フレデリック=イルペ
家に帰ると、メイド達が迎えてくれた。
心配そうな顔をしていたが、俺達の無事を確認すると、安堵の息を漏らした。
それから、色々話して、すぐに寝た。
疲れたのか、寝不足だったのか、どちらにしろ素早い寝付きだった。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
そして今に至る。
「おは、よう......ございます」
ヴィオレッタとリーネはもちろん何ともないのだが、他のメイド達は俺の左腕をとても警戒している。
昨日のことがあったからだ。
何があったかと言うと──────────
「その、左腕は......どうしたんですか?」
一人のメイドが、恐る恐る聞いてきた。
「あぁ、これか。左腕を切り落とされたから、ドラゴンの左腕も切り落としてやって、それを付けた」
「???」
メイド達はみんな首をかしげた。
意味がわからんといった様子だ。
「まぁ、大丈夫だ。そう心配するな」
こんなに禍々しい腕で、心配するなと言うのはあまり信用出来ないと思うがな。
「これでも今は俺の左腕だ。暴走したりなんかしないさ。だから大丈夫だって」
俺は、近所のおばさんがやるように手招きするように、左手を上から下へと振り下ろした。手首だけでやったのだが、それだけでも少量の風が起こり、俺の前方下へと吹いた。
「きゃあぁあああ!!」
その風が、メイド達のスカートを一瞬でまくりあげた。
全員、一気に。
赤面している。俺のことを睨む子もいた。
「あー......悪い」
──────────というようなことがあったわけだ。
「はぁ......」
「そう気を落とさないで下さい。そのうち完全にコントロール出来るようになるはずです」
ヴィオレッタはそう言うが、そんな簡単ではないと思う。
今でも、力が溢れ出て仕方ないのだ。
「とにかく今日は学園です。早く朝ごはんを召し上がってください。リーネも」
「はーい」
「あぁ、分かっている。だが、こんな左腕で学園に行って大丈夫か?また気味悪がられて嫌われるぞ」
「そうですね......」
ヴィオレッタは少し考えると、どこかに行ってしまった。
そしてすぐに帰って来た。
何かを持ってきてくれたようだ。
「とりあえず包帯を巻いておきましょう。制服を着るので、体中の傷はほぼ隠れますし、長袖なので腕も目立たないはずです」
しかし、右腕とサイズが違うのは分かってしまう。あきらかに筋肉質だ。
「手首から先は手袋でもするか」
「それがいいです。右手も手袋をしておきましょう」
そうだな。
片手だと、また疑われる要因になるだろうし。
不自然だからな。
「これで大丈夫なはずです」
「あぁ、ありがとう」
俺とリーネは、朝食を食べ終えると、元気に学園へと向かった。
リーネもヴィオレッタも、前とは少し変わった。
ヴィオレッタは、時々だが笑顔を見せるようになり、リーネはオドオドしていたのがあまり見られなくなった。
「シルビオさん」
「ん?」
「フレデリックさんに会ったら、どうするんですか?」
「あー......」
忘れるわけがない。
俺達をテリトリーに閉じ込めた張本人。
フレデリック=イルペ。
ずっと友達だと思っていたのに、見事に裏切ったやつだ。
だから、許さない。
俺の気持ちを踏みにじり、リーネとヴィオレッタを危険に晒したお返しだ。
学園。
門をくぐる。
もうチラホラと登校している人が見えるが、全員が全員、俺に注目をする。
久しぶりの学園だからな。無理もない。
どうせ「うわ、来たのかよ」「ずっと休みなら良かったのに」「一生来るな」などと思っていることだろう。
目がそう言っている。
だが、そんなことにもお構い無しになるほどに、そんなちっぽけないつもの事が気にならなくなるくらいに、俺は怒っている。
「フレデリック!!」
教室へ着くやいなや、その名前を呼んだ。
「お!シルビオ!!良かったぁ、もう来ないかと思ってたよ!」
フレデリックは明るい笑顔で喜んでいる。
様子を振る舞う。
「もういい。その笑顔はいらない」
「......」
「隠さなくてもいい。もう知っているからな。お前が、俺達をテリトリーに閉じ込めたんだろ?」
「......なんの話かな?」
「もう来ないかと思ってただって?そりゃあそう思うよなぁ、お前がそう仕向けたからな」
「......」
フレデリックは、あくまで笑顔を絶やさない。
まだ、俺がカマをかけているだけだと思っているのか、それともクラスメイトには知られたくないのか。
どちらにせよ、とぼけているのは確かだ。
一度、嘘をついていると分かってしまえば、案外見抜けるものだ。
「答えろ!フレデリック=イルペ!!」
「......くく」
「......?」
「バレちゃあ仕方が無いね」
フレデリックは、ゆっくりと両手を上げた。
降参。という事なのだろう。
「お手上げだよ」
ドガッ。
と、俺はフレデリックの顔面に拳を食らわせた。
右手だから大丈夫だ。
しかし、それでも一応思いっきり殴ったので、威力はある。
フレデリックは、後ろにガタンと倒れてしまった。
「おいおい、手荒だな」
「リーネとヴィオレッタを危険に晒したお返しだ」
「へぇ......」
フレデリックは、もう笑ってはいない。
静かにキレている。
だいたい悪役っていうのは、叫んでキレると思うのだが、フレデリックは静かに、ただ真っ直ぐ俺だけを睨みつけている。
至って冷静だ。
まるで、まだ何かを隠し持っているような。
余裕がありそうな態度。
「お返しならそっちを返して欲しかったんだけどね」
フレデリックは、俺の左腕を指さす。
やはりそうか。
あのオーヴェインを操っていた術者はすぐ側にいて、俺達を監視していたのだ。
だから、俺の左腕がオーヴェインのものになったのも報告済みってわけだ。
「あーあ。どうせバレるなら見に行きたかったぜ。わざわざこんな退屈な学園で大人しく待ってるよりもよォ」
フレデリックはゆっくりと立ち上がる。
「せっかく父上に貰ったドラゴンなのに......お前ごときに壊されるなんて......」
父上だって?フレデリックの父親が関係しているのか。
「もうお前、殺すよ。最初は仲間に入れてやろうかと思ってたのによォ......改心なんかしちまってよ」
仲間?まだ他にも仲間がいるってことか?
なんだか、思ってたよりも大きな組織のようだ。
これはまた、大イベントだ。
「......殺す。殺す、殺す、殺す、殺す!!ぶっころぉおおおおす!!」
フレデリックは、怒り狂った。
さっきまでの冷静さはどこへ行ったのやら。
しかし、何やら苦しんでいるようだ。
「ぐ、ぐぐぐ......お前ごとき......俺一人で充分だ!」
なんだか、フレデリックの筋肉量が増えた気がする。
しかも黒いオーラを身にまとっている。
これは......なんだ?
「ひっ!?」
「リーネ?」
リーネがなぜか怖がっている。
あのドラゴンを見ておいて、これしきのことで怖がるとは思えない。
何か、トラウマのようなものを思い出したか?
仕方ない。俺が闘うしかないか。
左腕を無闇に使って校舎をぶっ壊しでもしたら大変だから、リーネに任せようと思っていたのだが、リーネがこの調子じゃあ俺がやるしかないようだ。
「ぐあああ!!」
フレデリックの筋肉は一瞬で膨張し、体つきが変わった。
血管は浮き出ていて、苦しいのか、唾液が口から流れ出ている。
目は赤く充血しており、その姿はもはや人間ではない。
それは.....
「まるで魔物だな」
フレデリックはまた咆哮した。
そして教室の壁を叩く。
俺が壊すまでもなく、教室の壁は一瞬にして崩壊した。
廊下から丸見えだ。恥ずかしい。
「イルペは、個人での戦闘向きでは無いと聞いてたんだがな......どうやらそうでも無さそうだな」
どういうわけか、パワーアップしているようだ。
俺はまだ左腕のコントロールが完璧ではないし、加減が難しいんだ。
だから─────
「ちょっと痛いかもな」
フレデリックが仕掛けてくる前に、俺から飛びかかった。
俺は、空中で左手を横に振る。
手袋は外さない。この技なら別に隠しながらでも使えるはずだ。
一閃。
横一線に、風が空を斬った。
「あがっ」
それと同時に、フレデリックも斬れた。
殺す気は無いので、身体の表面だけを削る。
思ってたよりも深く斬ってしまったが、まぁ大丈夫か。
フレデリックは、大きな音と砂煙を立てて倒れた。
え?
「だ、大丈夫か?フレデリック」
まさか一撃でダウンとは......
周りのみんなは、口をポカーンと開けている。
リーネも、怯えの前に驚きが来ているようだ。
「えぇと......」
パワーアップは?




