88. スズキノヤマ帝国 ガリカ(1)
朝餉の後、一行はパララへ向かって出発した。パララまでかなり時間がかかるから、エフェルガンは二日間かけて行く予定をたてた。やはりローズがまだ本調子ではないため、無理ができない、と彼は判断した。
ダイナ町からコロトイ町まで大体6時間ぐらいかかる。昼餉はコロトイの町でする予定で、昼餉終えてからおよそ3時間をかけてガリカという小さな町で一泊泊まる予定だ。
旅になると相変わらずエフェルガンはローズに色々な細かい説明をしてくれている。
荒々しい波が見える海岸から草花が見える草原まで、エフェルガンがローズに様々な景色を見せた。スズキノヤマは本当にたくさんの高い山に囲まれている国で、神秘的な風景が多い、とローズは思った。彼らは海岸から移動して、空高く聳えている山々が見える地形になった。
ケルゼックに先導されて、コロトイの町へ着陸した。移動用フクロウを止める所に預けてから、ローズたちは昼餉を探しに町に入った。コロトイ町はダイナ町と比べたら、数倍も大きい。道や町の至る所まできれいに整備されていて、治安も良さそうだ。エフェルガンは満足そうな顔で町の雰囲気を楽しんでいる。町の人々も生き生きとしていて、特に不満がなさそうだ。お昼の時間になると屋台にたくさんの人々に賑わっていて行列ができた屋台もあった。やはり基本的に庶民は安くて美味しいものが欲しいのだ、とローズは思った。だから昼餉の時間になると屋台が大変混雑している。ローズは屋台の食べ物に興味を示したけれど、安全上の理由で、ケルゼックは少し空いている料理屋に行くことを提案した。その提案にエフェルガンは賛同した。屋台は昼餉の時間を少し過ぎてから、また後ほど訪れに行く、ということになった。
ケルゼックとハティが選んだ料理屋はこの地方の名物料理を提供しているところである。山兎や山羊の串焼きなど、数々の串焼き料理を出している名店だそうだ。料理屋の外から香ばしい匂いがする。店の中に入るととても賑やかで、10人が座れるほどの席がなかったけれど、別料理金で個室を借りることができる。個室は普段宴会用だけれど、たまに団体客に貸し出す時もあるそうだ。料金が少し高いけれど、落ち着いて食事できるからエフェルガンは迷わず借りることにした。
個室に案内されて、そこはとても独特な飾りがある部屋だ。ケルゼックの話によると、この辺りの民族の特徴だそうだ。同じミミズクフクロウの種族でも、色々な民族がたくさんあるそうだ。広いスズキノヤマではどのぐらいの民族があるか、ローズは分からない。けれど、それぞれの特徴や方言を持っているという。とても興味深い話だ。
ケルゼックとエフェルガン達にメニューを任せて、ローズは机の上にある食べ物に興味を示した。
ハティはそれを調べて、安全宣言をした。それはせんべいのような食べ物で、平べったい食べものだ。噛むと、とてもぱりぱりしていて、塩味がほんのりした食べ物だ。この辺りではお茶受けとしてよく出されている食べ物だそうだ。串焼きは時間がかかるため、お茶とぱりぱりせんべいで料理ができあがるまで待つということでしょうか。エフェルガンも護衛官達もぱりぱりせんべい一つを取り、食べながら会話をしている。
やっと待ちに待った串焼きが来た。串焼きだけではなく、数々の料理が運ばれてきた。どれもとても美味しそうだ。山羊の串焼きはバーべーキューのくしのような細長い金属のくしで肉を刺して焼いたものだ。その上に黒いたれがかかっている。たれの上に、紅い色のスパイスがかかっている。エフェルガンによると、この赤いスパイスを食べなければ辛くないらしい。しかし彼は、その赤いスパイスが好きだと言った。
串焼き以外にも茹でた芋も運ばれてきた。串焼きは茹でた芋と一緒に食べるのがこの地方の食べ方だ、とお店の人がローズに説明した。すべての料理が運ばれてきて、ハティが確認してから安全宣言を出してくれた。
串焼きを一口を入れると、なんと香ばしくて美味しい!スパイシーなのに、くどくない。意外と、この赤いスパイスがそんなに辛くなかった、とローズは思った。少しかかるとちょうど良い味になる。もちろん別の容器で激辛の赤いスパイスがある。あれは触らないようにした。同じ赤いスパイスでも、味や匂いが全然違う。
ローズが一つずつ味わいながら料理を楽しんで、一つの料理に苦戦に強いられた。それは茹で芋だ。エフェルガンは茹で芋の皮の剥き方を教えたけれど、ローズがなかなかうまくできなくて、ぐちゃぐちゃになってしまった。結局ローズのために、エフェルガンが芋を全部剥いた。
美味しい昼餉を食べた後、再び屋台を覗いて見ると、ほとんどのところは売り切れ状態になってしまった。仕方がないので、諦めた。ローズたちはそのまま次の町ガリカへ向かうことにした。ガリカはここから約三時間の距離だけれど、とても高い山の上にある町だ。今の高度よりも、もっと登って行くため、空気が薄いと説明された。気圧も低くなるため耳に負担があるため、ちゃんと口をあけることが大事だ、とエフェルガンが言った。気温も涼しくなってきたので、しばらく我慢する、と。
しばらく登りっぱなしのフクロウ飛行で町が見えてきた。とても美しい町並みだ、とローズが思った。ローズたちはフクロウを止める所に着陸して、今夜の宿を探しに、町へ入った。
旅人があまり多くはないけれど、観光用の設備はちゃんと整備されている。道も比較的にきれいだ。ゴミも落ちてないぐらい所々ゴミ箱がある。とてもきれいで、のどかな町だ。町の地図や看板も分かりやすく設置されていて細かい説明も載せてある。ここでは温泉宿が何軒があるんだ。宿の名前と地図、そして宿の特徴も書かれている。ローズたちはとりあえず見て回ることにした。
いくつか見て回ったところで、貸し切り温泉風呂がある宿に、今夜泊まる宿にエフェルガンが決めた。しかし、これが一番高い所にあるのだ。ローズはその宿の温度がひんやりと言うよりも、寒いと思っている。お風呂も二種類あって、室内と室外の両方もセットで貸し切り可能というのだ。大変魅力的な宿だ。食事は夕餉と朝餉が料金込みで提供されている。部屋は普通で、豪華な部屋ではないけれど、広い。清潔で寝具も整えている。一番大きな部屋には寝室が三つあって、居間がある。またこの部屋の外にある庭にも露天風呂が完備されているんだ。中庭は壁で囲まれているので、外から見られる心配はなく、とてもプライバシーが良い宿だ。料金が少し高めだけれど、エフェルガンはこの宿が気に入ったらしく、全員この宿に泊まることになった。
部屋の大きさと寝具の関係で、暗部の二人は別の部屋に泊まることになった。しかし夕餉は、皆で一緒に食べる。ちなみにガレーとエトゥレの部屋にもプライベート露天風呂があるけれど、ガレーは苦笑いしながら男と二人で露天風呂に入るのが悲しいと言った。確かにそうかもしれない、とローズも苦笑いした。
エトゥレは笑いながら、今夜は宿の一般の風呂場に入ると言った。なぜなら、この国の一般風呂は混浴だからだ。それを聞いたガレーも賛成した。ハインズとエファイン達も一緒に行きたがるようだ。しかし、護衛の関係で、あの二人が諦めた。けれども、エフェルガンはケルゼックとオレファが残ってくれると言ったので、その二人に一般風呂に行く許可を出した。ちなみにハティも残ると言った。飲み物の関係もあるから、エフェルガンとともに行動を取ることにした。本当に忠実な家臣である。
チアータの温泉と同様、この国の温泉風呂は裸ではない。布を巻いて入るのだ。女性は胸からひざの辺りまでの長さの布を体に巻いて、男性は腰辺りに布を巻いて温泉に入る。布の下に何も身につけないのは常識である。
ローズとリンカが入ると、エフェルガンとオレファが入ってきた。暖かい温泉に冷えた体を温めてくれている。外は寒いので、本音で言うならローズは露天風呂に入りたくないのだ。内風呂が良いと思ったけれど、エフェルガンはローズを一般風呂に行かせなかった。行きたいなら、貸し切りのお風呂にすると言われた。さすがにローズ一人のわがままのために別料金の貸し切りお風呂を借りるのがちょっともったいないので、彼女が我慢することにした。
お風呂にしばらく入ると、体が温まってきた。リンカも気持ちよさそうにお風呂に入っている。目が閉じていて、寝ているかもしれない。オレファは反対側に座り、ローズたちと離れている。エフェルガンはローズの隣にいる。
「くっしゅん!」
ローズがくしゃみをしてしまった。寒くなってきたのかもしれない、とローズが言うと、リンカは心配そうな様子でローズを見ている。
「上がった方が良いよ」
「うん、そうする。お先に上がるね」
「はい」
ローズとリンカは先に上がった。オレファも上がったので、警備中のケルゼックは入ることになる。護衛官は全員同時にお風呂を入ってはいけないのだ。万が一に備えて、誰か一人警備につかなければいけない。
お風呂から上がって、中に入ると、部屋が暖かく感じる。部屋には暖炉が付いているのだ。これこそ贅沢というものだ、とローズは思った。乾いた服に着替えて、濡れた髪の毛を乾かしている。リンカも暖炉の前に座って、ぬくぬくと体を温めている。
実は、ローズとリンカが寒さに弱い。一年中暖かいアルハトロスと違って、南の国のスズキノヤマは高地であるため結構寒いところが多い。にもかかわらず、上半身裸のエフェルガン達はすごいとローズは思った。慣れているか、あるいはやはり寒さに対する強さがあるか、ローズは分からない。この国にいてから、ほとんどの男性は上半身が裸であることに気づいた。女性は服を着るが肩が見えているスタイルが多い。この寒いガリカの町でさえ一般的にもそのような服装である。
「暖かそうだね」
エフェルガン達が中に入った。ケルゼックはまだ外でお風呂を楽しんでいる。本当はきっと奥さんと一緒に入りたいでしょう、とエフェルガンが言うと、ローズは笑いながらうなずいた。新婚ほやほやなのに、仕事で留守をしなければならない。かわいそうだけれど、役目である以上、仕方がない。
「うん、ちょっと寒かったんだ」
「そうか。無理をしないで、内風呂に入ると良いよ」
「うん、明日の朝はそうする」
エフェルガンは乾いた服に着替えて、暖炉の近くに座って、クシで乾きかけているローズの髪の毛をといた。
「長くなったね・・」
「うん。切りたい。ばっさりと半分ぐらいは良いかな」
「それは短すぎるよ。前の長さが良いかもしれない」
「うむ」
「明日宿の人に聞いてみようか。この町にも良い美容室があるかもしれないね」
「うん。でも少し短くするだけなら、リンカに切ってもらっても問題がないと思うけどね」
ローズが言うと、リンカは彼女を見て首を振った。
「切るぐらいならできるけど・・切り揃えるかどうか保証はないわ」
「それは問題だ」
リンカの言葉を聞いたエフェルガンが言った。
「うむ。やはり美容室に行った方が良いか」
「ええ、そうしなさい」
リンカの言葉で、ローズがうなずいた。エフェルガンが笑って、クシを返した。そして彼がハティが煎れてくれたお茶を飲んだ。その後、ハティはケルゼックがいるお風呂に入った。
「そう言えば、ローズは覚醒したが、変わったところがあるのか?」
「うーん、聖なる力を頂いたけれど、それはどんな力か良く分からないんだ」
「僕も初めて聞いた」
エフェルガンがそう言って、首を傾げた。
「不死を対抗できる力じゃないの?」
「武器のエンチャントができるのか?」
「分からない。エンチャントしても、対象がないからどうやって試すか、分からないよ?」
「そうだね」
「聖属性は司祭が使う力のようなものかもしれない。その辺りが良く分からない」
「ふむ」
エフェルガンがしばらく考え込んだ。その後、ハインズ達が帰ってきたため会話を中断された。宿の人も来て、夕餉の準備をしてくれた。またエトゥレ達も来たため、夕餉にした。
とても美味しそうな料理がたくさん並んでいる。コロトイの料理とはまた違う感じの料理だ。煮物や蒸す料理が多い。けれども、どれもとても美味しそうで、実際に食べたら味がとても上品で美味しかった。初めて見た食材もたくさんあった。リンカも気になった食べ物のことをオレファに尋ねたりして、味の分析をしている。さすが料理スキルが高いリンカだから、きっといつか彼女が再現してくれるでしょう、とローズが期待して思った。
美味しい夕餉が終えて、ハインズ達が楽しそうに会話していた。なんと一般の風呂場に行ったのに、若い女性が入っていると期待したものの、入ってきた人たちはほとんど男性客ばかりだった。大はずれだとエトゥレが苦笑いした。それを聞いたオレファが大笑いした。彼は美女とお風呂に入ったことを自慢した。リンカは彼らの会話を無視して、お茶を飲んでいる。
「ふん!」
夕餉のあとは、全員暖かくして夜のガリカの町を楽しんだ。
町の灯りはぽつんぽつんがあるけれど、全体的に暗い。屋台がるが、やはり寒いからあまり外で食事をしたくないのが本音だ。娯楽があまりないこののどかな町だから、外に出ても大した楽しみもなかった。けれど、治安が良いから、暗くても外を出歩いていても安心だ。
ローズにとって、この町の良いところは星空がきれいに見えることだ。空気もきれいなこの町なら天体学問に最適な場所でしょう、と彼女が勝手に考えている。
町の視察が終わり、宿に戻った。ローズは一瞬何かが変な感じがしたけれど、気のせいだ、と思って無視した。
その夜はローズたちが早く寝ることにした。そして、翌朝エフェルガンの声で起こされた。ハインズとエファインがいなくなってしまった。朝風呂かと思ったら風呂場にも誰もいなかった。他の部屋に泊まっているエトゥレとガレーもいなかった。そして宿の人たちも・・誰一人も、いなかった。




