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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
87/811

87. スズキノヤマ帝国 ダイナ町(5)

「んー・・」

「おかえりなさい」


目を開けると月の光で照らされている部屋にいる。ここは見覚えがある宿の部屋だ。隣にエフェルガンがいる。彼に抱かれて、その温もりが肌に伝わっている。


「ただいま・・うーむ」


エフェルガンは優しく唇に口づけをした。体中に電気が走っているような感覚になり、起きている実感がした。


「大丈夫だ。これ以上のことはしない。リンカに殺されてしまうからだ」

「リンカは?」

「外にいる」

「そうか」

「起きてくれて、良かった」

「私はまた寝てしまったの?」


ローズが彼を見て、尋ねた。


「覚醒したようだ」

「覚醒?」


ローズが信じられない様子で聞いた。


「ああ、一週間も結界の中にいて触れることができなかった。リンカから聞いた話だと結界はローズの覚醒の特徴だそうだ」


エフェルガンが彼女の顔を指で触れた。


「一週間?」

「覚醒の結界が解けたのは一週間前だった。しかし、結界が解けていても、ずっと寝ていたな」

「そうだったんだ」

「悪い夢を見たのかな・・ずっとうなされていて、時には涙を流したりしたんだ。心配になって、呼んでも起きなかった」

「そうだったんだ・・」


彼がローズを見つめて、うなずいた。


「昨日の夜、頭の中にローズの声が聞こえたんだ。近くに来たら、話をかけるとちゃんと頭の中に返事が帰って来たのだから、どこかに迷子になったのかなと思った」

「彷徨っていた夢をみたんだ」

「夜の星空の夢だったね」

「エフェルガンの声が聞こえた」

「僕はロースを探しに行ったよ。ローズの夢の中に」

「どうやって?」

「こうやって、ローズの隣にいて、ローズの額に僕の額を近づけて、ローズを強く思って眠った。神の導きで、ローズの夢に入ることができたんだ」

「私を見つけて・・?」

「僕の呼びかけに答えてくれたから、ローズを見つけることができたんだ。ひとりぼっちのローズが泣いていた姿が見えてきたんだ。周りはきれいな星空だったけど・・。寂しかったのか?」

「うん。不安だった。歌が聞こえてきたのに、急に聞こえなくなって・・とても寂しくて、不安になった」

「僕の歌が聞こえていたんだ」

「うん」

「良かった。僕の思いが届いたね」

「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

「ん?」


ローズが彼を見ている。


「僕のことを思ってくれたから・・とても嬉しいんだ」

「心細かったから」

「頼りにしてくれてありがとう」


ローズが彼を見つめると、彼が微笑んだ。


「ねぇ、朝まで、いてくれる? 一人でいるのが、まだ怖い」

「そのつもりだ。離さないと約束したんだろう?」

「うん」

「ずっとローズと一緒にいたい」

「できるならそうしたい」

「できるための道を見つけよう」


エフェルガンは優しくローズを見つめている。


「エフェルガン」

「はい」

「アカディアへ行きたい」

「アカディア?どうして?」

「聖龍様にアカディアへ行けと言われたんだ」


ローズが言うと、エフェルガンがしばらく彼女を見つめている。


「会ったのか」

「うん」

「分かった。ローズが元気になってから行こう。パララの近くだから問題ないと思う」

「うん、ありがとう」

「神と会うことができるローズはやはり神の娘なんだな」

「良く分からない。あまり自覚がないんだ」

「そんな神の娘に愛してしまった僕はこれからどうなるか分からないけど・・僕はどんなことがあってもローズを愛し続けると決めたんだ」

「苦しくなるかもしれないよ」

「それでも、やめない」


彼がそう言いながら、彼女の唇を指で触れた。


「エフェルガン」


ローズが彼を見つめている。


「昨日、ローズを取り戻しに行くと言ったら、リンカ達に反対されたんだ」

「そうなんだ・・」

「危険過ぎるって。精神を飛ばしてローズの夢の中に入るから、戻って来られない可能性があると言われた」

「そうなんだ」

「それでも、行くと決めた。もしそのまま彷徨ってしまったら、僕の力はそこまでだと思った。ローズを取り戻すためなら、どんな危険な道でも通る覚悟だった」

「怖くなかった?」

「ローズと必ず会える・・と思ったから怖くなかった」

「もし会えなかったら?」

「今も彷徨っているのだろう。でも考えないようにした。必ず会えると信じてローズの名前をずっと呼んでいたんだ」

「うん。聞こえていた」

「ローズも、僕の名前を呼んだね」

「聞こえていたんだ」

「もちろん。だからローズを見つけることができて、取り戻せた」


エフェルガンは微笑んだ。そしてまた優しく口づけした。


「遅くなったけど、お誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「元気になったら、二人で過ごそう」

「うん」

「料理もしないといけないんだな」

「無理にしなくても良いよ」

「大丈夫だ。他に欲しいものがある?」

「特にない」

「ローズは欲がないからどんな贈り物をあげれば良いか、難しいな」

「うーん、じゃ、フクロウのぬいぐるみ。寝る時に抱ける大きさのものが良いかな。あまり大きいと困るから、小さくてかわいい物が良い」

「分かった」

「いつもありがとう」

「ローズのためなら・・」


エフェルガンはまた唇に口づけをした。でも今回は情熱を含むの口づけだった。ローズの体中が熱くなってしまいそうだが、彼はそれ以上何もしなかった。ただ強く抱いてくれた。彼の温もりを感じながら、彼女がいつの間にまた眠ってしまった。





翌朝。


目を覚ましたら隣にリンカがいた。エフェルガンはもう起きて朝運動している。リンカは猫の姿でローズが目を覚ますと、あのざらざらの猫舌で顔をなめた。くすぐったい、とローズが笑いながらうなずいた。


「おはよう、リンカ」

「おはよう」


体の向きを変えて、猫のリンカを抱いた。とても暖かくて気持ちが良い。猫のごろごろ音がした。


「まだ眠いなら二度寝しても良いよ」

「ううん、起きる。おなかが空いたの」

「じゃ、仕度してから食べよう。海に行く?」

「うん、でもまだ無理ができなさそうだね」

「そうだね、ゆっくりした方が良い」

「うん。もうケルゼックの件は片づいたの?」


ローズが聞くと、リンカがうなずいた。


「もう終わったよ」

「結局どうなったの?」

「犯人はホルゲアだった。眠り薬入りの美酒でアレイヤを自分のものにしようとしたが、アレイヤが寝台でケルゼックと寝ていた姿を発見してしまって、突発的に殺すつもりでその近くにあるケルゼックの武器で刺した。そして警備隊の数人に賄賂を渡して、寝ていたケルゼックを犯人にした」

「ケルゼックにとって災難だったね」

「そうね。仕方なかったけど。まぁ、賄賂を受け取った警備隊と医療施設館長と偽証言した人と毒入り美酒に関わっている全員は厳しく罰せられたけど、町長は仕事に忠実している人だから問題に関わらなかったとエフェルガンが判断して条件付きで不問になった」

「条件付き?」

「婦人の一族と縁を切ることと、アレイヤの戸籍の変更をした」

「戸籍変更?」

「そう。基本的にアレイヤはケルゼックの義理の父の元妻の連れ子だった。そこで、アレイヤの実の父親の戸籍にも登録されているため、2重戸籍になっていたんだ。一つを削除したら、アレイヤとケルゼックの結婚を妨げになる書類がなくなった」

「じゃ、あの二人は結婚できるんだ?」

「もう結婚したよ。町長の前で結婚したわ。エフェルガンとオレファが証人になった。ケルゼックはヒスイ城の近くの村でアレイヤのための家を借りに行って、早速引っ越したんだ。国軍にも配偶者登録をしてきたらしい」

「行動が早い」


ローズが笑いながら言った。


「そうね。前に住んでいた家も今売り出しになっているよ」

「早いよ」

「まぁ、エフェルガンもケルゼックに用事が終わったら、さっさと戻って来いと言ったから、急いでいたんだね」

「じゃ、ケルゼックが戻ってくるまでここで待つ予定だったの?」

「まさか。あの人はこの宿にいなければパララで探して来いと言ったわ。無茶な要求だよ」

「ケルゼックが大変でしょう」

「ふん!」


ローズが笑って、リンカを見つめている。


「でも私が寝てしまって、案外良かったかもしれない」

「あの人は毎晩しつこかったわ」

「あはは、想像できる」

「でもローズを取り戻せたから、今回だけは許した」

「まさか・・彼が口付けたことを・・」

「全部見た」

「え?見たって・・リンカもこの部屋の中にいたの?」

「ふん!」


恥ずかしい、とローズが思った。しかし、まったく気づかなかった。恐るべし、リンカの忍び術だ。


「あ、そう言えば、ホルゲアはどうなったの?」

「エフェルガンはケルゼックにアレイヤの敵討ちを理由にホルゲアと真剣で戦わせた。当然の結果だけど、ケルゼックの勝ちだった。アレイヤが死んでしまったと思っていたケルゼックは涙ながら嘆いてしまったけれど、アレイヤが突然起きあがると、彼の顔がすごい顔になったよ」

「うわー、見たかった」

「ハインズとオレファがおなか抱えて爆笑したわ」

「ああああ、こんな時になぜ寝てしまったんだ」


リンカが笑って、ローズを見ている。


「あのガレーとエトゥレでさえ、目に涙が出たぐらい笑い出したよ。ハティとエファインもすごく笑った」

「エフェルガンはよくそのような計画を立てたね」

「心配させた罰だって」

「うわー、怖い(あるじ)だ」


ローズが言うと、リンカが彼女を見て、微笑んだ。


「ローズはそんな男に愛されているんだよ?」

「あはは、・・・どうしよう・・」

「彼は本気よ。覚悟した方が良い」

「うん」

「女王との対立も覚悟した方が良い」

「リンカはどちらの味方?」

「私は女王に忠誠を誓ったことがない。主はダルゴダス様ただ一人よ。私の任務はローズのそばにいて、守ることだったから、ローズがエフェルガンと一緒にいたいなら私もローズのそばにいる。帰るなら一緒に帰る。ダルゴダス様に任務を解かれるまで、そばにいるわ。それだけ」

「そうか。ありがとう。リンカ」

「じゃ、そろそろご飯食べよう」

「うん」


ローズたちは朝支度して、リビングにいたハティと一緒に朝餉を食べに行った。久しぶりのご飯がとても美味しく感じた。その後、リンカと二人で海に行って、エフェルガン達の朝運動を見物した。


ローズは長い眠りから起きたばかりなので、まだボール遊びができないけれど、砂遊びや軽い水遊びぐらいならできる。けれども、リンカはボールを持ってきた。やはりボールが好きなんだ、とローズが思った。


ローズたちが海岸に来たことでエフェルガン達が運動をやめて、急いで朝餉を食べて、水着に着替えて戻ってきた。護衛官達とリンカが楽しくボール遊びをしている間にローズは砂の城を造っている。意外と難しい。エフェルガンも真剣に砂遊びをした。なんと、これも初めてだった、と彼が言った。でもさすが美的センスが良い人だから、ローズの城よりも、彼が作った砂の城の方がずっと立派にできていた。


むむむ、この差はなんだったんでしょう。やはり才能というものなのか。ローズはその砂の城を見て、考え込んでしまった。


昼餉は二週間ぶりの焼き網で焼き魚だ。二週間と言っても自覚がない。けれども、エファイン達が喜んでいる。今回は彼らが潜って、バケツで貝をいっぱい取りに行ってきた。当然網で焼く前にすべてハティのチェックを合格しなければいけない。なぜなら毒を含む貝も存在しているからだ。


リンカとオレファが焼いてくれた魚を美味しく食べながら、護衛官達の会話を楽しく聞いている。暗部の二人も、とてもリラックスして穏やかな雰囲気の昼餉だ。エフェルガンはローズの隣に座って、大きな魚を手にしながら食べている。その時、後ろから一人の男性が近づいてきた。


「ただいま戻りました」

「お!ケルゼックだ。お帰りなさい!」


ローズが手を振って、挨拶した。


「あ、ローズ様!お目覚めになられましたか」

「敬語は要らないよ。普通にして」

「あ、はい」


ケルゼックは突然跪いて頭を下げた。


「殿下からと、妻アレイヤから、色々と聞かされてきました。心から御礼を申し上げます」


ケルゼックが頭をさげて、礼を言った。


「結婚、おめでとうございます。良かったね」

「はい」

「もう簡単に死ねなくなるから、今よりも、もっと強くならないといけないんだね」

「はい」

「ケルゼックは聡明な主を持ってとても幸せ者だわ。私の頼みを理解してくれて、ケルゼックとアレイヤのために道を示してくれたんだね」

「はい。エフェルガン殿下とローズ様のおかげです。この恩を一生忘れません」


隣に座っているエフェルガンは笑った。ローズに褒められて、嬉しそうな顔をしている。


「ケルゼック、疲れただろう。そこの魚を皆と一緒に食べるが良い」


エフェルガンはリンカ達の方に手に持っている焼き魚で方向を示しながらケルゼックに言った。


「はい、ありがたくいただきます」


ケルゼックは頭を下げて、リンカ達の方へ向かった。ハインズ達の笑い声が聞こえてきた。楽しそうにケルゼックを迎え入れた。


「仲が良い護衛官達ですね。エフェルガンって恵まれているんだ」

「今思えばそうかもしれないな。ともに苦労した者たちだからな」

「そうなんだ」

「暗殺者の数が半端じゃないからな。昔から、多分これからも」

「そんな大変なエフェルガンなのに、私がそばにいたら、もっと大変じゃ?」

「言っただろう、全身全霊で守る、と。それに、ローズは強い。互いの背中を任せられるから、互いを守ることができる」

「私はか弱い姫よ」

「それを聞いて、ますます守りたくなるんだ。ローズがか弱いなら、僕はそのか弱いローズよりもずっと強くならないといけないな」

「でも無理してはいけない」

「無理はしていない」

「うん」


エフェルガンは微笑みながらまた魚を食べた。


「ケルゼックの顔を見せてやりたかったよ」

「うん。リンカに聞かされて、とても見たかった」

「あのホルゲアと言った奴と戦ったあと、アレイヤの遺体と対面すると、医療施設に連れて行ったんだ。ずっと泣いていてな」

「うん」

「部屋に入った途端に花嫁姿のアレイヤがベッドで横たわっていたのをみると、泣き出して嘆いたんだ」

「うんうん」

「最後の口づけしてから式にしないといけないと僕が言ってな・・」

「うんうん」

「お葬式かと思われて・・涙目しながら口付けしたら、アレイヤの目が開いて、彼女が起きあがったんだ。ケルゼックがあわわ状態となった。すごい顔だったよ」

「あはははは」


見たかった。本当に見たかった、とローズが思った。


「ハインズは爆笑していたよ。オレファなんておなかを抱えて笑ったぐらいだ」

「うん、リンカから聞いた」

「あのリンカでさえ笑った。ローズはまだ結界の中にいたから誰も触れることができなくて、リンカはずっと隣にいて離れなかったんだ。この時だけ、少し離れてケルゼックの様子をみたら、あんなに笑ってくれた。しっかりとあの二人の様子をみてローズに教えてあげないと僕はリンカに言ったんだ」

「ありがとう。リンカはまじめで、感情表現が不器用だからね」

「だな。それで、あの二人は式をあげてすぐに引っ越しの準備したり、ケルゼックと一緒にヒスイ城の近くの村まで行って家を探したり、書類の手続きしたりして、またこちらに戻って引っ越し荷物を送って、家を売って、大変忙しかったよ」

「私が寝ていた間にそんなことがあったのね」

「ケルゼックの結婚式のあと、ローズの結界が解けたんだ。僕が触っていても弾かれなかったから、宿に連れて帰ったんだ。心配したよ・・とても・・」

「心配をかけてごめんなさい」

「謝ることをしなくても良い。ローズの覚醒は神様との時間だから、僕らはただ見守ることしかできなかった。ちゃんと戻ってくれれば嬉しいが・・戻ってくれなかったら・・これからどうやって生きていけるかと・・」

「帰り道に迷子になっちゃった」


ローズが微笑んで、魚を一口を食べた。


「迷子と言うよりも、多分神様はローズに気づかせたかった。ローズは一人ぼっちではないことを」

「うん・・多分」

「でないと、僕はローズの夢に入り込むことができなかった。ただローズのことを思って隣に眠るだけで同じ空間に入れることはありえないんだ」

「じゃ、なんでその方法が分かったの?」

「分からない。ただ急にそう思いついて、実行しただけだ」

「聖龍様は迷子になった私を助けるためにエフェルガンを許したということになる」

「僕もそう思った」

「じゃ、今度聖龍神殿にお参りをしないといけないね」

「そうだな。御礼を言わないといけない」

「本当に不思議な世界だわ・・」


ローズがそう思いながらうなずいた。


「僕にとって、この世界で一番不思議な存在はローズなんだけどね」

「エフェルガンも不思議な人だ」

「どうして?」

「こんな不思議な私を好きになったなんて・・不思議だね」

「僕たちは似たもの同士だ」

「あはは、そうかもしれない」

「今夜も隣で寝ても良いか?」

「リンカに許可をもらわないとね」

「無理か」

「あはは」


それだけはなんとも言えない。恐らく答えは否でしょう、とローズが苦笑いした。


その日はゆっくりと過ごした。夕餉はケルゼックの結婚祝いとローズの誕生会で少し豪華な食事をした。明日はパララに向かう予定だ。


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