左腕
俺は、落ちていた俺の腕よりも、オーヴェインの腕を拾った。
拾ったというか、俺の腕をくっつけただけだ。
大木よりも太く、とても大きなその傷口に、俺の腕の傷口をくっつける。
頭がイカれてるって思うかもしれない。だが、俺には出来るってことが分かるんだ。
俺は、くっつけることが得意だしな。
なぜなら......
「付与魔法使いだからな」
俺は、思いっきり腕をぶち込んだ。
痛い。とても痛い。
傷をぶつけているんだ。そりゃあ痛いさ。
クソ、今更になって背中の痛みが来やがった。だが俺は止まらない。
もう誰にも止められることは出来ない。
「それにしても本当に大きい腕だ」
前回、俺は蛇の毒を自らに付与した。
まるで魔法かのように。自分自身の能力にしたのだ。
それで知った。
付与魔法は、魔法以外も付与することが出来ると。
名前も、魔法付与ではなく、付与魔法だしな。
「魔法、属性、相手の攻撃......結構なものを刻み込んできたが、今度はこれでどうだ」
肉体。
ドラゴンの、オーヴェインの切り離された腕を、物理的に俺の体にくっ付けるのだ。
付け与える。
オーヴェインの腕を、俺の体に付けて与えるのだ。
「ぐうううおおおおお!!!!!!」
今までにないほどの苦しみ。痛みが襲ってくる。
魔力量が違うからだ。
オーヴェインの持っている魔力情報を、全て俺に刻み込む。
移植。
そして、腕そのものの形を再構築。
合わなかったサイズを調整。
「ぐあああああああああ!!!!!」
──────────付与完了
「シ、シルビオ......さん?」
「あれは......何!?」
オーヴェインの腕を、付与した。
「これで左腕は元通りだ。......いや、元通り以上だ」
ちょっと前よりも筋肉質になってしまったが、まぁそのくらいならいいだろう。
あのサイズを俺に合わせるので精一杯だったからな。
それよりも、この溢れ出そうなくらい膨大な魔力量。これがドラゴンの腕か。
文字通り、手に余る力だ。
「さぁ、第二ラウンドだ」
「グァァオオオオオオオオオ!!!!!」
怒ってる怒ってる。
闘いにおいて、冷静さは必須だ。
怒りに任せても、何も解決しない。
だから、もう勝敗は見えている。
「この闘い、俺の勝ちだ」
風が舞う。
強風だ。
まわりの砂ぼこりを巻き込み、実体化して見えるほどに。
「お前に良いものを貰ったからな」
俺は、左手を構える。
「せっかくだから、使わせてもらうぜ」
左腕を振り払った。
すると、それだけで風は全て消し飛び、消え去った。
普通なら避けても避けきれず、体がバラバラになっていた。
しかし、こうして避けるまでも無く、むしろ打ち消すことが出来るのは、この左腕を付与したからだ。
「すぐにケリを付けよう」
再び左腕で、払うようにして空を切る。
すると今度は体を風が包み込んだ。
体の周りをグルグルと回転するように。
これは、オーヴェインの風じゃあない。俺の風だ。
俺が巻き起こした風だ。
そしてそれを全身に纏い、また思いっきり地面を蹴る。ハイジャンプだ。
今度は、爆風の力ではない。風は風でも、純粋な風。
「まだ少しおぼつかないが、空を飛べている!」
こうして風を纏うことによって、発生させた上昇気流に乗り、宙へと浮く。
爆風よりも自由がきくし、負担も少ない技だ。
そしてその技で、高速で移動し、あっという間に頭部付近まで登り詰めた。
「くらえ......」
俺は、魔法を食らわせてやろうと構えたが、その瞬間、目の前に少し大きめの光の玉が出現した。
いや、これは下からだ。下の方から現れた。
そしてビカッと、玉は強く光り、俺の目は眩んだ。
「くっ!なんだ!?」
フラッシュか。
それも高威力。
俺だけでなく、オーヴェインまで目を閉じている。
ようだ。そうでなければ俺は今頃殺されている。
「ここは一旦退くぞ!!」
誰かの声がした。
大声で叫んでいるようだ。しかし、それは俺に対してではなく、オーヴェインに対してのように聞こえた。
一体誰だ?
「ぐ、うおおおっ!?」
突如、凄まじい暴風が吹き荒れる。
俺は空中から振り落とされ、またもや地面に叩きつけられる。しかし、前とは違って今度は風のクッションを作り、ダメージを軽減することが出来た。
「な、何者だ!」
「......」
答えは貰えなかった。
そして、バサバサと翼を羽ばたかせる音だけが聞こえた。
なるほど、あの巨体で逃げるというのか。
「逃がさ......ねぇ!クソ!!」
いくら踏ん張っても、風圧に押し潰される。
羽ばたく際に発生する風に押されているのだ。
そして、俺が自由に動けるようになった頃には、もうそこにオーヴェインの姿は無かった。
と同時に、霧も晴れて視界が良くなった。
まるで台風が去った後みたいな、そんな雰囲気。
「シルビオさん!!」
「シルビオ様!!」
「俺は大丈夫だ」
「大丈夫じゃないです!」
ヴィオレッタ......
「どれだけ心配させるのですか!無茶なことをして......」
「......すまない」
「でも......」
ヴィオレッタは、飛びついてきた。
女性に抱きつかれた経験なんて、俺が覚えている限りでは無い。
それも、好意でのものは特にだ。
「良かった......本当に、生きててくださって」
「ヴィオレッタ......」
目には涙を浮かべている。
するとそれを見たリーネも、頬を膨らませたと思うと、走って跳んできた。
「シルビオさんっ!」
「うぉっ!?」
リーネも抱き着いた。
なんだこの状況。
「あの、私、上手く言えませんが、ありがとうございました!」
「......おう」
嬉しくなってしまった。
俺は、自然と笑顔が出てきた。
それを見て、またヴィオレッタは驚く。
「ちゃんと、笑えるのですね」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ、そんな風に表情出せるならその方がいいぞ」
しまった!今のは失言だった。
ヴィオレッタから笑顔を奪ったのは俺なのに......なんてことを。
自覚無しにも程がある。そう思って後悔したのだが、
「いえ......その......」
「ん?」
「なんだか、恥ずかしいです......」
どうやらあまり気にしているようではなかった。
恥ずかしいだけか。可愛いもんだ。
「リーネも、よく頑張ってくれた」
「はい!」
「でも、二度と俺を庇って囮になんてなったりするんじゃねぇぞ?確かに俺も頼んでしまったが、足が怪我してるなら闘いに参加するんじゃあない」
「はい......」
「......まぁ、それでもありがとうな」
表情が暗くなったかと思ったら、褒めた瞬間また明るくなった。
落差が激しいな。情緒不安定か?
「シルビオ。あれは出口ではありませんか?」
「なにィ!?」
「行きましょう!行きましょう!」
やっとここから出られるってことか。
思えば、数日だけの事だったが、随分と長く感じたな。
俺達も強くなったし、悪い経験ではあったが、無駄ではなかった。
「よし。それじゃあ、帰るぞ」
俺達はテリトリーを出た。
まぁ、出たと言ってもミディアムテリトリーなんだけどな。
つまり、まだローテリトリー。
ミディアムテリトリーも結構歩いたが、その前にローテリトリーを最奥まで言ってしまったからな。
というか、来た道を引き返すしかないのか......まだまだ先は長い。
だが、霧も晴れて辺りがとても見渡しやすいし、魔物も俺の左腕を恐れて、襲ってこない。
オーラか何かを感じ取れるのか、ローテリトリーでは全く姿を見せることがない。
だから俺達はこうして、堂々と歩きながらドラゴンについての考察を述べることが出来るのだ。
「ドラゴンは、自分の意思ではミディアムテリトリーなんかに来ない、いや、入れないはずです」
前に俺とリーネがローテリトリーで見た時も、今回のミディアムテリトリーでも、普通ならいるはずがない魔物、ドラゴン。
確かにその通りだ。そうでなくては、テリトリーの意味をなさない。
「それに、なぜ私達をわざわざ閉じ込めるようなことをしたのか」
そうなると、ドラゴンは俺達の存在を知っているということになる。そんなに頭のいい魔物では無いはずなのにだ。
「ダメ押しにもう一つ言うのなら、オーヴェインはあのような魔法を持っておりません」
あの、霧を出す魔法。
オーヴェインは風を操るドラゴンだ。
霧ではない。
「もうここまでこれば、さすがに答えは出ます」
「そうだな」
答えは一つだ。
「裏で操っていた奴がいる」
という事だな。
それも、俺達を知っている奴が。
「どう考えても、意図的に私達を閉じ込めたとしか思えません。それがなんのためかは分かりませんが、わざわざドラゴンをミディアムテリトリーに持って来てまでやっていることです」
「ドラゴンに霧を使わせたのは......まぁ、魔力量の関係とかで、広範囲にばら撒くならドラゴンを通して使うのが良いからとかだろう」
ドラゴンをも手懐ける魔法士......か。
そんなやつ、ゲームにいたかな。
まぁ、そもそも俺がここにいるって時点で、俺の知っているストーリーとはかけ離れているわけだからな。
もうゲームは当てにならん。
「そうなると......イルペ、ですかね」
イルペ?
イルペ......イルペ......なんか聞いたことあるな。
「あ、フレデリックが確かイルペだったな」
「フレデリック?」
「そうそう。俺のクラスの唯一の友達、フレデリック=イルペ」
「そ、それは......本当ですか!?」
な、なんだ?
ヴィオレッタは、いつになく焦った様子だ。
焦って、驚いている。
「イルペとは、代々伝わるビーストテイマーの家系で、動物を操って魔物を倒すという変わったやつです」
でもフレデリックは特にそういった能力は使っていなかったけどな。
使っていなかったってだけで、持ってはいたのか。
「しかしそれは表向き。本当はビーストテイマーなんかではありません」
「どういうことだ?」
「イルペの家系は、『欺族』と呼ばれており、その名の通り、欺いたり騙すのが得意です。それを最高まで極めたのが、いわゆる『洗脳』というものです」
洗脳。
騙すのを極めたものは、もはや洗脳ということか。
確かに、うまい具合に騙されて好き勝手操られるのは、洗脳と言っても過言ではない。
「ん?ということは......」
「はい。シルビオ様もおそらくは......」
......それ以上は何も言わなかった。
まさか、俺が騙されていた......のか。
「ドラゴンを直接操っていたのは、そのフレデリックという人では無いでしょうが、シルビオ様に何らかの恨み、または、その他の攻撃的な感情を抱いているのには違いないでしょう」
そうか、そうだったのか。
フレデリック......お前、俺を騙していたのか?
「とにかく、それも帰ってからですね」
「あぁ。だが、おそらくその見解で間違いないだろう。それなら納得がいくし、何より、俺にフレデリックが近付いてきた理由も分かる」
友達だと信じていたのに。
唯一、俺に話しかけてくれる。俺とちゃんと向き合って、接してくれると思っていたのに。
裏切ってくれたな。
俺は、疲れと怒りを携えて、家まで歩いて帰るのだった。
「帰ったら覚えていろよ......フレデリック=イルペ!!」




