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悲しくて幸せ

作者: 吉野

俺はそのとき、灰色の汚れた天井を見つめていた


ただ無言、心地よいとも、心地悪いともいえない


どちらかというと、違和感



「後五十分で俺達死ぬのかなぁ?」



その違和感をぶち壊したのは、メンバーの中で一番年少のイルエだった

チラリと声の方向に視線を移すと、あの馬鹿能天気なイルエがお気に入りの知恵の輪をいじりながら俯いていた


そんな顔するな、とか

らしくないこと言ってんじゃねぇ、とか

馬鹿?とか


いつもならそうからかっていただろうイズマもただ自分の剣の手入れをしていた


確かに、俺ら死ぬかもしれないけど

生き残る可能性だってあるんだけどな

心の中でクスリと笑う


きっと、全員は無理でも


俺らなら、多分イエルだけは生き残させることができる



そう決めてるし



「けど、一緒に死ねばまた次生まれ変わっても一緒だよな?」



煩い


そう怒鳴ってやりたいなんて思わなかった

それだけは言ってほしくない

それじゃあ、生き残ったお前は悲しいじゃないか

死んだ俺らはまたお前と会えないじゃないか

決心が鈍るかもしれないじゃないか


ガタン、と大きな音がする


思わずそちらを見ると、ジルだ

らしくなく目を見開き、突っ立っている


あの馬鹿……



いつもいつも一番先に悲しがる

俺らが悲しんじゃ駄目だろうが


無言でジルは歩き出し、イエルの前にしゃがみこむ

イエルは何がなんだかわからないという表情でジルの目を見ていた


「イエル、貴方は生きるんですよ」


駄目だ

言うなよ

思わず指が動く


「ジル、言うなよ」


イズマが怒鳴る

けれどイエルはもう聞いている


暫くして、イエルはいつもより少し高めの声で



「どういうこと?なぁ、ガーウィン」



と言った


最悪だ

こういうとき、初めて後悔する

こんなことだったら、イエルの保護者役なんてやるんじゃなかった


チッとしたうちをして、目を瞑る



「なぁっガーウィン」



まだ言う

いつもなら黙るのに



ああ、もういつもじゃなかった



溜息をひとつついて、視線を三人の方向に移す

自分のしたことに真っ青になってるジルと、もどかしそうに髪を掻き揚げるイズマ



「そうだよ、お前は生きるんだ」



目をあわせられない

ただそう告げた

途端に、大きな怒鳴り声


悲鳴ともいえるかも知れない



「何でだよッ!!」



わかってるのに、認めたくないなんて面倒なことは言わないでくれ

俺らはただ、お前だけには幸せになってほしいだけだ


こんな人殺し達を幸せにしてくれたから



「僕らの願いは、それだけなんです。お願いですイルエ、生きて」



少しして、やさしくジルがそういい、イルエを抱きしめる

イズマはらしくなく溜息を一つついて、「俺もそう願う」と短く言った


相変わらず不器用なやつら

嘘をつけない




俺も同じだが







「生きろ、イエル」






どんなにお前が嫌がっても、これだけは変えたくないんだ

こんな大人達に囲まれて、不幸だって思ってくれ


イエル














「ああ、僕、外に出て初めてこんなに綺麗な星空を見ました」



偵察基地から出てすぐにジルが呟いた

後から続くイズマも、「俺は生まれて初めてだなぁ」と呟いた



いつもは真っ暗な夜に、無数の星が輝いていた



「うわぁっスゲェッ」



さっきまでのことをすっかり忘れて、うれしそうにイエルが笑う

輝いた目、金色

明るくて、太陽みたいだと思う


俺はそのイエルの笑顔を少し見て、空に視線を移す



綺麗だった



思わず呟くと、三人が俺を見て、意外そうな顔をして笑った

そして茶化す


「黙れクズ」


いつもの様にそういう

みな苦笑する

俺は少し笑う







暫く俺らは空を見つめて、笑いあって、雪の積もる大地を歩き出した






イエル女、ジル女、ガーウィン男、イズマ男

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― 新着の感想 ―
[一言]  一読させていただきました。  冒頭で、年少キャラクター、イルエが 「後五十分で俺達死ぬのかなぁ?」 と言いますが、この台詞、インパクトがあって面白いと思います。  ただ、もう少しこのインパ…
[一言] 雰囲気がありますね。武器の描写とかが入ると、もっとよくなると思いました。
2009/01/01 19:40 退会済み
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