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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
アフター・ウォーズ
805/811

805. 巡礼の旅(14) 

エフェルガンが寝室から出て行ったのは、ケルゼックの報告を受けてからしばらくの(とき)が過ぎたころだった。窓から見えた朝日が優しく部屋を照らし始めた。


「何が分かったか?」


エフェルガンは部屋の周囲を確認しながら言った。少し離れたところで、カール・ダルスクマイネは暖炉の前に座って、優雅に紅茶を飲んでいる姿が見える。服は昨日の服と違って、もうすでに着替えている。ラウル・ラウは座りながらサンドイッチを食べている。その近くにいる柳は護衛官のサリムと一緒に座って、紅茶を飲んでいる。ソラとハインズはエファインたちが運んだパンを食べている姿があったけれど、エフェルガンは遠くからそのままで良い、と合図を出した。護衛官も人だから、食事も必要だ、とエフェルガンは理解している。それにローズもまだ寝室の中にいるのだから、問題ないだろう、とエフェルガンは思った。


「ブルニ・エレキの死因は今のところ変わらず、自害したと思われます。もう一つ、第一将軍、ファリズ様はお見えになりました。第一特殊部隊と第二特殊部隊、そして第一将軍部隊所属の暗部隊も警備に加えております」

「なんだか物々しい」


エフェルガンが言うと、ケルゼックはうなずいただけだった。


「こちらでございます」


ケルゼックが扉を開くと、エフェルガンはうなずいて、中に入った。中でファリズは朝餉を食べながら二人の報告を聞いているところだった。


「兄上、何があった?」


エフェルガンが言うと、ファリズは立ち上がって、頭を下げてから紙一枚を渡した。


「これは?」

「テオドール・アインバーグ子爵の聞き取り調査の結果だ」


ファリズは再び座って、サンドイッチをまた食べた。エフェルガンはその報告書を読み始めた。


「狩りとは・・?」

「恐らく狩りではなく、謀反だろう」


ファリズは机の上にあるサンドイッチのお皿をエフェルガンの前に置いてから、暖かい紅茶を飲んだ。


「おい、毒味役。ボケッとしないで、弟の前にあるサンドイッチを調べて来い!」

「はい!」


毒味役ハティは早速調べて、安全宣言を出した。エフェルガンはうなずいただけで、そのままサンドイッチを取って、食べながら報告書を読んでいる。


「これは誰から?」

「あの青蛇が探し出したんだ。俺は青蛇にここへ来るようにと呼ばれた。大至急、アイデンバーグを調べて来い、と言われたから、調べた。そうすると、謀反の可能性が高い無届けの兵士らと器を所持した、ということが分かっただ。調べたら、アイデンバーグが実は狩りをするために傭兵らを雇った、と訳の分からないことを言った」

「ふむ。狩りだけなら、ここまで傭兵を集めることはないだろう」

「ああ、俺もそう思った」


ファリズはうなずいた。


「あと、昨夜、あいつがグロリア・コルサ・アマデア夫人を刺し殺したところで、青蛇は目撃した、と言ってた」

「グロリア・コルサ・アマデア夫人?」

「昔の貴族だ。もう廃止された一家だ」


ファリズは机の上のあるサンドイッチをまた取って、食べた。エフェルガンは毒味役に他の料理を頼むと、彼は急いで外へ出て行った。


「アイデンバーグは、彼女を殺したのは口止めのためだ、と自白した。が、青蛇とオルカたちが見つけた白骨化したイソルデ・テラ夫人の遺体は、グロリア・アマデア夫人の近くにあった」

「ふむ。イソルデ・テラ夫人?聞いたことはない名前だ」

「イソルデ・テラの死に関しては、もうかなり昔のことだから、調べるのも時間がかかりそうだから、後回しにした」

「分かった」


ファリズが言うと、エフェルガンはうなずいて、サンドイッチを取って、食べた。


「で、話を戻すが、アイデンバーグは大量の兵士らを集めて、ただの狩りするためだ、と言った。何の狩りするつもりかと聞いたら、答えは一点張り、狩りだけだった」

「ふむ」

「俺は信じない。彼は数千人を雇って、武器まで大量に所持して、人を殺すぐらいまで、何の狩りつもりなのかと何も言えないなんて、おかしいと思う」

「確かに怪しい」


エフェルガンは部屋に入ったハティと数人の護衛官らを見て、うなずいた。ハティは安全宣言をしてから、外へ出て行った。


「で、青蛇はこのリストにある傭兵らのことを調べている」

「なるほど」


エフェルガンは出来たての肉の串焼きを取って、そのお皿を机の真ん中に置いた。


「兄上もどうぞ」

「ありがとうよ。頂きます」


ファリズも串焼きを取って、考えながら紙を見つめている。


「青蛇が、証拠にペンをくれたけど、アイデンバーグは見覚えがないと言い張った。が、俺が知っている。あの青蛇は、ただ適当に物を証拠にしない。絶対、何かある」

「ペンか・・、何か決定的な証拠か・・」


エフェルガンは串焼きを食べながら考え込んだ。


「誰か、シモンを呼べ」


エフェルガンが言うと、ケルゼックはうなずいて、パトリアに命じた。すると、パトリアはすぐさま部屋の外へ出て行った。しばらくすると、パトリアはシモンと一緒に部屋へ入った。


「お呼びでございますか?」

「ああ」


エフェルガンはうなずいた。


「あの手紙、エルミナ夫人宛の手紙を持っている?」

「はい」


シモンはカバンの中から、一枚の手紙を出した。手紙は透明な袋の中に入っている。シモンはその手紙をエフェルガンに差し出した。


「この端っこは何故切られた?」

「オルカ様とロッコ様が敵の行方を捜すために切りました」

「なるほど」


エフェルガンはその手紙を見てから、ファリズに渡した。


「あのペン、この手紙で使われているペンと同じ太さかもしれない」

「ふむ」

「それに、そのようなペンは、特注が多い。シモン、インクをくれ」


エフェルガンはシモンに命じると、彼はすぐさまカバンの中からインク瓶を出して、机に置いた。


「線を書くと、似たような線の太さとか、インクの出具合が同じとかは、するのか?」

「どうだろう」


ファリズが聞くと、エフェルガンは手紙を見て、ファリズの報告書の紙に書いた。


「兄上・・」

「本当に、同じか・・」

「はい」


エフェルガンはうなずいた。


「ペンはほとんど手作りなので、同じペンは基本的にない。似てるかもしれないが、全く同じな物は存在しない」

「青蛇はあんな短時間で良く見つけたな」

「改めて、ロッコ殿の能力に惚れてしまった。引き抜きたいぐらいだ」

「ははは」


ファリズは笑いながら、紅茶をとって、ゆっくりと飲んだ。エフェルガンはペンと手紙をシモンに返してから、焼きたてのパンを取った。


「青蛇は父上に忠実した人だ。引き抜きたいなら、父上がいなくなってからにした方が良い。いつになるとやら、分からないが・・」

「そうだな、残念だ」


エフェルガンはパンをバターに付けて、食べた。


「弟、今日の予定は変わらないのか?」

「変わらない」


エフェルガンはうなずいた。


「人々が楽しみにしているから、行かないわけにはいけない」

「分かった。俺は護衛するから、安心しろ、弟」

「ありがとうございます」


エフェルガンはうなずいた。


トントン、と扉をノックした音がすると、護衛官の一人が扉を開けた。


「オルカ班、暗部サバが陛下に緊急のお知らせを持って参りました」


外にいる護衛官がいうと、エフェルガンはうなずいた。サバは部屋に入って、緊張した様子でエフェルガンとファリズを見て、ビシッと立っている。


「オルカは今どこに?」

「エルゴディナとエルゴシアの間にある海の上でございます」

「何しに?」

「ロッコ様の援護でございます」


サバが緊張した様子で報告すると、ファリズはイライラし始めた。


「サバとやら、全部まとめて言いなさい」

「はい!申し訳ございませんでした」

「良いから、全部言え!」


ファリズが大きな声で言うと、サバはますます緊張している。


「で、ロッコ殿が海の上で何をしているんだ?」


エフェルガンまでイライラし始めた。サバは息を呑んで、ファリズから離れた時から先登って、すべて報告した。エフェルガンとファリズは険しい顔でサバの報告を聞いている。


「・・後は、ロッコ様の伝言をお伝えします。ファリズ様宛に、陛下が狙われております。最後の化け物は、必ず陛下のお近くに現れるでしょう。いつとどのように現れるか分からないため、要注意なさって、お気を付けて下さい、と申しております」

「分かった。で、奴はあんな丁寧語で話さないから、おまえが聞いた通りに、話せ!」

「・・はい。申し訳ございません」


サバはまた息を呑んだ。


「では、続きをお伝え致します。・・あの雷野郎に、いざと言う時に、ローズ様を連れて、遠くへ逃げろ。エルムンドの戦いみたいに、無駄に魔力を使いやがって、いざと言う時に、何もできず、役立たずだ。戦いは他の奴らに任せれば良い。ローズ様の兄貴たちやあの狐貴族も戦えるから、雷野郎はローズ様のそばにいれば良い、・・と申し上げております」

「分かった」


ファリズはうなずいた。エフェルガンは考え込んで、迷った。


予定を一日延ばすか、とエフェルガンは思った。


「陛下、もう一つございます」

「何だ?」

「エトゥレ閣下からの報告を、ロッコ様がこれを陛下に渡すように、と仰いました」


サバはその紙を差し出すと、エフェルガンはその紙を受け取って、驚いた。


「エフラが魔法で敵を呼び寄せた、・・しかも大量の傭兵も依頼した。なんていうことだ」

「エフラは昨日の晩餐会に出たのか?」

「はい」


エフェルガンが言うと、ファリズはため息ついた。


「弟、この問題をきっかけに、この州を再編成した方が良いと思う」

「僕もそう思う」


エフェルガンはため息ついた。


「ケルゼック、海軍将軍を呼べ」

「はっ!」


ケルゼックはすぐさま外へ出て、エフェルガンたちの安全を任された海軍将軍を呼びに行った。しばらくすると、ケルゼックと海軍将軍が戻ってきた。


「朝のご挨拶を申し上げます。お呼びでございますか、陛下?」


海軍将軍カスダ・イグラシアは丁寧に頭を下げた。


「カスダ、まず尋ねよ。その(ほう)は余に忠誠を誓うか?」

「当然でございます。聖龍様と海龍様に誓って、私は陛下とこの国に忠誠を致します」


カスダ・イグラシアはビシッとして、迷いなく答えた。


「分かった」


エフェルガンはうなずいた。


「カスダ、今日は予定通り、医療機関と学校へ視察するが・・」


エフェルガンは考えながら言った。


「はい」


カスダは返事をして、息を呑んで、エフェルガンの次の言葉を待っている。


「・・良くない状況が起きてしまった。そこで、その(ほう)に頼みがある」

「何なりと・・」

「その(ほう)の一部の部隊が、一般市民と同じ身なりをさせて、市民の間に交ざってくれ。何があったら、市民らを安全の所へ避難させろ」

「はっ!」

「下がって良い」


エフェルガンが言うと、カスダは頭を下げてから、退室した。


「シモンとサバ」

「はっ!」

「この紙に書かれている人物を、全員捕らえよ」

「はっ!」

「下がって良い」


エフェルガンが言うと、二人とも頭を下げて、退室した。


「俺はおまえの近くにいるから、心配するな、弟」

「私よりも、ローズの近くにいて欲しいが・・」

「あいつの隣は、青蛇が言ったあの雷野郎がいるだろう?」

「ソラだ、兄上」


エフェルガンが呆れた様子でソラの名前を言うと、ファリズは笑った。


「まぁ、ソラでも雲でも誰だって良い。彼女はいつでもここから脱出することはできると言うことで、一安心だ。柳もいるから、俺はそこまで心配しない」


ファリズは机の上にあるパンを取って、食べた。


「あの青蛇がはっきりと言った。おまえ(・・・)が狙われている。敵が必ず(・・)おまえの近くに現れる。よって、以外と、おまえの動きが分かる人じゃないと、無理だろう」


ファリズはそう言いながら、パンを全部口に入れて、呑み込んで、冷めてしまった紅茶を飲み干した。


「謀反する人は他にもいるのか?」

「俺の勘はそう言っている。恐らく青蛇も同じことを思っているだろう。だから彼は必ず(・・)という言葉を使って、伝言を頼んだわけだ。ただ、誰だか分からないから、はっきりと言えないわけだ。だから彼は一人でも多く、分かっている敵を先に掃除しているわけだ」

「その人はジャマール・アルウィじゃなければ良い、と心の底から願いたいが・・」

「俺もそう思いたい」


ファリズは立ち上がった。


「だが、おまえが言ったように、誰が敵、誰が味方か分からない現時点では、すべてが敵だと思え。俺も、その中に入れれば良い」

「兄上は違う。僕は確信している」

「なぜそう思う?」

「僕を殺すつもりなら、兄上はそのような面倒なことなどをしないからだ」

「ははは」


ファリズは笑った。


「それは光栄だ」


ファリズはうなずいた。


「それもそうだね。俺はおまえを殺すつもりなら、このような遠回りようなことをしない。そのままばっさりと斬れば済む話のだからね。まぁ、その後、きっと妹が激怒して、世界を丸ごと滅ぼしてしまうだろう」

「そうだな」


エフェルガンはうなずいた。


「安心しろ。そのことは起きないように、おまえのそばから離れないから」

「ありがとうございます」


エフェルガンはうなずいて、ファリズを見ている。


「じゃ、少し準備してくる。弟もそろそろ妹を起こしてくれ。こんな時間になってもまだ寝てるとは、まったく、のんきな妹だ。ご馳走様でした!」

「ははは、はい」


エフェルガンはうなずいて、退室したファリズを見送った。そして彼は手を合わせて、食事に感謝した。

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