあいけないだ。

王の悪事を、暴くために。


「ウリエン、だったか?残念ながら、お前の手の内は知れた。それに、俺達は三人だ」

「ほう。ならばかかってくるがいいさ。三人まとめてな」

「舐めてんじゃねぇぞ!」


フレデリックが、突撃した。

一人で。

この手の敵は、だいたい強い。礼儀の正しさから見て、俺達をただ煽っているだけでは無いはずだ。

なら、本当に三人を相手にしてしまうほどに強いということを。ただ、真実を言っているだけだと予想できる。


「舐めているのでは無い。警告だ」


さっきの、斬撃を飛ばすのがこいつの固有魔法だと思っていた。


「クソが!」


フレデリックは近距離まで近づき、ウリエンに殴りかかる。

力は温存しておきたいと言ったはずなのに、右腕だけを魔人化させる。

真っ黒の、まるで焦げたみたいな腕。

その腕でウリエンを殴ろうとしたのだが、


「何人で来ようと私は倒せないという警告だ」


大剣が、広がった。

柄を持ち上げ、床から引き抜かれたその大剣を横にし、剣身が広がった。

まるで盾のように。

そして、フレデリックの殴りを防いだのだ。


「な、なにぃ!?」

「ふん。他愛もない」

「それも誤用だ」


ウリエンが、剣を縮めた。

大きくなった大剣が、元の大きさに戻ったということは、これからフレデリックへの反撃が行われるということ。

その前に、俺はウリエンまで近付いていた。


「『他愛ない』が、本来の使い方だ」

「ふん。懐に入れば剣は振り回せないと......そう思ったようだが────」


ウリエンの剣が、突然短くなった。

背よりも高かったその剣身は、まるで短剣のように......いや、本当に短剣の大きさまで小さくなった。

一瞬にして。


「甘い」


その短剣は、俺の頬を掠めた。

ギリギリかわせたのだ。


「シル......キャスバルさん!」


後ろに引っ張られる。

リーネが、俺とフレデリックを糸で引っ張ってくれたようだ。


「ナイスだリーネ。ここは一旦距離を取って体勢を立て直す。フレデリック、一人で突っ込むな」

「けどよ、このままでも斬撃は飛んでくるぞ」

「あぁ、それについてはお前のおかげで分かった」

「分かったって、対策がか?」

「あぁ、奴は斬撃を飛ばしているわけではない。実際に斬っているのだ。おそらく、剣を自由自在に変形させられる固有魔法。それで、一瞬だけ剣身を長くして、俺達の後ろの壁を斬っただけに過ぎない。剣の動きを見れば簡単にかわせる」


もっとも、剣の動きが見えればの話だがな。

フレデリックとリーネなら、問題は無いだろう。


「ほう。たった今のでよくそこまで考察出来たな。名推理だ。だが」


それが分かったところで、強さには変わりない。

確かに強い能力だ。

盾にして防ぐことも出来れば、遠距離攻撃も至近距離での戦闘も、範囲攻撃も、まさにオールレンジ。


「私には勝てない」


確かにそうかもしれない。

一人でも、三人でも。

だが、


「剣は一本だ。三人同時でかかれば、必ず隙は生まれる」

「本当か?」

「奴は自分に自信があり過ぎる。そこに付け入る」

「作戦は決まったか?」


余裕な顔してやがるだろうな。

表情は、兜のせいで分からないが、声のトーンや抑揚から察するにそんなところだろ。

自分に絶対的自信を持ち過ぎている。


「アドリブで行く。合わせろ!」

「はい!」

「仕方ねぇな。やってやるよ!」


まずは散開して、三方向から接近。

と思わせて、俺は少し退く。

最初はリーネが床を柔化さ、体勢を崩す。


「ほう。だが!」


ウリエンは剣先を床に突き刺し、剣身を伸ばした。

それにより体を浮かせ、足を取られるのを防いだ。


「甘いと言っているだろ!」

「そっちが、な!」


空中のウリエンを、フレデリックが攻撃する。

また、攻撃の瞬間だけの魔人化で、今度は足だ。

空中では、姿勢を変えるのは難しい。

よって、攻撃は......


「がッ」


当たる。

急所は外れたが、今度は鎧に当たった。

さっきは剣で防がれてしまったが、鎧なら攻撃も通るようだ。

ウリエンは剣を手放すことはせず、剣ごと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「やはり俺の魔人化が通用しないわけないよな......てめぇ、その剣。一体なんだ?」


確かにそうだ。

一部分の一時的な魔人化とはいえ、魔人の攻撃をまともに食らって耐えられるわけが無い。

それなのに、剣で防いだ。

剣身を広げて、パンチに耐えた。

だが次の攻撃、本体への攻撃は通じた。

つまり、剣に仕掛けがあるということ。


「ぐ......はぁ、へっ。こいつの名はカナリス......世界一丈夫な剣だ」


ウリエンは、荒々しい息をしながらそう言った。

カナリス......聞いた事ないな。


「おい、まさかそれ。魔道具か?」

「いかにも。私のために作ってもらった、私専用武器だ」


作っただと......!?

魔道具を?

魔道具は、魔鉱石の純度百パーセントで作った物だ。

故に、魔力を通しやすく、道具そのものにも魔力が宿っている。

しかし、それは作ることが難しく、人間に作れるのはせいぜい十パーセントが限界だ。

それを、作った?


「ふふ、驚いているな。だが事実だ。ここには、そういう奴がいる」

「なぁ、さっきから思ってたんだけど、こいつバカじゃね?ずっとペラペラと情報を漏らしやがる」


それは俺も思っていた。

こちらとしては随分有難いことだが、これだけ簡単に話されちゃ、信憑性に欠けるというものだ。


「ふん。それは貴様らと平等にするためだ。こちらは貴様らの情報を知っている。だが、そちらは私のことを知らないだろ?なぁ、シルビオ=オルナレン、フレデリック=イルペよ」

「チッ」


知ってたのか。

クソ、やられた。

王め、俺達が来ることを初めから分かっていたのか。


「情報提供ありがとう、感謝する。そしてさよなら」

「? ......ッ!?」


ようやく気が付いたようだな。

ウリエンは、自分の呼吸がなかなか整わないのに違和感を感じたようだ。

いくら壁に叩きつけられたとはいえ、重装備だ。

さすがに一撃でやられるはずがない。

それなのに、体力は消耗するばかり、そしてどんどん辛くなっていく。

その理由は、胸元。

右胸辺りに、穴が空いている。鎧を貫通し、体まで到達しているのは、流れ出る血から分かる。

気配隠蔽。

その魔法を銃弾に付与した。


「ば、馬鹿な......いつの間に......!?」

「立ち上がる瞬間だ。音はしたが......お前らは銃を知らないだろ。何の音なのか分からない」

「き、貴様ァ」


まさか気配隠蔽がここまで使える魔法だと想定外だ。

当たったことにすらも気が付かないとはな。

まぁ、これで俺達の勝ちだ。


「最後に言い残すことは?」

「......」


バタッと、ウリエンは床に倒れた。

力が抜けたのだろう。敗北のショックか、痛みのせいか、どちらにしろ同じことだが。


「......私以外にも、騎士団は魔道具を持っている」

「なに?」

「それだけだ......はぁ、ついに負けてしまったな。まさか......こんな日が来ようとは......フレデリックよ、強くなったなぁ......」

「......?」


なんだ?どういうことだ?


「ッ!!」


いきなりフレデリックが、ウリエンの頭の甲冑を取った。


「なッ!?そんな......嘘だろ......」

「どうした?」

「フィオンさん......」


フィオン!?

確か、フレデリックの......


「師匠だ」


いつか昔、まだフレデリックに騙されていた頃。

仲の良かったころ、少しだけ聞いた覚えがある。

体術は苦手だから、師匠に教えて貰っていると。


「うちの家族は代々、体術が苦手でね。武器を使うにも歳下に負けるほどだ。だから、俺の代で終わらせようと。せめて自分で闘えるくらいにはと思い、教えてもらっていた」

「......」


そんな人がなぜ......


「その......すまない」

「いいんだ。こうして敵として現れたら、倒さなくてはならない。王に使えている以上、俺の敵だ。けど......なんで......なんで嘘なんかついているんだよ......」


ウリエン......いや、フィオンさんは、弱々しい手でフレデリックを掴む。


「すまないな......フレデリック。だが、お前とこうして闘いたかった。お前に負けたかった......勝って欲しかった。勝って超えて欲しかった......」


なら、尚更俺が手伝ってはいけなかった。

俺が殺したせいで......俺のせいで......


「だが、心配は無さそうだな......オルナレン君」

「はい」

「それとお嬢さん......フレデリックを、頼んだぞ」

「......はい。任せてください」


リーネも頷く。

すると安心したように、フィオンさんは目を閉じた。


「......フレデリック」

「......あぁ、行こう」


フレデリックは涙を我慢して、立ち上がる。

我慢しているのは、表情で分かる。

今にも泣きそうな、弱々しい顔だ。

さすがのイルペも、自分の気持ちは騙せないようだな。


「まだ騎士団は残っている。こんなことをしている暇は無い。早く王を倒すぞ!」

「はい!」

「了解」


俺達は、再び階段を登りだした。

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