ダンジョンで見つけたもの
見覚えのある景色。
俺が前いた世界と、とても似ている。
少し壊れてはいるものの、それが、一瞬で何か分かった。
そう、オフィスだ。
会社のオフィス。
リーネがダンジョンの奥で見つけたものは、オフィスだったのだ。
それもビルのだ。
空洞になっている場所に、地面から天井まで突き上げているビル。
そのビルの側面は、隕石でもぶつかったんじゃないかと思うくらい、ポッカリと大きく穴が空いていた。
そこから、まるで地震の後のようにぐちゃぐちゃになっているオフィス。
俺は、ゆっくりと中に入った。
「なんでしょう。ここは」
「あぁ、とても懐かしい」
会社ってのは、どこもだいたい同じような中身なんだな。
机や椅子が散乱し、ガラスは全て割れており、所々に書類もぶちまけている。
「ここは......一体何なんだろうな」
こんなの、明らかにおかしい。
この世界の技術では、到底作ることの出来ないものばかりだ。
それより、俺の前いた世界と類似しすぎている。
なぜ?
「凄いですね。ボロボロだとはいえ、まるで未来のお家です」
未来の......お家か。
確かにこの世界の人からしたら、こんな技術、未来のものとしか思えないくらい発達しているのだろう。
「未来......ね」
しかし、そうなればなぜこんな場所に、未来の技術があると言うのだろうか。
まさか、転移?
いや、そんなわけがない。
だったらなぜ、こんなにボロボロなのだろうか。
これは、むしろ逆だ。未来の技術だが、あったのは過去。
このビルは、ずっと前からここにあったと考えるのが妥当。
しかし、それでも辻褄が合わない。
未来の技術が、昔からここにあった?
考えれば考えるほど意味がわからない。
「......今は、このことを考えるのはやめよう。とりあえず今は、帰ることが優先だ」
「そうですね。こんな凄いものを見つけたと知られたら、私達も一躍有名人ですよ!」
有名人か。
もうすでに、俺は有名人だろうけどな。もちろん、悪い意味だが。
「シルビオさん。あれはなんですか?」
「ん?」
俺の顔の横から飛び出す手。
アマリアが指さす方向にあったのは、コーヒーを入れるためのポッドマシンだった。
「あぁ、それはポッドって言うんだ」
辺りを見渡し、比較的綺麗な椅子に、アマリアを座らせた。
「きゃっ」
「ど、どうした!?」
降ろした瞬間、アマリアは悲鳴を上げた。
「いえ、すみません。凄く柔らかかったもので」
「あぁ......なら良かった」
部長の椅子だからな。
そりゃあ柔らかいだろう。
「すごい......これ、椅子ですか?」
「そうだ」
「背もたれが、こんなに柔らかいなんて......」
どうやら驚いているようだな。
俺が前の世界にいた頃には、そんなもの当たり前の事だったのに。
「そうだ。それは回転もするんだぞ」
「回転?」
「あぁ、ちょっと失礼。足を上げてくれ」
「こ、こうですか?」
俺は、アマリアの座っている椅子の後ろに立って、背もたれを持った。
そしてゆっくりと、時計回りに回した。
キィキィと錆びた鉄が擦れる音をだして、椅子は回り始める。
「お、おぉ......おおお!」
「はは、なんだそれ」
アマリアは嬉しそうに喜んでくれる。
なんだ。ただ椅子が回っただけじゃないか。
「すごいすごい!回ってます!」
「シルビオさんシルビオさん!私もやりたいです!!」
リーネも興味津々だ。
「おう。ここにある椅子はどれでも回るはずだ」
リーネも、椅子に座ってくるくると回る。
「うわぁ!なんですかこれ、すごい!」
二人とも楽しそうだ。
これだけのことで楽しめるというのは、素直に羨ましいな。
皮肉などではなく、本当に心からそう思う。
「そうだ。それで、これなんだが」
俺はポッドを手に取り、目の前の机に置く。壊れているので、原型しか残っておらず、使い物にはならない。
「これは美味しい飲み物を出すことが出来るんだ」
「美味しい、飲み物......?」
「まぁ、今は壊れているから使えないが......」
ポッドをしばらく見てみる。
なんだか、直せば動きそうな感じだな。
「そのうち見せてやれるかもしれないな」
「それは楽しみです!」
これは持ち帰るとしよう。
ダンジョンにある物を勝手に持ち帰っては行けないのだが、研究のためだと言えば、おそらくあの先生なら甘いので許してくれるだろう。
「あ!これはなんですか?」
今度はリーネが見つけてきた。
パソコンだ。
この会社は、家にも持ち帰ることが出来るように、ノートパソコンで仕事をしていたようだ。
「これはパソコンと言って、とても便利な物だ」
「便利ですか」
「そう、とてもだ。さらに、インターネットという......なんて言うか、もう一つの世界を利用することが出来る」
「もう一つの......世界」
リーネはとても興味津々だ。
もう一つの世界というのに、惹かれたのだろう。
「それは、どんな世界なんですか!!」
「え?あー......えっとだな。薄っぺらいけど、とても正確な世界だ」
なんと説明すればいいか。
リーネは、首を傾げる。
「?全然わかりません」
「だろうな」
無いものを理解させるなんて、とても難しいことだ。
どれもこの世界には存在しなくて、普通に生きていても届くことの無いような技術。
「シルビオさん、これは?」
またアマリアが何かを見つけた。
全く、二人とも好奇心旺盛だな。
「今度はなんだ?」
「これです!これ!なんだか金属で出来た板みたいなんですが......」
「あぁ、これはスマホだよ」
スマートフォン。
俺がいた世界で、俺がいなくなる時には最新の電話機器だった。
「こいつは凄いぞ?」
「シルビオさん!この黒くてヒモみたいなものがついてるのはなんですか?」
リーネが何か持って来た。
「これも同じだな。リーネのは、スマホでは無いが、ほぼ同じような機能が使える」
「きのう?」
「そうだ。こいつらの固有魔法ってことだ」
「魔法が使えるの!?」
「あぁいやいや。例えだ」
もちろん電源は付かないが、電話機能だけ説明した。
「これらは電話というのが出来てだな。これを持っている奴は、遠くに離れていても会話をすることが出来る」
「ええ!?」
「凄い!」
「凄いだろ。どんなに離れていても、相手に声を届けることが出来るんだ」
改めて見てみると、本当に凄い機械だ。
この世界に来てから、特に不便だと感じたことはあまり無かったが、やはり一つだけ不便なことはあった。
それは、連絡だ。
ヴィオレッタに「今日はリーネとご飯を食べて行くから、夕飯はいらない」と伝えることが出来ないし、先生にフレデリックの調子を聞くにも、直接会って話さなくてはならない。
そう考えると俺のいた世界というのは、とても発展していて、便利で、そんな便利な世界に生まれた俺は、とても恵まれていたと思える。
「シルビオさんは物知りですね」
「ん?」
「だって、ここにある物全部知ってるじゃないですか」
あぁ、確かにな。
そりゃあ俺の世界にあったものなのだから、知っていて当然なのだが、リーネやアマリアからすればそれは不思議な事なのだろう。
なぜなら、未来の物だから。
俺が未来予知しているのと、何ら変わりない。
「まぁ、知っているだけさ。もう壊れていて使い物にならないし、ここでは使うことが出来ない」
ここにはインターネットが無ければ、電気も電波も何にもない。
「......それじゃあ行くぞ。そろそろ出ないと、死んだことにされちまう」
死んだことにされれば、ここにはもう助けが来ないという事だ。
一刻も早く、俺達の無事を伝えたい。
「こういう時も、電話があれば便利なんだがな......」
とりあえず俺達は、さらに奥へ進む事にした。
「行き止まりです」
そのようだ。
見たらわかる。
「どうしますか?」
「......」
ここら辺でダンジョンを破壊するしかないか。
ダンジョンは、言わば自然の産物。
人間が手を加えれば、それがいつ崩壊してしまってもおかしくはない。
だから、出来ればあまり使いたい手段では無かったが......
「仕方ない。破壊する」
岩でできた壁に触れる。
「爆破属性付与」
すると、岩が光を放ち、岩に属性が付与された。
爆破属性は、衝撃を与えると爆発する。
その習性を利用して、壁を破壊しよう。
「お前ら、離れてろ」
属性付与した岩を、思いっきり殴った。
それと同時に岩は爆発し、壁は見事に崩れ去った。
しかし、この先は枝分かれ下道になっており、どこへ行けばいいのか分からない。
「他の崩壊部位は無し。大丈夫そうだな」
丁度いい機会だ。
新たに使えるようになった技を試してみることにした。
風を使えるようになって、しばらく経つからな。もうすでに体の一部と化している。
左腕で、空中を撫でるように払った。
そよ風を起こす。
「ウィンドサーチ」
風は、遠くの隅々まで行き渡る。
そして、神経を研ぎ澄ませる。
「シルビオさん。なんですか?その魔法」
「これは魔法というより、俺が技だな。自由に操れる風を応用したものだ。風が触れたものが何か、だいたい分かる」
「え!?すごいじゃないですか!」
「いや、だいたいだ。それが動いているか動いていないかぐらいしか分からない。もう少し集中すれば、呼吸まで読み取れるんだけどな」
それで、生き物か生き物では無いか。または、生きているのかを判断できる。
生きていれば、呼吸は必ずする。
呼吸というのは、空気に触れずにできるわけが無い。
「風を避けるなんて、絶対に出来ないからな」
おっと。
そんなことを言ってる間に、反応があった。
「こっちだ」
二人を連れて、迷いなく進んで行く。
随分と遠いが、息をする反応がある。
一つや二つでは、魔物の可能性があるが、これはいくつも反応がある。
荒い呼吸、短い呼吸、落ち着いた呼吸、大きな呼吸、小さい呼吸。
間違いない。
クラスメイト達だ。
「遠いな」
この技は最強に思えるが、実はそうでも無い。
集中しなければならないし、室内でないと正確には分からない。
外だと自然の風や、正確な位置が掴めないからだ。
「!?」
な、なんだ!?この反応は......
とても大きな呼吸。
こんなに深い呼吸は、人間のものでは無い。
まさか!
「......急ぐぞ」
「どうかしましたか?」
「あぁ......」
これは、まずいな。
俺達では無く、皆の方に近い。
それに、気が付いていないようだ。
隠密系の魔物か。
「こいつはとんだ大物だな」




