アマリア=ウェンデル
王都から遠く離れた町。
ここには、多くの囚人達が囚われている。
いわゆる収容所と言うやつだ。
しかし、わざわざ王都で捕まえた者を離れた場所に収容するのには理由がある。
それはもちろん王都には王がいるので、危険にさらさないためというのもあるが、ここ、『デビルズキャンプ』はそれだけが理由で作られた訳では無い。
デビルズキャンプ。
悪魔の収容所。
その名は、その収容所で勤務している騎士達によって付けられた呼称だ。
しかし、今ではそれも正式名称となっている。
それほどにお似合いな名前だということだ。
「はぁ......所属と名前と目的を」
見るからにダルそうな看守だ。
「はい。魔法学園魔法科、シルビオ=オルナレンです。こいつはリーネ、所属は同じ。目的は、囚人に会うためです」
「ええっと......あぁはいはい。あそこの学園ね。オルナレンだったら聞いた事あるよ。有名な貴族だ」
俺達の業界では。
と、看守は付け足した。
おそらくその業界というのは、取り締まる方の業界という意味だろう。
オルナレンは、貴族の中ではトップクラスに嫌われているからな。
いつか何かやらかすと、騎士の方にも目をつけられているわけだ。
「んで、囚人に会うためってのはそりゃあ分かるよ。それ以外の目的でここに来るやつなんていないからな。問題は、どの囚人に会うか、だ」
「オーセリー=イルペ」
俺がその名を口にすると、看守は少し目を見開いた。
そしてまたダルそうな目に戻り、大きなため息をついた。
「はぁ......またか」
また?
とは、どういうことだ。
「いやね、そいつが収容されてからというもの、一発殴らせろだの、鍛錬としてだの、恨みを持った奴や強い者と闘いたいって奴が沢山来るわけよ」
まぁ確かに、イルペは今まで色々な人を騙してきたようだし、実際王都を焼き払おうとしたわけだし、それで家族が死んだという人も多いのだろう。
しかし、オーセリー自信が強いわけでは無い。
戦闘能力は、常人よりはあるかもしれないが、それこそ騎士に比べれば弱い。
それなのに鍛錬とは......鍛錬という名の復讐だ。
「仕方ないから全員面会させてやってるけどさ」
そう、この収容所は面会が簡単に許されるのだ。
この収容所の一つの特徴として、面会というなの決闘が行える。
もちろん、会って話すだけも出来るのだが、こう言った恨みのあるやつが闘うことが出来るのだ。
そのために、中には小さな闘技場のようなものが設置してある。
「しかし、どうしたものか。全員が全員ボロクソになって帰ってくるんだよなぁ。騎士でさえも。もうやんなっちゃうよ」
「なに?」
決闘と言っても、二種類ある。
一つは、本当の決闘。
お互いに素手でも武器ありでもいいらしいが、ほぼ同じ条件で闘う。だから稀に囚人が勝つこともあるようだ。
そしてもう一つは、囚人を拘束した状態で行われる、名目上は決闘というものだ。
この場合は、囚人が一方的にやられることになる。
非力な市民などは、二つ目が多いようだが......
「どちらでも同じ。決闘だろうが、一方的だろうが、どちらにせよ、結果は同じ。ボロクソになって帰ってくるのは、囚人では無い方だ」
「......」
「疑うなら自分で確認してみな。俺は責任を負わないし、お前を止めもしない」
「......そうさせてもらう」
ここまで来て、会わないなんて選択肢は無い。
会うためにここに来たんだ。
別に闘おうってわけじゃあない。
俺とリーネは、看守に案内されて奥まで進んで行った。
いくつかの鉄格子がある中で、叫び声や悲鳴が聞こえる。
その最奥に、お目当ての人物はいた。
「何かあったら叫んで呼んでくれ。まぁ、たぶんその頃には遅いだろうがな」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
ここで看守は持ち場へ戻った。
三人きりにしてくれるのはありがたいが、ここで席を外されると少し心配になる。
「なんだ貴様か、シルビオ=オルナレン」
オーセリー=イルペは、鉄格子の向こうの部屋の真ん中で直立していた。
まるで兵隊のように、ピシッと両手両足を揃えて立っていた。
「オーセリー。お前に話をしに来た」
「だろうな、それ以外考えられない。ちょうど退屈していたところだ。全く、私に挑むのはどれも雑魚ばかりで困る」
「......」
オーセリーは全く姿勢を変えようとしない。
ずっと頭だけでこちらを見ている。
不気味や奴だ。
「......お前に挑んだ奴を、全員返り討ちにしたって聞いたが」
「あぁ、それは少し違うな。私は返り討ちにしたわけではない。勝手に奴らがやられていっただけだよ」
勝手に。
そのニュアンスからして、能力だな。
洗脳。
オーセリーは特殊な目で、相手を洗脳することが出来る。
目は、手足が拘束されていても使うことが出来る。
その固有魔法を利用して、相手を勝手に負かしたわけか。
看守は知らないのか?こいつの固有魔法のことを。そうでなければ、普通はアイマスクなどをするはずだ。
「お察しの通りさ。そんなことより、貴様はもっと聞きたいことがあるのではないか?こんなつまらない話をしに来たわけではないだろう?」
「......そうだ。単刀直入に言う、貴様が前に言っていた、王についてだ」
「それについては話しただろう?」
『ヴァレンティーノ=カールには、娘がいる』
以前、オーセリーはそんなことを言っていた。
それが俺への助言らしいが、未だに意味がわからないままだ。
娘がいるだなんて前から知っている情報だし、見たことは無いけれど、そんな知っていることを教えられても仕方がない。
「私はあくまで助言するだけだ。答えはおしえない。例えば貴様が死のうが、生きようが、私にとってどちらでもいい事だ。だから、貴様に選ばせることにした」
何を言っているのか分からない。
俺に選ばせる?
俺がその答えを見つけられれば生きることが出来るが、さもなければ死ぬということか?
『娘がいる』
普通に考えれば、「その娘に注意をしろ」
というふうに捉えることが出来るが、俺は王とは全くと言っていいほど関係がない。
ましてや、娘だなんて......
「......」
「どうした。糞でも漏らしたのか?」
「まさか......ありえない」
そんな馬鹿な。
また俺が、同じヘマをしたと......言うのか。
なたこの手に、引っかかったということなのか。
「アマリア=ウェンデル」
よくも騙してくれたな。
考えれば、簡単なことだ。
アマリア=ウェンデル。
あの、何故か俺に好意がある少女は、どこからどう見ても怪しかった。
しかしあの本気の笑顔や、困ったような表情に騙されて、俺はまんまと引っかかってしまったわけだ。
全然ありえないことではない。
オーセリーが、わざわざそんな助言を俺にすると言うことは、俺がこれから会う人か、または会ったことのある人と関係があるという訳だ。
そして俺の近くにいる人物で、身内以外は『娘』。つまり女性は、アマリアしかいない。
アマリアと最初に出会ったのは、イルペとの繋がりがあるラディチ主催のパーティーだ。
オーセリーが知っていても、おかしくはない。
だからって、アマリアが王の娘だと断言は出来ない。
名前はなんとでも偽装出来るとは言え、今までのはまだ怪しいというだけのことだ。
確定では無い。
そこで、結婚のことだ。
アマリアの家族にあったが、確かに見覚えがあった。
王が私服で変装すれば、後は先入観で何とかなるだろう。
王がこんな所にいるわけが無いという先入観によって。
簡単に婚約を許されたのも、少し気がかりだ。
「確認してみればいいのでは無いか?もし疑うなら、お誘いにでも乗ればいい」
「......」
そうだな。
こいつの言う通りかもしれない。
一番いいのは、自分の目で確かめること。
例えアマリアが、もしも本当に王の娘だとしても、だからって俺を騙してまで近づく理由が分からない。
「俺と結婚したかったから」
だなんて馬鹿なかんがえはしない。
もう、流されて騙されるわけにはいかない。
「どうやら、答えを見つけられたみたいだな」
「あぁ、おかげさまでな」
感謝はしない。
そんなことをすれば、こいつは調子に乗る。
「それじゃあ、またどこかで会おう」
「......? どこかだと?」
「心配するな。助言の借りだ。見逃してやるさ」
「......なッ!?まさか!」
「じゃあな」
俺とリーネは、部屋を出る。
監獄が大量に置いてある部屋を。
オーセリーは驚いた顔をしていた。
去り際に、「こいつは一本取られた」と言っていたが、その理由は俺には分かる。
オーセリーは、今日。ここを抜け出すつもりだったのだ。
本当はそれを止めに来たのだが......計画が狂っちまった。
あの表情から察するに、図星だったようだから、久々にゲームの感が当たったな。
これはゲームでもあったこと事象だ。
ゲームでイルペの父親を牢獄に入れたのはシルビオでは無かったが、脱獄というのは決定事項だったみたいだな。
もしかしたらこれも、ストーリーの加速と変化によって変わる事象かもしれなかったが、そうではなかったようだ。
「『またどこかで』か、会ってたまるか」
俺は、リーネと共にアマリアの元へと向かった。
アマリアはちょうど、俺達を家に呼びたいと言ってくれた。
もちろん、行くことにした。




