婚約とダンジョン
俺は、リーネを一旦家に置いて来てから、アマリアの馬車に乗せてもらった。
娘さんを貰いに行くってのに、その娘以外の女の子がいては、おかしな話だからな。
作戦はこうだ。
まず、アマリアと婚約相手の面会。
そこに俺が加わり、アマリアと俺との関係を伝える。
問題は、いかにして俺が相手よりも優れているか。
というのをプレゼンしなければならないという所だが......
「ふむ。良いぞ」
「ふぇ?」
思わず変な声が出てしまった。
俺はまだ部屋の外で待機中なのだが、急に扉が開き、中からアマリアの父親が出てきてそう言った。なんだか、どこかで見たことあるような気がする見た目だ。
だいたい、異世界のおじさんなんてこんな感じだな。みんな同じような見た目をしている。
「あ、あの......」
部屋を見渡す。状況が掴めない。
見ると、苦笑いをしているアマリア。
そして、その目の前にいる男が泣いていた。
おそらく、相当結婚したかったのだろう。
「君は、シルビオ=オルナレン君だね?娘から話は聞いているよ。そして君は合格だ」
「え?」
すると、アマリアの父親は親指で泣いている男を指をさした。
「彼はすぐああなるんだ。男として情けない。それに引替え、君は王都を救ってくれた英雄だ。断る理由はないよ。むしろ大歓迎だ」
「え、ということは......」
「君と娘の結婚を認めよう」
やった!と、俺とアマリアは喜んだ。
それと同時にアマリアの婚約相手候補の男は大泣きした。
こんなにあっさり承諾を得られるとは思っていなかった。
まるで本当に結婚するみたいに嬉しい。
「改めて自己紹介を。私はアンテルム。妻のカタリーナだ。そして、娘のディ「アマリアです。改めてよろしくお願いします!」
「お、おう。よろしく」
なんだ?今のは。
......まぁいいか。
「俺はシルビオ=オルナレンです。よろしくお願いします」
「うむ。早速だが、少し頼みがある」
「?はい」
「結婚のことは、どうか内緒にしておいて欲しい。他言無用。学園などで言いふらさないで欲しい」
なんだ。そんなことか。
変に身構えてしまった。もちろん、俺もベラベラと話して自慢するつもりもないし、俺にとっても、内緒の方が得だ。
理由がどうであれ、そうすることには変わりない。
「それさえ守ってくれるというのなら、もう何も言うことはない」
「はい。もちろん守らせてもらいます。心に誓って」
「本当にありがとうございます」
帰りも、同じようにアマリアの馬車に乗せてもらった。
行きもこんな風に隣に座っていたのに、なぜか少しドキドキする。
「別に礼なんて要らないさ。俺は、お前の悩みを解決したかっただけだ」
「本当にお優しい人ですね」
「......そんなことは、無い」
そんなことは無いんだ。
だから、俺は嫌われている。
だから、俺は......
でも、もしかしたら。
もしかしたら、アマリアなら......
俺は、胸の鼓動を感じながら家に帰った。
夜は、あまりよく寝られなかった。
「おはようございます」
「おう。おはよう」
学園。
また学園だ。
だが、今度は俺とリーネだけではない。
アマリアも一緒にいてくれる。
「はい。今日はダンジョンに行きます」
朝のホームルームで、先生はそう言った。
ダンジョン。
小学校で言うところの、遠足みたいなものだ。
ただ、遠足と違うのは、そんな生易しいものでは無いということ。
テリトリーに比べれば、まだ幾分かマシなのだが、それでも油断しているものから死んでいくような場所。
しかし、テリトリーと違ってダンジョンは、どちらかと行けば魔物との戦闘を目的とする場所ではない。
簡単に言えば、研究対象だ。
ダンジョンには、あらゆる物が詰まっている。
例えば、化石の詰まった遺跡みたいなもので、そこを探索することによって新しい技術が生まれたりもする。
だが、少なからず魔物がいるので、俺達のような学生がまず入って、魔物を倒して安全を確保するわけだ。
魔物とは言え、場所にもよるが、ローテリトリーよりも弱いくらいのやつだ。
「新しいダンジョンらしくてな。まだ未踏の場所らしい。お前らが初めての侵入者というわけだ」
侵入者って......言い方が悪いな。
まぁそれでも確かに、楽しみっちゃ楽しみだ。
「それでは早速今から行くぞ」
相変わらず唐突な先生だ。
というわけで、学園から結構遠い。馬車で約二十分くらいの場所。
大きな渓谷の下に、その入口はあった。
「ダンジョンって、山に付いているイメージでした」
「確かに、俺もそんなイメージだったな。まぁ、どこにどう付いていてもおかしくはないという事だな」
それにしても、変な穴だ。
まるで人が掘ったかのように、綺麗に出来ている。
中は暗くて見えないが、もしかして人工物なのではないだろうか。
「先生。これって練習用の人工ダンジョンだったりしますか?」
「ん?あぁ、なるほど。なかなか鋭い目を持っているな。確かに穴は人工で掘ったが、それは入口だけだ。中身は本物だぞ」
なるほど。掘っていたら偶然見つけた。と言った感じか。
「よーし。それじゃあ中に入るぞ。光系魔法が使えるやつは、辺りを照らせ。使えないやつは周りを警戒。絶対に逸れるなよ」
ゾロゾロと中に入っていく。
絶対に逸れるなよ、とか......これ絶対逸れるやつだ。
「うわぁ......」
すごいな。
辺り一面に結晶がある。
まるでクリスタルの部屋だ。
一体、いつからここのダンジョンは存在していたのだろうかと、考えさせられるくらい大きな結晶。
入って早々これだ。奥の方が楽しみになってくる。
リーネとアマリアも、開いた口が塞がらないってところだ。
「すごい......すごいです」
「信じられない......嘘みたい」
しかししばらく歩くと、すぐに結晶は見られなくなった。
どうやらさっきの場所だけしか生えていなかったらしい。
「ダンジョンって言っても、普通の洞窟とあまり変わらないな」
「あぁ、確かにな。何せ未踏のダンジョンなんだ。これから何があるか分からないからな」
......よく考えてみたら、なぜそんな場所に俺達のような学生を放り込んだのだろう。
危ないにも程がある。
「シルビオさん。見て下さいこれ!」
と、アマリアが何かを見つけたようだ。
リーネと一緒に見に行く。
「なんだ?」
「何か、すごいキラキラとしていて......」
本当だ。
よく光を反射している。
「金属?では......ないな。何か、プラスチックのような......」
「ぷら......なんです?」
地面に埋まっているようだ。
埋まっている部位を掘る。すると、だんだん姿が見えてきた。
「これは......」
椅子の足だ。
突然、ダンジョン内に音が響た。
大きな音に、思わず皆驚く。
「な、なんだ!?」
急なことに対処できなかった。
俺は。
俺と、リーネとアマリアは。
三人とも、落ちてしまった。
フワッと体が浮く感覚。
俺達が丁度居た場所の真下は、空洞になっていたようだ。
「なにぃいい!!?」
「うわぁああああ!!」
「きゃああああ!!」
見事、俺達三人だけを飲み込み、クラスメイト達と離れ離れにされてしまった。
やはり逸れることは予想していたが、まさか俺達がそうなるとは思ってもみなかった。
「ぐっ!?」
落下。
地面に背中から落ちた。
風を使ってある程度は衝撃を和らげたが、痛いものは痛い。
が、痛がっている場合ではない。
二人を受け止める。
「リーネ!アマリア!」
左腕を大きく振って、風を飛ばす。
優しい風のクッションを作り上げた。
長くは持たないが、一瞬だけ落下速度を低下させることは出来るだろう。
「ふん!」
リーネを両手でキャッチした。
お姫様抱っこのような形になる。そして、直ぐに下ろし、すぐさまアマリアもキャッチした。
ふぅ。二人もキャッチするのはさすがに疲れるな。
「だっはー」
俺はその場に倒れた。
「シルビオさん!?だ、大丈夫ですか!」
リーネが心配してくれる。
「あぁ、俺は大丈夫だ。それよりもお前らは?」
「大丈夫です!」
「大丈夫......です」
少し、アマリアは調子が良くないようだ。
リーネは直ぐに立ち上がったが、アマリアはまだ座り込んでいる。
「大丈夫か?アマリア」
「はい......少し、驚いただけです」
「無理はするな。せっかく生き残れたんだ。ここから脱出するぞ」
「......はい」
さて、どうしたものか。
上を見るが、全く天井が見えない。
光魔法を使っても、明かりが届かないほど高い。
あんな場所から落ちてきて、よく生きていたものだ。
「もう一度来た道を辿るのは......不可能そうだ。仕方ない。他の出口を探そう」
「シルビオさん。こっちに、道みたいなのがありますよ」
リーネが指さす方向には、確かに通路が出来ていた。
だが人工のものでは無い。
こんな風に自然と空洞になっていたりするのが、ダンジョンの特徴だそうだ。
「アマリア、歩けるか?」
「はい、大丈夫です」
「......」
しかし、アマリアは生まれたての子鹿のように、足をガクガク震わせている。
あんなに高いところから落ちたら、腰が抜けていてもおかしくはない。
仕方ないので、おぶってやることにした。
「すみません......」
「いいから、気にするな」
重たくない。
女の子ってのは、こんなにも軽いものなのか。
「ん?」
そういえば、さっきのは結局何だったのだろう。
確か一緒に落ちてきたはずだ。
俺は少し辺りを見渡す。
「お、これか」
手に取って見てみると、何やら酸化してボロボロになっている。
「やはり、椅子の足みたいだな」
「椅子の足......ですか?木はこんなにキラキラしませんよ」
確かに、この世界の椅子は木でできたものしかない。
そりゃあキラキラ反射したりはしないだろう。
だが、これはどう見ても俺が前いた世界の椅子にそっくりだ。
「シルビオさん!こっち来て見てください!」
少し先行していたリーネが戻って来た。
何をそんな慌てているんだ。
魔物でもいたのか?
「これを」
俺は、リーネが言っていた場所に来る。
それは、とても信じられない光景が広がっていた。
「これは─────」




