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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ
809/811

809. 巡礼の旅(18)

「兄上、僕はどうしたら良いんだ・・」

「どうって?」


ファリズは首を傾げながら、化け物の死体を燃やしている。エフェルガンはサビの手帳を見せると、ファリズは動きを止めて、その手帳を受け取った。


「龍が現れたのか?」

「はい」


エフェルガンはうなずいて、サビの報告をそのままファリズに伝えた。


「龍の頭を叩いた?」


ファリズが苦笑いながら聞くと、エフェルガンはうなずいた。


「まったく、あの青蛇は怖い物知らずだ」

「それで、大丈夫なのか?」

「知らん」


ファリズは絵を見て、首を振って、その手帳をエフェルガンに返した。


「・・が、青蛇のおかげで、敵が減ったのも事実だ。本当に、彼が俺たちの味方で良かった」

「はい」


ファリズが言うと、エフェルガンはうなずいた。その通りだ、とエフェルガンは思った。もしもロッコが敵だったら、国ごと滅んでしまうかもしれない。いくらエフェルガンが二頭の龍から力をもらっても、ロッコの力は遙かに上だ。


「とにかく、サビをここへ呼んでくれ。最初から、最後まで、全部、何もかも報告を聞かせてくれよ」

「分かった」


エフェルガンはうなずいて、護衛官に言うと、一人の護衛官が走って、サビを呼んでいく。しばらくすると、まだ震えているサビは現れた。


「最初から、最後まで、何が起きたか、全部報告してくれ」


エフェルガンが柔らかい声で報告すると、サビはうなずいて、何もかも話した。敵と戦って、再び移動して、また戦った。そしてあの出来事まで、ロッコが龍の頭の上に座って、もう一頭の龍が人の姿になって、見知らぬ大陸が滅ぼされたこともエフェルガンとファリズに話した。


「で、なんでおまえだけが戻った?」


ファリズは尋ねた。


「あの時、私が何かいけないことを言ったかもしれません・・」

「いけないって?」

「私は正直に申しました。・・私は元泥棒で、身分が低い暗部隊員です。でも、どんな状況でも、皇后様を悲しめることは絶対しません。これから先も、彼女のため、一所懸命に働きます、と申しました」


サビは息を呑んで、正直に言った。


「それで?」


エフェルガンはサビを見て、尋ねた。


「人のような方は微笑んで、何かを言って、それで気づいたらここに・・」

「龍のしもべか」


エフェルガンはため息ついて、小さな声で言った。


「恐らく、おまえの言葉を龍にも聞こえていただろう」


ファリズはそう言いながら、サビを見ている。


「まぁ、妹を思うことも、龍だって一緒だ。きっと龍たちもおまえの言葉を聞いて、嬉しかっただろうな」


ファリズは微笑みながら言った。サビは何も言わず、ただ頭を下げただけだった。


「ここにいるか」


突然人の声が聞こえると、全員その声が聞こえている方向へ視線を移した。そして、ファリズ以外、全員が直ちに跪いた。


人の姿の水龍が現れた。


「水龍様・・」


エフェルガンが言うと、水龍はちらっと彼を見て、そのまま素通りして震えているサビの前に行った。


「アルジェントゥムだね?」

「は、はい」


いきなり名前を聞かれたサビは震えながら答えた。


「我はあのバカに怒られた。まったく、蛇の子の分際で、我の頭を叩いて、バカや間抜けなど、恐れ知らずな者だ。ふん!」

「・・も、申し訳ございません。ロッコ様は・・」

「それで、そなたに謝れと言われてね」

「へ?」


サビがあまりにも驚いて、思わず顔を上げた。


とても美しい男性で、水色のオーラに包まれている人だ。気品溢れたその姿に圧倒されたサビは瞬いただけだった。


「で、何が欲しい?(きん)か?絹?」

「えっ?何のことでございましょうか・・?」


サビは首を傾げながら再び頭を下げた。恐れ多い、とサビは思った。


「ふーん、聞かれても返事せぬなら、自分で選びに来い!」

「へ?あの・・?」


サビが首を振って何かを言おうとした。けれど、水龍が先に彼の頭を触れると、サビはサビの姿が消えた。その様子を見たエフェルガンは瞬いて、声をかけようとした。けれど、水龍は突然視線を変えて、医療施設を見て、再びエフェルガンを見る。


「我があの大陸を滅ぼしたことを、テアに秘密にせよ。でないと、彼女が泣いてしまうから、あいつらにまた怒られる」


水龍はそう言いながら、唇に指を立てた。そしてエフェルガンの返事を待たずにそのまま消えた。


「兄上・・」

「まぁ、仕方ない。相手は龍だぜ?」


ファリズはそう言いながら、エフェルガンの肩をポンポンを叩いた。


「だが、これで分かった。あいつらの国はもうない。さっきの龍によって、滅ぼされたからな」

「はい」


エフェルガンはうなずいた。


「ローズになんていえば良い?」

「秘密にして、とあの龍に言われただろう?だったら、何も言うな。分からない、と言えば良い。それでも聞かれるなら、青蛇が敵をなんとかした、と言えば良い」

「分かった」


エフェルガンはため息ついて、またうなずいた。ファリズの言う通り、相手は龍だ。ただの「鳥の子」である彼が相手にさえされなかったことぐらいは分かっている。


けれど、今回のことで、サビが龍に連れて行かれた。紋章を与えられるかもしれない、とエフェルガンはため息ついた。


龍の紋章を与えられる者は、力だけではなく、龍の気持ちも受け取ってしまう。それは、ローズに対する「恋心」だ。ハインズに続いて、カール・ダルスクマイネ、そして次はサビか・・、とエフェルガンはそう思うと、またため息ついた。


「それにしても、アルジェントゥムとはね・・」


ファリズは首を傾げながら言った。


「その名前は、サビの本名なのか?」

「どうだろう」


ファリズは思わず頭を掻いた。


「あれはサリット語で、白い輝きという意味だ」

「なぜサリット語で彼の名前になった?」

「恐らく青蛇が付けただろう」


ファリズは何もない青い空を見つめている。


「あのサビは、無事に帰ったら、俺にくれ」

「兄上が欲しいというほど、彼は優れた人材なのか?」

「分からん」


ファリズは首を振った。


「が、龍につれて行かれた以上、これから彼の身の振り方も大変だろう。さっきも彼が言ったように、元泥棒で、身分が低いだとか・・」

「はい」

「その元泥棒で、龍に名前を覚えてもらった奴はいないぜ?」


ファリズが言うと、エフェルガンは瞬いた。彼の名前でさえ龍たちが覚えてくれなかった。ほとんどの龍は彼のことを「鳥の子」として呼んだ。父だと崇めた海龍と聖龍でさえ、エフェルガンのことを「鳥の子」と呼ぶだけだ。それなのに、サビのことを、ちゃんと名前で呼んだ。


アルジェントゥム。


「彼が水龍様の紋章を受け取ったら、ローズに惚れ込んでしまうだろうか」

「そんなの知らん」


ファリズは即答した。


「が、今までの奴らをみれば、なんとなく分かるがな」

「・・・」

「だから俺が奴をもらう。それに、これ以上弟の問題を増やしたくないからな」

「そのような理由なら、叶えよう。感謝するよ、兄上」


エフェルガンはファリズに頭を下げた。ファリズはうなずいて、再び化け物の死体を燃やした。





「・・よし!これで終わり!」


ローズは最後の怪我人を手当てしてから、ソラから白湯をもらって、飲み干した。柳はロースの背中に手を当てて魔力を送りながら、彼の護衛官からパンをもらって食べている。


「お兄様、もう良いよ」

「ダメだ」


ローズが文句を言うと、柳に即答された。ラウルは彼女の近くに座りながら笑っただけだった。


仲が良い兄弟だ、とラウルは思った。


「俺の魔力がすぐに回復するが、ローズの魔力を回復するには時間がかかる。だからあの薬が調達できるまで、こうするしかない」

「む」

「黙って、座って、食え!」

「はい!」


柳がいうと、ローズは素直にカールが持って来た食事を受け取った。彼女が毒味役に視線を移すと、毒味役のアマンジャヤはうなずいた。安全だ、という合図だった。ローズはうなずいて、大皿に盛られたサンドイッチをとって、食べ始めた。


「お兄様も食べる?」

「俺の分はあるから、心配するな。だから、ローズの分を全部食え!」

「む」


ローズが口を尖りながら、静かに食事をした。ローズの隣で座っているラウルは笑って、彼の前にあるお皿からパンをとって、食べる。ローズの護衛官らは彼らを囲んで、周囲を見渡す。


「皇后様、医療道具をすべて掃除致しました」


エファインが医療道具を持って言うと、ローズはうなずいて、大皿に盛られたパンをエファインに差し出した。エファインは丁寧に首を振って、ハインズが持って来たパンを受け取った。


「みんなの分はありますから、遠慮なく召し上がって下さい」

「でも、なんだか、私だけがこんなに多い」

「多くても良いのですよ。ローズ様は何人分の医療師の働きをしたので、何人分の食事をしても、誰も咎める人がいませんよ」


カールは微笑みながら言った。その言葉を聞いたハインズたちもうなずいた。ローズはしぶしぶとうなずいて、再び食事を続けた。


「・・でも、さっきから思ったけど、ロッコはいない」

「きっと彼は外で敵を相手にしているところでしょう」


ローズの疑問に答えるように、ハインズは即答に答えた。柳は無言でパンをかじりながら魔力をローズの体に注いでいる。


「だと良いんだけど」


ローズはまたパンをかじって、考え込んだ。けれど、エフェルガンが医療施設に入ったことで、ローズはすぐに考えをやめた。


「陛下、その・・」

「皇后、しばらくここにいてくれ」

「うむ、はい」


エフェルガンはローズの言葉を遮って、そのまま命令を下した。


「このまま船の上に帰したいが、安全が確認するまで、しばらくここにいてくれ。疲れたら、ここの部屋を一つもらっても構わない」

「いや、そこまでは疲れていないよ?」

「なら、良い」


エフェルガンは微笑んだ。そして、ローズの額を口づけしてから、ハインズを見て、うなずいた。エフェルガンは再び外へ出て行った。


「何をしたかったか分からない奴だ」


柳が言うと、ラウルもうなずいた。カールもエフェルガンの後ろ姿を見て、彼の部下から紅茶をもらって、ゆっくりと飲んだ。


「ローズ様をここで閉じ込められるよりか、暖かいレネッタにしばらく過ごしても良いのに」


カールが言うと、ラウルはうなずいた。その通りだ、と彼は思った。


「レネッタはいやなら、アムルル島にいてもよろしいですよ」


ソラが言うと、ハインズは苦笑いした。


「里に戻ったほうが安全だ」

「ダメですよ」


柳が言うと、カールは首を振った。ダルゴダスと子どもたちが心配になってしまうからだ、とカールは思った。


「レネッタなら、ローズ様のお家があるんじゃないか。ほら、あの湖の近くに」

「あ、そうか。アレゲ湖か」


カールが言うと、ラウルはうなずいた。


「神殿だから、襲ってくる敵もいないだろう。あそこならしばらく大丈夫だろう。それに、火龍様も喜んで下さるだろう」


ラウルが言うと、ハインズもなんだか納得した。ここに留まったら、危険しかないからだ、と彼は思った。


「うむ、これから闇龍様の神殿に行くのに、なんで火龍様のところまで行くんだ」


ローズはもぐもぐしながら文句を言った。


「一時的なことだけですよ」


カールは優しい笑顔でローズを見ている。


「ここの問題が片付いたら、また戻れば良いんです」

「うむ」

「それに、ここでローズ様ができることはもうありません。でしたら、少しでも有意義な時間を過ごされた方が良いと思いますよ」


カールが言うと、全員うなずいた。


「私って、そこまで邪魔なの?」

「邪魔になるとは言いませんが・・」


カールは首を振った。


「患者は全員手当てされたでしょう?」

「はい」

「となると、これからはエフェルガン殿がこのゴタゴタの状態をなんとかしなければならないと思います」

「うむ、そうですね」

「彼にとって、もっとも大きな弱点であるローズ様が、一時的にここからいなくなるだけでも大きなことだと思います」

「うむ」


カールが優しい口調で言うと、ローズは考え込んだ。


「私は弱点か」


ローズは瞬きながら食べかけのサンドイッチを見つめている。


「ローズに何かあったら、龍たちが起きてしまう。それはあいつの弱点だ。それに、今回攻めて来た敵は外国からの奴らだと分かった以上、適当に終わらせるわけにはいかない。下手したら戦争になる可能性だってある。それに、ローズのことを考えながら、民のことと国の安全なども考えて、また追加で龍が現れたりすると、問題がごちゃごちゃになるだろう?そんな状況で、早く終わる仕事が終わらなくなる。そのぐらいは分かっているだろう」


柳が言うと、ラウルは無言で柳を見てから、ローズを見ている。兄弟だから、そのようなことが言える、とラウルは思った。


「終わったら連絡してくれるようにすれば良いだろう?」


ラウルが優しく言うと、ローズはうなずいて、パンを食べ終わらせた。結局、その日は、ローズたちがエフェルガンとファリズに見送られながらレネッタへ向かった。

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