決着
学園。
俺は、フレデリックの様子を見に行っていた。
「どうですか?フレデリックは」
「あぁ。相変わらず変わらずだよ。気を失っていて、起きる気配はまるで無い」
フレデリックは、ベッドで眠っている。
時々、少し苦しそうに唸ることがあるそうだ。
「しかし不思議なものでね。魔物だった形跡は少しも無いんだ」
「少しも、ない?」
「あぁ。残っているのは、お前にやられた傷だけでね。その傷も、そんなに深いものではないはずなのに」
俺が付けた傷。
「こんなにも起きないとは」
傷に関しては、動きを止める程度のダメージしか与えていないはずだ。
だから、恐らくこれは余波。
魔物化した後でも、その波はまだ治まりきっていない。
そんなところだろう。
「とにかく、未だ様子見だ」
「はい。よろしくお願いします」
フレデリックが起きたら、聞きたいこと、言いたいことは山ほどあるってのに。
昨夜、トレンツ=ラディチがイルペの協力者だと割れてから、ヴィオレッタに頼んで調べてもらった。
ヴィオレッタは、正直言って俺よりも貴族達との繋がりが強い。
だから、大抵のことは調べられるようだ。
その結果、やはりラディチのところで大金が動いたのが見られたらしい。
それと、もう一つ。大量の魔術師達と、食事をしているところが、何度か目撃されている。
ここから推測すると、ラディチは金で大量の魔術師達を雇い、ドラゴンを捕獲。
後にイルペに引渡して、洗脳という仕組みだろう。
だが、そんなに総力を上げてまで、オーヴェインを捕獲したのはなぜか?
ドラゴンなら、ハイテリトリーに行けばいくらでもいる。
オーヴェインでなくとも、もう少し弱いドラゴンなら中級魔術師数人でも捕獲できるはずだ。
ましてや、俺を潰す目的なら、ドラゴン一体でも倒せると予想するはず。
ということは、オーヴェインは必要だった?
なぜ?
オーヴェインでなければ、倒せないほどの強敵だったのか?
だとしたら......
「目的は俺じゃない......?」
もっと大きな......何か。
その時、轟音が響いた。
ドズンという重たい衝撃が、学園を揺らした。
「な、なんだ?」
地震......いやこれは
「風......!」
地面が揺れている訳では無い。
風により、校舎が揺れているのだ。
「きゃぁあ!何あれ!」
「すげぇ!!」
「......?」
なんだか廊下が騒がしい。
俺とリーネと先生は、生徒達が騒ぐ場所へ行った。するとそこには、衝撃的な景色が広がっていた。
「なんだ......これは......?」
ドラゴンの群れ。
一体や二体ではない。それも、数十体にも及ぶ数のドラゴンが、学園の上空を飛んでいる。
「ドラゴンだ!初めて見た!」
「すっげえええ!ドラゴンって群れになってるのか!」
生徒達は喜びで興奮して声を上げる。
焦っているのは俺と先生だけだ。
「......違う。ドラゴンが群れで行動するなんて......確かに群れで行動する種類もいるが、あれは違う」
「それも、群れにしては規模が大きすぎる」
ドラゴン達は、学園上空を通り過ぎて行き、全員同じ方向を目指して飛んで行った。
あっちの方角は確か......
「おい見ろ!!なんだあのデカいドラゴンは!!?」
「すっげえええ!!」
マジかよ......
俺は、目を疑った。
俺の左腕は、少し前に風龍オーヴェインから切り落としたものだ。
つまり、オーヴェインは左腕がない。
いや判断材料は、別にいらない。
そんなもの、見れば分かる。あれはどう見たって、
「風龍オーヴェイン......」
飛んでいた。
ドラゴンの群れの最後尾に、いや、オーヴェインの周りを囲うようにしてドラゴン達が飛んでいたのだ。オーヴェインの左腕は、やはり無く、包帯が巻かれていた。
「王都だ」
「?」
「ドラゴン達の向かう方角。あれは王都に違いない」
先生がそう言った。
やはり、そうなのか。
ドラゴン達、いや、イルペの真の目的は俺なんかではなく、王都。
そのために、あんな大量のドラゴンとオーヴェインを洗脳したというわけか。
「先生」
「?」
「俺達を、王都まで連れて行ってくれませんか?」
「.......ダメだ」
俺達は、今。馬車を持っていない。
先生は、王都に出張することも多く、馬車を学園に停めているのだ。
しかし、許可が降りないのは当然分かっていた。
ドラゴンの恐ろしさを知ってのことだろう。
「お前は、風龍オーヴェインのことを知っていたな。ならば分かるだろう?」
「はい。ですがそれ故に、オーヴェインを止めなければなりません」
「......」
「せめて、避難誘導だけでも」
「......分かった」
先生は、連れて行ってくれた。
避難誘導なんて、嘘も甚だしい。
が、成功した。王都に着きさえすれば、オーヴェインを少しでも止められるはず。
俺は、リーネと王都へ向かった。
王都は、街中ドラゴンだらけだった。
空中で上でぐるぐると回って飛んでいるドラゴンがいるのに、地面に降りて人を食らっている奴らもいた。
しかし王都側もやられているだけではなく、騎士達が何とかしてて対抗している。
だが、その抵抗も虚しく、ドラゴンの方が圧倒的だ。
「思ってたよりも苦戦しているようだな。おいオルナレン、早く市民を避難させ......って。いないじゃないか」
すみません先生。
俺は、闘わなくてはいけない。
早く思惑に気が付かなかった、俺の責任だ。
早く、オーヴェインが攻撃をする前に俺が相手をしないと。
リーネに、傍によってくる雑魚ドラゴンの相手を任せた。
リーネにはいつも雑用ばかり押し付けてしまって、済まない。だがそのおかげで、俺も存分に闘える。
「おぅらぁ!!」
オーヴェインの顔面に、蹴りを入れてやった。風を使って、ほぼ空を飛んでいるような状態に出来る。
だから、どんなに高く飛んだとしても、近距離まで上り詰めることが出来るのだ。
初手で倒せるとは思っていないが、先手は取らせてもらった。
「決着つけるぞ。オーヴェイン!!」
俺は、制服の上を脱ぎ、左腕に力を込める。
風を纏っただけで、左腕の包帯と手袋は破れてしまった。
「来い!」
「グオオオオオオオォ!!!」
オーヴェインは、俺のことを覚えているのか、怒るように吠えた。
そして、正面からその巨体で俺に向かってくる。
体の割には素早いタックルだったが、俺は難なくかわす。
風を感じる。
すかさず俺も風のアーマーを身に纏った。
「ぐっ!」
なんとか耐えれた。
バランスは崩してしまったが、オーヴェインの上に乗ることが出来た。
オーヴェインの風は、容赦なく俺を切り裂こうとしてくる。
だが俺も負けてはいない。
左腕を降る度に起こる風で、オーヴェインの体を斬った。
前は傷一つ付けられなかった鱗も、やっとダメージを与えることが出来た。
「まだまだァ!」
風と風のバトルなんて、目に見えないだけあって地味だ。
だから、派手さを足してやる。
「爆破属性付与!いい加減ぶっ倒れろぉぉおおお!!!」
手袋に爆破属性を付与し、風に乗せた。
それにより、俺の風に触れたオーヴェインの体は、あちこちで爆発が起こる。
まるで集中砲火を食らっている飛行要塞のようだ。
「うぉぉおおおおお!!!」
俺は、オーヴェインの身体中を駆け巡り、至る所に拳をぶち込んだり、手刀を食らわせたり、魔法を浴びせた。
途中、何度も風による攻撃をくらい、もう身体はボロボロだが、それ以上にオーヴェインにダメージを与えられている。
「うおおおお!!......はっ!」
「グァアアアア!」
別のドラゴンが、俺に向かって来た。
まずい。今攻撃されたら、避けられる自信はない。
だが、そんな危機はすぐに去った。
ドラゴンは、どこからともなく飛んできた魔法攻撃により、撃ち落とされた。
「リーネ!」
リーネは地面におり、声は届かないが、その意思は伝わった。
ナイスだ。
リーネのおかげで思う存分に闘える。
「一気に決めるぞ!!」
背中に登る。
頭は、体よりも硬い。だから、場所はここがいい。
この、背中から心臓にかけての場所が。
「硬質化、刺突強化、魔法防壁」
残った魔力で、ありったけの強化魔法を付与する。
「うぉぉおおおおお!!!!!」
突き刺す。
俺は、左腕をオーヴェインの背中に突き刺した。
これだけ付与すれば、さすがに肉まで届く。
「噴射!!」
風を噴射した。
一直線上に放たれた風は、オーヴェインの硬い肉でも貫通する。
まるでワスプナイフのように、左腕から発射された気体の膨張圧力で、破裂させる。
「これで終わりだ」
ズシャ。
オーヴェインの胸から、血が吹き出した。
貫通したのだ。
背中から心臓部を通り、そして体外へ。
腕を引き抜くと、向こう側に地面がよく見えるほどの穴が空いている。
「グァアアアアアアァアア!!!」
オーヴェインは、落ちた。
空を羽ばたいていた翼は、風を捉えることも出来なくなり、そのまま地面へと不時着した。
俺は、終始オーヴェインに捕まっていたので、一緒に不時着することになった。
もう体力も魔力も残されていない。
だが、なんとか王都は守れたようだ。
「──────────勝った」
俺は、勝利を噛み締める。
暇はなかった。
「まだだ、まだ終わっていない」
「ッ!!」
地面に大の字に倒れている俺に、少しづつ近付いてくる足音。
「お前は、絶対に許さない」
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