転校生
「降参する」
突然、オーセリーが両手を上げてそう言った。
「は?」
「降参すると言ったのだ。私はもう闘う気がない。私の中で、降参は負けには入らないのだよ」
意味が分からない。
一体どうしたというのだ。
「私の固有魔法である洗脳が解かれてしまった今、私の武器はもう何も残っていない。闘うだけ無駄だ」
「......また、騙すつもりか?」
「いいや、今度は本当だ。早く騎士を呼べ。私は、ここから逃げも隠れもしない」
「......」
なら、無理に闘う必要はない。
街をこんなにしておいて、殴りのひとつでも入れたかったのだが、大人しく捕まると言うのであれば仕方がない。
俺とリーネは、もう騙されないように細心の注意をはらって、騎士を待っていた。
騎士は、国の警察のような役目をしている。
俺達は騎士ではないので、オーセリーがこれからどういう刑になるのかは分からないが、恐らく死刑。または、無期懲役にはなるだろう。
しばらく待って、騎士達が来た。
オーセリーは、本当に何をするでもなく捕まった。最後は案外呆気ないものだった。
俺は、逆にそれが心残りだったがな。
「あ、そうそう。俺の計画を邪魔した貴様はゆるせないが、一つ助言をしてやろう」
オーセリーは、最後に振り向いて俺に言った。
「ヴァレンティーノ=カールには、娘がいる」
「......」
どういう事だ。
そりゃあ王様だし、娘の一人や二人はいるだろうが、改めて言うことか?
そんなことが助言?聞いて呆れる。
俺は、特に気にするでもなく、その事を聞き流した。
今は疲れでいっぱいいっぱいだ。
「お前も、後で事情を聞かせてもらうからな」
と、俺とリーネも騎士に連れていかれてしまった。
どうやら休める時間は無いようだ。
怒られてしまった。
やはり、俺の独断専行が悪かったのだろう。
もしこれがアランだったら、オーヴェインを倒したことを褒め讃えられ、許され、そして国を守ったという賞賛を貰えることだろう。
確かにオーヴェインを倒したことは認められた。だが、その結果として学園の謹慎処分が免除になっただけで、特に賞賛はされなかった。
代わりに俺は、激怒を食らうことになった。
「......シルビオさん」
「......なんだ」
帰りも、先生が送ってくれた。
随分と怒られたので、少し気まずい雰囲気だ。
「ありがとうございました」
「....何がだ」
「私が洗脳されていた時に、シルビオさんは私を洗脳から解いて下さった。私を助けて下さったお礼です」
リーネは、軽く頭を下げる。
「いや、そんなものはいらん。お礼を言われるほど、大きなことじゃあない。当たり前のことを、しただけだ」
そう言うと、馬車の前方で先生が吹き出すように笑った。
大爆笑では無かったが、それがまた馬鹿にしているようで腹ただしかった。
「いやぁ、オルナレンもそんなこと言うんだなぁと思ってね。悪い悪い」
先生ズラしているのがまた腹立つ。
ウザい先生だな、こいつ。
「随分と前から変わったようだね」
「ふん。『変わったようだね』か。そうだといいですけどね」
「あ、そういう所は変わってねぇな」
......まぁいいさ。
そんな事よりも気がかりなのはオーセリー。
あんなにも呆気なく降参するのは、不自然すぎる。
単に戦闘能力の差という理由だけで降参したとは、とてもじゃないが思えない。
何か他に理由がある可能性が高い。
王に恨みがあるようなことを言っていたな。
いくら王様でも、百パーセントの支持率なんて無理ってことか。
「......」
『ヴァレンティーノ=カールには、娘がいる』か......
なんだろうな。
「......先生」
「なんだ?」
「ヴァレンティーノ王に、娘って......いますよね?」
「あぁ、いるが。それがどうした?」
「いえ。そういえば、見たことないなぁと思いまして」
そうだ。見たことない。
こともない......か?
遠目でなら、一度お目にかかったことがあるな。
ゲームでだけど。
「そういえば、王の娘ではないが、そう言われても違和感無いくらいの女の子が、明日転校してくるらしい」
「へぇ......」
それくらい美人......というか、高貴なオーラを纏っているってことか?
やはりこれも、ゲームでは見られなかったイベントだ。
もう完全にルートから外れているな。
番外編、隠しルートもいいところだ。いままでのゲームでのストーリーが全くもって通用しない。
「どんな子なんですか?」
「ああそうだなぁ。確か名前は─────」
「アマリア=ウェンデルです。どうぞよろしくお願いします」
ま、まじかよ......
The・貴族というような、上品な立ち振る舞い。
その姿はとても美しく、見とれてしまいそうなくらい良い雰囲気を纏っている。
パーティーの時は、他の人ばかり気にしていてあまり見ていなかったけれど、学生服とはいえ、こうして見てみるととても美しい。
綺麗な人だ。
「......それで?」
なぜこの学園に来たのか。と、休み時間になって、俺は質問した。
本当はもっと早く話したかったのだが、転校生がこんな美人だなんて、クラスメイトの男共が黙っちゃいない。
休み時間になった途端に、一斉に群がり出した。
まるで、夜の電灯に集まる蛾のように。
「あなたがいるなんて知らなかったんです。私、様々な学園に入学しては転校してを繰り返していたので、ここに来たのも別におかしくはありません」
なるほど。本当に偶然ということか。
「それにしても、なんて言うか......運命ですね。こうして再び出会えたことが......」
そう言って、アマリアは顔を赤らめた。
自分で言ってて恥ずかしくなったようだ。
「あー......まぁ、一人でも知り合いがいた方が馴染めるだろうし。良かったんじゃないか?」
「うぅ......」
知り合いと言っても、クラスメイトには嫌われているがな。
クラスメイトというか、この学園全体だな。
「そういえば、あなた。シルビオさんの護衛さんですね?」
「あ、はっ、はい!」
そうか。アマリアは直接会っては居ないが、護衛としてリーネを連れて行ったから、知っていてもおかしくないか。
ただ、リーネは外で待機して貰っていたので、中にいたアマリアがリーネを見たかは分からない。それに、外には他の貴族の護衛だっていたわけだし、リーネを護衛だとなぜ分かったんだ?
「護衛と言っても、クラスメイトだなんて......随分と信用出来るお友達なのね」
「お友達じゃない。家族だ」
一緒に暮らしている、家族。
そう、リーネは家族同然だ。
「家族......ね」
アマリアは、少し寂しそうな顔をした。
「アマリア?」
「ううん。なんでもない。ただ、ちょっと悩みがあるだけ」
悩みか。
知ってしまったからには、俺が解決してやろう。
あんな寂しそうな顔をしておいて、放っておく訳にはいかないだろう。
「悩みがあるなら、打ち明けた方がいい。その方が楽だ」
「......ええ、そうします。転校して来たばかりなのに、こんな生意気なこと言ってすみません」
「気にすんな。困った時はお互い様だ」
アマリアは、ニコッと笑った。
そして、悩みを打ち明ける。
「前に言った婚約者のことですが、実はお父様が勝手に決めてしまって......」
なるほどな。
割とよくあるパターンだ。大抵、貴族の子供は勝手に婚約相手を決められるものだ。
それは今まで、まるで伝統であるかのようにそうして来たというのもあるが、やはり、親の願望なのだろう。
より、金の多い所へ。
より、地位の高い所へ。
結局、自分の利益しか考えていないんだよな。いくら親とは言え、子供のことを第一に考えているとは、必ずしも言えるわけではないのだ。
俺の親も......同じようなものだ。
「納得いかない。と?」
「はい......」
アマリアは、また悲しげな表情をした。
「見た目は良いのですが、中身が少し厳しくて。私と意見が合わないと言いますか、優しさに欠けると言いますか......なんというか、運命を感じない人なんです」
「運命を、感じない......ね。なら、俺が婚約者になってやろう」
「え?」
「もちろん仮だがな。俺が代わりに婚約するふりをして、とりあえずそいつとの婚約を破棄させるんだ。そしたら新しい別の人でも探せばいいさ。それまで俺が、婚約者の席を守っておいてやるからよ」
俺は案を提示した。
この作戦には少々問題があるが、俺が思いつく限りではこれしかない。
果たしてアマリアの親が、俺のことを認めてくれるとは限らないがな。
だから、アマリアがこの作戦に乗るとは考えにくいが、一応案として出しておいた。
「本当ですか!?」
と、思ってたよりも食いついてきた。
「あぁ、いいだろう。ただ、俺は嫌われ者だ。お前の両親が許してくれるとは......」
「それなら問題ありません!財産と地位さえあれば、誰でも良いと思うような人達ですから」
そ、そうなのか。
本当に親か?その人達は。
全く娘のことを考えていないようだが......
「シルビオさんなら余裕で越えています。少し恥ずかしいですが、是非!その作戦で!」
「お、おう。分かった」
アマリアはとても嬉しそうだった。
なんだが、よく考えてみると恥ずかしいものだな。
嘘だとはいえ、結婚する事になるとは。
「それじゃあ、すぐにでも」
「もう実行するのか?」
「はい。相手側との面談は明日です。シルビオさんも来てもらいます」
早っ。
「大丈夫です。早速今から練習しましょう」
わりと大胆な子だな。
見た目は大人しめなのに、行動力はある人だ。
そういう所も、魅力的だな。
「本当に大丈夫か?」
俺は、少し心配になる。
しかしアマリアは、自信たっぷりに言った。
「私、騙すの得意ですから」




