リーネ入学
「初めまして、リーネです。よろしくお願いします」
リーネが入学した。
ヴィオレッタに入学手続きをしてもらってから、僅か数日での入学だ。
どうやら、オルナレンの貴族としての特権を使って、試験をしないでの入学らしい。
まぁ、しなくても実力はあるから大丈夫だろうがな。
入学前に、ザックリとだが俺の教えられるだけの闘い方も教えてある。ただし知識としての闘い方であって、実践では教えられていない。むしろ俺が教えて欲しいくらいだ。
だからという訳では無いが、まぁリーネなら一瞬で負けるようなことは無いだろう。あとは経験さえ積めば、もっと強くなれる。
「なぁなぁ、結構可愛くね?」「後で話しかけようぜ」
「美人さんじゃない?」「大人しそうな子ね」
クラスでもわりと人気者になれそうだな。
ホームルームが終わると、クラスメイト達は一気に群がった。
「ねぇ、どこ住んでるの?」「なんでこの学園に?」「彼氏とかいるの?」
質問の嵐だ。
リーネは困って、あわあわしている。
あぁ、学生のころに転校してきた人も、こんな感じだったなぁ。と、少し懐かしい気分を味わった。
「え、えぇと......すみません、御手洗に行きたいのですが」
「あぁ、それなら私が案内するわ」
クラスの女子が案内してくれるそうだ。
トイレで、一旦退出するとは......なかなか賢明な判断だな。
これを機に、俺もトイレまで付いて行った。
いや、これは別にストーキングとかじゃなくて、普通にリーネと話すことがあるからだ。
......しかし、何故か罪悪感はあるな。
「はぁ......」
トイレの前で待っていると、リーネがため息を着きながら出てきた。
「リーネ」
「あっシ、シルビオさん!?」
「さん付けはしなくていい」
色々と疑われると面倒だからな。
俺は奴隷のことを変に扱ったりしないが、他の人がどう思うか、俺には分からないからな。
もしかしたらリーネがクラスで浮いてしまうかもしれない。
クラスで浮くのは、俺一人で充分だ。
「クラスメイト達と、上手くやっていけよ」
「は、はい。優しそうな方が多いですし、楽しそうです」
「そうか」
それなら良いのだが。
と、早速視線が突き刺さる。
さて、ここからだ。これを見ている人達がどう思うかだ。
俺とリーネが会話している所を見て、「シルビオって案外優しいのかも」となればいいのだが、もし「シルビオなんかと仲良いんだ......関わらないでおこう」となってしまえば本末転倒。最悪の事態になりえる。
「......あまり話さない方がいいかもな」
「え?」
「リーネ、しばらく学園では俺と会話するな。会話するなら、人目の無い所でだ。いいな?」
「は、はい......承知しました......」
随分と向けられているから分かる。
これは冷たい視線だ。
まだリーネは入学したてホヤホヤの新入生。
どんな子なのか分からない時期なのに、俺なんかと話していたら、やはり嫌われるのは目に見えていた。
リーネを利用する。と言ったら人聞き悪いが、俺が認めてもらうために、リーネにはクラスメイト達に好かれてもらう必要があるな。
「もし俺について聞かれたら、当たり障りのないことを言ってくれよ」
「はい。分かりました」
「それじゃあ、また帰りにな」
「はい」
すぐさま別れた。変な噂を立てられる前に、俺は退散するとしよう。
まだ大丈夫だ。
リーネ、上手くやってくれよ。
リーネが教室に戻ってから、俺も戻った。
「リーネさん、シルビオなんかと何話してたの?」
「いいえ、特には。ただ教室の位置は分かるか?と聞かれただけです。お優しい方でした」
おいおい。俺のいい所を紹介してくれるのは嬉しいが、それはちょっと違和感あるぞ。
あまり俺のことを褒め過ぎると、かえって怪しくなる。
ほどほどにして欲しいものだ。
「それで、リーネさんはどこ住んでるの?」
「どこ。と聞かれましても、普通の家......でしょうか。今はそこで働かせて貰っております」
「働く?」
「はい。メイ「ウォフン!!オフン!」
咳払いで誤魔化した。古典的だが、結構有効だったようだ。
危ねぇ、何真面目に答えようとてるんだ。
もしメイドだなんて言って、俺との関係性がバレたら、一溜りも無いじゃないか。
「......あ、えーっと。それで、彼氏とかはいるの?」
「いません」
「好きなことは?」
「好きなこと......ですか?」
「何か趣味とか」
「趣味......」
......リーネは考え込んでしまった。
そういえばリーネは今まで奴隷で、貴族の側から離れたことが無かった。
俺に雇われてからも、ずっと家にいる。
何にも、女の子らしい事を出来ていないのだ。
「分かりません」
俺は、ふと思い返してみた。
リーネは、俺の側に居られるだけで良いと言っていた。だが、それは奴隷としての話だ。
本当に心からそう思っていたとしても、それは外の世界を知らないから。
奴隷としての幸せ以外のことを、知らないから。
なら、俺が教えてやらないとな。
また今度、どこかに連れて行ってやろう。
気付けばリーネは、クラスメイト達と仲良くなっていった。
―――
友達も徐々に増えたと見える。
昼食も、まるで忘年会のように大勢で食べていたし、今のところは上手く溶け込めているようだ。
「シルビオ、お前リーネちゃんのこと、好きになっちゃったのか?」
唐突にフレデリックはそんなことを言った。
「いや、残念ながらそんなことは無い」
「ならなぜそんなにジロジロと見てるんだ?」
鋭いやつだな。
確かに、俺はジロジロと見てしまっていた。
リーネを警戒しすぎて、自分の注意を怠っていたな。
「まぁ実際可愛いし、性格も見た感じだと良さそうだから、分からなくもないけどな」
「あぁ。だが本当に違うんだ。ちょっと、気になるだけで」
「ふうん......なぁんだ。つまんねぇの」
つまらなくて悪かったな。
だが、そのうち面白いものは見せてやる。
何せ今日は、昼飯の後の授業で
「体術を学びます」
「ええー」と、クラス中から反感を受けた。
しかし先生は、そう言われることを分かっていたのか、動じない。まぁ先生だし。
「確かにここは魔法科だが、もし魔力切れを起こした場合や、何かしらの状況で魔法を使えないとなった時に、闘う方法が全く無いんじゃどうしようもない。だからせめて、軽い体術くらいは覚えておけ」
確かにその通りだ。
それに、俺のような付与魔法や強化魔法を固有魔法とする生徒にとっても、体術は学んでおきたい。なら、騎士科に行けばいいじゃないかって話なんだが、騎士科は本当に脳筋の集まりで、魔法の魔の字もない。
ただ申し訳程度の強化魔法を使うってだけだ。
まぁ、その中でも一段と優れた強化魔法で騎士をやっている生徒もいるらしいがな。
それはゲームで聞いた噂に過ぎなけど。
「おいシルビオ」
「なんだいフレデリック」
「あの子、体術大丈夫かな」
体術大丈夫?あぁ、リーネが体術出来るのか?ってことか。
確かにあの痩せた見た目なら、そう思っても仕方ないだろう。
だが、俺が教えた体術は、力をあまり必要としないものだ。
リーネに、基本だけは教え込んであるからな。全く手をつけていない奴らよりは、心配ないだろう。まぁ、実践できない俺に教えられても、どれくらい出来るのかは分からないがな。
俺達は、着替えて訓練所へ来た。
「体術ってのは、あまり力は要らないんだ。もちろん魔力も。ほんの少しのコツだけで、素人相手なら勝つことが出来る」
先生は、体を使って教えてくれる。自らダミー人形相手にお手本をしてくれるので、分かりやすい。
「力というのは、使い方によって強さが変わるものだ。いくら筋力があっても、使い方を知らなきゃ意味が無い」
先生はなかなかそれらしいことを言う。
するとリーネがこっちを向いて、
「シルビオさんと同じことを言っていますね」
と言った。
まぁ......そりゃあ、俺がパクったからな。
というか、話しかけるなと言ってるのに......
「それじゃあまぁ、早速やって行こうか」
それから、先生はまたご丁寧に教えてくれた。
知識だけでしか知っていなかった俺も、実践でやると結構身につくものだ。
しかし一つ気がかりなのが、メインヒロインであるフィリアが居ないという事だ。
普段はアランと一緒にいるのだが、さっきから姿が見えない。
その事に対して、アランも少し気になっている様子だ。
この時は確か、まだアランが原因でフィリアが拗ねていることに気づいていないんだったっけ。
上級貴族の娘であるフィリアは、自分に自信があった。
そして、自分よりも強いし優しいアランに助けて貰ったことで好きになるのだが、この強さの差が開きすぎて、足を引っ張ってしまっているのではないかと拗ねている所だ。
通常ならアランがもう探しに行ってるはずなのに......相変わらず普通に授業を受けているな。
これじゃ物語は進んでいない。
全く、加速しているのか減速しているのか分からないな。
「......探しに行くか」
このままだと気分が悪いからな。
知っていて放置するというのは、あまり良い気がしないのだ。
何か残っていて、気持ちが悪い。
俺は、授業終了のチャイムと同時に、フィリアを探しに行った。
もし、授業が終わるまでに帰ってくるようだったらよかったのだが、この調子だとおそらく見つかるまで拗ねているのだろう。
俺は、これぐらい言わなくてもいいだろうと思い、リーネには何も言わずに行った。
「フィリアー」
実のところ、俺は居場所を知っている。
当たり前だ。一度探したからな。
そう、この屋上まで行く階段の手前。
そこを右に曲がった所にある教室。ここには何も無い。
机と椅子があるだけで、使われていないのだ。
そこにフィリアはいた。
貸切の教室なのに、隅の方に体育座りをしている。
「おい」
俺はゆっくりと近づいて、隣へ座った。
と言っても、だいぶ距離は空いているけどな。
「......何よ」
「こんな所で何してんだ?」
「......」
返事は無い。だが、屍では無さそうだ。
「何があったのかはだいたい想像出来る。だがそう気を落とすな。お前は別に、アランに迷惑をかけたりなんかしてねぇよ」
「うそ......なんで分かるの?」
うずくまっている顔を上げて、こちらを見た。驚いた表情だ。
だが、思い出したかのようにすぐさままた膝へとうずめる。
「......だって、もし私が弱いせいでアランが危険な目にあったら......」
「そんなことはない。もしあるとしても、それはお前のせいじゃない。アランは、お前を守ってくれるんだろ?」
「......うん」
「そして無茶をする。それをお前は心配しているんだろうが、別にそんなことは無いさ。それはアランが勝手にしていること、好きだからしているだけに過ぎない」
「......」
「だから、お前は別に気にしなくてもいいし、悩まなくたっていいんだ」
正直、羨ましい悩みだ。
好きな人が自分を助けることで、危険に会う。それを心配しているだなんて。
お互いに心配しあっているということだ。
両思いだな。
「そんなアランが好きなんだろ?」
フィリアの頭は爆発した。
顔を隠していても分かる。耳が真っ赤だからだ。
「───────ッ!?」
「まぁまぁ落ち着けって」
「あ、ああ、ち、ちがっ」
「別に誰にも言ったりしないって」
フィリアはツンデレだ。
だからこそ、こういう恥ずかしがっている姿とかを見ると、つい可愛いと思ってしまう。
......分かるだろ?
「まぁ、そんなに拗ねてないで、アランの所に行けよ。実は両思いかもしれないぞ?」
「う、うるさいわね!アンタ一体どこまで知ってるのよ!さっきから......」
「全部図星か。ははっ!そりゃあいい。大当たりだ。俺の勘が当たった」
もちろんこれは嘘。勘なんかではなく、未来予知だ。未来予知ですらも無いけどな。似たようなもんだ。
「悔しいけど、おかげで少し元気が出たわ。アンタにしては、たまには良い事言うじゃない」
「たまにではなく、最近はそうだと自分では思っているけどね。そう心掛けているから」
「いい心がけだわ。正直、前からアンタは最低だと思ってたけれど、どうやらそうでも無いみたいね」
「そいつはどうも」
最低なんて聞き飽きてる。
最悪なんて経験してる。
だからもう何も、気にならない。
ここで、学園のチャイムが鳴った。
授業開始の合図だ。
「おっと、まずいな。二人して遅刻だ」
「別にいいわ。私のせいだもの。でも謝らないわよ?だって、アンタが勝手に私に付き合ったんだもの」
「おいおい、俺はそんなことを教えたっけか?」
ははは!と、二人して笑った。
柄にもなく、似合わない二人で。
「それじゃあサッサと行きましょうか」
「あぁ、そうだな」
俺達は教室へと急いだ。
思ってたよりも拒否されなかったのは、俺も驚いた。
やはりフレデリックと仲良くしていたのが効いているのだろうか。
それとも、元々あまりシルビオのことを嫌っていなかったのだろうか。
何にしてもこれでまた一人、友達では無いかもしれないが、俺のことを冷たい目で見ない人が出来た。
教室に戻ると、二人して先生に叱られた。
ブックマーク登録、ありがとうございます!
誤字報告ありがとうございます。
お恥ずかしながら、また誤字してしまいました.....
もっとちゃんと見直そうと思います。




