魔法身体付与
「 ん?シルビオとリーネは?」
「あぁ、あの二人ならしばらくはお休みらしいよ。しばらく来れないのかな?
もしかして、魔物と戦いに行ったらテリトリーに閉じ込められて、出られなくなったとかあったりして」
「まさかな、ははっ。いくらなんでもそれは無いよ。フレデリックは突拍子も無いことを言うね」
「さて、どうかな」
リーネは、もっと小さい頃に両親を亡くした。
理由は、魔物の暴走だ。
普段、魔物は危険なため、どこか山などの街から離れている場所に生息している。
逆に言えば、人間が魔物から遠ざかった場所に街を作ったのだが、そうすることによって接触を逃れることが出来た。
そして人間は、魔物の生息地を『テリトリー』と名付け、人間の住む場所から隔離した。
はずだった。
なのに、リーネの住んでいた街は突如、魔物に押し寄せて来られたのだ。
「普段は大人しいはずの、ペット用魔物も、なぜか暴れていました」
そして、野生の魔物達は見事に街を一つ壊滅させてしまった。
どの街にも必ず騎士はいる。それなのに、魔物を捌ききれなかった。
その理由としては、量だ。
「とにかく量が多かったのです。至る所に魔物、魔物、魔物。下級だけならまだしも、中級も数体見えました」
そして全滅。壊滅。絶滅だ。
街ひとつが、まるで地獄と化した瞬間だった。
それは本当に一瞬で、親が殺されて悲しむことにも気を配れないほど、切羽詰まっていたようだ。
「私は、逃げました。ただひたすら、生き残ることに必死で。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げました」
気付けば、ただ一人。
リーネだけが、あの街で生き残っていた。
幸運だったのだ。
「それからはもう、お察しの通りです。逃げた先では何も持っておらず、宿も無ければお金も無い。一文無しです」
そこで拾われたのが、あの商人というわけか。
「......」
「......すみません。重い空気にしてしまいました」
「元気を出させたいのなら、もっと明るい話題にしろよ」
「元気?何の話です?」
「......」
考えも無しに質問したのか。
それはまた、随分と酷いことをしたな。
「ヴィオレッタさんはどうなんですか?なぜメイドに?」
と、今度はリーネが質問をした。
そういえば、ヴィオレッタがメイドになった理由をまだちゃんと聞いてなかったな。
ゲームでも語られなかったし、これは実に興味深い話だ。
「私は──────」
「ッ!魔物です!!」
ヴィオレッタの話を遮り、リーネが叫んだ。
まさか、会話をしながら索敵魔法を使っていたのか!?
なかなか随分と、成長してきているな。
と、喜ぶのは後にするとして、魔物の対処をしよう。
襲ってきた魔物は、今度は蛇の形をしていた。
大蛇だ。
「マダラスネークか」
狼と違って、蛇のタイプは群れを作らない。
と言っても二、三匹はいるな。「匹」と数えられるほど小さい感じはせず、どちらかというと「体」の方だ。つまり体長が四、五メートルはあるということ。
「デカイな」
首に巻き付けるどころの話では無い。
もはや全身グルグル巻にされてしまうほどだ。
もしそんな事があれば、たまったもんじゃない。
一瞬にして骨は砕け散るだろう。
「だが、さっき付与した魔法がまだ残っている」
そう、付与魔法は半永久的に持続させる事が出来る。
まだ未だに、俺の拳には爆破属性が付いている。
俺は地面を殴り、その爆風で空中へと飛び出した。
脚を噛まれでもしたら、毒が入ってしまう。
それにこの蛇は、俺がいた世界の蛇と同様に、体が巨体だとしても素早い攻撃を繰り出すことが出来る。
とてもじゃないが、三体からの攻撃を全てかわすことは厳しい。
まぁ、だからと言って空中に出ることは正しい判断とは言い難い。
特に、コイツら相手には。
「シャアァアア!!」
蛇は、涎を撒き散らしながら大きく口を開けた。
そして俺へと真っ先に飛びかかってくる。
伸ばしたのだ。
空中にいる俺に向かって、頭を伸ばす。
一直線に。それでも届いてしまう距離だ。
空中は身動きが取れない。避けようがない。
俺じゃなければな。
「ふん!」
握り拳を作る。そして、デコピンのように一気に全ての指を弾く。力を込めてパーを出すんだ。
すると爆発が起き、その爆風で俺は空中を移動し、蛇の攻撃をかわした。
爆破属性は、衝撃を加えると起爆する仕組みになっている。
このように、片手で爆発を起こして、空中を移動することだって出来る。
ただ、これは移動するってだけで、精密性が無い。だから、移動したい方向にしっかりと飛べるわけではないのだ。悪魔でその場を離れるってだけだ。
「だが、両手を駆使して、何度も放てば......」
避けながら近づく事くらい出来る。
「スラッシュカット!」
右足が光に包まれる。
そして、足の裏から剣のように魔力の塊が伸びる。
「うぉりゃあ!」
ザシュッと、蛇の胴体を真っ二つにした。
まさか切断出来るとは思っていなかった。
マダラスネークの皮膚はとても分厚く、刃も通らないと聞いていた。
せいぜい傷を付ける程度だと思っていたが......やはり下級魔物なだけあって、そこまで強くはないのか。
「とりあえず一体」
「シルビオさん!もう一体そちらにっ!」
「まかせろ」
もう一度スラッシュカットをお見舞いして......
「ッ!?」
先程切った蛇の体が、いつの間にか俺の足元にまで近付いていた。
俺は、一応警戒して切った死体から離れていたのだが、明らかに近付いている。
だが気付くのが遅かった。
俺の足には、死体のはずの蛇が食らいついていた。
「ぐっ!」
牙が皮膚にめり込む。
痛い、痛すぎて痛い。熱い。とても熱い。
しかし、それよりもまずい。
この蛇は牙から毒を送り込む。そして今、俺の足に牙が刺さっているという事は、毒がもう体内へ侵入しているということだ。
「クソォオオ!!」
咄嗟に、食らいついていた蛇の頭を振り払ったが、もう遅い。すでに毒は身体を回り始めている。
落ち着け、落ち着くんだ。
ここは異世界。魔法が存在する。
血清が無くとも、魔法で何とかなるはずだ。
「シャアァ!!」
もう一体など気にしている場合じゃない。
邪魔だ。
「バーニングフレア!」
高速で向かって来た蛇を、炎で迎え撃つ。
焦っていたので、威力のこととか考えていなかったが、何とか蛇は燃えてくれた。
火系の魔法は、森を焼いてしまう可能性があったので控えていたのだが、どうやら今回は偶然にも上手く燃え広がらなかった。
いや、ヴィオレッタが消火してくれたのか。
ありがたい。
が、今はそれよりもこの猛毒を取り払うことが最優先。
「ヴィオレッタ!リーネ!どちらか、解毒の魔法を使えないか!」
足が痛い。
傷のせい?いや、毒のせいだ。
ビリビリと痺れるような痛み。
もうしばらくすれば、足も動かなくなってくる。
思わず座り込んでしまった。
「申し訳ございません!私には使えない魔法です!」
「わ、私もです!シルビオさん!!」
クソ、二人ともか......もう終わりだ。
「......いやまだだ」
まだ手段はある。
毒を取り除かなくてもいい。消さなくてもいい。
取り込めばいいのだ。
「俺の、体内にある毒を、俺自身に、付与する!!」
これは攻撃では無い。付与だ。
蛇は俺に毒を付与してきただけだ。
取り込め、吸い込め、吸収しろ。
毒を受け入れろ。
「ぐおおお、う、くっ......」
俺自身に、俺の身体に直接付与なんてしたことが無いからな......今までは服や武器に付与してきた。
自分の肉体そのものに付与したらどうなるか......初の試みだ。
「ぐあああああ!!」
痛い。苦しい。辛い。
こんなにも気持ちの悪いものなのか。
身体強化は、一時的にステータスを向上させるものだ。言わば、メイクと同じ。
美しく、可愛く、かっこいく見せるために付けるもの。洗い流せば、消える。
それに比べ、付与はタトゥーだ。
洗っても、取れない。
身体に直接、刻み込む。
「ぐっ......こんな所で......」
死んでたまるか。
「ぐあああああああ!!!」
フッと、一瞬、頭が真っ白になった。
そした意識が覚醒する。
死んだかと思ったが、こうして思考が出来ているという事はそうでは無いらしい。
「......生きてる、のか?」
「シルビオさん!!」
「シルビオ様!!」
やった......どうやら成功したらしい。
「俺は......大丈夫だ」
刻み込まれた刺青は、もう落ちることは無い。
付与された毒も同様に、効果が無くなることはないだろう。
「毒を消したわけでも、排除したわけでもない。受け入れたんだ」
付与をした。
だから、これ以上毒を受けたところで、なんら変わりない。
「毒もただの水と同じ」
少し粘り気があるけどな。
「シャアァアア!!」
最後のマダラスネークか。
まぁ、二体目で確信が付いた。
こいつらは弱い。少なくとも俺よりも。
油断してたせいで、毒は食らってしまったが、もうこれで耐性は付いた。
もう何も、心配することはない。
「どうせだから使ってやろう」
体内にある毒を解析し、同様のものを作り出す。
属性毒。
これが、先程俺が貰った物だ。
それを、爆破属性が付与されている手袋と合わせる。
「ポイズン・ボム!」
両手で手を叩いた。
腕を伸ばして勢いよく、一本締めをするように。(正確には一本締めでは無いのだけれど)
パンッと、一発だけ。
すると、それによって起こった大きな爆発に毒が混ざる。
その毒爆風は、マダラスネークを吹き飛ばし、包み込む。自分と同じ種類の毒とはいえ、強化されていては耐えられまい。
だが、念には念だ。
さっきのように、死体になっても動かれては困る。
俺は、弱っているマダラスネークに近付き、頭に張り手を食らわせた。
「吹き飛べ」
ボンッ。
そんな音が聞こえる頃にはもう、マダラスネークは影も形も無くなっていた。
これにて、見事に全滅させたのだった。
「シルビオさん!!」
「おっと」
リーネが飛んで抱き着いてきた。
涙を流して喜んでいる。
「良かった......本当に良かったです......」
「心配かけてすまなかったな」
俺も死んだかと思っていたが、なんとか生き残ることが出来た。
たかがマダラスネークという下級魔物を倒したぐらいで、何を大袈裟なと思うかもしれないが、これだけでも俺は大きな進歩をしたと思う。
「シルビオ様......」
「ヴィオレッタ」
ヴィオレッタは、悔しそうな表情を浮かべる。
いつも無表情なヴィオレッタが、珍しい。
「私では、力不足でした......」
「?」
「シルビオ様にお怪我をさせてしまい、さらには一体も動きを食い止めることが出来なかった......これは私の失態です」
なんだ、そんなことか。
まったく、ヴィオレッタは真面目だな。
「そんなことは無いぞ、ヴィオレッタ。お前はよくやってくれた。この前はお前に助けてもらったし、今回も俺が戦っている時にヘイトを買ってくれていたじゃないか。それだけで充分だ」
「......ッ!!ありがとう......ございます」
ヴィオレッタも、頬を赤らめてそっぽを向いた。
恥ずかしいけど嬉しいってところか?
こういう可愛い面もあるのだな。
「さてと、休憩どころかさらに体力を消耗してしまったし、今度こそはしっかりと休憩するとしますか」
「はい!」
マダラスネークを最後に、魔物達が襲ってくることは無くなった。
ここら辺はマダラスネークの縄張りだったのだろうか。体の大きさから予測するに、マダラスネークがここの王者、もとい王蛇と言ったところだろう。
なら、しばらく寝ていても安心か。
「シルビオ様。本当に申し訳ございません」
「なんだ?急に謝ったりして」
「私のせいで、テリトリーから出られなくなってしまって......」
「誰もお前のせいだなんて思っちゃいねぇよ。テリトリーには来る予定だったんだ。むしろ、お前を付き合わせてしまっている俺の方が謝るべきだ。すまねぇな」
「そんな......シルビオ様は悪くありません」
「じゃあ、お前も悪くない。誰も悪くない。これでどうだ?」
「......なら、それでいいです」
ヴィオレッタも分かってくれたようだ。
ローテリトリーに来てまだ一日。かどうかは分からないが、たぶんそれくらいか。
まだまだ出られる気配は無いが、まぁ、いつかは出られる日が来るさ。
その間、学園に通えないのは少し嫌だったが、そんなことも言ってられない。
俺は、ヴィオレッタの持ってきてくれた布団に包まる。
リーネはもうとっくに寝ていた。
「起きたら、また出口を探そう。次は見つかるといいな」
「はい。見つけ出して見せます。たしかに、ローテリトリーは広いし、視界も悪いですが
、必ず出られるはずです」
おう。頼もしい限りだ。
俺は目を瞑った。
早く、学園生活に戻れるよう。フレデリックと楽しく会話出来る日が来ることを。
願いながら、意識を絶った。




