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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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79. スズキノヤマ帝国 キヌア島(10)

激しい戦いの後、これから大変なのは後処理だ。


血だらけになった住宅からの証拠品集めが大変そうだけれど、暗部達は黙々と仕事している。フェルトはローズの元へ帰って来た後、ロッコの人格に戻って、ガレーと一緒に国軍基地へジェンを連れて、取り調べる。猛毒のため、中和剤を与えないと死んでしまうから、とあの二人は急いで行った。


エフェルガンはローズがいる宿へ向かい、安否を確認しに来た。ローズが無事と分かって、安堵した、と彼が言った。何しろこの建物とあの化け物とは、たった20メートルの距離にいたから心配だったのでしょう。周囲の建物がほとんど壊れたが、この宿だけが無事だった。宿の主人でさえ走って逃げたけれど、彼が自分の宿が無事だったと見た時に、ただ「不思議だ」と言った。


それは龍神様の力だ、とエファインが言った。エフェルガンは念のため、ローズをこの場所と反対側にある国軍基地まで移動させる、と言った。エフェルガン達はしばらく現場に残って、状況確認が済んでから、基地に行くと伝えられた。ローズとエファインと兵士2名でフクロウを乗って、先に基地へ行くことになった。


空から見える町の姿がとても恐ろしかった。昨日の雷鳥でかなり町が大変なことになったのに、今日は化け物で壊された建物が多かった。また負傷した兵士も多くいて、救急搬送に追われている医療師の姿がたくさんいる。また化け物の召喚に使われていた複数の遺体の身元調査も必要だ。エフェルガンの頭の中に、きっとそれらの問題でいっぱいだ。


基地に着くとハティが迎えに来た。様子から見ると、ハティはローズの安否にずっと気にしていたらしい。再会の喜びの後、ローズはハティから怪我人の話を聞いた。医療棟が大変忙しいから、医療魔法が使えるなら、手伝いに来て欲しいと国軍の医療師から言われた、とハティが言うと、ローズはうなずいた。。ローズが手伝いに行くと伝えたら、エファインは快くその病棟へ案内した。


負傷した兵士数名がかなり重傷だった。高熱線の攻撃が当たったらしく意識不明になってしまった。彼らは今、集中医療室で手当を受けている。人手不足だと聞いて、ローズは手伝いに来たと伝えると、歓迎された。ローズは早速やけどがひどい一人の兵士に、回復魔法をあてた。痛みを緩和して、細胞の回復に集中した。


ローズはミライヤから医療魔法をの本を借りてたくさん読んだおかげで、少し世の中に役に立つ魔法ができて、嬉しく感じた。今度も少し勉強しよう、と彼女は思った。ガレーもいるから、薬と組み合わせができれば将来どこに行っても役に立つ人になれる。


細胞が回復し始めていて、今度は体内に気を送って、体力の補助を行った。また部屋の気温が高いから、氷魔法を少しだして部屋を涼しくした。これはかなりと絶賛された。数時間も患者の看病で、ローズがかなり疲れたので、休憩しに外へ出て行った。


医療棟の前にあるベンチで一休みをしたら、猫のリンカがいた。彼女がずっと外で待っているのだ。護衛官のエファインもずっと医療棟の前に立っている。ローズがリンカをぎゅっと抱くと、リンカはあの冷たい猫の鼻でキスしてくれた。ローズが本当に疲れて、しばらくリンカを抱いて甘えてもらう。猫のごろごろの声が聞こえて、とても癒やされている。


「お疲れ、ローズ」


エフェルガンの声が聞こえてきた。後ろを振り向くと疲れた顔をしたエフェルガンがいる。でも彼は微笑んでいる。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「大変だったでしょう?」


ローズはリンカを離して、エフェルガンに挨拶した。


「そうだね、あの化け物の残骸は町の中にあって、退かすのも大変だと思ったが、リンカに手伝ってもらって、なんとか片づいた」

「そうか。リンカ、えらかったなぁ・・」


ローズが微笑んで、リンカをなでた。


「そうだね。頼りになった。アルハトロスの武人達のおかげで町が救われて。感謝する」

「よかった」


ローズがうなずいた。


「僕たちは・・あの化け物に歯が立たなかった」

「うーん、多分適した魔法を使っていなかっただけだと思うよ」

「どういうこと?」

「不死だと分かったから、火属性攻撃で燃やすか、聖属性攻撃で攻撃するか、あるいは特殊武器で切るか。もう一つエフェルガンの得意の風属性で切り裂くという方法があるけど、エフェルガンはそれができるかどうか分からない」

「切り裂く・・」

「うん。風で吹っ飛ばすか雷で焼き殺すか・・そういう方法はあるけれど、あのような体が大きな化け物だと大体体がかたくて、体力もある。それ以上に、防御力が高い。傷を付けなければ大したダメージを与えることができないんだ」


ローズが言うと、エフェルガンが考えながらうなずいた。


「なるほど。なんでローズがそこまで知っているんだ?」

「小さい時から、毎日に大きな猛獣と戦っていたから、分かったんだ、だから化け物と戦った時に枝で縛ってから、トゲで傷を付けておくと、トドメを刺しやすいんだ」


ローズがうなずきながら、答えた。


「そうだったのか」

「化け物の属性は毎回違っているでしょうけれど、傷さえ付ければ、どんな魔法でも通る。武器エンチャントも効果があるけれど、不死になるとかなり難しくなるんだ」

「不死か」

「聖属性武器があれば、良いんだけどね」

「そんな武器の存在は伝説の中にしかないんだ」

「そうなんだ」

「だけど、伝説でも本当にあったかもしれないね。旅しながら調べるのも良いかもしれないな」


エフェルガンがそう言って、うなずいた。


「うん」

「でもその前に、僕はもっとしっかりと自分の魔法を見直して、修業しないといけないな」

「一緒にやりましょう。私はできる魔法を教えるから、その代わり、私ができない魔法を教えて欲しい」

「そうだな。良い提案だ」

「ともに強くなりましょう、エフェルガン」

「はい。ロッコ殿とはまだほど遠いが、僕はできるところからやると決めたんだ」


エフェルガンが微笑みながら、言った。


「ロッコは魔法が得意じゃないんだ。エフェルガンは魔法が得意なら、それを磨いて上を目指して良いと思うんだ。ロッコと並びたいなら、まず得意とする分野をもっと伸ばしていくと良い、と思う」


ローズが言うと、エフェルガンがローズを見て、うなずいた。確かに、それが正しい、と。


「僕はローズと出会って、とても良かったと思う。さっきまで、本当に落ち込んでいた。あれほど戦ったのに、魔力も体力もかなり消費しても倒せなかった。なのに、ロッコ殿は一瞬で終わらせた。僕もそうだったが、ケルゼック達もかなり落胆した。なぜアルハトロスの人たちがこんなに強いんだ、と動揺した」

「多分、経験の差だと思う。ロッコはあんなに若く見えていても結構歳があるからね・・あ、言っちゃった」


まずい、とローズが思った。しかし、エフェルガンは顔色を変えなかった。


「そうか。でもこれから僕も頑張る。再びあのような化け物が現れたら、僕たちで頑張らないといけない時のためにな」

「うん」

「ローズに悩みをうち明けていて良かった。そうだ、今夜、皆で外食しよう。町の北側なら被害もなく安全だ。今夜浜辺に魚や肉を焼いて満月を楽しもう。ロッコ殿も誘うよ」

「わーい。本当に?!」

「たまにリンカを休ませよう。料理は結構大変だからな、特にエファイン達の食欲には・・ははは」


エフェルガンの言葉を聞いたエファインはニヤっと笑みを浮かべた。


「服の着替えは準備させてもらった。軍服だが、今夜はあれで我慢して下さい。ロッコ殿の着替えも用意した。今夜、全員、ここに泊まる。部屋も用意してもらった。洗濯に出した服について、先ほど兵士を送って支払いと受け取りに行ってもらった」


エフェルガンがそう言って、ローズを見ている。


「はい」

「では、夕暮れに隊長の執務室の前に全員集合する。これからロッコ殿とガレーを会いにいく」

「はい」


エフェルガンはローズの手を口づけした。顔色がさっきよりもずっと明るくなった。





夕暮れあたりに、全員隊長の執務室の前に集まった。軍服に身を包み、なんだか全員が凛々しく見える、とローズが思った。ローズも小さめの服を着ている。やはり体が小さい鳥人族もいるんだ、と彼女は思った。ちなみに服に背中の翼用の切り目はあるけれど、翼がないので、普通にボタンで留めている。スズキノヤマの軍服の色はベージュに紅色のストライプがある。シンプルだけれど、小麦色肌の彼らにとても似合う。アルハトロスは青色がメインで、銀色のボタンや飾りで身分が分かる。アルハトロスの場合、背中に国の紋章があり、右胸は所属地方か国軍の小さな紋章、左胸は所属部隊の小さな紋章がある。スズキノヤマの場合、男性は基本的に上着を着ないためそのような紋章がない。けれども、首飾りと腕輪で身分が分かる。また上位の存在になると布を肩にかけて、ベルトで固定する。


数が極めて少ないけれど、女性軍人はほとんど基地で働いている医療関係者ばかりだ。女性の場合、大きめなエプロンのようなシャツで、頭を先に入れてから左右でボタンや布紐で留める。シンプルだけれど、結構快適だ。ちなみにローズの首飾りはエフェルガンがどこかで買ってきたネクレスだった。リンカの首飾りはケルゼック達と同じ色の護衛官用の首飾りだった。


スズキノヤマの軍服をしているロッコもまた面白い姿になっている。彼の背中に鱗がきれいに見える。ちなみにロッコは階級的にえらいので、ちゃんと肩に布をかけている。慣れてない服装に着心地が悪そうだけれど、相変わらずいつもの冷静な顔している。ちなみに首飾りは隊長クラスの色だそうだ。


「どうしたんだい? ローズ」

「ううん・・」


ローズが鱗をまた触りたいと言うところだった。はしたない姫になりそうだから我慢しよう・・。


「また鱗を触りたいのか?」

「げ!ばれたか・・」


ローズが苦笑いした。


「ははは、顔に描いてあるからな」

「うーん」

「腕の鱗なら触って良いよ」

「うん」


触ってみた。やはり蛇の肌みたいな冷たい感じがない。しかし、どう見ても蛇の鱗だ。あれ、ロッコの腕に違う色の鱗があった、と彼女が気づいた。赤い、黄色い、白いと緑が混ざった模様がある。ほとんど青色の鱗なのに、この腕の鱗・・・6枚の鱗だけが違う色・・。6枚の鱗・・。 あー!、なんか気づいてしまった、とローズはロッコを見ている。


「ねぇ、ロッコってもしかすると・・鱗のこと?」


ローズは小さな声でロッコに聞いた。


「気づいたか?」

「当たりなの?」

「そうだ」

「え・・!うそ・・!」


ローズとロッコがこそこそと話したら、リンカが近づいた。


「あなたたち、何をひそひそしているんだ?」


リンカが不機嫌の顔で声をかけた。


「ううん。なんでもない」

「なんでもない」


ローズに会わせて、ロッコもうなずいた。


「なら良いけど、ほら、エフェルガンが来たよ」


国軍体長の部屋からエフェルガンが出てきた。やはり凛々しい。軍服で、王族の首飾りをしている。


「お待たせ。仕事の話でちょっと長引いてしまった。では、行きましょう。ローズは僕と一緒に来て」

「はい」


ローズはうなずいて、エフェルガンの方へ行った。フクロウの関係で仕方がない、と彼女が思った。なぜなら、移動用のフクロウは二人乗りだからだ。ロッコがケルゼックと一緒に乗って、リンカは相方のオレファと乗る。ガレーは仕事中なので一緒に行くことができない。暗部でありながら医療師でもあるガレーはたくさんの負傷者の治療に追われているのだ。


エフェルガンが言った浜辺にある食事処に着いた。やはり事前に手配されていて、複数の兵士がすでに待機していて、警備している。今日は私たちのために貸し切り状態になった。


その食事処では、一定間隔にたいまつがあって、魚や肉を焼くための焚き火もあって、とてもすてきな雰囲気だ。連続して緊張した状態で、一時の休憩が必要だ。エフェルガンはそれを気づいて、わざとこのすてきな夕餉を計画したのだ。色鮮やかな魚を目の前に並べられて思わず興奮してしまったローズを見て、エフェルガンは笑った。


ロッコとケルゼック達はお酒を呑みながら穏やかな雰囲気で会話している。リンカとオレファは仲良く魚や肉を焼いている。店主がたまに追加注文の食材を運んだりした。


リラックスしながらゆっくりと食事を楽しんでいることがとても久しぶりな感じがして、とても気分が良い。ローズがそう思いながら、食べ物を少しつまんでいる。


こんなにゆったりとした時間を楽しむことがあまりしなかったからだ、と彼女は思った。今度、もっと時間を上手に使わないといけない。何もしない時間も大事だと思って、反省する、とローズが思った。


食事に満足した所で、ローズは一人で浜辺にあるシートの上に座って、目の前に満月に照らされている海を見ている。もう一つの月がまだ三日月だけれど、それも地上から美しく見えている。


ざーざー、と波の音が聞こえている。星が空を飾って、美しい風景になる。ぼーと見るだけでも、ローズは幸せを感じる。


「何を見ているの?」


ロッコが隣に来て、座っている。お酒が入っているグラスを手に持っている。


「満月だよ。月が一つ満月なんだけど、二つの月に満月になることがあるかな」

「あるよ」


ロッコがうなずいて、お酒を飲んだ。


「昔の世界に、月が一つしかなかった」

「俺の世界も一つだけだった」

「そうか、同じだったんだ」

「だね」


ロッコがうなずいて、月を見ている。


「ご飯はもう食べた?」

「食べた。美味しかったよ」


ロッコがうなずいた。


「うん。魚がいっぱい」

「アルハトロスは魚があまりないからな」

「うん」


ロッコがそう言いながら、ローズの手の上に手を重ねた。


「今日捕らえたのは本物のジェンだった。ローズ達のおかげだ」

「良かった」

「まだ取調中だけどね。奴はまだ毒にやられているから、明日まで細かい情報を聞き出すことができない」

「仕方がない。なら今、休み時間として有効に使わないといけないね」

「だね」

「ロッコ、たまに手紙書いて・・と無理か。任務中は基本的にダメだよね」

「ごめんね」

「ううん。ただ、私は一度もロッコの文字を見たことがないんだ」

「俺は文書があまりうまくない。報告書を書いたぐらいか、あと請求書と被害届ぐらいか」

「ほとんど仕事関係ばかりじゃないですか?」

「だね」


ロッコが笑った。


「任務が終わったら書くよ・・と会いに行くの方が早そうだけど」

「あはは、そうなるね」

「ローズはえらいな。ちゃんと勉強ができる。俺はそこまでの学がない」

「でもロッコってとても強い武人で、私は真似できないぐらいの技をいっぱい持っている」


ローズが言うと、ロッコは彼女を見つめている。


「ローズは俺の技を真似をしなくても良いんだ。ローズはローズしかできない技をいっぱい持っている」

「確かにそうだけど、やはりロッコは強いんだ。でもお互い忙しくて、いつまた会えるか分からないし・・狩りの約束も忘れてないよね」

「忘れてないよ。今も本当はローズをどこかに連れて行きたい、二人だけで・・」


ロッコがそう言いながら、彼女の手をぎゅっとにぎっている。


「ロッコ」

「なんだい?」

「私はロッコの友達になれて、良かったと思う」

「俺もだ。でもローズって俺の手に届きそうな、届かない存在なんだけどね、いつか届くと良いな・・」

「ごめんね」


ロッコの言葉を聞くと、ローズがうつむいて、謝罪した。


「仕方がないさ。それは身分の差で、難しいところだ。だから武人の生活の方が分かりやすく楽だと親方の考えも理解できる」

「ロッコは父上につく前に、違う生き方していたの?」

「そうだね、・・全然違う生き方をしてきた」

「そうか」

「まだ明かしてはいけないけどな」

「うん」

「いつか、二人だけの時に言うよ」

「うん」


ロッコが微笑みながら言った。


「あの皇子、ローズに優しくしてくれているのか?」

「うん。とても良くしてくれている」

「なら良かった。これで安心して、また仕事に集中できる」


ロッコが微笑んで、うなずいた。


「聞いても良いなら・・今の仕事は、ロッコとしてなのか・・あるいは・・」

「ロッコじゃない方の仕事だ」

「そうか。父上の命令なんだね」


ロッコは答えず、グラスに入っているお酒を飲み干した。


「でも、俺の命はローズのものだ。先にそれを要求したのはローズだったから、ローズにささげた。だから、例え親方の命令でも俺は死ねない。ローズの許しがなければ、簡単に命をお粗末にできない」

「うん。ロッコに生きて欲しいから、その命を大切にして」


ローズがうなずいた。


「あの皇子がいなければ今ローズを抱いて、口づけしたい気分だな」


ロッコが小さな声で言った。


「あはは」

「ずっと後ろで見ているんだけどね」

「気づいたんだ」

「当たり前だ」


ロッコが笑いながら言った。


「あの人は目がとても優秀だからね。耳も良いよ」

「さっきの会話も聞こえているのか」

「分からない。でも聞かれても問題のない会話だから、別に良いんじゃない?」

「だね」


ローズがうなずいた。


「ロッコ・・」

「ん?」

「鱗の話を秘密にするから安心して」


ローズがロッコの耳元で小さな声で言うと、ロッコは笑った。


「ははは、助かる」

「変な名前だと思ったら、本当に変なところで思いついたのね」

「ははは、気づいたのはローズだけだよ」

「そうなんだ」


ローズが笑うと、ロッコも笑った。


「楽しそうだね・・」


エフェルガンが来た。そして彼がローズの隣に座った。ローズを挟んで、二人の男性はにらみ合っている。


「はい、ローズの飲み物だ。喉が渇いたと思って、持ってきたよ」


エフェルガンがグラスを持って、ローズに渡した。


「ありがとう」


ローズがうなずいて、ごっくんと飲んだ。


「久しぶりに会えたからな。昔は毎晩こんなくだらない会話をいっぱいしていたさ」

「そうなんだ」


ロッコが言うと、エフェルガンが興味深く聞いた。


「うん。毎回こんな感じだったな。たまにためになる話をしたけどね」

「星空の話か?」

「そう。季節の話とかも面白かった」


ローズがエフェルガンの質問に答えて、うなずいた。


「なぁ皇子、スズキノヤマって、焼いて美味しい獣ってあるのか?」

「獣か・・山羊とか、鹿とか、山豚もいるな」

「ローズは獣の丸焼きが大好きだからさ、たまにご馳走をしてやってくれ」


ロッコがそう言いながら、エフェルガンを見ている。


「ロッコ・・」


ローズがロッコを見ている。


「丸焼き?あれをまるまると焼くのか?」

「なんだ、食べたことがないのか?」

「ない、そんな料理は知らない」

「今度、狩りをして、リンカさんに調理を教えてもらってさ、ご馳走すると良いよ」

「そうか」

「俺はまだ当分ローズに会えない。ジェンの件が片づいたら、また次の件をやらなければいけないんだ。気が遠くなるほどの仕事だ」

「暗部の仕事は大変だ」

「だね」

「分かった。ロッコ殿はそういうならローズのために、今度その獣の丸焼きを作ろう」


エフェルガンがそう言って、うなずいた。


「エフェルガン・・」


今度はローズがエフェルガンに視線を向けた。


「なぁ、皇子」

「はい」

「昼間の大魔法、あれはすごかったよ」

「大魔法?あ、術式の破壊魔法か?」

「そうだ、広い範囲で一気に術を壊す魔法はだれでもできる技じゃない。俺の経験の中で、あれができる人は2-3人しかいなかった」

「ありがとう・・」


エフェルガンが照れて、笑った。


「エフェルガンが照れている・・」

「いや・・その・・」


ローズが言うと、エフェルガンが少し恥ずかしくなった。


「皇子よ」

「はい」

「俺はローズが好きだ。当然ロースのことが好きなあんたが、俺にとって、敵だ。だけど俺は、ローズのことを一所懸命考えて、色々と尽くしているあんたがきらいじゃない。すべてローズのためなら、これから良きライバルでいられると思う」


ロッコが言うと、エフェルガンが信じられない顔で見ている、


「僕も、ロッコ殿を尊敬している」


エフェルガンがしばらくして、うなずいた。


「あんたがこれからもっと強くなれそうだ」

「ローズを守るためなら、努力を惜しまないつもりだ」

「頼もしい」


ロッコが微笑んで、エフェルガンに言った。


「昼間、大変助かりました。ありがとうございます」


エフェルガンが頭を下げて、礼を言った。しかし、ロッコが首を振った。


「あれはローズが泣いたから、俺が仕方なくやったんだ」


ロッコが言うと、エフェルガンが驚いた顔で聞いた。


「ローズが?」

「そうだ。彼女が、あんたのために泣いたさ。自分も戦うと言い出したから、俺が止めた。ジェンの仲間がいたら、ローズの身元がばれてしまうから、止めたんだ。ただでさえ、今世界中の王家がローズを欲しがっていて大変だというのに、これ以上面倒なことが増えてしまったら、たまったもんじゃない」


ロッコがそう言いながら、ローズの手をにぎった。


「そうか、光る娘しか知られてなかったからか」

「その通り。だから、できるだけローズを戦場に出したくなかった」


ロッコが星空を見つめて、微笑んだ。


「まぁ、あの化け物がローズを泣かしたから、俺が殺した、それだけだ。礼を言われるほどのことではない」


ロッコがエフェルガンを見て、微笑んだ。


「なるほど。では、あれはロッコ殿の全力だろうか?」

「まさか、そう思ったのか?」

「え?」

「あの一瞬で敵を殺したのが・・全力ではなかったのか?」

「さぁ、なぁ。秘密だ」


ロッコが笑った。


「やはり僕はもっと修業しないといけないんだね」

「だね。もっと強くならないと、ローズを守ることができない」

「僕はローズを全身全霊で守ると誓う」

「その言葉を信じよう」

「はい、必ず守る」


エフェルガンがそう言って、ロッコを見つめている。


「なぁ、皇子」

「はい」

「俺は貴族じゃない、みての通り、下っ端役員だ。財産も権力もない。でも、俺はローズのために命をささげて、俺の命はロースのものだ。ローズを泣かした奴は、例えそれは化け物だろうが、王様だろうが、賞金首ハンターだろうが、俺はためらいなく、・・殺す」


ロッコが真面目な顔でエフェルガンを見つめている。


「僕もローズの涙をみたくない」

「俺はローズの笑顔が好きだ」

「僕もだ」


ロッコとエフェルガンがそう言いながら微笑んだ。


「二人とも・・」


ローズが二人を交合に見ている。


「だから約束してくれ、ローズがスズキノヤマにいる間、毎日笑顔でいられるようにして欲しい」


ロッコは微笑みながら言った。


「心得た」

「感謝する」


ロッコが頭を下げた。


「もしローズが、僕を愛してくれていたら、ロッコ殿はどうする?」

「その時はその時だ。でも、俺はずっとローズの友達でいるつもりで、いつになっても影で支える。ローズが幸せでいれば、俺はそれで良しとする。が、ローズを悲しませて泣かしたら、あんたを殺す。それだけだ」

「なら、僕もロッコ殿と同じ立場だ」

「上等だ」


エフェルガンがうなずいた。


「二人とも、なんで勝手に決めたの?もし私が女王様に、他の男と政略結婚をさせられたら、どうするんだ?」


ローズの問いかけに二人がためらいなく答えた。


「その男を殺す」

「僕も手伝うよ」


その答えを聞いたローズがため息ついた。


「うむ・・めちゃくちゃだ」


そんなローズに、二人が笑った。


「ロッコ殿、これでローズ同盟が結成された」

「同盟か、良いだろう」


やれやれ、とローズが苦笑いした。この男達は本当に何を考えているのか、分からない。結局二人はローズのあれこれについての話題に、夜遅くまで話し合っていた、という。

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