強くなったな
「ゆるさない」
誰だ?
何とか首だけで振り向く。
すると、見覚えのあるような顔。だが、会ったことは無い。
誰かに似ているのだ。
「イルペの名にかけて、絶対にここで負ける訳にはいかないのだ!」
イルペ。
ということは、コイツが親玉か。
主力であったオーヴェインが倒されて、お怒りのようだな。
「フレデリックをやったのは、貴様だな」
「......そうだ。それがどうした」
「ふん。確かにあのフレデリックが目を付けただけはあるようだ」
今のところは戦闘能力を感じられない。
殺すならすぐに殺せば良いのに、そうしないということは理由があるはず。
時間稼ぎか、巧みな言葉遣いでの洗脳か。
「申し遅れたな、私はオーセリー=イルペ。フレデリックの父親だ」
「ッ!!」
「息子であるフレデリックは優秀だ。作戦開始の前に魔人化など、そんな愚行をするはずがない。だが、貴様に会って分かった。貴様は、邪魔者だ」
魔人化。やはり、あれは魔人化だったのか。
「お前......魔人化のことを知っているのか」
「もちろんだとも。なぜならあれは私が改造してやったからな」
「どういう事だ?」
「......どうせ死ぬのだ。教えてやろう。あれは私が魔人化出来るようにした、いわゆる人工の魔人だ」
オーセリーは、それ以上は近付かずに、ある程度俺との距離を保っていた。
どうやら俺を警戒しているようだ。
だが俺はもう動けないわけだし、その方が助かる。
「人工の......魔人?」
「そうだ。フレデリックの体を魔物と融合させ、変身後に絶大的なパワーを引き出せるようにした。はずだったのだがな」
「?」
「どうやら貴様に呆気なく負けたそうじゃないか。全く、残念な結果だ」
「なぜ俺を襲った。お前の目的はなんだ」
「......」
オーセリーは少し間を開ける。
答えなくない......のか。
「貴様を襲ったのは、フレデリックの独断専行だ。おそらく、貴様は私達の計画において邪魔者だと判断したのだろう。本来なら、この場で魔人化するはずだったのだがな」
「......」
なら、やはり王都に来たことが本当の目的というわけか。
俺ではなく、この王都にある何かが。
「私達の目的は──────
オーセリーが、話そうとした所で吹っ飛んだ。
横から何かが飛んできたのだ。
そう、リーネだ。リーネの蹴りが、見事に入ったのだ。
「リーネ!?」
「大丈夫ですか!?シルビオさん!」
オーセリーは、全く受身など取らず、力の方向にされるがまま流されて行った。
見る限り、やはり戦闘能力は皆無のようだった。
「ぐ......仲間がいたのか」
俺は、相変わらず地面に仰向けになっている。
ここでリーネが来てくれたのは、だいぶ助かった。
「おい、オーセリー。もうこんなことはやめろ」
「何も知らないくせに......口を出すんじゃない!」
オーセリーは、覚束無い足取りで立ち上がった。
「私は、ヴァレンティーノ=カール王に復讐をしに来た!!」
「!!」
ヴァレンティーノ王に復讐......?
なるほど、それが目的か。
「なら、復讐なんてバカバカしいことはやめろ!何されたかは知らないが、そんなことをしても何も解決しないことは分かる」
「抜かせ、貴様に何がわかると言うのだ!」
「ぐっ、リーネ!」
「はい!」
俺はまだ動けない。
やつのことはリーネに任せた。
リーネは、凄い速度でオーセリーに近づく。
そして、近距離で魔法を放つ。
氷系魔法の、アイスバインドだ。
そんな技まで使えるようになっていたのか。
「甘いな」
だが、それが仇となった。
近づいたのがまずかった。
「え!?」
オーセリーがニヤリと笑ったと思うと、リーネの腕は掴まれていた。
そしてグイッと引っ張られ、もっと近付いた体に、オーセリーの張り手が刺さった。
腹に食らう。
「カハッ」
リーネの力が、一瞬で抜ける。
そして、オーセリーはそのままリーネの腕を上に引っ張り、体を持ち上げる。
パッと離したかと思うと、今度は両手で頭を掴んだ。
「がッ!あぁああああああ!!!」
見ただけで分かる。
凄い力だ。
リーネが、両手を引き剥がそうとしているが、ビクともしない。
足で蹴ろうとしても、空を切るばかり。
「私の目を見ろ」
オーセリーは、赤い目を大きく見開く。
何か嫌な予感がする。
「リーネ!目を見るな!」
「私の目を見るんだ!」
リーネは、目を瞑ろうとするが、オーセリーが指で抑えて閉じられないようにする。
「あ、ああああ、ああ」
「君は魔物が嫌いだな?普通はそうだ。みんな嫌いだ」
「ああ、あ」
「憎んでいる。魔物は、殺したいほど憎んでいる。なら殺してしまえ」
「ああああああ」
「そうだ。そこにも魔物がいるぞ」
「......」
まずい。
非常にまずい。リーネが捕らわれた今、俺が奴を倒すしかない!
俺は、最後の力を振り絞って立ち上がる。
足が痛い。腕が痛い。疲れたし、頭もボーッとする。
だがそれでも立ち上がる。大丈夫だ。
たとえリーネを捕まえられたとしても、それは不意をついたからだ。
オーセリーの戦闘能力はさほど高くない。
なら、今の状態でも充分倒せるはずだ。
「やっつけてしまおうか。君の敵を」
俺が立ち上がって体制を整えたくらいに、リーネは開放された。
「リーネ!」
よし!これで二対一だ。なんとか勝てそうだ。
そう思った。
「行け」
だが違った。
「ッ!!がッ」
二対一の、一は俺の方だった。
リーネの蹴りが俺の腹に見事に刺さったのだ。
「な......ぜ......?」
「魔物。殺す」
俺は吹っ飛ぶ。
先程のオーセリーと同様に、数メートル転がった。
そして、何とかまた立ち上がる。
「リーネ、どうしたんだ!」
「魔物殺す」
「俺は魔物じゃない!」
しかし、リーネは俺に向かってくる。
一体どうしたと言うのだ。
まさか、オーセリーの洗脳か!?
「くっ」
今度は、蹴りではなかった。
リーネの短剣だ。
一撃目は辛うじて左腕で防ぐことが出来たが、その後の連撃は防ぎ切れなかった。
一発、二発、三発、四発。
傷は深くは無いものの、着実に俺にダメージを与えていった。
体術を教えたのは俺自身なのだが、それでもリーネは自分の力で強くなって来た。
そしていつの間にか......
「ソフトグランド」
固有魔法まで使えるようになっていた。
「何!?」
リーネは、剣を地面に突き刺す。
普通、ただの短剣が地面に刺さることは無いのだが、地面はまるで豆腐のように、豆腐に包丁を入れたように剣が入っていった。
「な......」
すると俺が踏みしめていた地面が、突然ぐにゃりと沈み、俺はバランスを崩した。
地面が、柔らかくなったのだ。
そうか......リーネ。
お前......
「強くなったな。リーネ」
俺は、リーネに笑ってやった。
笑顔で倒れていった。
もうこんなにも強くなっちまって、気が付かなかったよ。
俺が奴隷としてリーネを引き取った時から、戦闘の才能は知っていた。
だが、まさか固有魔法を使えるようになっているとはな。こんな形だが、知ることが出来て嬉しいよ。
もう、いつの間にか越してしまっていたのだな。
俺の前の、旧シルビオが育てたリーネは、固有魔法を使えなかった。
だが、俺のリーネは使える。
本当に、成長したな。リーネ。
地面に倒れた俺に、リーネの短剣が飛んでくる。
短剣は、俺の顔をかすって横に突き刺さった。
「......ビオさん」
「リーネ?」
「シルビオさん!」
「!!」
目が覚めたか!
リーネ。
「......!」
リーネは、周りを見て、今の状況を確認した。
「私、シルビオさんを......」
「いいんだ、気にするな。それよりも奴を倒すぞ。お前の固有魔法は、だいたい予想はついた」
「固有魔法?」
「なんだお前知らなかったのか?」
どうやら固有魔法が使えたのは何かの偶然らしい。
洗脳されているうちに成長するというのは、あまりいい気はしないが、それでも成長は成長だ。
「まぁ、そのうち感覚で分かるさ。とりあえず今は、目の前の敵に集中しろ」
「はい!」
「こうも簡単に洗脳を破られるとはな......私も初めての経験だ。だが、負ける訳にはいかないのだよ」
オーセリーはそう言うと、構えた。
戦闘能力が皆無だと言ったのは取り消そう。
あれはそう見せる手口だったわけだ。まんまと騙されてしまった。
なら、俺も手は抜かない。
「リーネ、行くぞ!」
「はい!シルビオさん!」




