買い物
今日は休日。
休日はいつもダラダラと家で過ごしているのだが、本日は珍しく、お出かけだ。
「忘れ物はありませんか?」
「バッチリです」
「それは『バッチリ忘れ物した』という意味ですか?」
「あぁ、いえ。『バッチリ忘れ物ありません』という意味です」
リーネとヴィオレッタも、準備完了のようだな。
「よっしゃ、レッツゴー!」
晴れ。こんないい天気の日には、お買い物にでも行きたい気分だと、メイド達が言っていた。
確かに、家で引き篭っているより、外に出た方がいいのかもしれない。
前の癖で、どうしても俺は引きこもりがちになってしまうからな。
それに、リーネは普通の女の子らしく過ごして欲しい。
お買い物なんて、いかにも女の子らしいではないか。
「だからって、私も行く理由が分かりません。それに、他のメイドも二人ほど」
合計五人だ。確かに少し多かったかもしれない。
しかし、俺的にはメイド達全員連れて行きたかったのだ。さすがにそれは無理だったが。
「メイドだって息抜きが必要だろ?」
「それなら少しづつ取っております」
「......ならあれだ。リーネと買い物に来たはいいが、どこに行けばいいのか分からないからリードして欲しい」
そう。ヴィオレッタ達を連れて来たのは、お買い物がよく分からないからだ。
正直、女の子は何を買ってもらうと嬉しいのか。また、どういう所に買い物に行けばいいのかがさっぱり分からない。
だから、教えて貰うために連れて来た。
「そう言われましても......正直、私もあまり詳しくは無いのです」
「ほう?」
「私も産まれてからすぐにメイドとしての教育を受けております。言うなれば、シルビオ様のメイドとして生まれてきました」
「重いな......」
なんだかめちゃくちゃ悪い気がしてきた......
「冗談です」
ヴィオレッタはクールに話すから、全く冗談に聞こえないのだが。
「じゃ、じゃあまぁ......みんな買い物は初めてということで」
「おっとお待ちを!」
「そのために私達がいるのでは無いですか!」
「......」
モニマニ姉妹。
連れてきた二人のメイドだ。
たしか姉がモニカ=グロンツで、妹がマニカ=グロンツだったかな。
「買い物ならお任せ下さい!だてにシルビオ様の服を選んでおりませんので」
あぁ、俺の私服ってこの二人が選んできてくれていたのか。知らなかった。
というか、このために連れてきたつもりは無かったのだが......という別に服だけを買いに来たわけじゃないけどね。
「訂正します。服だけではなく、お買い物そのものを心得ております」
「そうか。なら少し手を貸してもらおう」
「「おまかせを!」」
なんだか心配だなぁ。
こういうテンションのやつは、大抵何かやらかすというのがお決まりだ。
まぁ、今回は頼ってみることにしよう。
なんだか面白そうだからな。
「まずは食べ歩きです!市場へ行きましょう!」
俺達は市場へと向かった。
「うわぁ......!」
うわぁ......と、俺も心の中で言った。
道に屋台が並んでおり、色とりどり様々な食べ物が売っている。
だがリーネと同じ反応をしていては、貴族として少し品がない。
しかしこういうのには、正直憧れていた。まさにThe・ファンタジーって感じだからな。
「あ!!」
うぉう!?どうしたんだ急に大声なんか出して。
情緒不安定か。
「すいません......もしかしたらシルビオ様のお口に合わないものばかりかもしれません......」
ん?あぁ。
たしかに俺は貴族だから、普段からいいものばかり食べていて、舌が肥えている。
と思っているんだな。
「いや、俺は別に、なんでも食べるぞ」
「お気遣いありがとうございます」
いや、本当になんでも食べれるってのに。
手始めに、俺はそこら辺にあったリンゴらしき果物を買い、食べてみせた。
ん!?
「美味いなこれ......」
「シルビオ様が生の果物を......!?」
「私も初めて見ました......」
ヴィオレッタまで驚きやがって......
まるで変人を見るかのような目で見られる。
「そんなに見るなよ」
「......そうですね。私達も食べましょう!」
みんなで食べ歩きをした。
まるで祭りの屋台のようで、こういうのは久しぶりだったから、楽しいな。
「これはなんだ?」
「あ、それはですね」
見かけるものは、もちろん初めて見るものばかりなのだが、しかしどこかしら、俺のいた世界にあったものと似ている所がある。
それに美味しい。
一通り食べて腹が満たされてくると、何やら曲芸のようなものをやっている人がいた。
「なんですかね。あれ」
曲刀を両手に四本持ち、それを宙へ上げた。
そしてお手玉のように、両手を使って空中でグルグルと回していく。
右手から左手、左手から右手へと、器用なものだ。
「おー!」
リーネも楽しそうだ。
目がキラッキラしている。やはり子供っぽい所もあるな。
と、みんなで曲芸を見ていたのだが─────
「誰か!誰かそいつを捕まえて!!」
女性の叫ぶ声。
その方向を見ると、叫ぶ女性から走って逃げている男。
手には鞄を抱えている。
「ひったくりか」
どの世界にもひったくりはいるもんなんだな。
しかしまぁ、こんなに人がいるのによく犯罪をすることが出来るな。
いや人が多いからこそバレないと思ったのか。
「シルビオ様、ここは少々騒がしいです。場所を変えましょう」
「いや、いい。だが悪い奴は放ってはおけないな」
靴に脚力増加の魔法を付与する。
そして、ひったくり犯を追った。
「おいお前」
追ったといっても、距離はそう離れておらず、すぐに追いついた。そして、背中からのしかかって、動きを止めた。
床に押さえ付けると、男は簡単に鞄を手放した。
「いてててて、やめてくれ!痛い痛い」
一瞬で捕まって、一瞬で諦めた。
だが油断してはならない。こういう奴は、だいたい何か奥の手を隠し持っているものだ。
「シルビオさん!」
と、リーネがこちらへ駆けつけてきた。
「大丈夫ですか!」
「あぁ、大丈夫だ。それより、こいつはどうしたら......」
「フラッシュ・ライト!」
急に真っ白になる視界。
眩しい。クソ、油断した。コイツの魔法か。
やはり隠していたな。
そのせいで拘束が緩んでしまった。
まずい。
「バカがっ!死ねぇ!」
しまった。
うっすらと見える視界で捉える。
リーネに向かって飛んでいく、針のようなもの。
だが、それはリーネに届く前に弾かれた。
「なにっ!?」
「シルビオ様のお気に召した人を、そう簡単に殺させるわけにはいきません」
この声、ヴィオレッタか。
ヴィオレッタはメイド長であり、メイドの中でも一番の戦闘能力を誇る。
か弱き俺の護身用として雇われたらしいのだが、それにしても強い。
護身用を越して、軍にでも所属しているんじゃないかってぐらいだ。
だからこそ。
だからこそ任せられる。
「ヴィオレッタになら、この戦闘を任せられる」
俺の目は一向に治らない。
こんなに威力があったっけか?
フラッシュ・ライトは目くらまし用の魔法だが、こんなにも効果が持続することは無い。
強化しても、常人にこの威力は出せないはずだが......あぁそうか。なるほど、そういう事だったのか。
「ヴィオレッタ」
「なんでしょう」
「半殺しにして拘束する」
「承知しました」
こんな風に、高威力の魔法を簡単に出せるようになる理由を俺は知っている。
これもゲームのネタバレだ。
今はまだこの程度だろうが、そのうちもっと干渉してくるだろう。
出来れば早めに潰しておきたい組織なのだが、生憎居場所が分からない。
「へっへっへっ、この俺を半殺しとは......舐めるなよっ!」
雑魚みたいなセリフを吐くこいつは、是非とも捕らえておきたい。
そうすれば、後に役立つかも知れないからだ。
「私も闘う!」
「いえ、リーネはそこで見ておいてください。私の闘い方を」
闘いは、一瞬で終わった。
何も見えなかったので状況は分からなかったが、おそらく一瞬。
音を聞いている限り、ヴィオレッタは魔法を使わなかったようだが、それほどまでに雑魚ということか。
だが、組織の実験体であることには間違いないはずだ。
まだ調整出来ていないのか?魔法の威力は高かったが、発動までに時間がかかっているし、やはり、所詮実験体と言ったところか。
ようやく視界が戻ってきて、周りを確認できるようになった。
「よくやったぞヴィオレッタ。ナイスだ」
「ありがとうございます」
ちゃんと指示通り、拘束している。
さすがはヴィオレッタ、頼りになるな。
それに比べて残り二人は......
「はぁ、はぁ、はぁ」
「や、やっと追いつきまし......た......」
倒れた。
まぁ、戦闘向きでは無いとはいえ、さすがに遅すぎでは?
今回は大丈夫だったけどな。
「もう解決したぞ」
「も、申し訳、ございませぇん」
......もう少し休憩してから買い物の続きをすることにしよう。
その間に、ヴィオレッタにはこのひったくり犯を騎士のところに届けて貰った。
騎士は、俺の世界では警察みたいなものだからな。警察よりも戦闘に特化しているかもしれないが。
そのあとは服を選んだり、また食事をしたりした。
帰りに、他のメイド達にもお土産でも買っていこうと提案した。
お土産と言っても、そんなに遠くへ行ったわけじゃないが、一緒に行けなかった分のお詫びはしたい。
ちょうどアクセサリーの店があったので、そこで何か買うことにした。
「何でも欲しいもの買っていいぞ」
貴族だからな。
金なら余るほど持っている。はずだ。
詳しくは分からない。
「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが、必要ありません」
「いいから、何でも好きなのを買えって」
「ですが......」
頑固だなぁ。
特に欲しいものでも無いのか?だとしても、何かしら買っておけと、無理矢理選ばせた。
「よし、みんな買ったな。後はお土産だが......」
「あの、シルビオさん」
リーネが、少し恥ずかしそうに、顔を赤らめて何かを渡してきた。
今さっき買ったばかりの、アクセサリーが入った袋だ。
「何だ?」
「これ......」
「あの、私も」
「「私達も」」
「......」
みんなして渡してきた。
一体どうしたというのだ。
「シルビオさんのために......」
「え、まさか......?」
「あはは、みんな考えていることは同じだったみたいです」
「お前ら......」
リーネ達は、怒られると思ったのか、少し身を縮めた。
しかし、俺は黙って、目に涙を浮かべた。
「お前ら......」
「シルビオさん......?」
「すまない。嬉しくてつい、な」
こんなこと、今までの人生であっただろうか。
好きなものを買ってこいと言って、全員が全員、俺のために物を買ってくる。
頼んでもいないのにだ。
思わず嬉し涙を流してしまった。これは主として恥ずかしい限りだ。
「みんな、ありがとうな......だが、俺はいいからお前らが持っておけ」
「私達には必要ありません」
「いいから」
そう言って袋の中身を取り出す。
入っていたのは、ネックレスだった。
「いいじゃねぇか。似合うよ」
リーネに、ヴィオレッタに、モニカに、マニカ。
全員に掛けてやった。
全員首飾りだとは、これはまた凄い偶然だ。
気が合うな。
「うわぁ......ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「「感謝です!」」
嬉しそうで何よりだ。
ついでに、魔法を付与してやる。
もはや重装備だと思えるほどの防御力を付与してしまった。
「いや、申し訳ない。魔力量が上がる魔法と、状態異常回復速度アップを付与してやったのだが、わりと高価なものになってしまった」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます!」
喜んでくれてこちらも嬉しい。
やはり、人の笑顔を見るのが一番だな。
これでまた、シルビオから遠ざかったかな。
シルビオとは逆の、主人公に近づく。
家に帰ったら、みんなにも配ってやった。
とても喜んでくれていて、やはり良かった。
値段がちょっとバカにならなかったが、まぁ、お金は使うためにあるわけだし、たまにはいいでしょう。
「明日は学園だ」
再び学園生活が始まる。
寝坊しないよう、早めに寝ることにした。




