風龍オーヴェイン 2
俺としたことが、弱気になってしまっていた。
たかが腕の一本や二本くらいくれてやる。
それよりも、リーネやヴィオレッタを失う方がもっと嫌だ。
「どうせ死ぬのは分かっている。なら、死ぬまで抵抗してやる」
属性付与、爆破属性。
魔法付与、打硬質化。斬硬質化。
ダメージカット、五十パーセント。
付かられるだけ魔法を付けてやる。
使えるだけ強化魔法を使ってやる。
「全力で行くぞ」
オーヴェインは、少しだけ口を開いた。
すると、口から強い風が吹き出す。
俺は本能的に、察して、その場を大きく離れた。
数秒後には、俺のいた所はもうズタズタに切り裂かれており、地面も抉られていた。
「あっぶねぇ」
だが、やつの打開策が分かったかもしれない。
攻撃までのワンモーションで、攻撃を出すまでが遅い。それがおそらく、オーヴェインの弱点。
しかし強点としては、距離も範囲もお構い無しだというところかな。
「なら、動き回ればいい」
常に爆破を続けろ。
精密さなんていらない。
俺を捉えたその時には、もうその場にいなければいいんだ。
「爆破ァ!」
思いっきり地面を蹴る。
今回は靴にも属性付与をしてある。
全部で三方向、片腕が無い分を補ってもらう。
右へ左へと、ジグザグに移動しながら距離を詰めた。
「おりゃああ!!」
オーヴェインの足に、爆破を食らわせる。
だが、効いている様子は全くない。
足にも、怪我ひとつすら付いていない。
「まぁ、効かないのは分かってたよ」
靴の付与を上書き。
火属性付与。
地面を蹴り出す時は爆破、空中では火を放ち、移動することが出来る。
やはり、片手ではバランスを取れないからだ。
「俺の攻撃は効かないんだよな」
なら、俺よりもっともっと強い攻撃ならどうだ?
「ヴィオレッタ!」
「分かっております」
完全にヘイトは俺に向いていた。
だから、ヴィオレッタが近づいている事に気付いていなかったようだ。
俺とヴィオレッタ、そして......
「リーネ!」
「はいっ!」
三人で一度に攻撃すれば!
「うおおおお!!!」
フレイムアッシュ。
足から出る炎に、爆発を交ぜた蹴りだ。
ガイィイインっと、金属のような音が反響する。
マジかよ......これでも傷一つ付かないなんて......!
「ッ!」
風。
また来る!
「避けろ!二人とも!!」
一気に分散し、それぞれ回避に出た。
ギリギリでかわせたが、これじゃあいつまでたってもダメージを与えられない。
「......なら、もっと威力のある攻撃でやるしかない」
「しかし、そんな魔法使えるのですか?」
「俺のじゃない」
さっきからやってきてるじゃないか。
よく味わっているじゃないか。
「オーヴェイン自身の魔法だ」
やつの攻撃を利用し、やつ自身に当てる。
それしか方法は無い。
「そんな、無茶です」
「そうだな。無茶かもしれない。だが、それしか無いんだ。お前らは下がっていろ」
俺一人で行く。
こんな無茶に、二人を巻き込むことは無い。
「......よし!」
地面を蹴りあげ、思いっきり上へ跳ぶ。
目指すところはオーヴェインの顔。
体じゃ、鱗が邪魔だ。
「うおっ!?と、あっぶねぇ」
何度も風の攻撃が飛んでくる。
オーヴェインは微動だにしていないところから推測するに、やはり風は遠隔操作なのだろう。魔力か何かで動かしている。
物理的接触は見られない。
「なら、ミスがあってもおかしくないよなァ!!」
ついに顔まで、なんとかたどり着いた。
顔面なら、穴が沢山ある。
俺は、顎を殴ると同時に、爆風に毒を混ぜた。
「グッ......」
オーヴェインの声が、少しだけ漏れた気がした。
毒はすぐさま吸い込まれていき、そして身体中に回る。
はずなのだが......
「全く苦しみもしないな......毒もダメか?」
即効性だったのだが、どうやら効いていない様子だ。
しかし、これで爆風の目くらましが出来た。
それに、なんとかここまで登ってきた甲斐があった。ここなら、尻尾での攻撃を食らわずに済む。
と、爆風がいきなり二つに割れた。
「うぉっ!?」
風で切ったのだ。
「完全に怒ってるな......」
息が荒い。
それに周りに吹く風も、少し勢いが強くなっている気がする。
「かかって来いよ」
俺は、まるでアメコミのヒーローのように、足から炎を出して空を飛ぶ。
厳密には、空を飛んでいるというより跳んでいるという方が近いのだが、まぁ見た目は完全に空中にいるので間違ってはいない。
残された右腕で方向を変え、右へ左へと攻撃をかわしていく。
オーヴェインの体中を駆け回り、何とかして風を避けていった。
風は見えない。故に、ギリギリで交わすことができないのだ。
そのため、回避モーションが大袈裟になってしまうが、一度でも食らえば、また俺の四肢は切り刻まれてしまう。
それだけは避けたい。
いわば、命知らずのデスゲームだ。
そして......
「......ッ!」
ついに当たった。
横腹をかすめる。
血はドバドバと流れ出て、一瞬にして服が赤く染った。
「やられちまったか......だが、これでいい」
これがいい。
今のを避けられていたら、逆に駄目だったかもしれない。
それがいい、その角度。その威力。
まさに俺が欲しかったやつだ。
「なぁ、オーヴェインよぉ」
俺は、オーヴェインの肩に乗る。
これだけ近いと、顔全体が見えないほどの大きさだ。
「どんな気分だ?」
俺は後ろを振り返って、肩から下を見る。
オーヴェインにとっての左腕は、無くなっていた。
「腕を切られる気分は」
大きな音。まるで地震でも起こったかのような轟音。
腕が地面に落ちたのだ。
ついに、ついにだ。
ついにダメージを与えることが出来た。それも大ダメージ。
あまりの痛さにか、悔しさにかは分からないが、オーヴェインは低い声で大きく鳴く。
重くのしかかるような、ズッシリとした咆哮だ。
「左腕......これでおそろいだな。嬉しいぜ」
傷口からは、赤黒い血がドバドバと流れ出ている。
それは俺の腕よりも、腹の傷よりも大量に。
「毒......かな。毒の効果が今来たってわけだ」
さすがに死ぬまでとはいかなかったが、少し目をくらませるくらいの効果はあったようだ。
まさか自分の攻撃で自分を傷つけるわけがあるまい。
「作戦......というより、どちらかというとドジ踏んだな。お前が勝手にミスってくれたおかげだ」
しかし、たかが腕一本。
同じことを二度もしてくれるとは思えないし、オーヴェインは何も腕を使った攻撃をしてくるわけでもない。
「へへ......だが、まだまだこれかr──────────
まただ。
また気を抜いた瞬間にこれだ。
今度は反対側の手にやられた。
尻尾よりも衝撃は強い。気がする。
俺は呆気なく肩から叩き落とされ、地面にクレーターを作ってしまった。
「────────がはッ」
「シルビオさぁあああん!!!」
今度こそ、吐血した。
血......まだ残っていたのか。
腹を切られた時に、もうほとんど出尽くしたと思ってたぜ。
「グルルルルルゥ」
トドメと言わんばかりに、オーヴェインは顔を近付けてくる。
地面で大の字に寝ている俺に、森の木々よりも高い所にあったその頭を、降ろして近付けてくる。
口を開く。すると、それだけで暴風が俺を押し潰す。
地面に風で押し潰され、俺はもう動けないでいた。
そんなことをしなくとも、動けやしないが。
「............いいやまだだ」
まだ行ける。
俺は死んでいない。
死ぬまで、死なない。なら、まだ動ける。
闘える!
「アイシンクル・ソード!!」
魔法。
俺の目に、小さな少女の姿が映し出された。
リーネだ。
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
剣に炎を纏わす、単純な魔法。
それで、あの上級の魔物に向かって突撃をした。
普通なら自殺行為だ。誰もやらない。
しかし、偶然。いや、俺のことに夢中になっていたオーヴェインは、またもやリーネの姿なんて眼中に無かった。
だから、
「眼、中、に......入れ!!」
その、炎を纏った剣を、目に突き刺したのだ。
目は、どの魔物でも弱点となっている。それは人間も同じだ。
目のある生き物は、そのほとんどが目を守る術を持っていない。強いて言うなら瞼だろうが、それも不意打ちとなれば防ぎようがない。
リーネの勇気ある行動と、冴えた発想によって、俺は風の圧から開放された。
その隙にその場を離れる。
「だァ!ナイスだ!リーネ!!」
「はい!!う、わぁっ!」
剣は目に刺さったままだったので、オーヴェインが顔を上げると同時にリーネも持っていかれてしまった。
「リーネ!手を離せ!」
「は、はい!」
リーネは剣を手から離し、落下する。
それを俺は、なんとか片手で受け止めた。
もう身体中ズタボロだってのに、無理させやがって。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい。それよりさっさと離れてろ。奴のヘイトは、今完全にお前に向かった。死ぬぞ」
これは脅しでも何でもない。事実だ。
目を攻撃されて、怒らないやつがどこにいるのだろうか。
それは魔物も同じ。
オーヴェインは、瞬きで剣を折り、咆哮する。
「さぁ、第二ラウンドといこうか」




